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47話 異世界五右衛門風呂っていいな!いいな!


「ヨシ……! コレデイイ」


 ここに魔石をセットして……こっちのつまみを回すんだったよね。

おお、なんか全体に魔力が通ったのがわかる!


『便利な世の中になったわね!』


 頭にとまっているピーちゃんが感心したように言うけど、ほんとそれ!


「コレデイツデモオ風呂ニ入レルネ」


『とっても素敵よ!素敵だわ~!』


 チュチュン!とテンション高く鳴くピーちゃん。

ふふ、ウチのパーティはお風呂好きばっかりでいいね!



 カトラドを出発して、気付けばもう夜。

たどりついた街道の休憩所。

そこの裏手にある広場で、ボクは五右衛門風呂のセットアップをしている。

いやー、早く試したくってウズウズしてたんだよね~。


 使い方はとってもシンプル。

下の方にある引き出しに適当に魔石をぶち込んで、温度調節っぽいつまみを弄ればいいだけ!

『あつい』『ふつう』『ぬるい』って、なんともわかりやすい文字も書いてあるしね!


 ……まあ、これに水を入れるのが大変だったけどね!

バケツ片手に川と何往復もしちゃった。

ポンプ付きホースの魔法具とかないもんかね~?

ヒトの欲望ってやーつは尽きることがありませんなあ。


「後ハ……ット」


 バッグに手を入れ、細い柱と大きな布を取り出す。

これをお風呂の周辺に立てて、目隠しにするんだ。

買っておいてよかった……

ボクだけならいいけどさ、女性陣がいっぱいいるからね!

トモさん!デリカシー皆無虫とはもう言わせませんよ!


『あ、そうですね。頑張ってください』


 ンンン塩対応!

これは信じてない感じのや-つ!

まあともかく、異世界五右衛門風呂……完成!!


 それにしても、結構準備に時間がかかっちゃうね……

急いでる時には使えないかな、これ。

水魔法とか使えたらいいのにな~


『このお風呂をいっぱいにするレベルの水魔法は中々の難易度ですよ』


 ムムム、コップに入れるのとはわけが違うもんね……


「一番風呂は私……と、言いたい所だがカマラさんなのナ」


 おやアルデア、いつの間に。

なんか意外、一番に入りそうなんだけど。


「なんなのナ、その目は。他の種族は知らんが、一番風呂は年長者と決まっているのナ」


 へえ、そらんちゅさんってそうなんだ。

お年寄りを大事にするんだねえ。


「マア、トニカク楽シンデヨ。ボクハ一番後デイイカラ」


「じゃじゃじゃ!ムーク様はカマラさんのすぐ後でやんす!」


 おやおや、ロロンまで来た。

年長者だからってことなんだろうけど……すいません、ボクこの中で一番年少者なんですよねえ。


「アノネ、ボクノイタ所デハ女性ガ先ニ入ルンダヨ。ソレニ慣レチャッタカラサ、気ニシナイデ」


 こう言っておけばいいでしょ。

女性陣の途中に(外見)男が入るとなんか気を遣わせちゃうだろうし。


「ムークちゃんがそう言うならいいけどねえ……アンタが買ったもんにアタシが一番に入るなんてねえ、ちょっと悪い気がするよ」


「イエイエ、全然」


 むしろボクが一番先に入る方こそ気が引けるよ。


「アカ、おやびんといっしょ、いっしょ!」


『私も!私も!』


 飛んできたアカは、ボクの頭の上でピーちゃんと謎ダンスを踊っている。

そうだね、街の浴場なら無理さけどここならいいね。


『飲む気っしょ? 女性陣の出汁を……』


『まあ、むっくんの特殊性癖虫!』


 好き放題言ってくれちゃってさあ!言ってくれちゃってさあ!!

お二方はボクをどんなハイレベルHENTAIだと思ってんのさ!!


『虫よ、いくらあなたが丈夫でもそんなことをしてはお腹を壊すかも知れませんよ……?』


 心配しないでママ!大丈夫だから!絶対に大丈夫だから!!


『そうですか……それならば何も言いません、胸を張って飲みなさい』


 飲 み ま せ ん !

そういうことじゃないんですのよ~!



・・☆・・



「オ~……」


「うゆ~……」


『お外のお風呂は格別だわ……』


 ドラム缶のふちに手を置いて、空を見上げる。

月が綺麗だし、風も涼しい……最高のロケーションだ~!


「ハイアカ、ピーチャン」


 ボクの前で全身から力を抜いて浮かんでいる2人に、あらかじめ作っておいた炭酸水を渡す。

今回入れたのはブドウみたいな形の果物!

見た目はブドウだけど、味と匂いはマスカットっぽい!フシギ!


「んく、んく……」


『最高の気分だわ……』


 2人は嬉しそうにストローを咥えている。

和むなあ、この光景。

分厚い木のコップだからぬるくなりにくいし、浮かぶから見た目にオシャレだと思う!


