表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

247/333

第26話 元気が一番!ソレが一番!!


 ――これは、誰かの記憶だ。


『なんたることだ……なんたる!』


 燃え盛る街が見える。

夜なのに、真昼みたいに明るい。


『おのれェ……孤児院を狙いよったか!唾棄すべき敵どもよ!呪われよ!!』


『瓦礫をどかせェ! 生き残りを探せェ!』『一級紋章官はまだか!二級以下では対処できん!』


 瓦礫の山になっているその場所を、鎧を着た騎士たちが必死で掘り起こしている。

何か、爆発物でも使ったように破壊されたそこを、必死に。


『いたぞォ!早く――嗚呼、駄目か』


 瓦礫の下から掘り出された獣人の子供は、胸を真っ赤に染めてピクリとも動かない。


『腕を止めるな!まだ生き残りがいるはずだ!掘れェ!!』


『ぬうううあっ!!』


 瓦礫がどんどんどかされて、その度に冷たくなった子供たちが掘り出されていく。

どの子も、胸や腹に深い傷を負っている。

それも……


『追い回して、殺したか』『年端も行かぬ幼子を……おのれ!おのれェ!!』


 何人かの騎士たちは、兜の下で鼻を啜っている。

若い人たちなんだろうか。


 そんなことがしばらく続いた時に、不意に何かが飛ぶ音。

放たれた矢だ。

それは、事切れた獣人の女の子を抱きしめている騎士の背中に――刺さる前に、翻ったマントで叩き落とされた。


 火に照らされる煙の隙間に何かが見える。

隊列を組み、武器を構えた鎧の群れ……じゃない!

鎧みたいな体をした、蜥蜴頭の怪物だ!

そいつらは、剣や槍、弓で武装している。


『――そのまま、作業を続けよ』


 そして、さっきまではいなかった存在がもう一つ。

黒光りする鎧を着て、深紅のマントを靡かせた……一人の騎士。

2メートルを超える長身に……手に持つのは長く黒い、棍棒。


『暁光騎士団!しかし、あなただけでは――』


 背後の騎士がそう叫んだ時、蜥蜴頭たちが一斉に矢を放つ。



『――清らかな方陣よ、あれ』



 黒鎧が呟くと、孤児院跡を囲むように半円状の結界が張られた。

それは、飛んできた矢をことごとく弾き飛ばす。


『続けよ、きっと生き残りがおる……続けよ!』


 そう叫んだ黒鎧へ向け、槍を構えた蜥蜴頭たちが突撃。

恐ろしく速く、統制の取れた動きで――声も上げずに、一斉に槍を突き出した。

その禍々しい槍は、残らず黒鎧の体に突き刺さり――穂先から折れた。


 ――ばちゅん、という音。


 さっきまで槍を突き出していた蜥蜴頭たちは、その上半身を残らず吹き飛ばされて血煙だけが舞う。


『……弱きを攻むるは、戦の必定』


 黒棍棒を振り抜いた、黒鎧……いや、黒騎士。

その声には、抑えきれない怒りと悲しみが宿っていた。


『それを差し引きしても貴様らの行い……許し難し!』


 黒棍棒が、蒼い輝きを放つ。

それに気圧されたように、蜥蜴頭たちが一歩引く。


『我を恐れよ!』


 突き出した黒棍棒から、一筋の蒼い閃光。

直撃した弓持ちが、周りの何人もを巻き込んで吹き飛ぶ。


『光を恐れよ!!』


 続けざまに放たれる、閃光。

盾を構えた蜥蜴頭を盾ごと吹き飛ばし、また巻き込む。


『夜明けを恐れよ!!』


 なんの詠唱もせず、何度も何度も閃光が走る。

気付けば、さっきまでの蜥蜴頭は残らず吹き飛んで肉塊になっている。

その後ろから、明らかに今までよりも一回り大きい蜥蜴頭が現われた。

奴らは唸り、威嚇し、牙を剥いて吠えた。


『笑止!!』


 黒棍棒が、蒼い輝きを全身に纏う。


『我らは、汝らの恐怖なり!』


 黒騎士が、黒棍棒をゆっくり構える。

両手で握り、天に捧げるように、高く、高く。


 それを見て、蜥蜴頭たちが一斉に走り出す。

さっきの連中よりも、速い!


『失われし無辜の命。その代償を払ってもらう!! 貴様らの、薄汚い命で!!』


 黒騎士は、何かをこらえるように強く叫んだ。



『無垢なる魂に安らぎを、忌まわしき邪悪に応報の咆哮を――脈動せよ、ヴァーティガッ!!』



 黒棍棒……ヴァーティガが、一層その輝きを増した。

どこか、悲しく見える光だった。



・・☆・・



「ウニャ……」


 目を開けると、早朝の陽ざし。

ううん……あれェ?

