第19話 あ、ソイツならもう成仏させました!
「何者だ!何をしに来た!」
「動くんじゃないぞ……照らせェ!」
やっとたどり着いた村の門。
その塀の上から、ギラリと光るボルトを装填しているクロスボウで狙われている。
「……カマラさん、この村はいつもこうなのナ?」
「そんなわけないよ、おかしいねえ……前に来た時はこうじゃなったんだけどね。それに……今クロスボウを向けてる連中は……」
カマラさんは首をひねっている。
「――ありゃあたぶん、巡回騎士団だね」
なにそれ!?急に格好いい名前がお出しされたぞ!?
「ホウ、それは何ナ?」
「首都で選抜された腕っこきの連中さ。結構な数が国中を回っていて、災害の救援とか魔物の討伐とかをやってるよ」
ほうほう、つまり巡回してる自衛隊みたいな?
と、そこまで考えた時に強い光で照らされた。
うお眩しっ!?投光器かな?
「旅のものよ、何故ここへ来た?」
逆光でよく見えないけれど……触角の影が見えるからむしんちゅさんだね?
「しがない旅のタリスマン商人と、その護衛の冒険者さね。前にもここには泊まらせてもらったから、今回も宿を頼もうかと思ってね」
「……証拠はあるか?」
証拠?
そんなもんないでしょ?
「村長のゴロマールさんに聞きな。『タリスマン売りのカマラ』が来たってね……それでわかると思うよ」
……あ!
ちょっと待って!
「スイマセーン!チョットコレ!コレ見テクダサ~イ!」
撃たれないようにゆっくり動き、バッグに手を入れて――ゲニーチロさんにもらった駒を取り出す!
こういう時に使わないとね!
「戦駒の割符……か? お前、その場で魔力を流してみろ!」
え?魔力を?
なんでじゃろね……むんっ!
う、ウワーッ?
戦駒に魔力を流したら、空中に表示される謎文字!?
ボクこんな機能知らない!知らなぁい!
「ふむ、六角の縁取りに……交差する刃と、【龍】だと……」
さっきから質問してくるむしんちゅさんが、ここから見てもわかるくらいに震えている。
いきなりどうしたの、お腹痛いの?
「ざ、ざざざザヨイ家の魔導紋……!? 者ども開門!かあああいもおおおおおおん!丁重にこちらへお連れせよ!」
え、えええ……?
いきなり態度が変わったっていうか、皆さんの雰囲気が柔らかくなったぞ!?
・・☆・・
「先だっての不躾な態度、誠、誠に! 申し訳ござらん!」
そして、現在。
村の広場まで案内されたボクらの前で……でっかい、たぶんアリっぽいむしんちゅさんが綺麗な土下座をしている。
その後ろには、同じように続く兵隊さんたち。
つまり……目の前には、土下座をしているむしんちゅさんの群れ!!
ヒィーッ!? ゲニーチロさんのお守りの効果が凄すぎ!!
「やめとくれよ極まりが悪い……ねえ、ムークちゃん」
「アッハイ、ソウデス。ボクハ偉クトモナントモアリマセンシ、気ニシテモナイデスカラ」
偉いのはゲニーチロさんですよ~!
くそう!良かれと思って出したら予想以上にひどい目にあった!
「おお、カマラさんじゃないか!」
と、土下座集団の後ろからよたよた出てくる人影。
おお~……げ、ゲンゴロウ?っぽいお爺さんだ。
いや、外見はそうじゃないけど声はお爺さんなので。
杖もついてるしね。
「ゴロマールさん、元気そうだね」
「元気も元気……驚いただろうが、騎士さんたちを怒らないでおくれ、今ちょいとここいらはバタバタしていてね……」
……なんか事情がありそうだねえ。
他の村人さんたちも、遠巻きながらこちらを心配そうに見つめている。
「むにゃ……おやびん、ついた?ついたぁ?」
マントの中から出てくるアカ。
寝る子は育つからねえ、元気に大きくなっておくれよ~?
『あら~?この人たち、なんで土下座してるの?驚いたわ、驚いたわ!』
続いてピーちゃんも!
キミも気分でよく眠るねえ。
「たまげたね、妖精じゃないか……妖精が懐くならいい人だね、おにいさん。ははは」
村長のゴロマールさんが、こちらを見て笑っている。
あの、アカもピーちゃんもなんで頭に登るんですか。
地味にバランスがとり辛いんですのよ?
「……アア、ソレハトモカク皆サン立ッテ下サイ!コノママジャ話モデキマセンカラ!」
とにかく、皆さんに事情を聞こうにもこの状態ではねえ……立って立ってェ!
