第30話 街道は続くよ、どこまでも。
「ギャギャギャギャ!」
「――せいやァッ!!」
「ギャボーッ!?!?」
いかに【首都街道】とはいえ、近くに森もあれば山も谷もある。
なので、カマラさんの魔除けタリスマンがあっても何かの拍子で魔物は出る。
「ギャ――ヒ!?」
「ウム、研いだ甲斐があったナ」
今回はくっさいゴブリンの群れが出ました。
ラーガリの個体と違って、肌が濃い気がしないでもない。
臭くて汚い所は一緒だけどもね。
『きゃーっ!2人とも格好いいわ!格好いいわ!!』
なんでボクが動いてないのかって?
だってアカとピーちゃんが両肩に乗っているし……
「終わりやんした~!」
「羽慣らしにもならんナ」
ロロンとアルデアが全部コロコロしてくれました!
サクサクーって感じ!
「地上でもすんばらしぎ技の冴えでやんす!」
「フフン、空ではこの程度ではないのナ」
ロロンが強いのは知ってるけど、アルデアも凄かった。
『薙ぎ槍』っていう斬撃に特化した紅い槍で、もーうゴブリンをスッパスッパ斬ってた。
しかも、相手の武器を避けて動く上手さだ。
首とか関節とか、切っても槍を痛めなさそうな箇所をしっかり狙ってたもんね~。
というわけで、ボクの出番はなーい。
「ムーク様!耳ば切り取りやんした、しばらぐ干しておきやんす!」
「ハーイ、ジャア穴掘ルネ」
ゴブリンくんは無駄に多いしすぐに増えるし、そして数が少ないとそこまで強くはない。
だけど……耳以外は一切お金にならないのだ。
かといって耳をスパー!した死体を放置すると何かの拍子にゾンビになる。
百害あって微妙な一利しかないというなんとも困る魔物なのである。
なので、柔らかそうな地面をチェーンソーで無理やり掘って、そして……
「えーいっ!」
聖水の手持ちがないので、アカの火炎魔法でこんがり焼いて。
そうして埋める……と。
地味に手間がかかる!かかる!!
「街道筋だからねえ。きちんとしないと他の旅人に迷惑がかかるよ」
そうだね、カマラさん。
ボクみたいな戦える旅人さんだけがここを通るわけじゃないしね。
さて、ゴブリンのお墓ができたので先に行こうか。
【ルアンキ】手前の街まではまだかかるし、今日も野宿になりそうかな~?
すっかり慣れたというか、クソデカ森林時代はいつも野宿だったけど……街の楽さを知るとやっぱり不便!
人とは面倒臭い生き物でござるな~。
・・☆・・
「コイツはまた……派手にやったね」
ゴブリンと、それから草原狼が出た以外は平和でした。
狼はアカサンダーで黒焦げになったし。
で、本日のドライブイン……じゃなくて休憩所にたどり着いたわけなんだけど。
「ボア系でやんしょうか、発情期はまだ先だども……運の悪いことだなっす」
屋根を支える支柱の1本が破壊されて、半分崩れている。
なんか、柱を齧ったような感じになってるねえ。
ロロンが言うように、魔物の仕業だろうか。
「ああ、魔物避けの陣が削れてるね……新米の冒険者か商人が間違って消しちまったんだろうさ」
カマラさんが、地面にしゃがんで何かを確認している。
あ、なんか書いてある、魔法陣みたいなの。
へえ~、今までの休憩所もこうなってたのか。
「ムークちゃん、大好きな木こりの時間だよ。支柱になりそうな丸太を持ってきておくれ……アタシは陣を書き直すよ」
「ワーイ!」
ボクのチェーンソーが唸るぞ~!
早速見えているあの林へ行こう!行こう!
「変な子だよ、本当に……」
何か言ってるけど!木を切るのは楽しいので!
自然破壊は最高だ!
……テオファールのお話は大規模森林破壊さえしなけりゃ大丈夫だろうしね!!
「ブキイイイイイイイイイイイイ!」
「コンニャローッ!!」
ウキウキで林に向かったボクは、でっかい猪さんに出会いました。
いきなり突撃してきたので、カウンターでヴァーティガホームランしちゃった。
その結果……オーバーキルですねこれは。
ビックリしたので魔力を込めたのが災いしたのか、猪くんの頭はパーン!となりました。
……血抜きになるからこのままにしとこ。
さーて、木こり虫頑張るぞ~!
「変な声が聞こえたと思ったら……まあ、燻製にでもするかね」
丸太と猪を担いで帰ったら、カマラさんにジト目をされるボクでーす。
今回は不可抗力ですので!ですので~!
「じゃじゃじゃ、立派な雄でやんす!早速捌きやんす~!」
ロロンがニコニコで解体用ナイフを振り上げたのが頼もしいです、ハイ。
と、とりあえず柱を立てるかな。
ええっと長さがこれくらいで……太さがこれくらいだからっと……
細かい調整は隠形刃腕くんでちょいちょいっとな~!
