第39話 夫婦ともに戦意が高い!高い!!
「ムーク殿、今お時間は大丈夫ですか?」
「アッハイ」
ボクはアルデアの問題を解決するべく【純潔の守り人】とやらになることになった。
それからグッスリと眠って、翌日の朝。
朝ご飯はなんじゃろな~なんて考えながら部屋のドアを開けたら、そこにはキョージュロさんがいた。
全然気配がしないのにはもう慣れました。
宿の許可を取っているのかだけ気になります、ハイ。
「首都の本隊に昨晩鳥を放ちまして、先程返事が参りました」
「ハヤイ!?」
そんなことしてたの!?
っていうかその鳥さんって夜目が効くんだ!?
フクロウとかそこら辺なのかな!?
「こちらを」
そして手渡される折り畳まれた手紙……えっとこれボクに?
頷かれるだけなので、とりあえず開いてみる。
おお、達筆な字体!
『ご息災なようで、安心である。此度のことを聞き及んだが、実に嘆かわしい悪しき風習である……そこもとの力によって、哀れなおなごを救い出されよ。陰ながら応援いたしておるよ。 ザヨイ・ゲニーチロ』
おお……ゲニーチロさんからの手紙だ。
応援か……うん、がんばろっと。
……あれ、下の方にも何か書いてあるや。
『追伸 うっかり殺してしまった場合は、キョジューロが上手く処理をするので気にする必要はないのである』
気にするよう!とっても気にするよう!!
「この街の周辺には盗賊・魔物用の警戒魔法具があります。それの目を少し『借り』ましたので、周辺警戒はお任せあれ……何か動きがあれば、ミドモがお伝えに参上仕ります」
「アノォ、トッテモ有リ難インデスケド奥サンノコトガアルノデ程々ニ……」
むしんちゅの妊娠期間がどれくらいか知らないけど、キョージュロさんにとってはその方が大事でしょ!
「ご懸念なく。昨日マミコにも話した所とても憤っておりましてな……なんならミドモ自ら叩き潰してもよろしい、と許可をもらったのです」
「アワワ……」
マミコさんも好戦的!好戦的だ!
ひょっとしてボク、結構な大惨事を引き起こしてしまったのかも……!
「それでは、ミドモはこれで。何かありましたら実家にいらっしゃって下され」
「ア、アリガトウゴザイマス」
「おっと、何もなくとも遊びにいらしてくだされば大歓迎いたします。マミコが妖精殿たちの祝福にいたく恩義を感じておりまする故に」
そう言って、キョージュロさんは廊下の闇に溶け込むようにしてブンッと消えた。
ニンジャ!ニンジャだ~!!
「気配がまったく読めねぇのす! キョジューロ殿はすんばらしぎ練度でやんす~!」
後ろでロロンが興奮している。
よかった、わかんないのはボクだけじゃなかったんだ。
「ありがたいけどねえぇ、ムークちゃん……アンタ、【大角】閣下にどんな恩を売ったってのさ」
「あの大英雄殿にえらく気に入られているナ。ムークは実は結構凄い戦士なのナ?」
ノーコメント!ノーコメント~!!
話せないことが多すぎるんじゃよ~!!
・・☆・・
「ウマウマ」「んま!んーま!」『美味しいわ!とっても美味しいわ!』
物事が動こうが動くまいが、お腹は空く。
そして食べなければ生き物は生きていけないのだ。
「食わせ甲斐のあるお客様だよ! おかわりもあるからね!」
ミミコさんが嬉しそうに、追加のスープを注いでくれる。
今朝の朝食は、パンとスープ、そして謎魚のソテー!
スープには、二枚貝と魚のアラが入っていて出汁がとってもおいしい!
「海ガナイ国ダッテ聞イテマスケド、新鮮ナ魚デスネエ~」
輸送技術とか凄いんでしょうな。
「こいつは【ビワノ湖】で獲れたもんだよ。あそこからなら川伝いですぐだしね」
……このシャケみたいなお魚って淡水魚なんだ!?
街道の近くにある川、辿っていくと湖に着くんだねえ。
「昔、一度行ったことがあるよ。海みたいなでっかい湖だったねえ……ムークちゃんたちも、この国にいる間に見に行くといいよ」
ほほう、確かに行ってみたい!
ついでに釣りもしてみたい!!
「……何を考えてるかはよくわかるけどね、あっこは漁師連中がしっかり見張っているから……ちゃんと金を払って割符を買うんだよ。無断で釣りなんかしたらそのまま魚のエサにされちまうからね」
「シッカリ!覚エテオキマス!!」
意外としっかりしてるねえ!アブナイアブナイ!!
日本の釣りシステムと一緒かあ。
『その湖はかなり深いので有名な場所だそうです。むっくん、モドキじゃないカニさんに会えるかもしれませんよ?』
それ無茶苦茶大きい奴じゃん!絶対強いじゃん!!
『口からは高密度に圧縮した水を発射し、装甲は生半可な魔法を弾き飛ばします』
やっぱりバケモンじゃん!バケモンじゃん!!
『でもとっても美味しいのだそうです』
……ちょっと、まあ、興味はあるね、うん。
我ながら現金虫である。
「おやびん、これおいし、おいし!」
アカは異世界シャケに夢中。
好き嫌いなくなんでも食べれて偉いねえ、一挙手一投足が偉いねえ。
『シャケみたいでおいしいわ!おいしいわ!白いご飯と海苔と味噌汁が欲しいわ!欲しいわ!』
ボクも欲しいなあ!欲しいなあ!
