第25話 一件落着、そして果物が美味しい!
今度はしっかり見えた。
胸の中心から、前におひいさまが撃ってたようなごんぶとビームが飛び出した。
蒼く輝いたそれは、ビームなのであっという間に蜘蛛集団に到達。
チビ蜘蛛を触れた瞬間に蒸発させ、成体を引き千切り――長?に迫る。
長はなんかシールドみたいなのを展開させたけど、接触した瞬間にばりんと破壊。
一瞬も拮抗せず、頭の半分とその大きな胴体を引き千切って、後方へ抜けた。
そこで安心したのが良くなかったのかもしんない!
「ドンナモンジャ、ア、アア、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアイッ!?!?」
隠形刃腕の先っちょが、なんか千切れた。
その瞬間に、足の棘が刺さった地面ごとすっぽ抜ける。
そして、残った補助翼では対応できずに――
「ミギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?」
ボクは、後方に向かってロケットよろしく射出された。
ちくしょう!ちくしょーう!こんなんばっかりだ~!!
『まーっ!?ムークさん!ムークさーん!!』
ピーちゃんの悲鳴を聞きながら、まず初めの木にみしりとめり込む。
「オワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?」
残念ながら黒い森程頑丈じゃなかったので、ボクはその後も森林破壊を続けながら吹き飛ぶのであった。
――きゅう。
・・☆・・
「ムーク!ムーク!」
あったかぁい……なんじゃろこの感覚。
あったかいものに顔を包み込まれているような……というか、お風呂に入ってるみたい……
お風呂最高……ごぼ!?ごばばばば!?!?
「――ブッハ!?」
覚醒すると、なんか甘い匂いがする!?
なん……なにこれ!?なんでボクの顔ビッシャビシャなの!?
「おお、起きたのナ。里に伝わる気付け薬が効いたのナ」
「……気付ケ、ジャナクテ溺死シチャウデショ……ウア、アアア……」
す、凄まじい倦怠感!やばい命危険!!
震える手でマントの内ポッケを探って、取り出した蜘蛛魔石を口に放り込んでボリボリ。
あああ……生き返る……
「そんなもの食べて腹を壊さないナ?」
「ボク、魔素転換ナントカナノデ大丈夫……フゥ、ヨッコイセ」
なんとか生き返ったので、上体を起こす。
おおお……森の木々がボクによってお亡くなりになりまくっている。
反動対策、なんとかしないとなあ……あ!
「他ノ皆ハ!?」
長はたぶん死んだけどまだイッパイ残ってると思うんですけど!
「もうそろそろ掃討が終わるナ。巡回騎士団……凄まじい戦闘力ナ」
あっそうなの、よかった……
『ムークさん!はいこれ!おいしいわよ!』
お、ピーちゃんがスイカの化け物みたいな果物を咥えて飛んできた。
物理法則さんがまた死んでおられるぞ!!
「【ミヅシマ】の野生種だナ! 種が多いが甘くておいしいナ!」
なんかむっちゃ日本語に聞こえるんだけど……まあ、いいか。
とりあえず、皆さんの所へ戻ってから食べようか。
どっこいせ……ああ、頭がクラクラする~。
「戻ってきたら凄まじい魔力反応を感じてナ。気付いたらムークが吹き飛んでいて驚いたのナ」
「ボクモ驚イタヨ……」
気を緩めたのが敗因だねえ……
『吹き飛ぶまでは雄々しさが百点満点でした、虫よ。他の虫たちも大変素晴しいものでした……さっそく全員にヴェルママポイントを……なに?駄目?何故ですか?……あげすぎ?まあ、何を言うのです』
遠隔神託の裏で、ヴェルママがむっちゃ止められてる雰囲気!
ダダ甘だ!ダダ甘ママだ!!
・・☆・・
「おお!ムーク殿!そろそろ探しに行くべきか悩んでおりましたぞ!」
元の広場に戻ると、ジューゾさんが走ってきた。
オオ……さっきよりも、もっといっぱい蜘蛛が死んでる。
騎士さんたちは皆さん……うん、大丈夫そう。
何人かは傷があるけど、生き死にに関わりそうな感じはないね。
「なんとも凄まじき魔法にござるな!長を一撃とは! あれで奴ばらは統率を失ったので、楽に討伐できもうした!」
凄まじい威力だよねえ、威力だけはねえ。
結局かわいそうな木を20本は道連れにしちゃったよ。
背中が地味に痛いでござるよ。
「ささ、あそこで休憩さなされよ! ご心配めさるな、蜘蛛どもの魔石はそなたの分も回収するゆえ!」
「ソンナ、悪イデスヨ……」
「何を仰る!我らにもそれくらいの仕事はさせてくだされ!ささ!ささーっ!!」
押しが!強い!!
駄目だこれ、休憩以外は許されない雰囲気だ!
仕方あるまい……
「おお、やっぱりムークさんだったか!」
村人の皆さんが避難している木の周辺まで歩くと……ジュニチロさんがいた!
よかった、片手が包帯でグルグル巻きだけど元気そう!
