第27話 この世界の魔物図鑑作った奴出て来い!でてこ~~い!!
「ほらみてシーロ! ヤシコ! ムークのおじちゃんだよ!」
「すげー!でっかいツノ!かっこいい!!」
「昨日は、ありがとうございます!」
宴会の片付けが済み、村人の皆さんが日常に戻り始めたころ。
ジローベくんが、2人の子供を連れてきた。
あー、行方不明になってた子たちか!
アルデアに丸投げしたから顔を見るのは初めてだ!
昨日の宴会にはいなかったしねえ。
1人は、ジローベくんより頭一つ大きいカブトムシ。
そしてもう1人は……昨日見たジュニチさんの奥さんみたいな感じだから女の子か。
くりくりな黒いお目目がかわいいねえ、2人とも。
ジュニチさんの弟の子供って聞いてたから、てっきりもっと小さい子なのかと思ってたよ。
遠くから見ただけだし。
ジローベくんが小学校低学年だとしたら、この子たちは高学年ってところかな。
「シーロです!」「ヤシコです!」
「ハイ、ムークデス」
2人は揃って頭を下げてくれた。
ほほう、親御さんの教育が行き届いているねえ。
「ジローベ、昨日は凄かったんだぞ! 運ばれるときに見てたんだけど……ムークさん、でっかい棍棒で蜘蛛の親をぶん殴ってバラッバラにしてたんだ!」
「腕からトゲも飛ばしてた!凄かったんだよジローベちゃん!」
おおう、よく見ていらっしゃるねこの子たち。
蛮族全開の優雅さとは無縁のムーブだったけど……まあ、トラウマとかになってなくてよかった。
『この世界の子供たちはメンタルが強いですよ。魔物がいますからいつでも死と隣り合わせですので』
それもそうか~。
「おじちゃん、おじちゃん! そのとげっての、みせて!みせて~!」
む、カワイイおねだりだねえ。
そういえば、村からすぐの所に川があったね……そこで見せてあげるか!
勿論親御さんに許可を取ってね!
・・☆・・
キラキラと輝く水面に……それとは違う影!
「――ムンッ!」
左パイル、射出!
水面に飛び込んだ棘が、川底に着弾して水飛沫を上げる。
そして……
「たいりょ!たいりょ~!」『大漁だわ!大漁だわ~!』
少し間を置いて、水面に……もはや見慣れたクソデカザリガニさんがぷかぷか浮かんできた。
「すっげ~!」「すごい!すご~い!」「いっぱい!いっぱーい!」
ざぶざぶと川に入り、仮死状態のザリガニくんを拾ってぽいぽいっとな。
うーん、ザリガニしか取れない。
魚はいないんだろうか。
あの後ジュニチさんに許可を取ったら『ムークさんが護衛なら』と、快くOKを貰えた。
なので、こうして連れてきたってわーけ。
シーロくん兄妹は妖精とは初対面だったけど、すぐに打ち解けていた。
妖精陣のコミュ力凄い。
「おじちゃん、すごーい!……いたくないの、それ」
「全然。生エルマデチョット時間ハカカルケドネ」
嘘です、今でも痛いです。
もう慣れたけど、痛いものは痛いです。
「ホイホイホイット」
右手チェーンソーを出し、ザリガニさんを連続パンチ!
彼らはしめやかに成仏した。
「すげー!こっちは何!?」
「木ヲ切ルノニ便利ダヨ。危ナイカラ触ッチャ駄目」
少し魔力を通して棘を旋回させると、子供たちはみんな声を上げて喜んだ。
ふふふ、なんだかとっても心がホッコリ!
「ココラヘンニ……アッタ!」
バッグから集めていた木を取り出し、河原に並べる。
そして燃えやすいように切り刻んだ木の皮をパラパラ。
「アカ、ヨロシク」「あい~!」
それにアカが出力を絞った火を放つ。
そうそう、これくらい……成長したなあ。
森にいたころは火力が凄くてよく焦げたからねえ、木とボクがね!
火がついたのでバッグから野外用の足つきの金網を取り出し、その上に置く。
そして、成仏したザリガニくんをよく洗ってから網にドーン!!
うーん、豪快。
だけどこれが美味しいんだよねえ。
「いいにおーい!」「おいしそ!」「おいしいよね、カニモドキ!」
……なん、だって?
