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第50話 知らないようで知っている夢。

 草原だ。

柔らかい光に照らされている、綺麗な草原に立ってる。

さっきまでいた所とは違うみたいだけど……ここはどこじゃろね~?

ねートモさん……トモさん?


 あ、これ夢か。

むーん……リリィさんの歌聞いて寝ちゃったんだな、ボク。

折角歌ってくれたのに失礼なことしちゃったねえ。


 それじゃ、久方振りの明晰夢だね!

よーし!今度こそ起きるまでにお空をビュンビュン飛んでやるんだからねえ!

まずは……どうせ夢だから背中におっきな翼でも生やすかな!

生えろ!生えろ~い!!


『あいも変わらず、騒がしい奴だ』


 どなたァ!?

あれ、なんか前にもこんな夢を見た気がしないでもない!?


『妙な波長の自我を持っているな。一体全体、どこからやってきたのだ、お主は』


 えっと、トルゴーンの首都街道ですけども!


『そういうことではないのだが……まあ、いい』


 なんかこう、呆れられた気配がする!

遺憾ながらこういう対応には慣れてきたのよ、ボクってば。


『おい、お主』


 アッハイ。


『――小さきものは、好きか?』


 ……小さきもの?

えっとそれは小動物とか?


『この世にある、弱々しき光……お主を慕っておる妖精のようなものだ』


 アカって弱々しいかなあ?

まあでも、はい、好きですとっても!

ボクはアカの最高に素敵な『おやびん』を目指しておりますので!


『ふふ……嘘の付けぬ奴だな、お主は』


 こんなことで嘘なんかついてもしょうがないでしょ!

だってアカはこの世で一番かわいい子分なんだから!


『そう、か。そうか、そうか……』


 あの、なんか嬉しそうな所悪いですけども。

あなたって前に会ったことありますよね?夢の中で。

あなたこそ何者なんです?


『おいおいな、おいおい……お主とは長い付き合いになりそうだ』


 いやちょっと、説明をですね!説明!

説明責任を果たしていただきた――



『――少しばかり、地の底がざわめいておる……ゆめゆめ、油断はせんことだ。奇妙な虫人よ』



・・☆・・



「アタシたちは【蒼の竪琴】よ、しっかり覚えておいてね!」


「マデラインに来たら訪ねてきてね!妖精ちゃんたちも、みんなも~!」


「【ハシュバール】って港町にいるからね~!」


 青肌のお姉さんたちが、荷台の窓から体を乗り出して手を振っている。


「ハーイ!キット行キマース!!」


「またね、またね~!」『色々ご馳走様~!行くわ、きっと行くわ~!』


「道中、お気をつけくなっせ~!!」


 ボクらもそう言い、皆で手を振った。


「そいじゃ、ここで。マデラインに来たらウチの乗り合いを使ってくれな~!」


「キュロロロロロ!」


 サガンさんが手綱を操り、鋼竜ちゃんが高く鳴く。

そして、その巨体が動き始め……あっというまにスピードに乗って走り出した。

うわわ!スケールが大きいからゆっくりに見えるけど、結構な速度!


「今度はもっと色気のある歌を聞かせてあげるわぁ~!」


 リリィさんがそう言って、ボクに向かって片目を閉じた。

えっとぉ……小さい子(ある意味ボクも含めて)がいるから遠慮したいかなって。


「鼻の下が伸びているのナ」


「痛ァイ!?錯覚デショ!?」


 アルデアの脛キックが痛い!!

ボクの顔面にはそんな柔らかい部分はないんじゃよ~!



 ボクは、子供向けの子守歌にすっかりやられて爆睡してたらしい。

そして、折角作った炭酸水を顔面に垂らされるという最悪な目覚めをした。

犯人はアルデアです。

顔中がシュワシュワして魔物の襲撃かと思ったよ!


『ムークさん、とぉっても疲れてたのねえ?』


 なんてリリィさんに言われたけど、多分それはボクがおこちゃまだからだと思う。


 まあとにかく、流石にいつまでも休憩しているわけにはいかないので……お互いに出発することになったってわけ。


『ねえむっくん……あの人たちに今度会うときは、日本のお歌を2人で歌ってあげましょ!きっと新鮮で驚くわ!驚くわ~!』


 ピーちゃんから内緒の念話。

おお、それはきっと楽しそうだ!

その時はお酒飲まないように気を付けないとね、ボク!

酔っぱらったら楽しくても全部忘れちゃうもん!


