第20話 村での目覚め。
色々あった昨日の夜に寝て、起きて……朝。
倉庫の床で寝たので若干体が固いな~なんて思いながら外に出ると……カブトムシがいた。
二足歩行の、カブトムシ。
そう!もはや懐かしいボクのクソデカ森林時代にそっくり!
身長も1メートルいかないくらいで、目がクリックリでかわいいのよ。
ボクの時は兜のせいで眼つきが悪かったけど、この子は子供!って感じ。
でも手足は4本なんだね……ボクの時はちっちゃい腕あったけど。
ううむ、不思議!
「ふわ、つのおっきい!かっこいい!」
その子はボクを見て、興奮して飛び跳ねている。
はっはっは、苦労して進化したからね!
さぞ格好よかろうよ!フハハ!!
「ヤア、オハヨウ」
「おはよお!」
全力で生体装甲!って感じだから……この子は男の子かな?
何歳かは……ぜんぜんわからん。
子供ってことしかわかんない。
っていうか、ボクむしんちゅの子供見るの初めてだ!
こんな感じなのね~。
「ボクハ、ムーク」
「ジローベ!」
ほうほう、元気に挨拶できてえらいねえ。
「おじちゃん、ぼうけんしゃのひと?」
「ソウダヨ」
ジローベくんは目をキラキラさせながら近付いてくる。
……ボクはおじちゃんに見えるのか。
いや、そういえばラーガリのドラウドさんとこのルーニちゃんもおじちゃんって言ってたしな……
子供からすれば、大人はみんなおじちゃんか。
「ねえねえ、どうすればそんなにおおきくなれるの?」
……今気付いたけど、ボクってばこの子よりも年下だよね、この世界では。
なんともコメントに困るけど……
「イッパイ食ベテ、イッパイ寝テ、イッパイ戦ウ……カナ?」
戦うは余計だったかなあ?
「たたかう!ねえねえ、どんなまものとたたかったの!?」
倉庫の前にあるベンチに腰掛けると、ジローベくんも隣に座った。
随分人懐っこいねえ、かわいいな。
「ソウダネ……大地竜トカ、オオムシクイドリトカ、コボルト、ゴブリン、ソレニ最近ハグリュプスカナ~?」
「ふわあ!すっごい!すっごい!!」
むっちゃ跳ねるじゃん、この子。
座った状態からそんなに跳ねるなんて、将来有望だねえ。
「きのうきたひとでしょ?じっちゃんが、すっごくつよそうなひとがきたっていってた!」
「強ソウニ見エル?」
「とおっても!ぼく、こんなにおおきいつのみたことないや!」
なるほど。
角アリ種族だと大きさで色々あるのかな。
ゲニーチロさんの角も大きかったもんなあ。
「ジローベ!おーい、ジローベ!どこ行った~?」
「とーちゃん!ここ、ここ~!!」
遠くの方からの声に、ジローベくんが答えた。
それからしばらくすると……弓を持ったカブトムシさんがぬっと現れた。
おー!こっちは大人だ!
ジローベくんが順当に成長するとこうなります!って感じの!
「やあ!こりゃあお客さんに迷惑かけちまって……」
その人はボクを見ると慌てて寄ってきた。
「イイエ、全然デスヨ。カシコイオ子サンデスネ」
「いやあ、ただのわんぱく坊主だよ。昨日来たって旅人さんだね? 俺はジュニチ」
「ムークデス」
うーん、ここの村ってそんなに広くないからか情報が回るのも早いのかしらね。
「おやびん!おやびん、どこ、どこぉ~?」
おっと、倉庫から寝ぼけたアカがフラフラ出てきた。
「ココ、ココ」
「いたぁ!おはよ、おはーよ!」
べシーン!って感じで兜に飛びついてくるアカ。
キミほんとソレ好きだねえ。
怪我しないでね?
「ようせいさんだ!」「ふえ~?」
ジローベくんが目をキラキラさせて見ている。
「こいつはたまげた。人の形した妖精なんておとぎ話でしか聞いたことねえ」
ジュニチさんもビックリしている。
トモさんやラーヤが言う通りだね。
レアキャラだ、アカは。
「ぼく、ジローベ!」「アカ!アカ!よろしく、よろしくぅ!」
一瞬で仲良くなったね君たちは!?
アカは空中で謎ダンスを踊り、ジローベくんは楽しそうに跳ねている。
「とうちゃん!ようせいさんだよ、ようせいさん! シーロとヤシコもびっくりするよ!」
「……おう、そうだな!」
む?