「ヨカッタ、ジローベクンガ心配シテマシタヨ」
「ちょいとしくじっちまった……まあ、なんとか大丈夫さ。それよりも驚いたぜ、強そうだとは思ってたが、本当にあんなに強いなんてな! 蜘蛛共がまるで子ども扱いだ!」
「イヤイヤ……」
その他の村人さんも、死にそうな人はいないっぽい。
よかった、中級ポーションを使うくらいの怪我人はいなさそうだ。
「もうちょっとゆっくり戦っていてもよかったのナ。私の槍の冴えを見せられなかったのが残念ナ」
「マタノ機会デヨロシク」
よっこいしょっと。
座って……持ったままのこのクソデカスイカを切ろうか。
ピーちゃんがずっとボクの肩で待機してるし。
上下に揺れながら!
カモーン、再生した隠形刃腕!
魔力は必要ないのでこのまま……サクッとな!
……断面が!鮮やかな虹色!!
なにこれ!?腐ってるの!?
「ム、熟しているのナ」『おいしそうだわーっ!』
これがデフォルトなんすか……ま、まあいいや。
切り分け切り分けっと……しかし大きいなあこのオバケスイカ。
ビーチボール何個分だよ……
「ミナサンモドウゾ」
「ありがてえ!ミヅシマは滋養があるからな……みんなー!ムークさんが食えってよ!食える奴は遠慮なく食いな!」
『いっぱいあるから遠慮しちゃ駄目よ!』
どしたのピーちゃん、なんか光ってるけど……
『むむむ……そいやっさ!』
ウワーッ!?胸の宝石から新しいのがもう一個出てきた!?
そういえばキミマジックバッグみたいな体してましたね!思い出した!!
「たまげたナ。妖精は便利なものだナ」
たしかに、そう!
さて……食べてみようか。
「イタダキマス……」
しゃくり、さくさく。
む、むむむ!むー!
「ンマイ!甘イ!ンマーイ!!」
スイカだ!ちゃんとスイカの味がする!!
ここへ来て直球か!ボクってばてっきりメロンの味でもするかと思ったよ!
うわーっ!スイカの味!懐かしいなあ!
『さっちゃんと縁側で食べたのを思い出すわ!美味しいわ!とっても美味しいわ!』
「ンムム……野生の癖に味が濃いナ。そうか、ここは魔力溜まりナ」
なにそれ?
「ンム……普通、森は深ければ深いほど魔力が溜まりやすいのナ。だけどたまに何かの拍子で、浅い所に濃い魔力が溜まることがあるのナ……すると魔物が強力になったり、果物が美味しくなったりするのナ」
魔力って、ホント不思議!
「ジャア、今回地底蜘蛛ガ大量発生シタノモ……?」
「無関係じゃないとは思うのナ。まあ、そういうのは研究者やモノ好きの仕事なのナ」
『果物が美味しくなるだけならいいのにね!』
切ったミヅシマに半分めり込んでるピーちゃん……うん、ボクもそう思うよ。
しかし、これ美味しいなあ。
アカやロロンにも持って帰りたいなあ。
『帰りにちょっともいで帰ろうかな、ピーちゃん』
『心配ゴムヨー! あ、よいしょっと!』
ウワーッ!?もう3玉出てきた!?
群生地でも見つけたの!?
・・☆・・
「とうちゃん!と、とうちゃーん!!」
「おーう、今帰ったぞあいたったた!?いってぇ!?」
その後、地底蜘蛛のお代わりがあるわけでもなく。
ボクらは陸路で村まで帰ることができた。
何故かアルデアも歩いてね。
そして、門が開くや否やジローベ君がダッシュで出てきた。
彼はジュニチロさんに半分タックルするような感じで抱き着いている。
遠慮がない……お父さん包帯巻いてるんだけども。
ま、心配してたんだからしかたないか。
「あんた!よく無事で……!」
「大丈夫だよ、騎士様とこっちのムークさんたちのお陰さ」
おー、涙目で走ってきたのは奥さんかな?
フムン……カブトムシっぽい人たちは装甲が多いのかな?
普通に柔らかそうな顔はしてるけど、首とか頬にまで装甲がある。
人によって違うのかな~?
「ムークのおじちゃん!」
「ハイハイ、オ仕事完了シタヨ」
中腰になって、走ってきたジローベくんとハイタッチ。
この国にはこの文化あるんだ……やってくれるかどうか不安だったけども。
「シーロたちから聞いたよ!おじちゃん、すごかったって!とおってもつよかったって!!」
「ハッハッハ、鍛エテマスノデ」
やっぱり救出された2人の子供がそうだったか。
話もできるってことは元気なんだね、よかった。
ヴァーティガもさぞ喜んでいることだろう。
「おやびん、おかいり、おかいり~!」
「ムーク様ァ!ご苦労様でござりやんす~!」
おお、頼れる子分たちもやってきた。
「タダイマー、コレオミヤゲー」
ボクは、とりあえずバッグからクソデカスイカを取り出すのだった。