「とっても器用ナ。私の寝場所のために頑張るのナ」
『がんばって!がんばって~!』
応援ありがとう!
よし、これくらいでいいかな……それでは柱を……フンヌヌヌヌ!!
折れかけの柱の横に丸太を立てて……スライドさせながら力技で……立てーる!!
古い柱をぶん殴って完全に撤去し、地面に空いた穴に丸太を安置!
ちょっと軋みながらも、屋根は元通りになった。
ふう、こんなもんかな。
少しだけ歪んでる気がしないでもないけど。
泊まるだけなら大丈夫でしょ、造りも単純だし
「おやびん、しゅごい、しゅご~い!」
「フフフ、コノ分ナラ家ヲ一カラ建テル日モ遠クハナイネ!」
『建築学に喧嘩を売っていらっしゃる……?』
ひぃ!勉強しますので!のーで!
「フムン、まあ悪くはないナ……おやすみ」
『眠たい気がするわ~!』
直った休憩所のベンチで、早速寝転ぶアルデアとピーちゃん。
早いなあ。
『アカ、ちょっと屋根に穴とかないか見てきて~』
『あい~!』
晴れてはいるけど、にわか雨とか降ってきたら大変だもんね~。
よし、創水の魔法具を起動して……お仕事終わり!!
いいのかなあ、これで。
「おやびん、ねんね、ねんね~」
アカがそう言うんじゃ仕方ないな!
ボクも木こり後のスヤスヤと洒落こむかね~
「ム……仕方ないナ、こっちナ」
いや別にアルデアに密着して寝ませんので!
羽を広げないでください!
こんな明るいうちから!暗くなってもやんないけども~!!
「フワァ……」
ベンチにマントを置いて、ごろーん!
「ごろーん!ごろん!」
ボクが寝て、胸の上にアカが飛んでくる。
ああ、確かにちょっと眠い……や……すやぁ。
べきべきべき、ばき、どすん。
「ミギャーッ!?!?!?」
な、ななな、なに!
魔物の襲撃ですか!ですか!!
……お空がちょっと見える。
ああなんだ、痛んだ天井の板が顔面に降ってきただけか……もうひと眠りしたら修理しよ。
素人仕事はやっぱり駄目だね~……すやぁ。
「……よく寝れるもんだ、あの子は大物になるよ、きっと」
「ムーク様は大英雄の器なのす!当然だなっす!」
「……そうかい」
・・☆・・
お昼寝から起きて、アカに浮かせてもらって屋根を修理して……ロロンお手製の美味しい夕飯を楽しんでいると、ルアンキ方向の道に影が見えた。
むむむ、アレは荷車と……走竜ちゃん!
「おや、先客だね」
フードを被ったむしんちゅさんが手綱を持っているのは……走竜ちゃん、じゃない!?
「ヒヒン」
馬だ!馬ー!
うわー!この世界でお馬さん初めて見るよ!
前世の概念で知ってるお馬さん……にしては大きいな!?
ばんえい競馬とかの馬よりももっと大きい!
なんだろ……象は言い過ぎだけど、筋肉モリモリの超デカイお馬さんだ!
『前にも言ったでしょう?この世界のお馬さんは基本的にあんな感じです。むっくんにわかりやすく言いますと……ばんえい馬以上の巨躯でその気になればサラブレッド並みの速度が出ます。魔法で強化できますしね』
半分くらい魔物ではござりませんか、それ?
「遅くまでご苦労なこった。多く作ってるから食うかい?」
「おお、そいつはありがたいねえ……たまげた、妖精ちゃんかい」
カマラさんの声に馬車を止め、嬉しそうに降りてきた虫のおじさんは……馬に興味津々なアカを見て驚いている。
「アカ、ソレハ馬ッテイウンダヨ」
「うま、うーま! よろしく、こばんわ~!」
「ブルルル」
「きゃーははは!あははは~!」
鼻でつんつんフシュフシュされ、アカは空中で笑っている。
お馬さんの方も、無茶苦茶ゴツいけど……よく見ると目はとってもやさしい。
「アタシは流しのカマラってんだ。そちらさんはどこかの商会かい?」
カマラさんがお酒の瓶をおじさんに渡している。
情報収集も兼ねてるのかな、これ。
「俺ァ【トリャマ】商会のキーチベってもんだ。これからガドラシャを回ってマデラインまで行商さ」
大きい馬車だとは思ったけど、随分遠くまで行くんだねえ。
色んな人がいるもんだな~!
「かわい、かわい~」『鬣もフッサフサ!よく可愛がられてるわね!』
「ブッフ、フシュ」
妖精たちと戯れる馬さんを見ながら、ボクは冷たいケマを煽るのだった。