第22話 頑張りますよ、冒険者だもの!
「――開門ッ!かいもおおおおおおおん!!」
遠くの方から、切羽詰まったような大声が聞こえてくる。
「ナンダロ」
「あむむ……むむむ!」
お昼ご飯のサンドウィッチを頬張っていたアカが、ボクの肩に立ち上がって真剣な顔をした。
「ちのにおい、しゅる!たいへん、たいへーん!!」
血の匂い?
それはまた……穏やかじゃないね。
「子供ば探しに出た方々に、何ぞあったのでしょうか?」
ロロンも心配そうだ。
「さてねえ……少し、回復系のタリスマンを用意しとくかい。この村に専属の薬師はいなかったしねえ」
早速バッグからいくつかのタリスマンを取り出し、吟味し始めるカマラさん。
行動がとってもお早い!
「とっとと食って場所を開けるよ。怪我人が運ばれてくるんならここだろうしね」
しばらく後、カマラさんが言ったように……ざわつきがこっちにまでよく聞こえるようになってきた。
これは……トラブルかな?
・・☆・・
「おい、しっかりしろ!傷は浅いぞ!!」
「湯だ!湯をありったけ持ってこい!!」
「重傷者はこっちに運びな!魔力操作に自信がある連中は手伝っとくれ!!」
「切り傷は先ず傷口を綺麗にするのす!なに痛ぇ? おだづな!死ぬのよりはマシだなっす!」
あっという間に、村の広場は修羅場と化している。
朝早くに出て行った子供の捜索隊……その人たちが、満身創痍で帰って来たんだ。
今は、村の女性陣にカマラさんとロロンも混じって急ピッチの救護が行われている。
みんなとてもよく動くなあ……凄いや。
え、ボク?
基本的に役立たず虫なので端っこに避難しています。
手持ちのポーションは緊急用を除いて全部放出したけどね、これくらいはしないとね。
「歪な切り傷が多いのナ……相手は人ではなくて魔物だナ」
ボクの隣にはアルデアさんがいて、所在なさそうにしている。
その肩にはピーちゃんが。
アカは……ああ、カマラさんの所だ。
何かのお手伝いなのか、タリスマンに手をかざしている。
ううむ……こういう時用のスキルとか欲しいよね。
身の置き場が!ナッシング!!
でも手伝うことってないんだよね……慣れてない虫がウロウロしてたら迷惑になっちゃうし。
うむむむ……!
「ヘエ、ワカルンデスカ?」
「手持ちの武器で付く傷ではないのナ。傷の間隔と方向、切り口から見て……恐らく背の低い魔物なのナ」
「ホホウ……スゴイデスネ」
「この程度、大したことではないのナ。しかしムーク、いい加減言葉が固いのナ? 恐らく私よりも年上ナ?」
恐らくここのどの人よりも年下です。
しかし、言っても信じてもらえないだろうしなにより魔物認定待ったなし!
「私は19だが、さすがにムークは年上だろうナ。いいから普通に話すのナ」
じゅう……く?
嘘でしょ、ボクより身長高いのに!?
ごめんなさい!20代後半とかかと思ってました!ました!!
だって大人な美女にしか見えないんだもん!!
『ちなみに空の民の結婚適齢期は男女ともにニ十代中盤からですね。アルデアさんが見合いを勧められたと聞きましたが、かなり早目ですね……』
『あー、たぶんだけどさ。この子むっさ美人だから周りからせっつかれてんじゃね? あるあるだわー』
『ムロシャフト様的にはどうですか?』
『愛のない結婚はノウ! しかもこの子の場合男の方ばっかり入れ込んでたカンジだかんね~、ギルティ!!』
ボクの脳内でこうなるの、最近慣れてきた。
慣れとは恐ろしいものであるなあ……なんで頬をパンパンされてるの!?
「アデデデ」
「女の話の途中でぼうっとするとはナ。眠いのナ?」
「ゴ、ゴメンナサ……ゴメン、アルデア」
そう返すと、彼女はにっこり笑った。
「フム、許してやるのナ」
『ギルティ』『ギルティっしょ』
なんでさー!?
「――おじちゃん!ムークのおじちゃん!!」
うおっと!?
ど、どうしたのジローベくん!?
泣いたりして!?
