第24話 喰らえ!魔素凝縮電磁投射砲!!
「フンギギギ……!」
ヴァーティガに巻き付く糸はどんどん増える。
謎虫時代のボクなら真っ二つになっちゃう攻撃だけど、そこは頼れる謎金属。
ザクッてなることは避けられた!
避けられた、けど……!
「ギギギギ!」
こいつら結構賢い!
糸を吐いてない成体が飛び掛かってきた!
「ナンノッ!!」
パイル発射!
空中に散らばる蜘蛛だったタンパク質!
ふふふ、問題ない……けど!
このままじゃジリ貧だ。
なんとかこの糸を切る方法を考えなきゃ!
……いや?
別に切らなくても……いいのでは!?
「ヌウウッ――!!」
ヴァーティガを両手で握って……腰を落とす!
「ダッシャアアアアアアアアアアアアッ!!」
ぐん、と腕を振る!思いっきり!!
すると――糸の出所である蜘蛛たちが揺らいで……体が浮いた!
うおおお!頑張れボクの上腕二頭筋!あるかどうかわからないけど!!
「オオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
糸は頑丈だった。
頑丈すぎた。
なので、ヴァーティガの動きに合わせてひいふう……全部で4体の蜘蛛が、完全に宙を舞った!
魔力お代わり!全身に循環ッ!!
うおおおおおっ!唸れ重力!慣性の法則!
吐いた糸に繋がれたまま、蜘蛛は4つのハンマーになった。
回れば回るほど、周囲のチビ蜘蛛を巻き込んで――吹き飛ばす!
「ギ!」「ギチチ!」「ギギギ!」
オリンピックのハンマー投げ、投げナシみたいな恰好を何周かすると……不意にヴァーティガが軽くなった。
……うわぁ、頭だけ残ってる。
なんてグロいハンマーなんだ……
そしてボクの周囲は、疑似ハンマーの直径だけ蜘蛛無風地帯になっている。
グロさに引いてる場合じゃない!次だ、次!
「ムーク!」
アルデア!
おー!なんか布袋に包まれた子供2人を足で掴んで……飛び上がった!
「子供は無事ナ!村まで運んで戻ってくるナ!」
「了解! 頼ムヨ~!」
そう言うと、アルデアは瞬く間に上昇。
あっという間に視界から消えた。
『子供がいなくなって、騎士さんたちの動きが変わったわ!』
お、ピーちゃんは上空にいてくれるんだね。
動きが変わった?
それってどういうことじゃろ。
「オーム!」
あ、蜘蛛の群れの向こうからなんか声が聞こえ――
「インラーダ・マルグ・ゲースク……スヴァーハッ!!」
ピギャアアア!?!?
まぶ、眩しッ!?あと向こうで蜘蛛がむっちゃ吹き飛んだ!?
何だろアレ、帯電してる!?
「――ウウゥオオオオオオオオオオオオアッ!!」
バチュンバチュンって凄い音がする!
その音は、蜘蛛をバラバラにしながらこっちへどんどん近付いてきて……
「――おうらァッ!!」
成体蜘蛛が感電しながら、内側から吹き飛ぶ。
その散らばる破片の向こう側に……ああ!あの人は!
「ムーク殿!助太刀かたじけない!」
ジューゾさん!騎士団のジューゾさんじゃないか!
バチバチと帯電する……なんだろう、あれ。
両端が刃になっている、長い槍みたいな武器を持っている。
ゲームとかの両刃剣ともちょっと違うね。
刃の向きは両端で逆になってる……初めて見た!
「イエ、依頼サレタノデ。アノ、ジュニチサンハイマスカ?」
にじり寄ろうとしてきた蜘蛛に最後のパイルを放ち、押し戻す。
「おお、あの御仁なら負傷して動けぬが命に別状はない――しゃあッ!!」
おお! ジューゾさんの肩アーマーからナイフが生えて飛んでいった!?
それは、蜘蛛の胴体を易々と貫通した。
す、すご~……生成っていうスキル、ああやって使う人もいるのか!
しかし、ジュニチさんは無事か!よかった!
「聞きたいことも御座ろうが、今は――」
ばじ、とジューゾさんの槍から紫電が跳ねる。
「ここを、片付ける! ぬううううううううううあっ!!」
なんと、ジューゾさんの槍の両端が伸びた。
雷が集まって、まるで刃が延長したみたいになった!
「者ども!結界役以外は打って出よォ!!」
「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」」
『まーっ!すっごいわ!草刈りみたいですっごいわ~!!』
上空のピーちゃんが興奮している。
どうやら向こう側で騎士さんたちが大暴れしてるみたい!
よーし!ボクもがんばるぞー!!
・・☆・・
「ギギ!」
飛んで来る魔力糸を、衝撃波スライドで回避!
