第21話 のどかな村は最高。
今更だけど、ボクがいる村の名前は【ラドル】
人口はわかんないけど、頑丈な塀の内側にお家が30軒くらいはある。
子供の姿を見ないのは、まだ朝が早いからだろうか。
武装した虫人さんたちが、ついさっき騎士さんたちと連れだって出発していった。
例の子供たちを探しに行くんだろうね。
返す返すも、見つかるといいなあ。
「ムーク様、どんぞ!」
「アリガトウ!」
ロロンが出来立てのスープを渡してくれる。
ふむ、今日の具はなんじゃろね……ズズズズ!
ムムム!タマネギとジャガイモ的な何かがゴロゴロと入っていて……!
「オイシイ!トッテモオイシイ!!」
「じゃじゃじゃ……えへへ」
香辛料の味も効いてて、パンにもよく合う!
朝からこんなにおいしいもの食べていいんだろうか?
「オイシイネエ、アカ、ピーチャン」
「まぐまぐ、むいむいむい……おいし!おいし!」
『もごむももももも』
アカはパンくずをほっぺに付けてるけど、とっても美味しそうに食べてる。
ピーちゃんは……あの、毎度のことなんだけど頭全部スープにぶち込んで飲むの、ビジュアル的に猟奇的すぎるよ。
まあ、尻尾というか尾羽がビュンビュン振られてるから美味しいんだろうけどさ。
「妖精は大気から魔力を吸収すると聞いていたが、口からも食べるのナ」
爆睡してボクの膝に涎をこぼしたとはとても思えないほど、アルデアさんは優雅にパンを齧っている。
切り替えが凄いや。
「アカハマダ子供ダカラネ……ピーチャンハデキルケド好キジャナインダッテ」
「こ、好みの問題なのナ?」
前に聞いたら『味がないわ!味がないわ!』って言ってた。
一応お腹は膨れるけど、ちっとも満足しないらしい。
たからちゃんとご飯を食べるんだってさ。
『ぷはっ……好みって大事なのよ?人生には喜びと美味しいご飯が必要だって、昔さっちゃんが言ってたわ!言ってたわ!』
あああ、スープまみれになっちゃって……一瞬で乾いたけど。
正確には直接吸収したけど。
それはそれとして拭いてあげようか。
『優しいお手々だわ!さっちゃんを思い出すわ!』
多分最上級に褒められたね、ボクは。
……アカ!拭いてあげるから『スープに頭ぶち込もうかな?』みたいな顔はやめなさい!
火傷しちゃうでしょ!!
「むんむんむん……えへぇ、えへへぇ」
まったく、可愛らしい子分筆頭だこと。
『朝から可愛らしい虫を見て、身心ともに癒されましたよ……ふふふ……』
ヴェルママ!?声に無茶苦茶元気がないよ!?
お仕事終わったの!?大丈夫!?
『私は自由の身になったのです……嗚呼、清々しい気分ですよ……私が見ていない間にまた雄々しく頑張ったようですね……ヴェルママポイントを差し上げておきますよ……』
あ、ありがとう!とっても嬉しいな!!
『メイヴェル様、こちら激辛タンタンメンとチャーシューご飯のセットです』
この女神様、朝からなんて重たいものを!?
『ゾルゾルゾル……おお、この突き抜けるような辛み!活力が湧いてきました!』
『ちすちーす、トモちん美味しいもんちょうだーい』
トモさんのお部屋がやっぱり定食屋みたいに!
『私にあれだけの仕打ちをしておいてよく顔を出せますね……!』
『ブーメラン突き刺さってるスよ、メイヴェル様。おーなにこれうまそ!?さっちゃんの時代にはなかった麺料理!』
『ムロシャフト様には油そばと追い飯のセットです、どうぞ』
こっちのご飯も美味しいけど!そっちも美味しそう!!
脳内に飯テロぶち込むのやめろください~!!
・・☆・・
『待て~!待ちなさ~い!』
「きゃーははは!あはは~!」「逃げろ~!逃げろ~!」「こっちこっち~!」
朝食後、倉庫からほど近い村の広場。
そこでは、むしんちゅのキッズたちとウチの妖精メンツが遊んでいる。
あのドッヂボールと鬼ごっことかくれんぼが悪魔合体した遊びはナニ?
みんな楽しそうだからいいけど、皆目ルールがわかんない虫である。
ボクはといえば、ヴァーティガをバッグから取り出して磨いている。
傷も汚れもないけれど、それとこれとは別。
いっつもお世話になってるからねえ、これくらいはしないとねえ。
「綺麗な棍棒なのナ。近くで見るとよりそう思うのナ」
「幾たびもムーク様の危機ば救ってきた、できた棍棒なのす!」
アルデアさんもロロンも、自分の得物を手入れしている。
暇な時にやっとかないとね、いつ戦いになるかわかんないもんね。
カマラさんは川に洗濯……じゃなくて、倉庫前でタリスマン屋さんをしている。
村のお爺さんお婆さん、それに奥様方に大人気だった。
行く先々で売れてるし、やっぱりあの人のタリスマンってすごいんだろうなあ。
『私がざっと計算した相場よりも安いですし、一般的なタリスマンに比べても出来がとてもいいですからね』
ふむふむ……トモさん、お二人は帰った?疲れてない?
