第42話 殺されそうなので!処しました!
ボクの素敵な左拳が!半分になった!
い、いっだあああああ!?なにこの槍!?
硬すぎッていうか、鋭すぎィ!?
「――グァアッ!?」
さらに、アジャルタの槍からいきなり全方位へ向けて炎の弾丸が噴き出した!?
色々予想外のことが起きてビックリしたボクは……二発、胴体に喰らってしまった!
その弾丸は、ボクの体内を焼き焦がしながら貫通していく!
イダアアアアアアアアアアアアアアアア!?
トキーチロさんの燃える刃を思い出す激痛ゥ!?
「ックゥウ!」
前方に衝撃波を連続して放ち、後退!
襲い来る炎を躱しながら、地面へ帰還!
トモさん治して!治して~!
『了解です。しかしとんでもない武器を持っていますね……明らかにあの方の実力に釣り合っていないですよ、アレは』
地面をギャリギャリしながら、飛んでくる炎を躱す!躱ーす!
それは、ボクもそう思う!
だってアジャルタ、ボクに全然反応できてなかったもん!
「アジャルタ貴様ァ! それは【赤熱の狩人】だナ! なんという恥ずべき行いを! それは貴様如きが振るうことを許されぬものナ!!」
なんかアルデアが激おこしてる!
なに、一体何が起こってるのォ!?
「ケェエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」
……は?
アジャルタ……燃えてるんですけど!?
ご自分も燃えてらっしゃるんですけど!?
燃え盛ってらっしゃるんですけどォ!?
「ムーク!逃げろ!そこから逃げるのナ!!」
そんなこと言われても守り人虫なので……ヒャーッ!?!?
「ケヒャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
アジャルタが!青白く燃え盛りながらこっちに飛んできたんですけどォ!?
しかも速い!さっきのリヴァドール、よりもっ!
「コナクソ!」
左拳は修復中だけど――左手パイルは!ある!! 喰らえ全弾発射ァ!!
頭だけは狙わないように気を付けつつ放った棘は――嘘でしょ!?アジャルタに到達する前に燃え尽きちゃったァ!?
「ギャバアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「――ギッ!?」
共通語を話せなくなっちゃったっぽいアジャルタの突進を、躱す。
だけど――その炎に触れた左腕が!青白く燃え上がった!?
あっず!熱い!?
『むっくん!その炎は通常の炎ではありません――切り離さないと!体が全部燃えてしまいますよ!』
嘘でしょ!?
『こんな状況下で冗談を言う女神ではありませんっ!』
むうう……隠形刃腕展開!さよならボクの左肘から下ァ!!
「ガアアア、アアアアアアアッ!?!?」
いたああああああああああああああああい!!
切れ味がいくら良くても痛いものはいたああああああああああああああい!!
『痛覚遮断、修復開始! あの槍から放たれる炎は大丈夫ですが、彼の体を包む青白い方に触れないように!』
あっ楽になった……了解!了解~!!
「ムーク、そこから逃げるのナ! アジャルタのあの状態は長くは続かないのナ!」
言われなくても!この場から離脱……はァ!?
「アルデアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
アジャルタのやつ、ボクそっちのけでアルデアの方へ飛んでく!?
ちょっと!何してんのさ!!
『明らかに精神に異常をきたしています、あの槍のせいでしょう! 不可解な魔力反応が、槍からあの方に逆流しています!』
「っちぃ! 槍から手を放すのナ!」
アルデアは血相を変えて、上空に退避。
その後を、燃え盛りながらアジャルタが追う。
「オアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
「――粗忽者が! 身に余る武器なぞ使うからナ! 気色悪いナ! 寄るんじゃないナ!!」
アルデアの罵倒も無視し、アジャルタは火の玉になって後を追っている。
速度が明らかに速過ぎる!あのままじゃ追いつかれる!
発射される火の玉を躱しながらのアルデアは、速度があまり出ていない!
……ふと、本当にふと……ゲニーチロさんの手紙を思い出した。
『追伸 うっかり殺してしまった場合は~』という、例の物騒な文言を。
……冷たいようだけど、今日会ったばかりの、そして性格もとっても悪いそらんちゅよりも……アルデアの方が!百万倍は!大事!!
『たとえ空の神が許さずとも、私が許します! 虫よ、やりなさい! 可愛い左手の仇を!取るのです!!』
『落ち着いてくださいメイヴェル様!壁に大穴が!大穴が~!』
『やめろし!腕振り回すのやめろし~!!』
……神のお許しも!出た!
「アルデアーッ! コッチニ来イ! ハヤーク!!」
空中を縦横無尽に飛び回っているアルデアに叫び、補助翼を全て展開!
魔石を2つ口に放り込んで――ヴァーティガを肩に乗せる!
「スゥ……ヴァーティガッ!!」
そう口に出した瞬間、魔力がぎゅーんと減る!
