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第44話 土下座を見慣れつつある現状が、コワイ。


「フワァ……ア」


 カーテンが開いてて、顔に日光が直撃して目が覚めた。

ムムム……清々しい目覚め!


「うにゃむ……うにゅ……えへへぇ、へへ……」


 胸の上にはアカ。

大の字になって寝てるけど……腰大丈夫かな?

僕の胸部装甲って結構湾曲してるからなあ。

ま、柔軟性とかありそうだから大丈夫だろうけども。


 そのアカを起こさないようにそっと手で持ち上げて……小さな毛布で伊達巻みたいになってるピーちゃんの横に、置くっと。

まだ出発する日じゃないからね、ゆっくり寝かせてあげよう。


「ムゥ……ムゥ……」


 大部屋の中には、ベッドが3つ。

ロロンとカマラさんで1つ、アルデアが1つ。

そしてボクとアカ、それにピーちゃんで1つだ。


 カマラさんもロロンもいないね……早起きだなあ。

アルデアは……うん、お腹丸出しだ。

寝相が悪すぎるね……毛布かけてあげよ。


 さてさて、今日は何しよっかな。

そらんちゅさんたちとの不幸な事故は片付いたし、キョジューロさんのお店に行って面白そうなものがないか探すってのもアリだよね。

アカたちが起きたら一緒に行こうかな。

この街って冒険者ギルドないからお仕事もできないし……


 まあ、まずは朝ご飯だね!

今日はどんな美味しいモノが出てくるのかな~?


『おはようございます、むっくん』


 おはよ!トモさん!

今日もボクは元気ですよ、元気!


『今日も生存していてとても偉いですね、誇らしい虫です』


 おはようママ!

ママも元気そうで何より!何より!


『ほほほ!可愛らしいこと……ほほほほ!』


 朝からテンションが高いママですなあ……


『あ、むっくん。大したことではないのですが……』


 はいはい、なんでしょトモさん。



『――宿の前に空の民が押し寄せていますよ』



 ああ、なんだそんなことか。

ふーん、押し寄せるそらんちゅね……そらんちゅ……


 ……なんて?



・・☆・・



「子分ニ手ダ出スナ! 我ガ相手ジャアアアアアアイ!!」


 ヴァーティガを握りしめ、マントを羽織って宿から飛び出るボク!

ああ、ロロンがいる!?

大丈夫!?怪我してない!?


「ロロン!大丈夫!?大丈夫!? ボクニ任セテ!!」


「ひゃわああああああああっ!?!? あわ!? あわわ~!?」


 とにかくロロンを抱え上げて、ボクの後ろに!

くそう!どこだ悪のそらんちゅ共ォ!!


「ドッカラデモカカッテ……カカッテ……? ……ア、アレ……?」


 結論から言うと、そらんちゅはいた。

宿の前にある道に、いた。

数は……ざっと見て10人。


 ――全員揃って、土下座の体勢で。


「……ア、アノ~……」


 なんだろ、この土下座。

正座して頭を地面に付けてるのは人間と一緒だけどさ。

何で皆さん……腕を、後ろにピーン!してるの?

頭に体重全部かかってるじゃんか。


『あれは空の民の最上級の謝辞の現れですね。命の次に大事な翼を斬り落とされてもいい、という姿勢です』


 重い!重い!!

謝罪が!重い!!

謝罪したいってことだけはわかった!!


「ムーク殿」


 ヒィッ!?曲者ォ!!

……あ、キョジューロさんだ。


「少し前からこの状態なのです。街に入る際に全ての武器を預けておりますので、危険はございませぬ」


「……起コシテクレレバイイノニ」


「いえ、ミドモもそうしようとしたのですが……『ムーク殿が自然に起きるまでここで待つ』と言われましてな……街の者も、先日のことがあって殺気立ち始めていたので……丁度よい頃合いでした」


 な、なるほど……


 あれ?土下座集団に見覚えのある人がいる……まさか、あの人は!


「リ、リーバンサン……?」


 一番先頭にいるのは、いつぞや出会ったリーバンさんだ。

あの、軽く地面にめり込んでるんですけど、頭。


「……ムーク殿」


 リーバンさんが、真剣な声色で話し始めた。

お、おお……


「此度のこと、誠に……誠に、ご迷惑をおかけしたネ。このリーバン……申し開きのしようもありませんが、一族を代表して謝罪に参ったのネ」


「ア、イヤ、ソノ」


 ひょっとして昨日のことォ?

え、だって……


「リーバンサンッテ関係ナイデスヨネ?」


「大あり!ですのネ!!」


 ひええ!?


「私が賜った【赤熱の狩人】を持ち出され! あまつさえそれを用いて【嫁追い】などと! ……このリーバン! 一生の恥辱ネ!!」


 あ~……あの槍ね、うん。

そっか~……持ち主の責任問題とかそういう感じになってるのか~……


「昨日、知らせを受け取ってすぐにこちらへ飛んできましたのネ! 此度は! 此度はァ! 誠にもって! 申し訳ございませぬ!!」


 わわわ、もっと地面にめり込んだ!頭が!!