なんでボク広場で寝てるのォ?

毛布はあるけど……そしてなんでボクの周りには酒樽がゴロゴロしてんの~!?


「すひゃあ……すひゃあ……」


 ロロンが横に寝てるゥ!


「うむむ……お代わりナ……」


 反対側にアルデアも寝てるゥ!?


 いや、よく見たら広場中にむしんちゅさんたちがゴロゴロ寝てるゥ!?

なに、この状況なーに!?


『今回は二日酔いにはなっていないようですね。この村の地酒があまり度数が高くなかったおかげでしょうか』


 トモさんおはよ~!なにがどうなってんの~!?


『おはようございます。宴会ですよ、宴会……昨日地底蜘蛛を退けて、村人全員が助かった祝いの宴会です』


 あ、あ~!

なんか思い出したかも!

名物だっていうかぼちゃみたいな野菜のスープがおいしかったよねえ!

で、例によって飲まされて記憶が飛んだ、っていう……


『子供たちを抱えて歌って踊って大盛り上がりでしたよ』


 もはや驚かぬ!ボクは!


『むっくんは地球の古い歌をよくご存じですね。ピーちゃんも大喜びで合唱していましたよ』


 ピーちゃんも!?

っていうかピーちゃんどこに……あ、マントに包まってピヨピヨ寝てる。

アカも一緒だ。

そっかあ……ま、楽しかったっぽいしいいか。


 喉乾いちゃったからなんか飲みたいなあ。

ええと、水水……これかな?


『それはドワーフの高純度火酒です。飲んだら昏倒しますよ』


 ヒィ!なんでそんな劇物が転がってんのさ!?

バッグに入ってたかな……お水。


「おや、起きたかい」


 カマラさん!早起きですねえ!


「ホレ、水。昨日は吟遊詩人も裸足で逃げ出す歌いっぷりだったねえ」


「ハハハ……」


 記憶はありませェん!

あ、お水ありがとうございます!


「昨日も大活躍だったじゃないのさ、ムークちゃん」


 よっこいしょ、と樽に腰かけるカマラさん。


「でもね、気を付けなよ。いくらアンタが強くたって、死んじゃどうにもなんないんだからね」


「ハ、ハイ」


 パイプに火を点けるカマラさんの横顔は、なんだかとっても悲しそうだった。


「まずは自分をしっかり守ることさね。アンタはやたら頑丈だからそこまで考えが及ばないんだろうけどね……もしも何かあったらアカちゃんどうすんのさ? あの子を生まれたてのまま孤児にしちまうつもりじゃないだろう?」


「ハイ……」


 ううう、心に刺さる。


「嫌だねえ、年取ると説教臭くなっちまうよ……ま、体に気を付けな」


「ハイ……」


「ははは!アンタみたいに感情が読みやすい虫人は初めてさね!ここの村の子供たちといい勝負だよ、はっはっは!」


 みんな年上ですゥ……


「むにゃむ……あさぁ?」


 アカが起きて、ボクを発見してすぐに膝に登ってきた。

そのまま体を伝って、肩まで。


「オハヨ、アカ」


「おはよ、おはーよ!むいむいむい……」


 寝ぼけまなこのまま、アカが首筋にほっぺたを擦り付けてくる。

……孤児にするのは駄目だよねえ、この子を。


「……アカ、ダイスキ」

 

 その頭を撫でる。

うん、孤児にしちゃ駄目だ。


「んへへぇ。アカも、アカも~! おやびん、しゅき、しゅきぃ!」


 アカは微笑みながらボクの頬にキスをした。

んふふ、くすぐったいや。


「そうさ、しっかりするんだよ。親分なんだからさ」


 カマラさんはボクの背中を軽く叩いて、ボトルを煽った。

……ちょっとそれクソ強火酒じゃないですか!?


「……ふぅ、朝の一杯は格別さね。アンタもやるかい?」


「死ンジャウノデオ断リシマス」


 そんな麦茶みたいに飲むもんじゃないでしょ!!


『そうです、健やかに長生きするのです虫よ……突然虫が亡くなったら私はとても悲しいですよ』


 ママ……!


『悲しすぎてトルゴーンの半分が湖になるかもしれません』


 長生きしよう!300年くらい頑張って長生きしよう!!

そうしないとこの国が!この国が危ない!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ヴェルママが最強でした。 しかし、昔何があったのか。 暁光騎士団のヴァーティガの主人。 ある日突然に消えた。とんでもない実力者 のようなのに。
(´;ω;`)<ヴァーティガさん……ヴェルママ……
それな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