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第33話 クソ人間より、ある意味ショック!!


 薄暗くなってきた街道を歩く。

休憩所のどんちゃん騒ぎが聞こえなくなってきた頃、ボクは気になっていたことを聞くことにした。


「サッキノ、盗賊デスカ?」


 ガラは悪かったし、アカたちが警戒してたけど……盗賊があんなに堂々と酒盛りとかするのかな?


「うんにゃ」


 カマラさんは苦笑いしつつ、首を振った。


「それよりも面倒な連中さね。たぶん、『傭兵崩れ』さ」


 ……傭兵崩れ?


「ぷはっ」


 ロロンがフードを脱ぐ。


「やはり、そうでやんしたか。すれ違う時に見たら、紋章ば潰されておりやんした」


「トルゴーンでは珍しいナ。たぶんラーガリから流れてきたナ」


 えっみんなそれでわかるの?ボクなんにもわからんのだけど?

そんな雰囲気を察したのか、カマラさんがこちらを向いた。


「さっきの連中、揃いの革鎧だったろう?その肩の所にね、普通なら傭兵団の紋章を刻むんだ」


 あ、確かに同じだなーとは思ったけど。


「奴らはそこを削って潰してた。アレはね、所属してた傭兵団が潰れたか、素行不良で追放された連中さね……どっちにせよ、腕に覚えのあるチンピラ連中さ」


 ほ、ほほう……そう聞くと危なそう。


「徒党を組んで暴れたり、揺すりタカリをしたり……まあ、仲良くはしたくない連中さね。ロロンちゃんたちに外套を渡したのも、それが原因さ」


「アア、2人トモカワイイシ綺麗デスシネ」


 そんな連中の前にさらすわけにはいかないねえ。


「じゃじゃじゃァ!?」


 どしたのロロン、急にフードかぶって。


「フフン、よく言われるナ。美しさは時として罪ナ」


 アルデアは自然体だなあ……


「ま、気付かれる前に隠せてよかったけどね……とにかく、あそこから離れるのが先決さ。ムークちゃんが強そうに演技してくれたから妙な考えは起こさないとは思うけれどね……向かう方向も違うし」


 ふーむ……なるほどねえ……なんか、ちょっとショックだなあ。

今まで周りに(例のヒューマン以外)変なヒトっていなかったからなあ……


「……ムークちゃん、そりゃあ比率で言ったらアタシら異種族に対する人族のほうが悪い奴は多いよ? でもねぇ、ヒトは所詮ヒト。どんな種族にも気に食わない連中ってのはいるし、他人を押しのけて生きていこうって輩はいるよ」


「アッハイ」


 何故ショックを受けているのがバレたし!?


『むしろ何故気付かれないと思ったのか、私は理解に苦しみますね……むっくんは騒がしいですから、体が』


 体が!!

ちくしょう!この体が悪い!悪い!!


「ムーク様、ワダスが前に言った故郷の人攫い……人族以外にも、獣人も混ざっておりやんした。嘆かわしいこどでやんすが、仕方のねぇことなのす。どげな種族にも、屑はいるのす」


 何を心配したのか、ロロンが背中をポンポンしてきた。

優しさが沁みるね……


「まあ、人族に悪人が多いのは納得だナ。というより、だいたいの人族は他種族を下にみているからナ……ムークは今まで、随分と恵まれた出会いばかりしてきたのナ?」


 うむ、それは否定しない。


「ムークちゃんが旅してきたルートは辺境とはいえ安定している場所ばっかりだからね。もっと北の……ロストラッド周辺なんか、戦も多いから荒れてる連中もたくさんいるよ」


 そうだよねえ……うん。


 ボク、今まで恵まれ過ぎて麻痺してたのかも。

どんな種族にも悪い人って、そりゃあいるよね。

間違えちゃいけないな、優先順位を。


「ソダネ……ウン、デモボクハ親分ダカラネ。落チ込ムノハココデ無シニスルヨ」


 ボクには仲間がいる。

護衛するカマラさんも。

なら、それ以外に気を取られちゃ駄目だ。


「はっは、言うじゃないのさ」


「イダイ!?」


 背中にバシーッ!とカマラさんの平手。

意外と威力がある!衝撃が貫通した!!


「頑張んな、親分さん」


 なんだよう!そんなにいい顔で笑われたら文句も言えないじゃないですかァ!!



「来てるね」「来てまっす」「来てるのナ」


 やや速足で歩き続けていると、3人が同時に呟いた。

来るって……まさか。


『背後50メートル前後、一定の距離を保ってこちらを追尾する集団がいます』


 やっぱりか~……


「サッキノ連中デスカ?」


「さて、そこまではわからないけどね……街道じゃなくて、左右の林を歩いて追って来る足音……ま、ロクな連中じゃないだろうね」


「んだなっす」


「私は夜目が効かないけど耳はいいのナ。今……矢をつがえた音がしたのナ」


 やる気満々じゃないですか!やだー!!

矢を使うってことなら、狙うのは多分ボクだろうねえ……


 スルスルと最後尾に移動。

何をするか察したロロンが慌てて止めようとしたけど、大丈夫だと頷いておく。

さて……魔力循環、開始。

外に出さないように、ボクの体の内側だけを……


「カマラサン、盗賊ヘノ扱イハ?」


「攻撃されたり、警告に従わなきゃ皆殺しが基本さね。下手に生かすと後々面倒だからね……先制攻撃してくる連中なんざ、同情する価値もないよ」


「そうナ。他の旅人が犠牲になるだけナ」


「ハイ了解、殺リマス」


 よし、切り替え完了。

ボクはヒトに優しくって心がけてるけど……その対象外もいるんだ!