『しこたまお召し上がりになって仕事へ行かれました。ふふ、お気遣いありがとうございます、大丈夫ですよ』
それならよかった。
あれからもたまに『おかわり!』とか『ヤサイマシマシチョモランマ!』『アブラ多め!麺硬め!』とかいう変な呪文が聞こえてたからね……
『ぶっちゃけ普通ならお話できるような地位の方々ではないので、貴重な体験ですよ。むっくんのおかげですね?』
それはどうか知らないけど、トモさんが嬉しいとボクも嬉しいからいいや!
よーし、ボクも張り切って磨いちゃうぞ~!
「おっきいこんぼー!すっごい!」
おや、キミはジローベくんじゃないか。
無限鬼ごっこは休憩中かな?
「ねえねえ、さわってもいい?いい?」
「……重イヨ?」
トモさんトモさん、この子は大丈夫?
『認められてはいませんが、無慈悲とは対極にいる存在ですので大丈夫でしょう。心配なら、むっくんが握っている状態で触らせてあげなさい』
よし、じゃあ立てかけて、と。
「ハイ、ドウゾ」
「ふわ~!おもい!すっごいおもーい!!」
ボクがほんの少し力を弱めると、ジローベくんは尻もちをついた。
なるほど、雷も出ないし変な感じもしない。
一般子供にはこのくらいの対応なのね、ヴァーティガ。
「おじちゃん、ちからもちだね!すっごいな~!」
「鍛エタカラネエ」
ボクらのわちゃわちゃを見たのか、他の子供たちも寄ってきた。
「さわらせて~」「ぼくも~」「わたしも~!」
おお、大人気だ。
「ハイハイ、順番ネ、順番」
……なんか、心なしかヴァーティガが嬉しそうに見えなくもない。
キミも子供好きか、仲良くなれそうだね!
・・☆・・
「アカちゃん、ピーちゃん、おじちゃんもまたね~!」「またあそぼうね~!」「またね~!!」
「……ハァイ、マタネ~」
ちかれた。
子供の無尽蔵体力を見くびっておったわ……
ルーニちゃんを思い出して、抱っこしてフワフワ飛んでみたらもう人気者になっちゃって……結局全員を2回ずつ抱えて跳ぶ羽目になった。
お空を飛ぶのはどこの子供も好きなんだねえ。
「ムークの飛び方は私達とも全然違うから面白いナ。飛ぶというより吹き飛ぶように見えるけどナ」
アルデアさんはベンチに寝転がって笑っている。
そらんちゅに比べたらさぞ力技でしょうねえ……
「ソモソモ長時間飛ベナイシ、ボク。アレハアクマデ緊急避難ダヨ」
「それもそうだナ。でも、あの瞬時に体を動かす技術は驚いたナ、アレは強力な戦闘手段なのナ」
バレリアさんにも言われたね、それ。
結構練習したから、テレビゲームのロボットみたいにサイドスラスター!バシュウ!できるようにはなってきた。
その程度の推進力なら、そんなに魔力使わないしね。
「ムークは子供好きナ? 戦士にしては珍しいナ」
「ウンマア、普通ニ。珍シイ?」
ボク自身が精神年齢子供ってこともあるけども。
『まあ、少し前まで謎虫でしたしね』
だよねえ。
そしてたぶんこの村のどの子よりも寿命が短いしね……ね……
『あと1年9カ月ですね』
地味に増えた!
魔石モグモグの成果が出たね……でもまた突発的な大怪我とかで消えなきゃいいな。
「ウチの部族はみんなそうなのナ。子育てと教育は全部女の仕事なのナ……私はそれも嫌だから里に帰りたくないのナ」
ほうほう、なるほどね。
「ソレ『モ』?」
「女を孕み袋としか見ていない輩が多いのナ。嘆かわしいナ」
オウ……の、ノーコメントで。
そらんちゅさんにも色々あるんですねえ、大変ですねえ。
「ソ、ソレデ旅シテルノ?」
そう聞くと、彼女はニヤリと笑った。
「……フフン、いい言い訳ができたのナ。私は好きに旅をして、適当な街に定住しようと思っているのナ」
自由だ……!
「それに、私の上には6人の姉者がいるのナ。誰かが婿を取って家を継げばいいノナ……姉者たちも私にはほんの少し劣るが、まあそれなりの美人ナ、きっと大丈夫ナ」
「フーン、ナルホド」
ま、人には人の生き方があるよねえ。
ボクも好きに生きていくつもりだし。
「虫人の目から見て私はどうナ?」
「トッテモ美人、ソレニ羽ガ格好イイ」
ボクも自由にビュンビュン飛びたいなあ。
現状はビュゴー!止まれない!!って感じだし。
「はっはっは、なんだその感想……まるで子供ナ、子供!」
アルデアさんが楽しそうで何よりです、ハイ。