「名乗りが遅れまして、申し訳ござらぬ。ソレガシはジューゾ、ユーリ・ジューゾと申します」
なんやかんやあって、ボクらは村長さんのお宅に招かれた。
ここにいるのはボクらと……村長のゴロマールさんと、さっき真っ先に土下座したジューゾさん。
おお……明るい所で見るとなんとも強そうなアリさんだ。
体なんか、ボクの生体装甲よりもゴツゴツしていて超硬そう。
黒光りしていて格好いいなあ。
「ドウモ、ボクハムークデス」「アカ!アカ!」『私はピーちゃん!』
キミたちまだ頭から下りないねえ……いいけどさ。
「カマラさ。さっきも言ったけど旅の行商だよ」
「【跳ね橋】のロロンと申しやんす!」
「【螺旋大樹】のアルデアだナ」
お互い自己紹介も終わったねえ。
「それで、村長さんとこちらさん、どちらに聞いたらいいのかねえ? 随分と物々しいじゃないのさ」
どうやらカマラさんが仕切ってくれるらしい。
口が回らない虫としては大変ありがたいですぞ。
「ああ、それはソレガシが」
ジューゾさんが村長さんと目配せをして、口を開いた。
「実は、この付近でベネノ・グリュプスが目撃されたのだ。知っての通り、あの魔物は狂暴で人を襲い、しかも毒を吐く……我々ならばともかく、一般の方々にとっては脅威となるのだ」
……ん?
アレ、それって……
「それ、何匹だい?」
「ツガイなので二匹でござる。少しばかり年を経た種らしく、老獪で……こちらも発見できていないのだ」
……まさか。
「ロロンちゃん、アレ出しな」
「はい!」
ロロンが腰に付けていた革袋に手を入れ、何かを取り出す。
「どんぞ!騎士殿!」
それを、ジューゾさんに渡した。
あ、あれってグリュプスの嘴じゃん!
「……まさか、ベネノ・グリュプスの嘴でござるか!」
「んだなっす!先日……こちらの!ムーク様が!単身で!二匹を討ち取ったのす!!」
無茶苦茶いい笑顔だ……ロロン。
まるで自分のことのように喜んでいる。
じゃ、じゃあボクも……ええっと、バッグごそごそ……あ、あった。
「葉ニ包ンデマスケド、中身ハ舌デス。二ツアリマス」
タンだ!って喜びたい所だけどこれ毒の塊なんだって。
じゃあなんで持ってるかっていうと……カマラさん曰く、薬の材料になるのでそこそこお高く売れるんだとか。
「拝見いたす……む、むむむ、これはまさしくベネノ・グリュプスの舌!」
見ただけでわかるってすごいなあ。
ボクには紫色でグロイ舌ってことしかわかんないや。
「……流石は【大角】閣下の魔導紋をお持ちの方……凄まじき、手練れということでござるな」
えええ?別にそれほどでも~……?
「そう!おやびん、しゅごい!とっても!さいきょ!」
アカが頭の上でドヤ顔をしている気がする。
「しかし、グリュプス相手ならさっきの態度はなんだい? いくら暗いったって、アタシらを魔物と見間違えたってのかい?」
あ、そういえばそうか。
魔物に警戒してるんなら、人は対象外だよねえ。
「村長殿……」
「ああ、そこからはワシが話そう」
ジューゾさんの後ろに控えていた村長さんが手を上げた。
「……実はのう、子供が2人、昨日から戻っておらんのじゃよ。旅人さんの話じゃ人族共の人攫いが出たって噂も聞こえてきたし……それで、あの態度じゃった」
……グリュプスよりも大変じゃないか!それ!
し、しかも人攫いだって!?
クソヒューマン!クソヒューマンだ!!
「人族ノ人攫イ……ヨ、ヨクアルンデスカ?」
「トルゴーンじゃあ少し珍しいがね、ラーガリでもよく聞く話さね」
ボクの問いに、顔を歪ませたカマラさんが答える。
「ナンノタメニ……?」
「決まってるナ、奴隷として国に持ち帰るのナ」
ひぃ!アルデアさんの顔もコワイ!!
「んだなっす!こういうときばかりは北と東で歩調を合わせやんす……見下げ果てた猿共でやんす!」
ロロンも怒ってるねえ……そっか、この世界の一部地域ってまだ奴隷制度あるんだ。
あー、そういえばいつぞやのうんちヒューマンがそんなことを言ってた気がする……!
「そういう噂のこともあってね、騎士団さんに探してもらってるんだけど全く足取りが掴めなくて……それで、みんな不安になってたのさ」
村長さんは本当に心配そうだ。
人攫いか、魔物かはともかく……目下子供が行方不明ってのは怖いし、心配だねえ。
「成程、そいつは心配だろうね……」
「だが、ムーク殿のお陰でベネノ・グリュプスの心配はしなくてもよくなったのが救いでござる。さっそく明るくなったら捜索隊を増やすとしよう」
そっかそっか、上空を気にしながら人探しなんて大変だろうしねえ。
「迷惑をかけたお詫びに、村の共有倉庫を自由に使っておくれよカマラさん。その、できれば明日からタリスマンも売ってくれると助かるんだが……アンタのは特に効き目がいいし、見た目も綺麗だし」
「こちとらソレが商売さね。いくらでも売るよ」
おお、なんとなく丸く収まった!
でも……行方不明の子供かあ。
心配だねえ。