第45話 八方丸く収まれ!おさまってェ!!
「フゥ……」
「……落チ着キマシタ?」
「あぁ……ご迷惑をかけたネ、本当に」
「イエイエ、ハイコレ果実炭酸水」
コップを渡す。
「フゥウ……」
リーバンさんは、浴場の外にあるおくつろぎスペース……そこの、長椅子の上でグラスを傾けて溜息をついた。
やっと表情が穏やかになったねえ……さっきまで腹切り寸前のサムライみたいな顔してたもんねえ。
往来で変わり種土下座をかましてきた、そらんちゅさんたち。
どんなに説得しても全然軟化しなかったんだけど、安眠を妨害されたアルデアがそらんちゅキックを片っ端から叩き込んだ結果……ようやくまともに話せるようになった。
それで、他の人たちはアルデアへの賠償金?を取りに里に戻って……この街には、リーバンさんが代表として残ることになったのだ。
ボクは、やっとマトモに会話できるようになったリーバンさんを浴場に連行して朝風呂と洒落こんだ。
そして、今に至るってわーけ。
……アルデア?
駄目押しに、何故かボクのスネにそらんちゅキックを叩き込んで寝に戻ったよ。
たぶん今でも寝てると思うの。
そして今でもスネが痛いの。
「おやびん、これどうじょ、どうじょ~!」
おや、アカがミニトマトみたいなものを持って飛んできた。
それを受け取……ろうとしたら、カワイイ手でギュッと絞ってコップに入れてくれる。
「アラ~、エライネエ、イイコダネエ?」
「んふふぅ、ふふぅ!」
あまりにも、空前絶後にえらいので頭をナデナデ。
自発的にお手伝いするなんて、なーんて立派な子なんでしょ!
末は歴史に残る大妖精になるね、この子は~!
『親バカ虫……』
そうですとも!
「しかし……賠償の件、アルデアだけでいいのネ?」
「別ニ欲シイ物トカナイデスシ……」
現状、欲しい物ってないんよねえ。
武器はヴァーティガがあるし、鎧は腹巻くんとマントがある。
食料にも不自由してないし、お金も勿論ある。
なによりも、アジャルタとは関係ない人たちに賠償してもらってもねえ……
「今回ハ不幸ナ事故デスヨ、事故。アノ、改メテデスケドボクノ方ガ罪ニナラナインデスカ?」
そう聞くと、リーバンさんは大きく首を振った。
「ならないネ、そもそも【嫁追い】自体がわ我が里では禁止だし……【赤熱の狩人】まで持ち出したネ。ムーク殿に殺されなくとも、里に帰れば良くて追放、悪ければ縛り首ネ」
え、嘘?
「禁止ナンデスカ、【嫁追イ】」
「辺境の一部の里ではまだ残っているかもしれんネ。でも私の知っている里では全て禁止ネ……そもそも、女性に対して失礼すぎるのネ」
おお、良識あるそらんちゅさんだった。
「アジャルタはアルデアに執着していたからネ……それに、あの家の者は少し身内に甘すぎるのネ……あ奴は幼少期から甘やかされて育ち、ああなったのネ」
炭酸水を煽り、また溜息をつくリーバンさん。
「……ここだけの話、いつかは痛い目に遭うと思っていたネ」
札付きのワルというか、迷惑ものて感じだったんかな、アジャルタ。
優しい虐待とかいうアレかなあ?
「ムーク殿には、本当に……」
「ハイ! 謝罪ハモウイイデス! イイデス~!」
「いいから、いいからぁ~♪」
まだ無限謝罪ループに陥りそうだったので、アカとタッグを組んで止めた。
ほんと、この人は根が真面目なんだねえ。
里の代表者的な立ち位置なのかしら、【狩り司】って。
「トモカク、暫クユックリシマショウヨ。ボクハモウ気ニシテナイデスノデ……アルデアガ被害者ナンデスシネ」
「欲がないネ‥‥‥ムーク殿は。武器に認められるわけネ」
……なんでわかるの?
「【赤熱の狩人】も、同じような槍ネ。振るうに能わずと認定されれば……アジャルタのように骨まで焼き尽くされるのネ」
ヒェッ!?
あの時トモさんが言ってた魔力の逆流ってそういうことだったんだね……
「ナンデ、ボクノ棍棒モ特別ダッテワカルンデスカ?」
「あの槍と打ち合って原型をとどめているなんて、並の武器ではないのネ。簡単なことネ‥‥‥」
な、なるほど。
「ムーク殿はいらないと言ったけれど、そういうわけにもいかないから賠償金は払うネ」
「エエエ、イラナイデスッテバ」
「我慢して欲しいのネ。払わなければ収まらないのネ、これは……出所はアジャルタの実家からだしネ」
……ううむ。
でもさ、それって……
「ボク、恨マレマセンカ?」
息子をコロコロしちゃったし……その上お金まで取られるなんてさ。
「そんな家ではないのネ。もっとも……この対応に異を唱えるようならば家長は死刑、家族は里から追放ネ」
……こ、こわ。
「おやびん、あったか、アカも、あったか……」
小型カイロみたいになったアカが首元で眠り始めた。
とりあえず、撫でておこう、撫でておこう。
……あ。
「ジャ、賠償金ハ一般的ナ魔石ニシテクダサイネ」
お金よりもそっちの方がありがたいしね、うん。
・・☆・・
「朝から大変だったみたいだね、食いな食いな!」
「ウヒョーッ!」「おいしそ!おいしそ!」『いい匂いだわーッ!』
浴場から戻ったボクを待ち受けていたのは……お魚をカラッと揚げた的な!何か!