 結局順番は一番後にしてもらったので、ボクらは思う存分お風呂を堪能できるってワケですよ。

このお風呂には保温機能も付いてるし、魔石がなくなるまではぬくぬくを楽しめるぞ!

あ、ちなみに魔石っていうのは無くなることはないんだ。

中の魔力が空になったら、透明度のないくすんだ灰色の石になるんじゃよ。

いっつもボリボリしてたからわかんなかったや。


「ムークちゃん、飯ができたら呼ぶからね」


「アッハイ」


 天幕の向こうから、カマラさんが声をかけてきた。


「これからの野営が楽しみになっちまうね、コイツは。なんとも格別さね」


「ヘヘヘ、イイデショ」


 当たり前だけど、皆の評価は上々だった。

お風呂が嫌いじゃなければ、嫌がる理由なんてないしね。


「普通、旅ってのはしんどいもんだけど……今回の旅はいいね、ムークちゃんたちのおかげでとっても楽しいよ」


「エヘヘ」


 そう言ってもらえると嬉しい。


「前にも言ったけどさ、仲間ってのは大切にするんだよ? 肩を並べて旅をして、毎日うまくやれるようないい仲間はさ」


「ハイ。ボクハ色々運ガ悪イデスケド、人ニハトッテモ恵マレテマスノデ」


 もちろん、ここの仲間だけじゃなくってね。

遠い遠い所だけど、トモさんにヴェルママ、シャフさんもいるし。

いやあ、ボクの周り……優しい人ばっかりだ。


『お? いきなり何言い出してんのむっくん、プロポーズ? 悪いけどあーし身長2メーターはないとそういう対象にならんのだわ』


 告白もしていないのにもう振られた!

高身長フェチゴッデスだ!

シャフさんは高身長好き……虫、覚えた!


『見ていなさいムロシャフト、虫は今にその10倍は大きくなりますから』


『ちょーっちデカすぎんでしょ?』


 ボクは光の国から来た巨人だった……?

ママの信頼が重い気がする今日この頃ですよ、ええ。


「アンタはね、親分としちゃ合格だし、不合格さ」


「エエエ!!?」


 カマラさん、いきなり何を仰るんです!?

合格で不合格……哲学の問題かな?


「まず注意散漫さね」


「グウ……」


 ぐうの音しか出ない。


「それに女心がとんとわかっちゃいないよ」


「ギュウ……」


 ぎゅうの音も出た……


「ま、そいつらはロロンちゃんにしっかり直してもらうといいさ。あの子はしっかりしてるからね」


「ソレハソウ」


 ボクの100倍はしっかりしてるもん!


「それ以外はほぼ合格ってとこかね……ねえ、ムークちゃん。頭目にとって一番大事な事ってのはなんだと思う?」


「ムムム?」


 一番大事な事?

うーむ……

しばし湯に浸かって考える……あ、静かだと思ったらアカとピーちゃんが寝てる。

飲み干したカップに入って器用なことだよ。


 大事、大事な事……


「強イッテコト、デスカ?」


 やっぱりこれじゃない?

親分は腕っぷしが強くないとねえ。


「半分正解さ」


「半分?」


 じゃあ、もう半分はなんじゃろか。


「力だけのでくのぼうにゃあ親分は務まらない。優しくもないと駄目なんだよ、ムークちゃん」


「フムフム」


 たしかに!

力こそパワー!みたいなリーダーは嫌だねえ。


「頭目ってのはね、優しくて強くないといけないんだ。その肩には配下の信頼と安寧がかかってるんだから」


「ナルホド……深イ……」


 優しく、強くか。

簡単なようでいて、難しくもある。

現状ボクには強さがそこそこ……あると……いいね?


「でもね、親分がなんでもかんでもやれって言ってんじゃないんだよ? 頼る所はしっかり子分に頼りな」


 むぅ……そこもまた難しいでござるのう。

でも、そうだよね。

全部ボクができるわけじゃないし……そういうことも大事だね。


「ああやだやだ、年を取ると説教臭くなって駄目さね……それじゃ、いつまでもこんなとこにいるのも悪いしアタシは帰るよ」


「イエ、トッテモタメニナリマシタ」


 こういうの、言ってもらえるだけでありがたいよね。

しっかりと心に刻んでおこう。


「むにゃむ……きもち~……」


『水餃子が食べたいわ……食べたいわ……』


 妖精2人のカワイイ寝言を聞きながら、ボクはそう思うのだった。

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― 新着の感想 ―
カマラさんからの親分の心意気! カマラさん…大分後悔と言うか、辛いことあったようですね。 親分って大変だぁ。子分の先には死ねないねぇ。親分死んだら、 後ろの子分が殺される。覚悟いるね。
特殊性癖虫!拾います!トモさん頂きましたぁ! 女子の出汁…ムッくんが飲む…愛が深い!! こ、これが清濁併せ持つと言うことか!
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