第43話 嫌な事件だったね……
「アジャルタ!」「な、なんてことネ!」「しっかりするネ!」
謎火の玉状態になったアジャルタをぶん殴った結果、彼は爆発四散した。
……いや、四散はしてないかな?
クレーターの中にいて見えないし。
ともあれ、そんな彼に……オーディエンス状態だったそらんちゅが群がっている。
……この流れ大丈夫?
おのれ~!カタキ~!!とか言いながらみんなでかかってこない?
「き、貴様らァ!!」
ホラ!ホラホラ!無茶苦茶喧嘩早そうなそらんちゅ数人が激おこ状態でこっちを――
「―― そ こ ま で ェ ! ! 」
ヒギャーッ!?
キョジューロさんがクソデカボイスを!!
く、空気が震えるゥ!!
そらんちゅもみんなビックリしちゃった!!
「【嫁追い】ではご法度な女性への直接攻撃を確認した!! そちらの怒りは筋違いのものである!!」
えっそうなん?
確かにアルデアむっちゃ追いかけられてたけど……
「――加えて!」
あ、アルデアだ。
「アジャルタが使用した槍は【赤熱の狩人】! 【炎極の試し】を潜り抜けた【狩り司】にしか使用を許されぬ神器なのナ!! 【螺旋大樹】の男なら……それを知らぬわけではあるまいナ!!」
詳細情報が全然わかんないけど、なんかあの槍がアレだってことはわかった!
「やはり……あの空の民、ムーク様の足元にも及ばねえ使い手だったのす。それなのに、槍だけはかなりの業物に見えやんしたが……」
筋肉剥き出しになったボクの腕に包帯を巻きつつ、ロロンが呟いた。
ヒリヒリする!ヒリヒリするゥ!
なんか薬でも塗ってあるのかヒリヒリするゥ!!
「むいむいむい……」
あ、アカがなんかヒーリング的な感じでお手々を当てて……なんかじんわりあったか~い!
いつの間にこのような技を……! 侮りがたし、我が子分!!
「風習の決まりごとは守らない、オマケに禁忌の武器を持ち出したとあっちゃあどうしようもないねえ」
カマラさんがタリスマンを包帯の上からペタリ。
ワオ!更に痛みが引いていく~!
でも腕は痛ーい!痛ーい!!
「――空の民よ!」
おっと、キョジューロさんがまた叫んだ。
……って、えぇ!?
なんか……帯電してない!?アカみたいになってる!?
「この上何かあるというのなら……! 【影衆】ミャモト・キョジューロも相手になろう!! 【大角】閣下もこのことはご承知である! さあ……かかってくるがいいッ!!」
ひえぇ~!
権力!駄目押しの権力パンチだァ!!
『痛いの痛いの~あっちに飛んでけ~!飛んでけ~!!』
ピーちゃんが痛みをそらんちゅ方面に飛ばしている!
なんか痛さが和らいだ気がしないでもない!
「……やめろやめろお前ら!」
おや、土まみれになったリヴァドールが立ち上がった。
生きてたんだ。
「オラ!給料分の働きはしたんだから帰るぞ! 燃え残りと槍も持って帰るの忘れんな! 証拠がねえと俺たちが縛り首になっちまうからな!!」
それだけ言うと、彼はこちらを向く。
「迷惑かけたな、虫人の兄さん! 手加減してくれて助かったぜ!!」
……び、ビジネスライク……!
それでいいのかしら???
まあ、ボクは何も言うまい!
「フン、傭兵だけあって損得勘定にはしっかりしているのナ……男ども!姉者に【囁きの矢】を飛ばすから嘘を付いても無駄ナ! 【大角】閣下のお墨付きナ!!」
ゲニーチロさんの知らぬ太鼓判が!!
「ミドモも一筆加えましょう……さあ去れ! 空の民よ!!」
「負けたんだかららとっとと帰れ!」「そうだー! 潔くねえぞォ!!」「ムーク様素敵~!」「娘の婿に来てくれ~!」「孫の婿になってくれ~!!」
街の方からも援護の声援が……なんか後半変なの混じってない!?
ま、まあいいけども……これでなんとか収まった……かな?
アジャルタの成れの果ての炭化した塊と……原型を保ちまくっている槍が運び出されていく。
あの槍こっわ……ヴァーティガの直撃でも壊れてないのこっわ……
「アルデア、同郷人殺シチャッテゴメンネ……手加減デキナクテ」
「何を阿呆なこと言ってるのナ? そんな心配をする暇があったらとっとと腕を治すのナ」
切り捨てて再生したけど、現状筋肉むき出しだしねえ……
「嫁候補に攻撃しただけでも重大な協定違反なのにナ。その上あの槍まで持ち出したのはもう……どうしようもない悪行なのナ」
「特別ナ槍ナンダ?」
「お前も会ったろう? アレはリーバン専用……というより【狩り司】専用の槍なのナ。【狩り司】は集落に1人しか認められない、飛翔と戦闘に最も優れた者に与えられる称号なのナ」
ああ、あの人ね。
そっか……1人しかいないんだ。
里一番の勇者専用装備とかかな?
