第35話 ととのい!夕食!お腹いっぱい!!
「フィイ……」
「ふやぁ~……」
「チキチキ……ピヨヨ……」
整うっていうのはこういうことかなあ。
風が気持ちいいや……
久しぶりの温泉を堪能して、外に出る。
浴場の裏には椅子が置いてあって、周囲には屋台。
ここは一種のくつろぎスペースなんだね。
そこでピーちゃんと、合流したアカを両肩に乗せて……長椅子でくつろぎタイム、なう!
はあ~……天国って意外と近所にあるんだねぇ。
「こんなにいい場所があるなら私にも教えるのナ!」
おっと、アルデアも来た。
横が空いてるよ~……
「ハイドウゾ、冷ヤシタ炭酸果実水」
「なんだ、気が利くナ? だがこの程度では嫁には行かんナ?」
「当タリ前デショ」
ボクもやだよ。
果実炭酸水でお嫁さんになる女の子は。
ちなみに、そこの屋台で売っていたので即購入を決定しました。
「しゅわしゅわ、おいし、おいし……」
『もうこのまま溶けインコになるわ……』
勿論、アカとピーちゃんの分もある。
こんなこともあろうかと木をアレして作った小さいカップです。
アカはストローで、ピーちゃんは頭を突っ込んで飲んでる。
……もう慣れたよ、猟奇事件体勢は。
「ムークちゃん、暗くなる前に帰ってくるんだよ」
「ファイ……」
「お先に失礼するのす~」
「ウェイ……」
カマラさんとロロンはもう帰っちゃうのか。
もったいない、神に約束されたおくつろぎスポットなのに……
『約束していませんが?』
んまあ、それはそれ、これはこれ。
旅の疲れを癒すんじゃよ~……どちらかといえば戦闘による気苦労だけど……
盗賊とかね……盗賊とかね……
『むっくん、もう心は大丈夫?』
ピーちゃん、オフレコ念話ありがと。
『大丈夫、超大丈夫。温泉にも入ったし、みんないるからね』
頼れる仲間たちのおかげですのよ。
『そうね!温かいご飯とお風呂があれば幸せって、さっちゃんもよく言っていたわ!』
『いいこと言うねえ、さっちゃんさん』
『そうよ!孤児院を建てる時にも、まず初めに大きな大きなお風呂から作り始めたのよ!』
それは……とっても入ってみたい!
『左官職人のレンタロ親方……とってもいい人だったわ……今でもあの人のお店、残っているのかしら……』
左官屋さんもいるんだ、この国……まあ、これだけ建築技術が発展してればいるかな。
「ぽかぽか、アカもおやびんもぽかぽかぁ~……」
肩から移動し、胸の上でぐでーっと伸びるアカ。
『みんなポカポカで素敵よ……素敵……』
ピーちゃん、くつろぐのはいいけどそこはボクの顔面なんですけどね。
ああ、疑似アイマスクみたいでこのまま寝ちゃいそう……フワァア……
「ムーク殿、ムーク殿」
「……ファイ?」
だ、誰?
どこかで聞いたことはある声ですけども……
「お寛ぎの所申し訳ございません。ですが、比較的安定しているとはいえこのような往来でお眠りになるのは……」
ピーちゃんをずらすと……ああ、キョジューロさん。
心配そうな雰囲気を出している。
「スイマセン……全部温泉ガ……イエボクガ悪イノデス……」
そうだよね、こんな所で寝ちゃ駄目よね……治安的な意味でも。
「ヨッコイショ」「あはは~……」
胸のアカは腰まで転がり落ちて、ピーちゃんは器用に胸元に足を引っ掛けた。
小鳥のストラップみたいになってる……
「宿ニ帰ルヨ、アルデア」
「もう駄目なのナ、ここから体が動かないナ……特別に私を運ぶ権利をあげるのナ」
自由人め……動く気配がない。
「よろしければミドモがお運びいたしますが……」
「よろしくないのナ! いくらムークの知り合いでも会ったばかりの男にゆだねる肌はないのナ!」
「も、申し訳ございません……」
キョジューロさんは何も悪くないでしょ!もう……
「ハイハイ、ドッコイセ」
仕方がないのでアルデアのお腹を持ち上げ、小脇に抱える。
「なんなのナ!この持ち方は!私は布袋ではないのナ!」
無茶苦茶怒られた。
ええ……これが一番運びやすいのに。
じゃあ……えっと、こうして、こうして………肩に担いでっと。
「殺されたいのナ!?」
おおう……とてもコワイ。
『ツッコミ待ちかなにか? そこはお姫様ダッコっしょ! トーヘンボク!ボクニンジン!オタンコナス!!』
遠隔神託でも怒られた……
ボクニンジンってなに?
