第17話 電波中継虫、むっくん。
『ピーちゃん、ごめんね。あーしもさあ、ずっと見てきたんだから補佐の一つもしたかったんだけどさあ……決まりでね、そういうわけにもいかんかったんだわ』
『ううん、いいのよ!それよりもさっちゃんがいつも感謝してた女神様とお話しできて嬉しいわ!嬉しいわ!』
ヴィィイイイイン……と。
よし、もう一本切れたぞっと。
『あ!ひょっとして私を妖精にしてくれたのもムロシャフト様なのかしら!?』
『あー、それマジで違う。あーしもピーちゃんが死んじゃった時こっちでオンオン泣いちゃったし……んで、気がついたら妖精になってんだもん。マジでビビってさ、椅子から転がり落ちるしドアも突き抜けて階段からも落下したし』
ええと……これで丸太は三本できたね。
これだけあれば十分でしょ。
それではカムヒア隠形刃腕くん!まずは皮をこう、ベリベリッとな~!
『妖精担当の神もあったま固くてさぁ。ルールですので~!ってぜんっぜんピーちゃんのこと教えてくれんし……むかっ腹立って1000発くらいぶん殴ったら10年幽閉されかけたんよ』
『まーっ!大丈夫だったの!?』
『それがさ、メイヴェル様っていうお世話になった女神がいんだけど……その人があーしの10倍くらい暴れてなんかこう、ウヤムヤになったってわーけ』
『知ってるわ!虫人の女神様ね!とってもお優しい方だって聞いてるわ!』
『あーうん、まあ、そう? たぶん、そう? 部分的にはそう?』
魔力を通すと皮がペリッペリ剥けて気持ちいいねえ!
次は再びチェーンソーを出して適当な大きさに刻んで、っと。
『むっくんのスルー力がすごいですね』
んにゃ、だってさあ。
久しぶりのお話なんだから邪魔しちゃ悪いじゃん?
まあでも、ボクの脳味噌経由通信だから基本的に筒抜けなんすけどもねえ。
『まー!気にしないで!むっくんもお話しましょ!しましょ!!』
そして当然のように使われる真名。
バレたのがピーちゃんでよかったよ、本当に。
『ごめんし、マジごめんし』
『むっくんには声しか聞こえないのでわかりにくいかもしれませんが、今ムロシャフト様は土下座して床に頭がめり込んでいます。私の、部屋の、床に』
トモさんのお部屋が!!
……シャフさん、あのね、全然気にしてないから大丈夫ですよ?
だって相手がピーちゃんだもん、悪用とか絶対されないでしょ。
ま、それはともかくとしてよかったねえピーちゃん。
昔馴染みに会えてさ。
……あと、ボクからは触れないけどヴェルママとシャフさん暴れすぎでしょ。
神様ってみんな結構アバンギャルドね。
『そこだけは否定しておきますよむっくん!神々はみんな乱痴気騒ぎが好きで直情的な方が大多数……というわけ……では……うむむ』
どんどん語尾が弱くなっていきますよトモさん!