ジュニチさん、今なんか一瞬言いよどんだぞ?
「おじちゃんのこともみたらびっくりするよ! ねえねえ、まだかえってこないの?」
「おー……まあ、一日二日くらいの遅れはよくあるこった」
……なんか、昨日聞いた話にあったような……?
「おっとジローベ、そういえばさっきばあちゃんが呼んでたぞ。鳥小屋の掃除やってねえんじゃねえのか?」
「あーっ!わ、わすれてた!」
「それ見ろ、早く行った行った!」
ジローベくんが慌ててベンチから下りて、村の奥へ走っていく。
「おじちゃん!またおはなしきかせてね~!」
「ハーイ!」
おお、はやいはやい。
将来はいいランナーになれるかもしんないねえ。
「ジュニチちゃん。帰ってこない2人ってのは、さっき言ってた子たちかい?」
カマラさんが、いつの間にか倉庫の戸口に立っている。
全然気づかんかった……!
ていうか、お知り合いなんだね?
「ああ、その通りだよカマラさん。これから若い衆で探しに行くんだ」
ジュニチさん、とっても心配そうな声色だね。
「アンタの子かい?」
「いんや、弟んとこだ。ジュジロのやつ、丁度フルットへ出稼ぎに出ててな……今はウチで一緒に暮らしてるんだよ」
ああ、そういうことか。
密な親戚関係ってやーつですね。
「本当はもっと早く出たかったんだがよ……グリュプスのツガイがうろついてるんで、中々村から出るわけにもな。討伐されたって聞いてほっとしたぜ」
「ああ、そのグリュプスをやったのがこのムークちゃんさね」
「おやびん、つおい!さいきょ!」
朝から褒めるじゃんアカ……くすぐったいねえ!
「そいつは本当か!? おお……ありがとうよムークさん!これで空を気にせず探しに行けるってもんだよ!ありがとう!」
「オワワワ」
無茶苦茶手を握られた!なんか軋んだ気がする!
この人も力強いねえ!
「あんたらだけで行くのかい?」
「まさか!巡回騎士さんたちも来てくれるってさ!ほんと、首都の殿様たちにゃあ頭が上がんねえや!」
あ、巡回騎士団ってどこかの貴族さん?が運営してるのね。
『正確に言えば共同運営ですね。トルゴーンの一定以上の家は辺境の治安維持に兵を出すのが責務となっているのです』
ほ~、えっと、の、のーぶる……
『ノブレス・オブリージュ。上に立つ者は下々の民を篤く守護すべし、という考え方ですね』
そうそれ!
しっかりした貴族さんがいっぱいいるんだねね、トルゴーン。
『しっかりしていない所もありますが。現にトキーチロさんが道連れにした例のお家とか』
……そうだねえ。
そして、ジュニチさんはもう一度ボクにお礼を言って去って行った。
ううむ……見つかるといいねえ、ほんとに。
・・☆・・
「なんだなんだ、みんな早いのナ。少しはピーちゃんを見習うのナ」
『お酢と胡椒で食べる餃子は最高よ……最高だわ……』
戸が開いて、見るからに眠そうなアルデアさんと……その胸元にすっぽりハマってピヨピヨ寝ているピーちゃんが出てきた。
お酢と胡椒!? なにそれボクやったことない!
「病み上がりにしても寝すぎさね。アンタ、それでよく一人旅ができたもんだねえ」
「多少寝坊しても飛べば関係ないのナ……フワァ」
アルデアさんは大あくびして、ボクの隣に腰かけた。
「むにゅ……朝ご飯ができたら起こして欲しいのナ……」『マヨネーズも意外と合うのよ……合うのよ……』
「……ナゼ、ボクノ膝ニ」
「枕は硬い方がよく眠れるのナ……」
そして、流れるように膝枕で就寝した。
この人は……アレだね!自由人だね!!
「空の民は大体こんなもんさね。前に会った男連中はむしろ少数派だよ」
「ソ、ソウナンダ……アレ、ロロンハ?」
倉庫でまだ寝てるのかな?
「何言ってんのさ。あの子はとっくに起きて……ホラ、あそこにいるよ」
カマラさんが指差す方を見ると……そこには、テキパキとお洗濯をするロロンの姿が!
お、おおお……全然気づかなかった。
親分として恥ずかしい!
あ、こっち見た!
……手を振っとこう!
ロロンは嬉しそうに、両手をブンブン振り返してきた。
かわいい。
「できた子だよ、本当に。よほど周囲の大人がよかったんだろうねえ」
それは、ボクも本当にそう思う!そう思う!!