レモンみたいな果物が薄切りで添えられてて、とってもおいしそう!
あ、リーバンさんは別のお宿に行きました。
流石に合わせる顔がないので、仲間が戻ったら改めて来るんだって。
気にしなくてもいいのにぃ。
「空の民ってのは高潔で思慮深いって聞いてたけど……やっぱり人は人だねえ、ああいう手合いはいるもんさ」
ミミコさんはそう言って笑った。
「違いないね、特に男ってのはどいつもこいつもスケベなもんさね」
「ハッハッハ! その通りさ!」
カマラさんがそれに乗っかり、2人して爆笑している。
(外見上)男のボクとしては肩身が狭い……けど! 魚のから揚げ美味しい~!!
白身が!白身がホックホクぅ!
この果物を絞ったらどうなるんじゃろ……むひょー! これはあれだ!レモンじゃなくってカボスとかそこらへんのお味!
サッパリスッキリで、いくらでも次が食べられるんじゃよ~!
「ははは、このお人は【輝石より腹】かい。戦ってる時はあんなに雄々しかったのにねぇ」
ミミコさんなんですかその異世界ことわざは?
「ムーク様はそれでえがんす~!」
「あまり甘やかすと癖になるナ、ロロン」
アルデアがひどいや!
ボクは野良犬か何かですかねえ!?
『美味しいわ、美味しいわ!』「おいし!おいし!」
だが、ああいう話題について行ける気がしないので……美味しくご飯を食べる妖精陣を眺めることにしておく。
『むっくんってば草食系ってやーつ? 今時流行らんよ~、それ』
『確かに初期は死にそうな思念を飛ばしながら青草を貪っていましたね』
思い出したくもないや! あの時期は!!
返す返すも、芋虫ボディを卒業できてよかった!よかった~!
『嗚呼、小さき時代の虫も見たかった……何故あの頃の私は気付けなかったのでしょう』
まあまあ、いいじゃないママ。
ボクは今こうしてお話できてるだけで楽しいよ~?
『……女神トモ、やはり……』
『 あ げ ま せ ん 』
『むぅ』
むぅじゃないですよ、まだトレードを諦めておらんかったんか!!
「ボーッとしてどうしたのナ? ホラ、勇者には特別に注いでやるのナ」
目の前のグラスに、炭酸水が注がれた。
アルデアってば優しいねえ。
でもさ……
「勇者?」
「魔の手に攫われんとする美女を見事守り通した勇者だナ?」
「キミハトッテモ美人ダトハ思ウケド、自分デ言ウンダネ……」
自信にあふれすぎ問題。
「当たり前ナ、こんなことで謙遜しても鼻に着くだけナ……何をしているのナ? 返杯ナ、返杯」
「ハイハイ……」
そんなしきたりがあるなんてね……えっと、じゃあこの謎オレンジを絞ったのをあげようっと。
「ハイ、アルデア。ロロンモネ」
杯が空になってるじゃんか。
ロロンも飲んで飲んで~。
「もっだいねのす~!」
ロロンはちょっと恥ずかしいけど嬉しそうだ。
「さて……問題も片付いたし、ここであと2日滞在したら出発したいんだけど、いいかい?」
カマラさんはそう言ってフライをばりばりと齧っている。
健啖家だなあ。
「ハイ、大丈夫デス」
「この先は特に難所もないし、空模様も大丈夫なら……【ルアンキ】まではすぐさ。あそこはデカい街だからねえ、ここよりもちょいと長く滞在するよ。稼ぎ時さね」
街道が合流する要所だったっけ?
今から行くのが楽しみだよ、ボク!
「アカ、てつだう、てつだう~!」
「ありがとうねえ、アカちゃんは上達も飲み込みも早いよ。この分ならいっぱしのタリスマン職人にだってなれるさ」
「えへぇ、えへへ~」
かわいらしくガッツポーズを取ったアカが、カマラさんにナデナデされて嬉しそう。
あ~……特に何も教育した記憶はないけれど、アカは着々と超いい子になってるねえ……
素晴らしい子分だよ、ほんとにね。
『早くルーちゃんに会いたいわ!会いたいわ~!』
ウワーッ!? ピーちゃん眩しいってば!
昔馴染みに会えるってテンションが上がるのはいいけどさ~!