『おや、言っていませんでしたか。あのザリガニさんはこの世界では【カニモドキ】と呼称されていますよ』
……じゃあ、モドキじゃないカニは?
『全長3メートルを超える海洋棲巨大ザリガニです』
……この世界ってカニいないの?
『いますが、それは【カヴラス】と呼称されていますね』
……ンモーッ!!
『ちなみに全長10メートルを超える魔物です。主に深い湖や深海に生息しています』
……ンモモーッ!!
敏腕生物学者さぁん!!転生もしくは転移してきたらちゃんとした百科事典作ってくださああああああああああい!!
・・☆・・
「ばりばり、おいし!おいし!」『ミソも美味しいわ!美味しいわ!!』
うーん、やっぱり香ばしくて美味しい。
でも醤油があればなあ……首都にはあるんだっけ?
行ったら買おう、そうしよう。
「んぎぎぎ」
おっと、子供連中には硬かったか。
みんなこれくらいバリバリいけるのかと思ってた。
ボクの配慮不足ですなあ。
「ゴメンネ、一旦置イテ置イテ」
みんなが置いたのでちょっとだけ距離を離し……隠形刃腕カモン!
「わわわ!?」「腕生えた!?」「凄ーい!」
片方だけ出した刃腕の先にほんの少し魔力を通して……おお、切れる切れる。
あっという間にザリガニ……カニモドキ!は、開きになった。
「ドウゾ~」
よかった、みんなちゃんと食べられてる。
いっぱい食べて大きくなるんじゃよ~!
……みんなボクより年上だけども。
「ムークのおじちゃん、すごいねえ、なんでもできるねえ」
「鍛エテマスカラ」
『便利な言葉ですね』
そうとしか説明できないから~!
おっと、冷めちゃう冷めちゃう。
バリバリ、モグモグ。
『食事をする虫たちのなんと愛らしいことか……あちらの小さい虫たちにヴェルママポイントを10倍……何故止めるのです!何故です!私はあまねく虫の守護者なのですよ!』
また遠くでヴェルママが止められてる……愛されているねえ、むしんちゅさんたち。
『愛が重すぎるんよ、まーじで。このエビテンドンっての、んまいね~トモちん』
『老舗のソバヤからレシピをパクリました。最高ですねこのテンザルは……ズゾゾゾ』
シャフさんはトモさん食堂の常連客と化しているし。
いいなあ、お蕎麦。
『ピーちゃん、日本蕎麦ってこの世界にある?』
『お蕎麦の実とよく似たのはあるわ!この国でも売ってたはずよ!』
なんじゃと!
よし、それなら探してみて……最悪ボクがそば打ち虫になればいいのか。
ええっと、ソバを粉砕してそば粉8に小麦粉2を混ぜて水入れてネリネリするんだっけか。
……あれ?意外と簡単だな?
できそう!
『全地球の蕎麦打ち職人を敵に回しましたねむっくん……』
ヒィーッ!御免なさい!!
でも、いつかはトライしてみよう、そうしよう!やってみたいし!
「いい匂いがするのナ」「んだなっす~!」
あ、ロロンにアルデア。
ロロンの方は寸胴鍋を持ってる……ここで朝ご飯にするのかな?
「深酒ばしてもうて、おもさげながんす!」
「イイノイイノ、ロロンモ昨日ガンバッテタカラネ……ハイアーン」
「もがふ!?も、ももも、もむ……」
ロロンにも栄養補給してもらわんとね~。
「破廉恥だナ。どれ、試しにこっちにもナ」
破廉恥じゃないし!それなら何故アルデアも求めるのですか!?
「ドッセイ」
「ももも」
よし、これでいいだろう。
おやあ?アカが何かを期待した顔をしているぞ?
しょうがないな~カワイイ子分は~!
「アーン」
「むいむいむい……おいし!おいし!」
絵面はかわいいけど、響く音がかわいくない不具合。
まあいいけどね。
「ピピヨピヨ」
なんでインコ語で……はいどうぞっと。
「おじちゃんとこ、みんななかよしだね~!」
「ソウダヨ、仲良キコトハ美シキ哉ッテヤーツ」
なんたって危険と隣り合わせの旅をする仲間なんだしね!
仲良くないと大惨事になっちゃうからね~!
『ギルティっしょ』
『ですね』
だから何が!?何が~!?