「ゴメンナサイ……」
ちょっと恥ずかしいけど、お姫様だっこと……
「まったく!私が優しく美しい女だからよかったものの、ムークは駄目駄目ナ!フン!」
こんなに元気なら立って歩けばいいんじゃない?と一瞬思ったけど……謎の寒気によってやめておいた。
たぶんトモさんの殺気かなにかなんだろう。
「ハイハイ、ジャア帰ロウカ。アカトピーチャンハ肩ニオイデ」
「抱え方は及第点だが気持ちがまったく籠っていないナ……?」
ジト目のアルデアを抱えたまま、キョジューロさんにお礼をして歩き出した。
「この街で何かお知りになりたいのなら、いつでもご用命ください。ミドモは【ミャモト商店】が実家ですので」
「ハイ、ドウモアリガトウゴザイマス」
頼りにしたいけど、身重の奥さんがいるからね……この人。
そこはしっかり気にしておかないとね。
『そっち方面の機微は効くというのに……はああああああああああああ~……』
トモさんの溜め息が、すごい!
・・☆・・
「はい!今日はいいのが入ったからね! きっと美味しいよ!」
「オ、オオオ、オオオオ……!!」
ジト目のアルデアを宿まで運び、お部屋でくつろぎ……夕食の時間!
ボクらの目の前にある大皿にデーン!とお出しされたのは……魚!!
前世のスズキによく似た、巨大なお魚の……姿焼き!!
「おっと、最後の仕上げさ!」
ワーオ!いい匂いのする油を!バシャーンとかけた!!
皮がパチパチいっててトッテモ!香ばしい匂い!!
うっひょ~!今日は何のお祭りでやんすか!?
「【ヤマラ】の香油がけかい……久しぶりに食うねえ」
カマラさんも嬉しそう!
「切り分けやんす~!」
ロロンのお目目が英雄話の時くらいキラキラしている!
「腹の所を頼むのナ」
アルデア!よだれ!よだれ!
ロロンの手によって切り分けられる魚……おいしそ!
わあ!お腹に野菜とか挽肉を詰めてるんだ!うっひょ~!!
早速取り分けてくれた分を食べ……る前に!
バッグから取り出したおひいさまおフィギュアをテーブルに置いて!拝む!!
「ナムナム……」「にゃむむ……」『オンキリキリバサラウンハッタ……』
ピーちゃんもやってるけどなんか違くない?それ。
「前から思っていたが何の邪教なのナ、それは……あむ、うむ、ンン……美味いナ!」
失礼な!大恩人のおフィギュアに向かって何をおっしゃる!
そしていただきますッ!!
ぱりり、じゅわ、ほこほこ……あ、ヤバい意識が飛びそう……!
頑張れボク!頑張れ!!
香油と香辛料がいい仕事してる~!!
「んめめなぁ~……んめめなぁ~……」
「おいし、おいし!」
『ん~!皮目の所がとっても美味しいわ!身も美味しいし、お腹の詰め物も美味しいわ!』
「ンマイ!ンマイ!ンマーイ!生キテテヨカッタ!ヨカッタ!!」
「本当に美味いねえ、生き返るよ」
女将さんは、ボクらの反応を見てニッコリ笑った。
「はっはっは!こんなに美味そうにモノを食う同族の男は初めて見たよ!こいつは食わせ甲斐があるねえ!」
うへへへ、スイマセン体がうるさくて!
でも美味しい!美味しい~!!
いやあほんと、どこに行っても美味しものばっかりだ!ヤッフ~!!
『毒走り茸……』
キャーッ!!
ノイズを混ぜないで!混ぜないでェ~!!
・・☆・・
「おにゃか、いっぱい……」『逆に食べないと失礼だから仕方ないわ……』
「うぐぐぐぐ……ぐぐぐ……」
アカ、ピーちゃん、そしてロロンはぽんぽこのお腹を抱えてベッドに沈んでいる。
もはや見慣れた光景だね、とっても。
「香油は後を引かないからねえ、ちょいと食いすぎちまった」
カマラさんはそういうけど、とっても優雅にパイプをふかしている。
ボク?
悲しいかな消化が早いというか魔力変換が早いというか……
「淑女たるもの、みっともなくしていては駄目なのナ」
……アルデア、キミ今飛べないくらいお腹ぽんぽんでしょ。
無理して椅子に座らなくてもいいよ、顔色が真っ青だし。
『むっくんに釣られて食べ過ぎたメイヴェル様が私のベッドに寝ています』
ボクは悪くないけどなんかごめんなさい!!