第46話 出発、進行!
「おせわ、なりゅました!」
「はいはい、ありがとうねえ。また来な、みんなでねえ」
アカが元気よくミミコさんにお礼を言って、頭を撫でられている。
「とってもいい宿だったのナ。色々とご迷惑をかけたのナ」
アルデアはどっちかというと巻き込まれた側だからねぇ……
「気にしなさんな、楽しかったよ。アンタ、今はムークさんみたいな強い男がそばにいるからいいけど……変な男にゃ気を付けるんだよ、別嬪さんなんだからね! ロロンちゃんも!」
「ム、騎士役としては及第点だナ。だが旦那にするにはちょっとナ……」
「じゃじゃじゃ……わ、ワダスはちんちくりんの小娘でやんす~!」
アルデアは何故かボクをディスり、ロロンは赤くなってわたわたしている。
『毎日ご飯がとってもおいしかったわ!おいしかったわ~!』
ボクの肩に乗っているピーちゃんが、羽を広げて左右に揺れている。
「マタ来マス、キット」
「世話になったねえ、ミミコさん。旦那さんと仲良くね」
カマラさんがそう言って手を振り、先に立って歩き出す。
さ、ボクらも行かなきゃ。
宿の戸口で手を振るミミコさんに会釈し、出発した。
何回やっても慣れないな、さよならってのは。
・・☆・・
あっというまに2日が過ぎ、今はもう出発の時間だ。
昨日、そらんちゅさんが戻ってきてアルデアへの賠償金を渡しに来たんだよね。
中身はいくらか知らないけ、かなり重そうな革袋に包まれてた。
結構な金額らしくって、彼女はほくほくした顔をしていた。
ああ、ボクも貰ったんだよ。
魔石の詰め合わせをね。
大小いろんな種類のやつ、混ぜ合わせ版って感じで。
これで急な魔力欠乏にも対応できるってもんだよ。
そして、リーバンさんを筆頭にまた深々と土下座をしようとして……アルデアが蹴りの予備動作をしたのでキャンセルしてた。
さすがにおかわりアルデアキックは嫌らしい。
結構な威力だったもんね……一日中脛がジンジンだったし。
何故かトモさんが治してくれなかったし。
『何か困ったことがあったら、すぐに相談するネ。ムークさんには大きい借りができたネ』
なんて言ってたけどさ……特にはないかなって。
なんか、アルデア経由で言ってくれれば即駆けつける!らしいけども。
うむむ……今回、ボクがやったことって一応ジャンル的には殺人になるんだけどなあ。
全然バッシングされない……いや、されたーい! ってわけじゃないんだけどさ。
あとね、今回のアレでボク……そこそこ有名人になっちゃった。
お外に出るたびに街の人に握手をせがまれたり、何かしらの食べ物を奢られたり。
お酒を飲まされそうになったのは困ったなあ……酔うと街中で歌って踊ることになっちゃうしさ!
いやあ……有名人ってのも辛いね!ね!
「キョジューロさんでやんす!」
そんな考え事をしながらポテポテ歩いていたら、城門の所まで来ていた。
ロロンが言うように、衛兵さんの横には……キョジューロさんがいた。
「皆様、お立ちでございますか。この先の安寧をお祈り申し上げます」
ぺこり、と一礼するキョジューロさん。
……一応今日出発するって昨日言ったけど、何故先回りできるんだろうか。
ニンジャってすごいなあ。
「オ世話ニナリマシタ」
「いえ、何のお構いもできませんで……」
そんなこと言うけど、お構いまくりでしょ。
謙遜が凄いなあ、このバッタさん。
「嫁さんの具合はいいのかい?」
「ええ、妖精様方の祝福を頂いていますので……母子ともに健康でございます」
どれくらいのご利益があるんだろ、アカたちの祝福って。
【フゥジャマ亭】にもお守り置いてきたけどさ。
「しっかり傍についておくんだよ? 確かに出産ってのは女にしかできないけどさ、旦那が横でどっしり構えてるだけで安心するってもんさね」
「肝に銘じます、カマラ殿」
「ヒヒヒ……出産の時のやらかしってのはね、それこそ何十年後になっても文句言われるからさ。変なコトすんじゃないよ、にいさん」
「……き、肝に、銘じます」
おおお……あの冷静沈着なキョジューロさんがキョドってる!
亀の甲より年の劫とはよく言ったもんだn……ヒィ!なんでボクを睨むんですか!
「首都の閣下には、此度の顛末を報告しておきました。この先の街々で何かありましたら、衛兵に伝えればすぐに連絡が取れますので」
「何から何まで……おありがとうござりやんす~!」
お世話になりっぱなしだ。
首都でゲニーチロさんに会ったらしっかりお礼言わないとね。
神聖虫土下座の封印を解く必要があるかもわかんないね!
「ハイ、アリガトウゴザイマス」
「是非またお立ちよりくださいませ。その頃には子も産まれているでしょう」
それはとっても楽しみだ!
むしんちゅの赤ん坊って見たことないし!