すぐさま衝撃波を後方へッ!!
「ドッセイ!!」
肉薄して、右ストレートからの――パイルオンッ!!
蜘蛛の顔面を断ち割り、回転する棘が後頭部から飛び出した。
しばらく痙攣して……蜘蛛は成仏!
「……フゥ」
息を吐いて、周囲を観察。
『いないわ!いないわ!』
ピーちゃんが肩に戻ってきた。
いやあ……死屍累々とはこのことだねえ。
100を楽に超えるくらいの蜘蛛が、斬れたり割れたり焦げたり爆発して死んでる。
「ムーク殿!」
ボクの二倍くらいの数を虐殺してたジューゾさんが、ガシャガシャと足音をさせながら走ってきた。
「いやあ!返す返すもご助勢、かたじけのうござる!」
「イエイエ、ボクヨリ活躍シテタジャナイデスカ」
小型の台風みたいになってたし。
「いや、そなたが機先を制していただけたお陰でござる。それに、お仲間の方のご活躍も」
まあね、アルデアが子供を搬送してくれたから騎士さんたちもすぐに動けたんだろうしね。
「ソレデ、ジュニチサンハ……ア、イタ」
蜘蛛のなれの果ての向こう。
大木に寄りかかって立っているのが見える。
他の怪我人さんたちも大丈夫そうだ。
「アノ、何ガアッタンデス?」
勿体ないから成体の魔石を取りながら聞く。
足も結構おいしかったから、後でアカのお土産に持って帰ろっと。
「うむ、子供の痕跡を探していたら突如として森から湧き出してな。運よく子供は確保できたので、あの木を背にして防御陣を張っていたのだが……いい機会であった」
そっか!よかったよかった。
いやー、結局人攫いはいなくって魔物の仕業だったのね!
これにて一件落着!大手を振って村に帰れるぞ~!
『むっくん!南の方角から群れが迫っています!』
――そういえばいた!あそこにもいた!!
「ジューゾサン!南ノ方角カラ別ノ群レガ迫ッテマス!」
「なんと!? むうう、地底蜘蛛のスタンピードにしては規模が少ないと思っていたが……!」
少ないの!?
むっちゃいたと思うんだけど!?
「者ども!新手が来るぞォ! 怪我人を守りつつ遊撃で殲滅する!」
「「「オオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」」
うわわ、皆さんの士気がむっちゃ高い。
「ムーク殿、巻き込んですまぬが再度のご助力をお頼み申す。よろしいか?」
「言ワレナクトモ!」
はーいお疲れでーす!とは言えませんし言う気もないでーす。
ここまで来たら最後まで働くよ、ボクは!
「流石はザヨイ家に認められしもののふよ……! 者ども!我らも見習おうぞ!」
「「「オウッ!!!!」」」
ひぎい!声が大きい!
黒くてバキバキのアリさんの群れのほうが蜘蛛よりもよっぽど強そう!
『むっくん、これはいけるかもしれません。ピーちゃん! 空から偵察をお願いします! そして、一番大きい蜘蛛を見つけてください』
『はーいっ! 任せてちょうだい!』
ピュイ!と一声鳴いてピーちゃんが舞い上がる。
でっかい蜘蛛?それってどういうこと?
『群れを統率する長がいるはずです! コボルトの時と同じですよ! 長を倒せば群れは引きます!』
あ、なるほど!
……ちょっと待てよ、それならアレが使えるカモ!
・・☆・・
「ムーク殿、お頼み申す!」
「了解デス!」
アリさんたちがそれぞれあの変わった槍を構える中。
ボクはそこからちょっと離れた、後ろに何もない場所に立っている。
「外シタラオネガイシマスネ!」
「ご懸念なきように!」
魔力充填――胸カバー展開ッ!
『ピーちゃん、案内よろしくっ!』
『どんどんこっちに来てるわ!来てるわ!あーっ!後ろの方にとっても大きいのがいるわ!』
来たか――!
さっき取った蜘蛛魔石を噛む!
お腹の下から発生した魔力を、胸に集中――!
じじじ、という音がやがて……ヴヴヴヴに変わり、胸の宝石が輝き始めた!
再生した両足パイルを地面に突き刺し、体を固定!
以前の失敗を踏まえて更に隠形刃腕を展開!前方に深く突き刺す!
さらに補助翼を展開、これで準備万端だ!
『来たわ!来たわーっ!!』
前方の木が揺れ、倒れる。
そして湧き出すチビ蜘蛛の群れ!続く成体の群れ!
さらにその奥に――見えた!
成体よりも二回りくらい大きい、体に赤いラインの入った蜘蛛!
「撃チ――マスッ!!」
視認した瞬間に、渦を巻いた魔力を解き放った。