「ヒヒヒ……臨時の儲けが出たねえ、妖精様様さ」


 カマラさんも嬉しそうだ。

タリスマン、青肌さんたちだけじゃなくって護衛の獣人さんにも売れてたもんねえ。

サガンさんは鋼竜用のタリスマンを買ってて驚いたけどさ。

多種多様に取り揃えすぎでしょ……カマラさん。

なんですか鋼竜用のタリスマンって。


「火ば消えて~、竈ば崩して~……大丈夫でがんす~!」


 毎回やってるけど、出発前のロロンがやる指差し確認ってカワイイよねえ。

見ててホッコリしちゃうや!


「よし、皆頑張りな。この先の峠道さえ抜けたら後は真っ直ぐさね……明日にはルアンキに着くよ」


「ワーイ!」「わはーい!」


『出発よ!出発だわ~!』


 よーし!もうひと踏ん張りだ~!



・・☆・・



『前方の茂み!』


 ハイ了解ッ!!


「ガルゥウウウウウアッ!!」


 ガサリと揺れた茂みから飛び出す、灰色の狼!

慌てず騒がず――速射衝撃波、3連ッ!!


「ガッボッ!?!?」


 喉と顔面に被弾した狼が、空中で血を吐く。


「――オオオッ!!」


 一瞬動きの止まったそいつに――ヴァーティガ、フルスイングッ!!


「――ギャンッ!?!?」


 内臓と骨を砕きながら、狼が吹き飛ぶ。

よーしよし!ちょっとだけ大きい狼だったけど、問題ないね!


『右方向、林の奥ッ!』


 ハイハイ了解ですッ!

いやあ、このまますんなりとルアンキに行きそうな気がしたんだけどな~!

狼の群れに襲われるなんてね~!


『アカ!そっちは大丈夫!?』


『だいじょぶ!アカがんばゆ、がんばゆ~!』


 頼もしい子分ですよ!

現在の陣形はボクが前、アルデアがお空、ロロンが左側で……カマラさんとピーちゃん、それにアカが最後方!


「でええええりゃああああああああっ!!」「ギャンッ!?」


 今まさに、ロロンの槍が空中の狼を真っ二つにした!

いつもの土刃の魔法で延長されてて、とっても強そう!


「右から来る!気を付けるんだナ!」


 アルデアも気付いたのね!

彼女の戦法はお空を縦横無尽に飛び回って、足で持った槍で攻撃するってものだから……木が多い今はちょっとしんどそう!

でもたまーに急降下して狼をバラバラにしてるけどね!


「グルウウオオオオオオオオオンッ!!」


 ムムム!これは魔力を乗せた咆哮!

チョット体がビリっとしたけど――


「ムウゥン!!」


 魔力を体表面に流すと、即座に楽になる!

ハッハー!エンシェント・コボルトに比べたらこんなもんそよ風じゃよッ!

さあ!今の声で場所はわかったぞ!


「コレデモ――」


 左手を、林の方へ向ける!


「――喰ラエッ!!」


 左腕の三本棘を時間差を付けて発射!


「ギャンッ!?」


 お、草で見えないけど多分当たった!

さあ、次はどっちから――


「ゲギャギャギャギャギャギャア!!」


 なんだこの声!?

絶対に狼じゃないっていうか、これは――


「「ギャギャギャギャギャギャギャ!!」」


 なんっだ、アレ!?

真っ赤な肌のゴブリンが、狼に跨ってる!?

しかも一匹じゃなくって複数!?


『おやびん、ぺたんして、ぺたーん!』『了解ッ!よろしくどうぞ~!!』


 アカの声に伏せた瞬間、ボクの頭上を輝くアカミサイルが飛んでいった。

それは複雑な軌道をしながら、狼に乗ってるゴブリンの顔面に次々と命中、しかる後爆発!

頼れる子分はミサイルまで頼れるんじゃよ~!

後で発火するくらい撫でちゃろ! 


 しかしなんだこの魔物!?

狼にライドする赤肌ゴブリンなんて初めて見たよ!?

でも、今の感じだとそんなに防御力はない!数だけは多いけども!

腕の棘はまだ再生してないから衝撃波連打――


「――スヴァーハッ!!」


 ――する前に、ロロンが放った土魔法のマシンガンが一帯を薙ぎ払った。

あああ、特にかわいそうでもないゴブリンたちがレンコンみたいな死体に!


「デカシターッ!!」


 現状伏せ体勢のボクにできることは……褒めることだけ!

っていうか今ので魔物全滅してるじゃん!ボクの見せ場がない!

まあいいか!頼れる仲間がいっぱいでね! 

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― 新着の感想 ―
ロロンさん…カワイイ。火ば消えてー窯ば崩してー 尊い!!アカさんミサイルとんでもないなぁ。回避不可。まぁ、カワイイからいいか。ムッくんは最近の口癖は「じゃよ」。「ゾイ」もカワイかった。カワイイだけでも…
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