第51話 到着!三叉の街!!
「ムーク様ァ!あれをばご覧くだしゃっさい!」
「オ、オオ~!!」
先頭を歩くロロンが、ボクを振り返ってぴょんぴょんしている。
フワフワ踊る髪の毛の向こうに見える……アレは!!
「着いたねえ、アレが【ルアンキ】さね」
「おお、話には聞いていたがこうして見ると面白い街なのナ」
カマラさんが首をコキコキ鳴らしている。
その横にいるアルデアは、腕を組んで感慨深そうにしてる。
「じゃじゃじゃ!なんとはあ~……!」
狼に乗ったゴブリンを全滅させ、峠を越え……川と並行する街道を歩くこと、1日。
なんか川幅が広くなってきたな~……なんて思ってたら、前方に街っぽいものが見えてきた。
こっちの方が高い場所にいるので、とってもよく見える!
「うにゃむ……ついた、ついたぁ?」
内ポッケに入って寝ていたアカが、目をこすりながら肩に登ってきた。
ちなみにピーちゃんは起きる気配もない。
ぐっすり眠れて偉い。
「ウン、ツイタヨ。ホラ見テアカ!」
「むみゅ……んゆ~?」
アカが首を傾げている。
「おやびん、あれまち?まちぃ?」
「ソウソウ、街。不思議ナ形ダネェ」
見慣れないから街に見えないみたいだ。
確かに、見たことのない形の街だ!
ルアンキは……大きな川の上に建っている。
正確に言えば、ボクらが歩いてきた街道と並行していた川の上にだ。
街道はそのまま街への入口の橋に繋がっていて……並行する川は、合流して大きな湖みたいになってる!
湖の中心には大きな街があって、その周囲は城壁がぐるっと囲っている。
【三叉の街】と言われるだけあって、3本の川と街道が合流している、なんともスケールの大きな街だ!
街自体の大きさは……ガラハリの半分くらい、かな~?
あそこみたいに区画が分かれてるわけじゃないっぽいし。
入口は街道の分だけあるから、3つだけど。
「【首都街道】とジェストマへの道が合流してるのさ」
「よくもまあ、あんな場所に街を作ったものだナ。攻められた時は無類の強さを発揮するだろうが……さすが、虫人は建築が上手なのナ」
たしかに、湖の中心に街なんて……地盤とか大丈夫なんじゃろか?
あと、そこら中で釣りができそうで素敵な街だね!
「ムークちゃん、釣りをするなら漁業ギルドで許可証を買うんだよ」
「ハイ」
何故バレたし。
『何故バレないと思ったし』
シャフさん、ヴェルママと同じようにトモさんルームに入り浸ってない?
『今ちょっと仕事少ないかんね。いくらあーしが超絶有能美少女女神様でも休まないとつらたにえんだし』
ノルマとかあるのかな……女神様のお仕事。
『ちょちょちょい、美少女女神に突っ込んでよむっくん』
だって女神様だから綺麗なのも有能なのも当たり前でしょ?
それにみんな優しくって性格もいいしさ。
女神様だもん。
『おー……あー……なんちゅう不意打ち。そういやこの子、褒めることは普通にできるんだったわ』
『そこだけは評価点ですね、ええ』
なんかすっごい馬鹿にされてない???
「おやびん、いこ、いこ~!」
「ハイハイ」
アカがほっぺをツンツンしてくるので、街に向かうことにした。
楽しみだな~!
・・☆・・
「黒いマント、長く太い角、長大な棍棒……あなたはムーク殿でいらっしゃいますか?」
「ア、ハイ」
「申し訳ありませぬが、証明を」
「ハイ」
バッグから取り出した例の駒を、門を守っているムキムキな……たぶんゲンゴロウさんに見せる。
「確かに、確認いたしました――通ってよしッ!」
ゲンゴロウさんはボクに深々と頭を下げて、一瞬で通行許可が出た。
「【大角】閣下からお話は伺っております。何かご懸念があれば、我らにお聞き下され」
ゲニーチロさんのアフターサービスが!すごい!!
なんとも、背中が痒くなるなあ……
でも知りたいことなんて特に……あった!
「スミマセン、『ルフト』トイウ方ガヤッテイルオ店ッテ、ゴ存ジデショウカ?」
この街に来た第一目標だしね!
『白くて綺麗な女の子なのよ!とっても頑張り屋さんなのよ!』
門前で起きたピーちゃんが、ボクの兜の上でチュンチュン補足。
「ルフト……それは、『アスノ飯店』のことでしょう。街に入って真っ直ぐ歩き、3本の道が合流する【中央広場】にあります」
めっちゃ目立つところにある!
さぞ人気のお店なんでしょうな!
「アリガトウゴザイマス」
「いいえ、何のこともございません……我が街をお楽しみくだされ、ムーク殿」
ゲンゴロウさんはそう言って……槍を立てて石突きを地面にコーン!と打ち付けた。
と、同時に……控えていた衛兵さんたちも一斉に同じ動作を。
これから何が始まるんです!?
