48話 楽団さん?
「この先に峠があって、その先にも同じような道が続くのナ」
「おや、とうとう来たかい。見た目ほどキツイ登りじゃないけど、魔物がよく出る場所だよ」
「あ、あの……」
重い、口には出さないけど、重い。
「そこが最後の要所だね。見通しが悪いから左右に気を付けるんだよ」
「フムン。確かに背の高い木々が多いのナ、引っかからないように気を付けるのナ」
「あ、アルデアさん、その……その~……!」
ああ、ロロンがピョンピョンしてアピールしている。
……ボクが言わなきゃ!
「……ネェ」
「ム、なんなのナ?」
アルデアがボクを『見下ろした』
「――ダカラ!ナンデボクノ肩ニ着地スルノサ~ッ!!」
・・☆・・
五右衛門風呂を堪能して、ホカホカの体で眠りについて翌日。
ボクらは朝ご飯を食べて今日も元気に出発した。
ここに至るまでは特に何事もなく、ボクらと同じような旅人とすれ違うくらい。
どの人の時もアカやピーちゃんが警戒していなかったので、早朝の旅人はみんな善人らしい。
それで……妖精2人とアルデアはいつものように偵察兼お空の散歩をしてるんだけど……
「ムークの肩が丁度止まりやすいのが悪いのナ」
「開キ直リヨッタ……」
何故か、報告に来るたびにボクの肩に着地するんだよね!ね!
その度にウグーッ!?ってなっちゃうんですのよ!!
「ツルツルしていて足触りがいいし、太陽の熱で暖かいのナ」
「ボクノ肩ハ健康器具カ何カ?」
遺憾ながら若干慣れつつあるけども……ロロンが毎回むっちゃ心配そうにするんよね。
「そうまで言うなら今度はロロンの肩を試すのナ」
「駄目ニ決マッテルデショ!エエイ!ヤルナラボクニヤレーッ!!」
「じゃじゃじゃァ!?」
大切な子分の肩甲骨とかそこら辺はボクが守るんじゃよ~!!
『……むっくん、なんとおいたわしい頭脳……』
なんか急にトモさんにディスられた!?
おいたわしい頭脳!?
『おやびん、おやび~ん!』
ム、上空のアカから念話!
そんなに慌ててる感じじゃないけど……
『なーに?アカ』
『でっかいの、くる、くる~!』
……でっかいの?
『おっきなトカゲさんだわ!トカゲさんだわ~!』
でっかい……トカゲ?
ふむん、走竜ちゃんかな?
まあ、何回見てもでっかいからねえ、アレ。
骨格とかどうなってるんだろうねえ……
「おや、珍しいねえ。『乗り合い竜車』だ、ここいらじゃ中々見れないよ」
「デッカ!?!?」
坂の向こうからヌッと出てきた生き物。
それは……バスみたいな大きい荷馬車を引っ張った……バスみたいなトカゲだった。
見た目は四つ足で、よく見ると背中に御者さんっぽい人が乗ってるのが見える。
ひぇえ……ノシノシ歩いてるゥ!
鱗も硬そうだし、滅茶苦茶強そう……!
「じゃじゃじゃ、まるで大地竜でがんす!ワダスも初めて見るのす~!」
ロロンが動物園ではしゃぐ子供みたいに興奮している。
あ~、ロロンがピョンピョンするんじゃ~!
「砂漠じゃアレは引っ張れないしねえ。マデラインじゃよく見るんだけど」
「私も初めて見るのナ。アレはなんていう種類の魔物ナ?」
アルデアもそうなんだ。
マデライン……あんなでっかいのが走ってるなんて、どんな魔境なのさ!?
「アレは【鋼竜】っていう種類の魔物さね。騎獣の中でも最大級に大型なやつさ」
鋼竜……たしかに皮膚は鋼っぽい。
日の光が反射して、とってもキラキラ!
ビジュアルは完全に恐竜だ。
『補足しておきますと、走竜と同じく性格は穏やかで従順、粘り強いとされていますね……ちなみにやはりメスですよ。オスはメスの走竜くらいのサイズです』
脳が混乱する!
ややこしいんじゃよ~!?
「おとなしくって人に良く懐くけど、力はピカ一さ。大地竜の子供くらいなら一息に噛み殺しちまうよ」
強靭!
この世界は穏やかな魔物すらコワイ……コワイ……
「……オ肉、食ベマス?」
「草とか野菜しか食わないよ。だけど量は段違いだけどね……アレを飼っておけるんならたぶん……」
そんな話をしているうちにも、鋼竜く……ちゃんはズンズン近付いてくる。
あ!荷台の上にクロスボウを持った人がひいふう……8人もいる!
ほほーう……乗客も結構いるね。
ほんと、バスみたい。
「やっぱり【バロンズ商会】か」
ばろんずしょうかい?
