第41話 武人虫、お相手致す!……なんちて!
「――アジャルタ!このムークが【純潔の守り人】なのナ! そちらが【嫁追い】をするのならば……私は守り人を立てるのナ!!」
カトラドの人たちがエキサイトする中、アルデアが声を張り上げた。
「なん、だ、とォ……!? 馬鹿な!一族以外の守り人は認められて――」
「いるのナ! 自分が行使する風習のことを少しは調べておくのナ! 『純潔の守り人は、原則異性であればだれでもよい』と! 【ラヴァリ法典】にも記載があるのナ!!」
ビックリして言い返したアジャルタは、アルデアにそう返された。
へえ、なんか法律とかにもしっかり明記してあるのね。
「さあ! お前も男の端くれならば……掟に従いこのムークと!戦うのナ!! 『嫁追い人は、純潔の守り人を退けねばならぬ』と! これも書いてあるのナ!!」
「ぐ、ぐ、く……!」
全然勉強してなかったんかな、アジャルタ。
追われる方のアルデアの方が詳しいじゃないの。
「……わかったネ!」
人の目があり過ぎるので、そうとしか言えなかったんだろう。
アジャルタは渋々といった感じで頷いた。
よし、ボクの出番かな。
「……だが!!」
うおっと、なになに?
急に元気になったじゃん。
「こちらも助勢を頼むネ! 法典にはこうある……『嫁追い人は、助力を1人まで請うことができる』とネ!」
えっそんなルールが?
「それこそ馬鹿ナ!『身体健康な男であれば、助力を請うことはできない』とあるのナ!」
「実はここに来るまでに少し翼に怪我をしたネ! これは仕方のない助力なのネ!」
……えええ~?
どう見ても健康そうだし、翼にも傷が見えないのに?
こんなわかりやすい嘘も珍しいや……
「……ムーク」
「ハイハイ?」
小声で言うアルデアに聞き返す。
「こうなるだろうとは、思っていたナ。アジャルタは決して1人では動かない臆病者、恐らくそれなりに腕の立つ助っ人を連れてきたのナ……」
「フムン、問題ナイネ」
前評判の時点でボクもそう思ってた!ちょっと!
「問題ナイ!!」
『卑怯者』『チン〇付いてるのか』『恥知らず』等々のあまりよろしくないヤジが街から聞こえてくる中、ボクは足を踏み出す。
その途中で、右腰に装着しているバッグに手を入れ……ずるん、とヴァーティガを取り出した。
「我ガ名ハ、ムーク!」
マントをばさりと後ろへ翻し、空中のそらんちゅたちに叫ぶ。
「純潔ノ、守リ人デアル!!」
ここへ来る前に、カマラさんに言われたんだよね……『ハッタリを効かせるんだよ、いつもの口調じゃ迫力がないから』ってね!
迫力皆無虫ですみません!
「カ弱キ女性ヲ攫オウトハ、天ガ許シテモ……我ガ許サン!!」
『許していませんが?』
『嗚呼……なんと雄々しい虫か!』
『やったれやったれ!そんなタマ無し鳥共なんかやったれ~!!』
脳内が五月蠅い!!
気が抜けちゃうからやめておくんなまし!!
「――聞いたな街の衆! 此度の戦いを見届けようぞ! 【大角】閣下が配下である『ミャモト・キョジューロ』と……そなたら全員が証人となる!」
「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」」
街の皆さんもノリノリでいらっしゃる!
よし、ここで駄目押し!
「サア!誰デアロウト……カカッテクルガイイ!!」
右手に持ったヴァーティガを、力いっぱい大地に叩き付ける。
薄青く発光した頼れる相棒は、地面にめり込んで地表の土を盛大に撒き散らした。
「はわぁ……まるで物語の一節みてぇにかっこえがんす……!」
褒めてくれてありがとう!ロロン!
親分は頑張るよ!
「がんばえ~!おやびん!がんばえ~!」
『素敵だわ!素敵だわ~!』
「見よ!妖精の守護もあるお方に……まさか無法な真似はしまいな!? さあ!潔く戦われよ!!」
アカたちの応援にかぶせ、キョジューロさんが叫んだ。
おおう、凄い説得力だ……!
「……わかったネ! 来るネ、リヴァドール!!」
「応」
アジャルタが叫ぶと、後ろを飛んでいたそらんちゅが前に出て……その他は距離を取った。
出てきたのは……鷲っぽい顔をした筋骨隆々のそらんちゅ!
羽が黒くて格好いい!
「(リヴァドール、乱暴者で有名ナ。里を出て傭兵になったと聞いていたけど……金で雇われたナ!)」
こっそりと、アルデアが耳打ちしてきた。
いかにも、って感じだもんね~。
喧嘩とか慣れてます!大好きです!!って顔してる!
「(キョジューロサン、手筈通リ……)」
「(ええ、ムーク殿が勝ってもあちらが承服せぬ場合はミドモも助勢いたします)」
打てば響くように、キョジューロさんが答えてくれた。
いや、そうじゃなくてアルデアを守ってほしいんだけども……手筈通りじゃないじゃんか!