「と、とうちゃんがいない!いない!」
「イナイッテ……アノ中ニ?」
そう聞くと、ジローベくんは涙をこぼしながら頷いた。
「うん!いない、いない~!」
とりあえず頭を撫でておこう。
そっか……いないのか。
よくよく考えてみれば、朝出て行った総数の半分くらいの人しかいない。
残りは別行動なのか、それとも……いや、こんな考えは駄目だ。
「お、おじちゃ!こ、これ……!」
ジローベくんが両手を差し出してくる。
その手の中には……汚れた10ガル硬貨が、ふたつ。
「ぼうけんしゃ、なんでしょ!? こ、これ……いらいきん!」
いらいきん……依頼金か。
「おねがい!とうちゃんを、とうちゃんをたすけて!これでたりなかったら、おれ、はたらいてきっとはらうから!おねがい、おねがい!!」
そこまで言うと、ジローベくんはボクに縋ってわんわん泣き出した。
ふむ、ふむふむ……ふむん。
『朝に出て行った一団は、まっすぐ東へ向かいましたよ。帰ってきた時間からして、さほど遠くではないでしょう』
あれ、今ボク助けに行くぞ~って考えてました?
『ふふ、私のむっくんは困っている子供を見捨てるような虫ではありませんから』
おう……心があったかくなった!
「ウン、コレデ十分ダヨ」
その気持ちを抱えたまま、ジローベくんをもう一度撫でて立ち上がる。
そしてバッグに手を入れて、マントとヴァーティガを取り出した。
マントよし!腹巻よし!ヴァーティガよし!
「ジャ、行クネ」
「う……うん!ありがとお!!」
よし、さっそく話ができそうな怪我人を探して話を――お?
ボクの肩が、何かに掴まれている。
いや、何かじゃなくて……これは、アルデアさんのおみあし!?
ヒョエッ!?いつの間に舞い上がったの!?
「20ガルか、2人分の依頼料には十分ナ!」
「エッチョ――キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?!?」
頼れるおじちゃんとして格好いいところをジローベくんに見せようとしたボクは、情けない悲鳴を上げながらすぐさま上空に飛び上がった。
締まらない!劇的に締まらない!!
ホラ!下の方に見えたジローベくんポカーンとしてるじゃん!ンモー!!
『アカーッ!おやびんちょっとお仕事してくるから~! カマラさんのお手伝い頑張ってね~!!』
『あーい!おやびんもがんばゆ、がんばゆ~!!』
とにかく、頑張るよ~!!
あと、今更だけどアルデアさんも全快したんだね!
よかったよかった!!
・・☆・・
「イキナリ何ナノサ!?」
「細かいことは気にするナ。それでどっちナ?」
「東ニマッスグ!」「了解ナ」
あっという間に村の上空まで舞い上がったアルデアさん……否、アルデア。
彼女もリーバンさんみたいに飛ぶのが上手ねえ。
でもノープランじゃないの!
せめて聞き取りしたかった!!
『探し物なら私もお手伝いするわ!するわ~!』
おっとピーちゃんまで。
キミも飛ぶの上手だねえ……インコに飛ぶのが上手って嫌味になっちゃうかしら。
「ムーク、あの子が何も持っていなかったら依頼を受けたナ?」
「ハ?受ケナイヨ?」
あででで!?肩に爪が!爪が凄い喰い込んでる!?
「ソノ時ハ『ムークオジチャン』ガ勝手ニ手助ケスルダケ! 冒険者ハ報酬ガアル時ダケ名乗リマス!!」
無償依頼もバンバンやっちゃうよ~!ってことではない!
そんなことしてたら過労死虫になっちゃうし!
でも――
「相手ガ子供ダシネ、ドッチデモ受ケタヨ、ボクハネ」
ほっ。
なんか爪が優しくなった。
これでよかったのかな?
「持って回った言い方をするナ。危うく軽蔑しかけたのナ」
「ジャア、ソノ可能性ハナクナッタネ」
くく、と喉を鳴らして――アルデアが翼を打つ。
途端に、ぎゅん!と前方向へカッ飛ぶ感覚!!
ボクの衝撃波と同じくらいの加速力だ!魔力はアルデアの方がうんと少ない使い方だけどね!
「ふふん、お前は面白い男なのナ! それに雄々しく、優しいのナ!」
急に褒めるじゃんよ。
ま、甘んじて受けよう!
『そうよ!むっ……ムークさんはとってもいい虫さんなんだから!』
今むっくんって言いかけたでしょピーちゃん!
キミも飛ぶの速いねえ!セキセイインコのカタログスペックは余裕で超えてるね!
「さあ、一気に行くのナ!」「ヨロシクオネシャー!」
・・☆・・
「あーあー、行っちまったよ」
「流石はムーク様でやんす! お供できねえのが少しだけ悔しいなっす!」
「アンタ、本当に親分が好きなんだねえ」
「んにゃー!? にゃ、そ、そりは、その、お、お慕いする親分でやんすから!と、ととと当然でやんす!」
「わかった、アタシが悪かった。悪かったから薬草を握り潰すのをやめとくれ、それはそうして使うもんじゃない」
「がんばえ~!おやびん、がんばえ~!」