「荷台の横に描いてあるだろう? マデラインで手広くやってる運送専門の商会さね」
あ、ほんとだ。
なんというか……その、随分その、セクシーな人魚さんのイラストが描いてある。
彼女の持っている看板に、たしかに【バロンズ】って書いてあるね。
コメントに困る露出度だ……
「はわわわ……」
「フムン、私の方が大きいナ」
ロロンは顔を赤くして、アルデアは何故か張り合っている。
コメントに困る……
『むっくんっておっぱい派なん?お尻派なん?』
コメントに困る……セクシャルなハラスメントですのよ!
「おやびん、おっき~、おっき~!」
アカが上空から肩に戻ってきた。
おっぱい……じゃなくって鋼竜ちゃんの方だろうね。
「オッキイネエ。ドコマデ行クンダロウネエ」
「トルゴーン南端経由でマデラインまでだろうね。涼しい夏を満喫しながら巡業でもするんだろうさ……ホラ見な、乗ってるのは楽団だよ」
楽団?
それって地方巡業のオーケストラみたいなやーつ?
どれどれ……窓が閉まっててわかんない!
カマラさんはどこでそう判断したんじゃろ?
「こにちわ!こにちわ~!」
ボクの肩に立ち、アカが両手を振っている。
すると、鋼竜の背中……っていうか首の付け根あたりに鞍を付けて座ってる人がこっちに気付いた。
日差し対策だろうローブを着てるから、なんの種族かわかんないや。
「ヤヤヤ、これは珍しい! なんとも可愛らしい妖精のお嬢ちゃん!こんにちは!」
たぶん男の人だ。
声は低いけど、陽気で優しそうな感じ。
だってアカが逃げないもんね。
それに……
『こんにちわ!こんにちわ~!』
今戻ってきたピーちゃんもギュンギュン旋回してるし。
「ヤヤー!もう1人いらっしゃった! こんにちわ、素敵な小鳥さん!」
御者さんが手綱を引くと、鳴き声も上げずに鋼竜ちゃんはゆっくりと停止した。
おお……間近で見るとより一層迫力がある……
お目目は優しい感じだけども。
「御者さぁん、どうしたのォ?」
荷台の窓が開いて、中の人が身を乗り出した。
乗客さんかな?
「見てみな、リリィ! 幸運の使者さんたちだよ!」
「あら、あらあらぁ! みんな~! 妖精よ、妖精ちゃんがいるわよ~!」
青い肌をして、耳の長い女性が目を輝かせて荷台に引っ込んだ。
今のヒトって何の種族だろ? エルフ……じゃないよね?
『彼女の種族は【海の民】と名乗っています。むっくんにわかりやすく言いますとセイレーンでしょうか』
綺麗な歌声で船とか沈めるやーつ!?
『そのやーつです。海の民は多様な種族の総称ですので……彼女はその中の一種族といったところでしょうね』
ほほう、ほうほう。
「おおっと、こいつは長くなるかもね」
カマラさんがそう言ったくらいに、荷台の後ろから何かが開くような音がした。
そして……
「キャーッ! かわいい~!!」「ちっちゃーい!」「妖精ちゃん、妖精ちゃんだわ~!」
ウワーッ!?
青肌の美人さんたちがひいふうみい……10人くらいダッシュで出てきた!
皆さん露出度がお高い!?
上はビキニで下はパレオ!?
寒くないの?お腹丸出しなんだけどォ!?
・・☆・・
「カマラさーん、これは?」
「毒消しさ。樽に入れておくと水物が長持ちするよ」
「こっちは~?」
「ありゃ、こっちに紛れてたのかい……こりゃあ安産のタリスマンさね」
「冷え性に効くの、あるぅ?」
「そいつはこっちだね。手足を温めるタリスマンさ」
なんということでしょう。
街道の端で、カマラさんの即席タリスマン屋さんが開業しております。
「あむむ、むいむいむい……」
「うふふ、おいしぃ?」
「おいし!おいし!」
『コリコリの歯ごたえがとっても素敵だわ!丁度いい塩加減だわ~!』
そして……カマラさんのお店を見ていないお姉さんたちは、アカとピーちゃんになんかこう……クソデカ干しワカメみたいなものを食べさせまくっている。
荷台から出てきたお姉さんたち、コミュ力が高すぎる……いつの間にこうなったんだろうか。
アカたちを撫でまわしてると思ったら、あれよあれよという間にここで休憩する感じになってた。
「急ぎの旅じゃないとは聞いたけど、すまんねえ兄さん」
「イエイエ、オ昼ナンデ丁度イイデスヨ」
ボクの横にはさっきの御者さんと……
「コロロロロ……」
鈴が鳴るような音を出しつつ、ボクの差し出した干し草をモリモリ食べる鋼竜ちゃん。
うーん、見た目に反して声がカワイイなあ。