『……まあ、慕われておいでですので、皆様』
それは、そう。
こうなるとラーガリで見た戦乙女みたいな神様もどんな感じなのか気になってきた。
『ああ、ティエラ様ですね。あの方は――』
『おー、ティエラ様ね。ちょい前尻触った戦神を泣くまでボコってたね』
……元気があって大変よろしいです、ね。
さてと、丸太も分割できたから板状に加工していくでよ~。
厚みだけ揃ってれば後の人がいいように使ってくれるでしょ、多分。
『んでも、なつかしーね、さっちゃん。あーしは他の転生者知らんけど、順応も早かったね~』
『そうね!初めはびっくりしてたけど、さっちゃんはファンタジー小説が大好きだったからすぐに慣れてたわ!虫の人たちもみんな親切でよかったわ!』
トルゴーンの首都に転移だもんなあ。
ボクは芋虫スタートだからなんとも思わないけど、人間ボディで行ったらビックリしただろうねえ。
『それな!あーしも色々サポートはしたけど、転生した次の週に荷車作って商売始めるとは思わんかったし!』
『懐かしいわ!あの荷車は大工のコジューロさんが作ってくれたのよね!大きくてお顔がちょっぴり怖かったけど、とってもとっても優しい人だったわ!』
さっちゃんさんのバイタリティが凄いや。
『んま、首都ってのがよかったのもあるよね。マジ危なかったし、もうちょいさっちゃんの運が悪かったら候補地は北ノ魔国だったかもしれんのよね。あん頃の魔国はもう滅茶苦茶だったかんね~……結局最終的に戦争になっちゃったし』
うへぇ……それは帰らずの森スタートのボクよりもきついかも。
『戦争は嫌いだわ!嫌いだわ! さっちゃんの日本のお家も、ダイクーシューっていうので一回焼けちゃったんだって聞いたわ!』
ああ、苦労したんださっちゃんさん。
それは……現代人と比べても覚悟が決まってたかもしれないねえ。
『コジューロさんも、ご近所のマサーヨちゃんも、ジョジーちゃんもクーゾさんも……みんな、みいんな死んじゃったわ。とっても悲しいわ、悲しいわ……』
その当時を思い出したのか、ピーちゃんの目から涙がぽろりと零れた。
そっか、前にも言ってたけどご近所の仲良くしてる人たちが亡くなっちゃったんだよね。
とんでもない時代だよ。
もっと前の邪竜ヘッド大暴れ時代よりかはマシだろうけどさ。
『あん時の魔王マジイキってたかんね。人界の争いはよっぽどのことがないとあーしたちも手を出さないんだけどね……もうちょいヤバかったらロストラッドの北の地形変わってたかも』
そんなにヤバかったんだ、魔王って。
ヤマダさんたちが大暴れして大丈夫になったんだっけ?
『あーいや、むしんちゅが戦死するたんびに神罰落とそうとするメイヴェル様を羽交い絞めにして止めてね……あん時はキレすぎてマージ何言ってんのかわからんくらいキレてたし』
……愛が深いんだねえ、ヴェルママはすごいねえ。
『他にも守護種族に愛情深い神様がめっちゃいるしね。大変だった、マジで……戦神が総出で抑えにかかってたもん』
天界は天界でえらいこっちゃだったんだね……
『む、ヤッバ。定期会議の時間じゃん……ほいじゃねピーちゃん!また来るし!むっくん経由で!』
『はーい!待ってるわ!待ってるわ!』
会議とかあるんだ……あ!シャフさん、さっきルールがどうとか言ってたけどさ、今はピーちゃんとお話しするの大丈夫なん?
ボクやだよ、知り合った神様が牢屋にぶち込まれるの。
『お~? 何言ってんのむっくん。あーしはむっくんに『ちょっと大きな声で』話しかけてるだけだし! 近くにいる一般セキセイインコ妖精にそれが聞こえてても何の問題もないし!』
……神様のルールって結構ガバガバなんだねえ。
まあ、それならよかったよ。
『トモちんトモちん、この子将来とんでもないハーレムキングになるかもしれんし。優しさは美徳だけど、無自覚な好意ばら撒きはギルティ対象だかんね……あーしらでしっかり教育しよっか』
『ええ、私も色恋沙汰でデスるむっくんを見たくはありませんので』
ちょっと!いきなりなんでそんな血生臭い話になるのさー!?
・・☆・・
「こりゃまた切ったもんだね。製材所でも始める気かいアンタ」
「自然破壊ガ楽シクッテ……ツイ」
板材に変身した丸太をえっちら担いで、休憩所まで戻ってきた。
なんか癖になるんよね、この単純作業。
どっこいせ……っと。
「もう一軒休憩所ができそうさね。アンタ冒険者辞めても木こりで食っていけるよ」
「ソレモイイナア、ソレナラ自分デ家建テラレソウダシ」
旅が落ち着いたら大工のお勉強とかしようかしら。
「ま、親分としてやることやるんなら好きにしなよ。老け込むにゃちいと早すぎだがね」
そうですねカマラさん、ボクまだ一歳にもなってないので。
「アルデアサンハ大丈夫デスカ?」
「薬が効いてよく眠ってるよ。晩飯までは寝かしておきな……襲うんじゃないよって言いたいところだけど、ムークちゃんにその心配はしなくてもいいよねえ」
当たり前でっしゃろ。
弱った女性を襲うなんて男の風上にも風下にも置きたくないよ!
遠くの方ではロロンが針仕事をしているのが見えるね……その膝でアカがくうくう眠ってる。
うーん、何しようかな……あ!