例のクソ人間と同ジャンルは……魔物と!一緒だって!!


「弦の音……来るナ!」


 ふひゅ、と聞こえた。

ほんのちょっと間があって、背中に矢が突き刺さ――らずに、弾かれた。

よし、ボクの装甲は矢に勝てーる!!


「――アカ!!」「あーいっ!!」


 振り返ってジャンプ!同時に熱源感知!!

おーっ!いるいる、林の隙間に赤い熱源がいくつもクッキリ見える!

表情はわかんないけど、ボクを見て狼狽している雰囲気!


「うにゅにゅにゅ……えぇーいッ!!」


 肩に出てきたアカが叫び、凝縮した魔力が全身の発射口からミサイルとなって放たれる!

ウワーッ!?熱源感知切ってなかったから目が!目が~ッ!!


 涙目の気持ちで視界を切り替えると……丁度、林のあちこちでミサイルが炸裂するのが見えた。

おお、すごいすごい!ボクの出番はあるかな?


「ギャーッ!?」「なんっ、ま、待てェ!」「腕が!腕が~!!」


 控えめに言って大惨事だ!

さて、まだ戦えそうな敵は――いたッ!!

最後尾の方!アカミサイルを叩き落としたってことは……ゴブリンよりかは強いね!


「トドメは私らに任せるのナ!ピーちゃん、こっちに!」『はいはーいっ!』


 マントからピーちゃんが退避。


『アカ!ピーちゃんと一緒にいてあげて!』『あいっ!がんばて、おやびん!』


 アカが肩を飛び立った瞬間に!衝撃波!

補助翼を展開して――最後尾に突っ込む!!


「んなっ――!?」


 あ、始めに声をかけてきた猪!

さっきはどうも!!


「ヌゥン――!」


 ヴァーティガに魔力を込めると、いつもよりも発光量が多い気がする!

慈悲なき認定いただきました~!!


「てっめぇ!!」


 ごう、と振り下ろされる斧。

それに、突撃した勢いを乗せてヴァーティガを叩き付けた。


 結果は、一瞬で斧はバラッバラに。

そのまま、力任せに胴体へ向けて――フル!スイングッ!!


「――ゲェッバァ!?!?」



 革鎧は割れ、内臓と骨の潰れる感触がした。

次の瞬間には、猪は後ろに吹き飛んで――木に命中。

折れた木の下敷きになり、湿った何かが潰れるような音。

……よし!


『むっくんのメンタルが正常で私は嬉しいです』


 そりゃあね、盗賊に優しくするつもりはないです!


『理由なく、私欲で虫を襲う相手なぞ魔物と同じです。女神である私が全力で肯定しましょう!やりなさい!やるのです!虫よ!!』


 ありがとーう!ママ大好き!!


『ほほほ!まあ、可愛らしいこと!ほほほほ!!』


 と、脳内会話をしながら振り返る。

最後尾は潰したから、あとはアカミサイルを避けきれなかった連中だけだ。

苦戦はしないハズ……!


「よし、全員死んだナ!」


「んだなっす! この世が少し綺麗になりやんした!」


 ……苦戦は、しなかったね。

いいこと、いいこと。



・・☆・・



「フィイ……」


「お疲れ、ムークちゃん。街に寄ったら聖水を買っておこうかねえ」


 林の開けた場所に衝撃波をぶち込み、大穴を空けた。

そこに、獣人盗賊団のなれの果てをポイポイ放り込んでクソデカ土饅頭を作成。

ようやく一息つけた……疲れた。

周囲はもう真っ暗である。


「やはり盗賊なんて考える連中だナ。ロクな装備もないし現金も少ないのナ」


「ムーク様が仕留めたのが頭目でやんしょう。少しだけ手持ちが多かったのす」


 ロロンたちは、剥ぎ取った戦利品を選別している。

始めはビックリしたけど、倒した魔物の素材を集めるのと同じようなものだしね。


『むっくん、辛くない? 日本人ならこんなの慣れてないでしょう? 今日眠る時は、私がギュッとしてお歌を歌ってあげるからね!』


 ピーちゃんからオフレコ念話。

優しいインコさんだね……ほんと。


『大丈夫、ビックリしただけでそんなに引きずってないよ。だってボクは頼れる親分なんだからさ』


 そう返して、肩に乗って心配そうなピーちゃんを撫でる。

割り込んできたアカも撫でーる!


「ンデ……コレカラドウシマショ? モドリマス?」


「あんな臭い連中がさっきまで使ってた休憩所なんてまっぴらごめんさね。この林を抜けたところで野宿した方がマシだよ」


 それはボクも思う。

ではでは、移動開始~。


 こうして、ボクの人間以外の初殺人は終わった。

記憶がないからか、あんまり心に来るものはない。

……元々冷たい人間だったのかもね、ボク。


『アカちゃんをあれだけデロデロに甘やかすむっくんが冷たい?HAHAHA、面白いジョークですね』


『それな!それなー!』


『虫は雄々しく優しいのです、私はそれをよく知っていますよ……』


 どうしよう、優しい人ばっかり!

ボクに涙腺が無くてよかった!! 

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― 新着の感想 ―
ピーちゃんが、辛いでしょ抱きしめて歌ってあげる。 ってムッくんに言ってましたが、さっちゃんにも こちらに来た際に同じ風にいってあげていたのかなぁ? ピーちゃんはとても優しい子だ。 後、ムッくん。君程の…
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