「素晴らしき戦士に――捧げェ!槍ィ!!」
「「「フー!!ラー!!!」」」
ひぎゃああ!?!?
やめて!素晴らしき戦士じゃないからやめて~!!
皆さんの圧が!圧が凄い!!
ゲニーチロさん!ゲニーチロさん!!
一体ボクをどんなふうに紹介したんですか!紹介したんですか~!!
「ムークちゃんがいると入場が楽でいいね」
「やっぱりムークは凄い戦士なのナ……?」
アルデアの誤解が加速している!
キミはボクが戦ってるところよく見てるからそうじゃないってわかるでしょ~!?
「はわぁあ……ムーク様が格好えがんす……」
ロロン!ロロン!
ここじゃないどこかを見つめてどうしたの~!?
・・☆・・
『あれよ!きっとあれだわ~!』
「だろうねえ」
「むしろアレ以外だったらビックリナ」
盛大な歓迎を受け、恥ずかしがりながら街に入場。
トルゴーン特有の綺麗に整った街並みを見物しつつ、真っ直ぐ歩くこと数分。
衛兵さんが言ったように、3本の道が合流する大きな大きな広場に着いた。
そこの中心には、これまた大きな噴水があって……その周囲にはお店がいっぱい!
そこら中からいい匂いがするんじゃよ~!
んでんで、その中にお目当てっぽいお店はあった。
二階建ての広いお店には【アスノ飯店】と大きく書かれた看板があって……甲羅のイラストが描かれていた。
そして、端っこの方にはピーちゃんに酷似したインコっぽいイラストも!
あそこじゃない訳がないネ!
『繁盛してるわ!とっても繁盛してるわ!』
ピーちゃんが言うように、行列が凄い。
今がお昼時だってこともあるんだろうけど、とっても人気のお店だ。
「どうするんだい?店のもんに言って入れてもらうのかい?」
「イエ、並ンデ普通ニハイリマショウ。混ンデルトコロニ無理ヲ言ウノハ悪いデスシ」
「わかってるじゃないか。どうせあそこで飯を食うんだし……それがいいやね」
『フィーヒヒヒ!こちとら知り合いでござるのよ~!』って行列をかき分けて行くのはちょっとね……これからカマラさんもここで商売するらしいし、その前に変な評判になったらダメでしょ。
『ごめんねピーちゃん、すぐに会いたいだろうけど……』
『何言ってるのむっくん!行列の横入りなんて許されないわ!ご飯をしっかり食べて、その後でお話を聞いてもらいましょ!!』
……元中華料理屋出身のピーちゃんらしいや。
「ジャ、皆デ並ボウカ」
でも小腹は空いたので、干しフルーツをバッグから取り出して……
「あーん」「クルック」
妖精2人にねじ込んでおこう!
くらえ~!多分干しマンゴーを!!
・・☆・・
「長らくお待たせいたしました~!」
それから、並んで皆でお話しすることしばし。
列はゆっくりと進んで……ついにボクらが先頭に立った。
こっちにやってきた店員さんは……ワオ!甲羅しょってる!?
これが……なんとか族か!
『ネクト族、ですね。カメさんの獣人種です』
そうそれ!
ほほう……でっかい甲羅だ……服着る時に大変そう。
この人はたぶん女性だね……だって髪の毛が長いし、後ろの厨房にいるカメ!!って感じの人とは違ってヒューマン要素多いし。
ふむん……顔にも装甲が少ないねえ。
「何名様です……あら?カワイイ小鳥さんですね!」
店員さんは、ボクの肩の上でデュルンデュルン揺れているピーちゃんに目をやった。
テンションが上がり過ぎてさっきからこうなんです、この子。
液体みたいになっております。
『はーい!よろしく!私はピーちゃん!!』
ピーちゃんが元気よくご挨拶!
元気が良すぎてボクの顔に羽がバンバン当たってくる!
「んまあ!妖精のお客様なんて初めて!これはサービスしな……きゃ……?」
あれ、どうしたの店員さん。
急に真顔になったけど。
「小鳥の妖精……ピーちゃん……ま、まさか……!」
かと思えばその店員さんはボクに抱き着いて肩のピーちゃんをガン見!
ロロン!大丈夫だから!敵じゃないから!
槍を出そうとしないで!誰か止め……アルデアが抱きしめて母性で包み込んでキャンセル!!
ふう、なんとかなった……むわむわ言って暴れてるけども。
『あら?どうしたのお姉さん!私を知ってるの~?』
揺れながら首を傾げる器用なピーちゃん。
それを見ながら店員さんはまた眼を見開き……
「――貴賓室ッ!貴賓室に団体様入りまああああああああああああああああああす!!!!」
そう、叫んだのだった。
……貴賓室?