「しかも、あの槍は里に脅威が迫った時にしか使用を許されないのナ……それを持ち出して、なおかつ私欲で使うなんて……たとえ生きて戻っても裁かれて追放されるのナ」
ああ、そういう……
じゃあ、本当にボクはノットギルティだねえ。
「……よし、これでいいのナ」
そしてアルデアは、ボクに話す傍らなんか紙にサラサラと書いている。
あら、綺麗な字……
「こら!女の手紙を覗くなんて不調法ナ! 目を抉られたいのナ?」
「ゴメンナサイ!」
アルデアが手紙を書き終え、胸元のバッグから……矢を取り出した。
その矢じり部分に、矢文って感じで手紙を巻き付けて……完成かな?
あ、矢羽根に腕から引き抜いた羽を差した。
「ムゥン……ッハ!」
アルデアが魔力を込めると、発光した矢が重力をガン無視して空へ打ち上がった。
こうやって飛ばすのか~……便利!
打ち上がった矢が空の彼方に消えるくらいに、そらんちゅさんたちはこちらを振り返らずに飛んで行った。
「モウ戻ッテクルナヨ~!!」
その背中に声をかけつつ……ボクは地面に座り込むのだった。
ふへえ、疲れた……
・・☆・・
「おやびん、どうじょ、どうじょ~!」
「ワーイ!」
帰ってきました【フゥジャマ亭】
食堂に腰を下ろし、夕食前の休憩だ。
今はアカが果実炭酸水を持ってきてくれたところ。
「アリガトウネエ、イイ子ダネエ、偉イネエ」
「んへへ~、えへ、えへぇ」
頭を撫でたらアカが喜んで、ボクの顔面にちょっとレモンっぽい果汁が飛んできたけど、これくらいは別にどうでもいいでごわす!
「アタシらも塀の上で見てたけど、ムークさん強いんだねえ! こりゃあ明日っから娘どもが放っておかないよォ!」
ミミコさんがニコニコしながら、大盛の料理を運んできた!
うひょ~!今日は何かな~!!
「こりゃ駄目だ、ムークちゃんったら飯のことしか考えてないよ……ま、しっかり食って傷を治しな」
カマラさんはあきれ顔だ。
「切り分けやんす~!」
「腹の所を頼むのナ」『私は背中!背中のお肉!』
湯気を上げているのは……たぶん猪の半身!
パリッパリに焼いて?揚げて?あって……とっても美味しそう!
「【ミルボアの香草焼き】さァ! 腹には木の実を詰めて焼いたから、香りもよくって美味いよォ!」
もう説明だけでも美味しそうなんだが~?
早速一口……外がパリッと!中がジュ~シ~!!
木の実の風味も移ってるのか、なんか胡椒とかハーブみたいな香りがする~!
つまるところ、とってもとっても美味しいのだ!
「ももめ、もももももも」
アルデア、飲み込んでから喋ってよ。
「んく……もう矢は届いたろうから、里は大騒ぎだろうナ」
もう着いたんだ?
まあ、空を飛ぶから早いっちゃ早いよねえ。
「あの男、一体どうやってあの槍ば持ち出したんでやんしょ?」
「リーバンが留守の間に普通に持ち出したんだろうナ。里の者で、同じようなことを考える男なぞ一人もいないだろうからナ……【狩り司】の持ち物を勝手に使うなど、さすが助っ人を雇って【嫁追い】をしようとなどと考えるだけはあるのナ」
「なるほどねえ……性格がいい連中ばかりってのも考えもんさね。たまに屑が湧くとそうなっちまう」
カマラさんが、お肉を飲み込んで溜息。
性格がいいというか、マジメというか……そういう人たちばっかりなんだね、そらんちゅの里。
「おやびん、あーん、あーん!」
「モメガフ」
大丈夫だよアカ、口にねじ込まなくてもちゃんと食べてるよ~?
「オカエシ、ア~ン」
「もむ、むいむいむい……おいし!おいしっ!」
何故か隣で嘴を全開にしているピーちゃんにも、どーん!
『皮目のパリパリと、中のお肉がしっとりしていて美味しいわ!とっても美味しいわ!』
グルメリポーターになってない? このインコさん。
『このトンカツという料理方法は素晴らしいですね……カラシをべったり塗るとまた違った味わいが……むむむ、良質な脂に鮮烈な辛み! それを受け止めるキャベツとハクマイ!』
『やべー、これやべ~! ヒレもいいけどロースも最高っしょ! レモンと塩しか勝たん!!』
『カツドンにノリを散らしてもまた変わった深みが出ますね、とても』
……お三方はグルメを司る女神様でしたっけ?
「ムーク、ムーク」
「ナンデショ、アルデア」
そんなにほっぺたパンパンしないでも聞くってば。
「此度は命を救われたナ」
「オー、仲間ダモン、当然デショ?」
そう言うと、アルデアはボクの口をタオルでフキフキ。
「感謝しがいのない男だナ……ふふふ、まあいいナ! ふふふふ!」
そして、なんか楽しそうに笑い始めた。
「ロロン、ムークは最高の親分だナ!」
「んだなっす!三国一の大親分でがんすぅ~!! ひぃっく、うにゃむ」
あーっ!?ロロンが間違えてお酒飲んで寝ちゃった!?
ある意味ボクよりお酒に弱い!よわーい!!