「(その時は私自らがあの阿呆の首を斬り落としてやるのナ。なあに、証人は山ほどいるのナ……)」
「(人死ニヲ出スノハイイノ!?)」
「(ムークは駄目だナ。守り人と嫁追い人の戦いにおいては正々堂々、相手を殺すことは許されないのナ……しかし、その結果に異論を唱えて嫁追い人が再度戦おうとした瞬間に……殺しても大丈夫になるのナ。嫁追いの約定を破ったものは、未来永劫後ろ指を差されることになるのナ……)」
結構な血生臭さ!
とまあ、そんなことを相談している間に……向こうはアジャルタとリヴァドールだけになっている。
他のお仲間は、後ろの方にざざーっと距離を取った。
ロロンを手招きすると、彼女はキラキラしたお目目でこっちに走ってきた。
「(ロロン、キミハ――)」
「(はい!お任せくなんせ! あちらが無法な振る舞いをした時は、ワダスもムーク様と共に戦いやんす!)」
違ァう!?アルデアと一緒に逃げてって言おうとしたのに!
……ま、まあいいや。
結局のところ、ボクが負けなきゃいいだけだもんね。
ボクはゆっくり、前に向かって歩いていく。
『むっくん、内緒の念話よ! カマラさんがね、手足くらいなら引き千切っても治療できるから気にするなって言ってるわ!言ってるわ!』
……そ、ソウデスカ。
わぁい、やったあ。
頭を引き千切らないように気を付けようっと!
寒気を覚えながら、そらんちゅ2人まで10メートルくらいの所で止まる。
「……馬鹿な男ネ! あの乳に釣られたのネ!?」
アジャルタが忌々しそうに叫んできた。
なんだとう!?
こーの、スケベそらんちゅめが!!
「……見下ゲ果テタ男ダ! 女人ヲソノヨウナ目デシカ見レヌトハ……恥ヲ知ルガイイ!!」
ヴァーティガの輝きが強くなった。
この子もスケベそらんちゅは嫌いらしい!
あとこの武人口調?結構疲れるよう!
「まあ、落ち着きなよアジャルタ……よう、ムークとか言ったか。聞かねえ名だが、大怪我しても文句はナシだぜ?」
「――是非モ無シ!」
これってどういう意味なのか、気になる虫です。
語感がいいので言っただけです!
「そうかよ……なら、行かせてもらうぜ」
リヴァドールは、そう言って獰猛な笑みを浮かべた。
この人は語尾が普通だな? 個人差でもあるんだろうか?
ま、いいか。
リヴァドールは、背中に抱えていた長くて太い2本の槍を器用に両足で持った。
あれは……アルデアが持ってるのと同じような、【薙ぎ槍】!
「それでは、僭越ながらミドモが……」
キョジューロさんが、腕を大きく振り上げた。
そして、一拍置いて……勢いよく振り下ろす!
「――始めいッ!!」
ごう、と風が鳴った。
キョジューロさんが叫ぶと同時に、リヴァドールがとんでもない速度でこちらに突っ込んできた!
速い!だけど――!
「――ヌゥッ!」
横に跳んで避けて!
「――オオオオッ!!」
後ろを振り向かずに――補助翼展開!最大溜め衝撃波!
前方でニヤついているアジャルタに――吶喊!!
「――ハ!?」
まさかこっちには来ないでしょ~って顔をしていたアジャルタが、目を見開く!
更に追加衝撃波を――下方向に!
「な、にぃ!?」
突っ込んできて、急速Uターンをしてボクの背後を狙ったであろうリヴァドールが……ボクの下を高速で通過!
ビックリして速度を落としたねェ!いただきます!!
――速射衝撃波、6連乱れ撃ち!!
「ぬっ!?ぐ、な、なに!?がぁあっ!?」
3発は外れたけど、残り3発は――リヴァドールの両方の羽と、背中に着弾!
一撃で昏倒とはいかなかったけど、彼は空中で大きくバランスを、崩す!
「――オオオオッ!!」
衝撃波で加速!右足を前に出し――むっくん・きりもみキィック!!
パイルオンしちゃうと殺しちゃうから、セーフティバージョン!
「ぎゃっが!?あああああああああああああ~!?!?」
だけど威力は十分!
リヴァドールはナ〇キのマークみたいになりながら、墜落!
ボクは背中を蹴る動きにまた衝撃波を放って、空中へ舞い戻る!
「ギュバッァ!?!?!?」
リヴァドールは地面に大の字で激突し、何度かバウンド!
土と泥まみれの可哀そうなそらんちゅになった!
よーし!助っ人はボッシュートだァ!!
そしてェ!お前だ!
ウッソでしょォ!? みたいな顔をして……呑気にホバリングをしている!アジャルタァ!!
「っひ!?お、おのれ――!!」
ハッハー!今更我に帰っても遅いぞ!
喰らえ――衝撃波加速、からのォ!!
最高速!左ストレート!!
「ひぃっ!?」
ボクの突き出した左拳は、アジャルタが苦し紛れにこちらへ向けたなんかやたら綺麗な槍に接触して――真っ二つに切り裂かれたのだった。
……は?