血、血が出てるじゃないですか~!

落ち着いて、落ち着いて~!!


「エエット、ソノ」


「――この上は【狩り司】リーバン、両の翼を落として謝辞の代わりとさせていただきたく……」


「イヤデス!!ダメドス!!ヤメテクンシャイ!!」


 何を言い出すの!この人は!!

素敵な宿の前でなんというスプラッタを展開しようとしてるのさァ!!


 慌ててリーバンさんの前に走り、声を張り上げる。


「モウイイデスノデ! ムシロコッチガ申シ訳アリマセン! 昨日ノ人殺シチャッテ申シ訳ゴザイマセン!!」


「何を仰るネ!!」


 ヒィイ!?

また別の人だ!

……あれ、この人にも見覚えが……


「義弟の不始末、私も連座の責任がございますネ! ムーク殿には何も気に止む必要はございませんのネ!!」


 義弟……ってことはこの人! ええっと……名前忘れた!

ともかく、昨日のアジャルタの……お姉さんと結婚した人!


「この場にはまだ来ておりませんが、妻とも離縁し! 両の翼を落とす覚悟はとうにできておりますのネ!!」


 そらんちゅさんにとって、最上級の謝罪が翼バッサリなんだろうねえ……

ていうか、ていうかさ……

ボクとしては……



「ダカラ~! 何モシナイデ下サイッテバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」



 ありがた迷惑!ありがた迷惑!!



・・☆・・



「朝からやかましいナ!大の男が何をギャンギャン言っているのナーッ!!」


 『何もしなくていい』『そんなわけにはまいりません!』『いいから!怒ってないから!』『いえいえいえ!そんなわけにはまいりません!!』という超不毛なやり取りを何度か繰り返した所。

窓が開き、この騒動で起きたらしいアルデアがマジギレしながら飛び出してきた。


「アルデア!これはムーク殿に対する謝罪で――」


「ウナーッ!!」


 そして、飛び出してきたアルデアは土下座しているリーバンさんの頭を思い切り蹴とばしたァ!?


「オゴーッ!?!?!?」


 リーバンさんは、そのまま吹き飛んで周囲のそらんちゅを巻き込んでぶっ倒れちゃったァア!?

ちょっとォ!いくらなんでも初手無法すぎるってば~!!


「アルデア!アルデアドウドウ、ドウドウ!」


「ウナーッ!!」


「ゴベーッ!?!?!?」


 何故ボクの頬を蹴とばすのですか!?

しなりがきいてて無茶苦茶痛い!ほっぺが消滅するかと思ったァ!?


「こんな見目麗しい美人を馬扱いするんじゃないのナ! 蹴とばされたいのナぁ!?!?」


 蹴とばしたじゃん!じゃあ今の何よ!?幻!?

フェニックス幻魔脚とかそういうの!?


「男どもォ! しっかり聞くのナ!!」


 ボクの抗議を黙殺し、アルデアはぷんすこ怒りながらそらんちゅ達に向き直った。

全てが急!急すぎる!!


「じゃじゃじゃ……お、お怪我は?」


「ダイジョブ……ダイジョブ……チメタイ」


 ロロンがほっぺに手を当ててくれる。

あ~、ひんやりしていい気持ち……じゃない!


「アルデア、昨日ノコトハモウ――」



「――翼なんぞ差し出されても置き場所に困るし食えもしないし、かさばるだけなのナ!! 謝意は態度ではなく……価値!価値で決まるのナーッ!! というわけでそれなりのガルか換金率の高い宝物を持ってくるのナ~!!!!」



 ……あ、うん、そうですか。

考えてみれば、【嫁追い】の対象はアルデアだもんね。

そりゃあ、ボクよりも謝罪を要求する立場にあるよねえ。

いきなりの土下座だったから判断力が鈍ってたや……


「アノ! ボクモソレデ! ソレデイイデス! ッテイウカアルデアニ賠償シテクレレバソレダケデイイデス~!!」


 ボクは助っ人の立場だもん!

雇い主のアルデアが第一!第一ですよう!


『欲がありませんね、むっくん』


 百歩譲って昨日の連中からならもらうけどさ、いくら槍の持ち主だからってこの人たちから身ぐるみ剥ぐのは違うんじゃない?

だって悪い人じゃないんだもん。

こっちも誰か死んだとかそういうのもないしさァ……


『素晴らしき欲のなさ。ヴェルママポイントを差し上げましょう』


 わーい、うれしいな~!!

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― 新着の感想 ―
正に踏んだり蹴ったりなムッくんなのでしたぁ〜。 アルデアさんは馬さんだった!? リーバン氏の気持ちは分かる。分かるが、ムッくんは 手羽元はそんなにイッパイ食べないと思うんだ! 多分6本ぐらいあればいい…
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