「それでは皆様……ミドモはこれにて」
ぶん、とキョジューロさんが消えた。
ニンジャ!ニンジャだ~!!
『何度見ても同じリアクションすんじゃん、ウケる』
いたんですか、シャフさん。
「ホラ、なにしてんだいムークちゃん。置いてくよ」
あああ!待って!待って~!!
・・☆・・
「首都に近ければ近いほど歩きやすくなっていいねえ」
カトラドの街を出て、しばらく。
カマラさんが言うように、街道は今までよりも格段に整備されている。
人通りも多いからか、さっきから結構人とすれ違うねえ。
『ピーちゃん、上の様子はどう?』
『とおってもいい天気!風が気持ちいいわ~!』
上空には偵察隊としてアカとピーちゃん、それにアルデアの3人がいる。
体も全快したから思う存分飛べて嬉しそうだね、アルデア。
そらんちゅさんって本当に飛ぶのが好きなんだなあ。
「この陽気が続けば、かなり早く到着できそうだねえ」
「【三叉の街】ルアンキ、ワダスは行ったごとねぇのす。どげな街か今から楽しみでやんす~!」
スキップしながら言うロロン。
この旅を思う存分楽しんでるねえ、カワイイ。
「【聞くより見ろ】ってもんさね。今までのどの街とも違うよ、楽しみにしてな」
まるで孫でも見ているようなカマラさん。
あ、年齢的にはそれくらい……ヒィイ!なんで睨むんですか!?
『体は災いの元、とも言いますしね』
言いませんよトモさん!?
初耳でございましてよ~!?
「マントモポカポカダ。ロロンノオ陰ダネエ」
「えへへ……もっだいねえお言葉にがんす!」
お日様のいい匂いが移ったみたいだよ、ほんと。
アカもピーちゃんもまた安眠できるぞ、これなら。
やっぱりうちのパーティ、ロロンがいないととんでもないことになりそう。
愛想つかされないように、おやびんも頑張らんとね~。
「こっからはもう辺境じゃないよ。まあ、盗賊は減るけど魔物はいるからね、気を抜くんじゃないよムークちゃん」
「アッハイ」
魔物ならどんとこいだよ。
盗賊よりかはよっぽどマシさ。
やっぱりヒューマンとは戦いたくないもん。
別に例の盗賊に対して無茶苦茶罪悪感を持ってるってわけじゃないけど、やっぱりね。
ちょっとしんどいもん。
『大きな街には私の教会があります。いつ礼拝に来てもいいですからね、虫よ』
ありがとうママ~!
今度の像はどんな武器を持ってるのか、今から楽しみです!
このままこの世界が進歩していったら、いつか銃とかで武装するんだろうか?
そこも含めて気になる虫です。
・・☆・・
「ガルゥア!!」
牙を剥き出して、小汚い洋犬……草原狼が飛び掛かってくる。
ボクの体に噛みつこうとしたその口に――インセクト・アッパーカット!!
「ギャ、ボ!?!?」
右アッパーが正確に顎を捉え、骨の砕ける手応えを伝えてくれ――ウワーッ!?
「ペッ!ペペッ!」
むわー!狼の頭部が爆発しちゃったよう!
折角ロロンが綺麗にしてくれたマントとボクの顔面が血まみれでごじゃる!
強くなるのもいいことばっかりじゃないね……
ああ、血生臭い動物園の匂い……
「手加減、難シイナア」
つい最近まで虫だった身としては、そんなこと考えてる余裕はなかったもんね。
むむむ、首都にいったらよさげな道場とか探そうかしら。
ボクっては蛮族ファイトスタイルしか持ってないもん。
「剥ぎやんす~♪」
「笑顔で狼の生皮を剥ぐのはちょっと怖いのナ……」
おっと、他の皆も問題なく処理できたみたい。
草原狼くんがひいふう……しめて10匹!
いやー、結構な群れでしたねえ。
「おちかれ、おちかれぇ」
3匹くらい黒焦げにしたアカが肩に戻ってきた。
「はーい、きれい、きれいぃ」
「ムワワワワワ」
アカ、顔を拭いてくれるのは嬉しいけどそれは狼くんの毛皮だよ……
動物園の!動物園の臭い!!
『そろそろお昼かしら!お昼ご飯かしら!』
「もうちょい歩けば休憩所が見えてくるだろうね。そんなに縦に揺れなくたって大丈夫さね」
カマラさんの肩の上では、ピーちゃんがずんどこずんどこ縦揺れ。
液体でできてるみたいに見えるね……
おっと、ボクは狼くんを埋める穴を掘らないとね~。
衝撃波をぶっぱするだけの簡単なお仕事ですのよ。
『虫が強く雄々しくなって、私はとても嬉しいですよ』
ボクもママに喜んでもらえて嬉しいな!
『嗚呼、その全幅の信頼だけでドンブリメシが進みます……女神トモ、おかわりを』
『こちら、ソースカツドンでございます』
いいな~、いいな~!
ボクも野営で揚げ物作りたーい!