すかさず1つの魔石バリボリ!失った魔力を!リチャージ!!
「ムーク!」
鋭く旋回し、アルデアはこちらに体を向けて――最高速で飛んで来る!
「アアアアアアアアアアアアルデエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
その後ろを、もう人型の火の玉と化したアジャルタが追う。
よし、ちょうど直線状に並んだ!
「ヌゥッ――オオオオオオオオッ!!」
三段跳びの要領で加速し、最後のステップで高くジャンプぅ!
衝撃波、全力展開ッ!!
装甲を軋ませつつ、空に打ち上がるボク!!
目を丸くするアルデアの、真上を跳び越える!
『左腕、修復完了!』
復活した左手を添え、ヴァーティガを大上段に振りかぶったまま、衝撃波!
斜め下へ軌道を修正し――アルデア目掛けて飛んできた火の弾丸を、体で受け止める!
魔力を纏わせた装甲は、貫通を許さない!抉れて焼け焦げたけど!!
「ギヒャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
真正面から、アジャルタが迫る!
さらに増える火炎弾!
それを……気合で!受ける!
残る1つの魔石を噛んで――潰す!!
「『我ガ剣ハ』」
速度を増した火炎弾が、左足のふくらはぎを抉る。
「『牙ナキ』」
火炎弾が、右胸にめり込んで燃える。
「『モノノ』」
それでも、ボクは構えを解かない!
そのまま、振り上げたヴァーティガを――
「『タメ』ッ!!」
もう輪郭くらいしか見えなくなった、アジャルタの――顔面目掛け!まっすぐ振り下ろす!!
「ッギギャアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?」
青白い炎と、蒼く輝くヴァーティガが激突。
衝撃が返ってきて、全身が軋む!
まだだ!もっと!もっと魔力を――魔力、を!!
「ウゥウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
視界がスパークするくらいに!魔力を!込める!!
オラーッ!女の子の危機なんだぞ!!
こんな所で死ぬわけには、死ぬわけにはいかないんだよーッ!!
だってボクは――最高に格好いい!『おやびん』なんだからねぇ!!
「ヴァアアアアアッ、ティ、ガアアアアアアアッ!!!!」
ヴァーティガの輝きが、一層増した!
拮抗していた状態が、一気に動く!
押せる……押せるぞ!
うおおおおおおおおおおおおおおっ!頑張れボクの!素敵な両腕ェエエエエエエエエッ!!
「――ギ」
ばりばりと雷を撒き散らしながら、ヴァーティガを、振り抜く!
ボクの両腕の装甲板が、内側からの圧力で圧壊。
筋肉をむき出しにしながら――地面に向かって、アジャルタを叩き落とした。
「ギャバ!?ケェエ!?ギギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?!?」
大きなクレーターを作る程地面にめり込んだアジャルタは、青白い炎を薄れさせ……手足を出鱈目に痙攣させ始めた。
その全身に、蒼い輝きが紋様となって浮き出ていく。
あ、この流れは……!?
――そう考えた瞬間。
アジャルタは、蒼い閃光に包まれて……爆発した。
・・☆・・
「おやびん!おやび~ん!!」
アジャルタの爆発を確認するあまり、ボクは着地のことを全く考えていなかった。
ヴァーティガに魔力をチューッ!されたまま、慣性の法則に従って大地と熱烈なハグをする羽目になったのだ。
まあ、しゃーない……なんて考えながら、何度目かのバウンドをして……止まる。
恐るべき倦怠感に支配されたまま、なんとか立ち上がる。
涙目で飛んできたアカが、丁度良く口に魔石をねじ込んでくれたので――彼女を肩に乗せたまま、しっかりと立つ!
マントを景気よく翻し、皆に聞こえるように、叫ぶ!
「コノ勝負!勝ッタドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
最悪のタイミングで噛んだ!嚙んじゃった!!
でも、勢いで押し切るしかない!!
「「「ウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」」」
よかった!街の皆様的には大丈夫らしい!たぶん!
だってホラ、ボクを指差したり拍手したり、はたまた飛び跳ねたりって好意的な感じがあるし!あるし!
「ムーク、様ァ!!」「オウフ」
ダッシュしてきたロロンが、ボクの足を支えるように抱き着く。
太腿爆発するかと思った!
「――此度の勝負!異論ばある者は……よろしい!【跳ね橋】のロロンが受けて立ちやんすッ!!」
そして、片腕で槍をギュンギュン旋回させ……地面をどおんと突いた!
ボクよりも頼もしくない? この子ってば。
「【螺旋大樹】のアルデアもナ! 禁忌に触れし痴れ者に、約定は適応されんのナ!!」
続いてボクの横に降り立ったアルデアが、足で持っていた槍を上空へ放り投げて両腕で掴む。
禁忌?アジャルタってなんかそんなのやったん?
ボクは何もわからんでござるよ~!?