『ちなみにマデラインに海苔はありますよ。二人ともよかったですね』
なんやてぇ!?
「ピーチャン!イツカマデラインニキット行コウ!!」
『行くわ!絶対に行くわ~!』
思わずピーちゃんとハイタッチしてしまうボク。
そうか!元は海藻だから当然あるよね!
「アカも!アカも~!」
「ワダスもお供しやんす~!」
「はいはい、仲がいいねアンタたち……ピーちゃんは飛ぶのをやめな」
「チュンチュク」
ピーちゃんは飛んだ姿勢のまま下方向にスーッとスライドして着地。
ホバークラフトみたいな動きですねえ。
「フムン、海は見たことがないナ。将来の定住先のために見に行くのもいいかナ」
アルデアは自由だなあ。
ま、ボクもだけども。
おっと、朝ご飯が冷めちゃう!
せっかくの海……もとい湖の幸が~!
・・☆・・
「この街にもあるのだナ」
「流石は虫人の神様でやんす!」
朝食を堪能して、チョット後。
作業するというカマラさんとアカ、日向で溶けたピーちゃんを残し、ボクらは街の散策に出た。
浴場とミャモト商店しか見に行ってないからね、ここへ来て。
んでんで、屋台や商店を冷やかしながら歩いていると……人は多いけど、静かな場所に到着した。
「ココモ綺麗ダ……!」
そう、【メイヴェル教】の教会だ。
ん~、流石はママ。
どの街でも信仰されているんだねえ、むしんちゅゴッド!
「オ祈リシテクル!」
「おや、ムークはあの小さいエルフ神の信者ではなかったのナ?」
「じゃじゃじゃ、あのお方はまだ御存命でいらっしゃるのす。あれはムーク様の命の恩人の方だとか」
おひいさまにもお世話になっているけどね!
推定日本出身のボクは多神教信者なので問題ナッシングです!
良い神様なんていくらでもおってええんや~!
どうやら2人ともついてきてくれるみたい!
いいよいいよ、ご利益あるよ~!ヴェルママはね!
距離感が近いから忘れがちだけど、凄い神様なんだからさ!
「初メテ来タンデスガ、大丈夫デスカ?」
「勿論です。メイヴェル様の恩寵は敬虔な万民すべてに与えられます……どうぞ中へ」
入り口には、お坊さんみたいな格好のダンゴムシっぽい僧侶さんが、2人。
両方とも2メートルを超えている……しかも、綺麗な槍を持っているね。
さすがに先には皮のカバーがあるけどさ。
戦闘力高そう……
教会の中に入ると、やっぱり椅子とかはなくって広い空間。
そこに、むしんちゅさんたちが集まって静かに祈っている……
そして、奥にはやっぱりヴェルママの像!
ラガランで見たのと同じく、とっても綺麗……ヌ?
あれ、ポーズが違うし……武器も違う!?
前に見たのは合掌と双剣、それに巻物だった。
でもこっちの像は……凄い!全部の腕に剣を持ってる!
一番上の腕が持ってるのなんか、無茶苦茶長いぞ!
それを、放射状に構えて微笑んでいるヴェルママの像だ……戦闘力が高すぎるんですけど!
ひょ、ひょっとして街々でポーズが違うんだ?
これは……行ける街を巡って確認したいね!
おっと、驚いているだけじゃ失礼だ。
お祈りしないと……ナムナム、どうか無事に、楽しく過ごせますように……と。
『今回はなんとか光らずに済みました……私とて成長を続けているのです、フフフ』
あ、ママだ。
何処へ行っても綺麗な像だね、ママ。
みんなに慕われてるんだねえ、さすがだね!
『フフフ……その程度にしておくのです虫よ。そんなに褒めるとまた光って最前列にいる老齢の虫が危ないので』
おばあちゃーん!逃げて!逃げて~!!
「いつ見ても勇壮な女神像なのナ。安寧と弱者救済の神だということを忘れそうになるナ」
「弱者の救済や慈愛にこそ、武力は必要という気概なのやもしれませんのす」
2人の印象もそんな感じなのねえ。
まあ、この世界って物騒だもん。
力なき正義は無力……とかそういう感じの考え方なんでしょうかねえ。
ママ、そこら辺どうなんですか?
『愛しい虫に寄って来る邪なものを、叩いて砕いて切り刻むためにも武器は必要ですので』
……概ね正解か。
むしんちゅのみんなは素敵なママに守られてて幸せだねえ。
『あなたも、私の愛しい虫の一人なのですよ。ゆめゆめ、お忘れなきように』
おおう、グッときた。
流石はむしんちゅ全てのママだ……!
『私などは本来足元にも及ばないお方ですので……あ、メイヴェル様、こちらドーナツと珈琲です』
喫茶店になってるトモさんのお部屋!
トモさん、安心してよ。
英雄とかは置いておいて……ボクは長生きして立派になって、トモさんをその功績ですっごいすっごい女神様にするんだ!
日本武道館くらいの教会がバンバン建つくらいの女神様にね!
『まあ、むっくんたら……』
『フム、女神トモよ……このいじらしい虫を私にくれませんか?』
『申し訳ありませんが……コホン、あげませんっ!』
野球のトレードじゃないんだから!無理ですよ~!!