釣りしようかな!まだ晩御飯までたっぷり時間あるし!
「エエット、ココラヘンニ……アッタ!」
バッグに入れといたんだよね、釣り竿セット。
お肉や野菜はまだまだあるけど、暇つぶしもかねてやろうやろうっと。
『ピーちゃん、釣り行く?』
『行くわ!行くわ!』
チュチュンと鳴いたピーちゃんを肩にのせて、今度は川の方へ行くことにした。
「はいはい、いってらっしゃい……深みにはまって流されるんじゃないよ」
ボクは幼児ですか、カマラさん。
・・☆・・
「ムム」
竿先がピクピクした……気がする!
と、その瞬間にギュン!と当たり!
「フィーッシュ!!……マタキミカ」
バシャーッと水面から姿を現したのは、いつぞやも釣った紫色のクソデカ化け物ザリガニくん。
もはや慣れたもので、河原に引き上げてから脳天にインセクトパンチを叩き込んで成仏させる。
そして、即席の生け簀に放り込んだ。
『ここ、ザリガニさんがよく釣れるのね!』
石をひっくり返して餌を探してくれてるピーちゃんが首を傾げている。
ほんとにねえ……もうこれで5匹目ですよ。
『はいむっくん!餌よ!餌!』
おお、ありがとうピーちゃん。
異世界ミミズさんがいっぱい集まったね……嫌いな人が見たら泡吹いて失神しそう。
『そういえば、ピーちゃんって虫は食べないの?』
そう聞くと、ミミズを穴に放り込んでピーちゃんは翼を広げた。
『まーっ!むっくん、セキセイインコは種を食べる鳥さんなの!肉食性じゃないのよ!』
え、そうなん?
なんかニワトリとごっちゃになってた、ごめんね。
『あれ、でもラーメンとか肉とか今は食べて……ああ、妖精だもんね。んん?じゃあ今は虫も食べれるの?』
『絶対においしくないから食べたくないわ!普通虫さんを生で食べないわ!』
『そう……だね……』
森だとそんなこと気にしてる暇なかったもんな~……
ほんと、現状恵まれたねえ。
『さっちゃんのお父さんは釣りが好きでね、ツリボリ?とかいう場所によく行ってたのよ!』
『そっかあ、いい人だった?』
『とっても!……さっちゃんのお母さんはお産の後すぐに死んじゃったらしいけど、お父さんがお店をしながら一生懸命育ててくれたのよ!』
シングルファーザーか、大変だったんだろうなあ。
昭和の時代に……
『ツリボリってどんな所だろう……って思ってたけれど、釣りがどんなのかはわかったわ!』
肩に戻ったピーちゃんは嬉しそうだ。
うんうん、楽しいことはいいことだね、とっても。
『むっくんの生きてた時代には、きっとお父さんは亡くなってるわね……さっちゃんがいなくなって、寂しかったでしょうね……』
突発的な行方不明だもんね。
さぞ悲しんだことだろうなあ……
『(オフレコでよろ。さっちゃんは事故で亡くなったことになってるから、向こうでお葬式もしてるよ~。転移も転生も、元の人間は亡くなってんのは一緒だね)』
シャフさんのオフレコきた。
な、なるほど……それなら、とっても悲しいけど踏ん切りはつくかな……
『さっちゃんさんってさ、一人っ子だったの?』
『末っ子ちゃんよ!上に12人のお兄さんお姉さんがいたわ!』
大 家 族 !
昔の人って兄弟多いって言うけど、本当なんだ……
『それなら兄弟の誰かがお店を継いでるかもしれないね』
『そうね!とっても美味しくて評判のお店だったから、きっとそうね!』
元気を取り戻したピーちゃんにほっこりしつつ……ムムム!フィーッシュ!!
「……マタ、ザリガニカ」
『大漁ね!大漁だわーっ!!』
・・☆・・
・おまけ
さっちゃんの実家、『来来飯店』は一番上のお兄さんが継いで現在も大人気のお店です。
特に人気なのは『特製ピーちゃん定食』で、野菜炒めと大盛ライス、それに餃子とスープがついて税込み650円。
近隣の学生の絶大な支持を受けています。
何度かの改装を繰り返して立派で綺麗になった店内の奥、神棚には……インコを肩に乗せて笑う可愛らしい少女の写真が今でも飾られています。