第16話 旅は道連れ、世は情けとか色々ね!
「ホホ-ウ……なるほど、ダンジョン産ネ。魔力の通りが抜群に良い……たぶん、少量だけど【オルカ】が混じってるネ」
「じゃじゃじゃ、魔力の通りばええと思っておりやんしたが、納得でがんす! しっかしなんとはあ、こちらの槍ば金属ではねっすな!」
「【モリグロ】っていう木の枝を加工して作るネ。折れず、しなやか、それでいて金属の槍よりも何倍も軽いネ‥‥‥地上人の戦には不向きだけど、我々の戦法なら関係ないネ」
「なんとはあ!」
アルデアさんとの話し合いがすんだリーバンさんは、ロロンと槍談議に花を咲かせている。
っていうかあの金属製っぽい槍、木製だったんだ……どう見ても金属にしか見えないや。
『上手な飛び方はね!魔力をしっかり翼に纏わせて、風の流れを読むの!そして、風の力にほんのすこーしだけ反発させるのよ!ぎゅーん!ぐぐぐ!ばしゅーんっ!って感じだわ!』
「まいったナ。大事な所が観念的すぎるナ」
「ぶわって、くる!そこをぎゅん!ばーん!ってすりゅ!」
「本当にまいったナ」
そして、アルデアさんは……アカとピーちゃんに上手な飛び方を聞いたはいいものの、その答えに大量の「?」を浮かべている。
ボクにも全然わからんねぇ……
「賑やかになっちまったねえ。ま、こういうのも旅の醍醐味さね」
カマラさんは、少し楽しそうにケマを飲んでいる。
あ、このタイミングで言うかな。
「アノ、カマラサン……」
「――あのお嬢ちゃんが本調子になるまで、一緒に行動させてくれってんだろ? いいよ、別にさ」
んんんん!
何故言う前にバレたんですか!?
「エット……」
「なんだい、違うのかい?」
「イヤ、ソノ通リナンデスケド何故……」
「ムークちゃんの言いたいことなんてお見通しさね。アンタ、何考えてるか本当にわかりやすい子だからねえ」
『基本的に思考をトレースするまでもないですね、私も』
なんじゃろ、この謎の敗北感は。
「ン、なんだなんだ。私も一緒に連れて行ってくれるのナ?」
両肩にアカとピーちゃんを乗せたアルデアさんがこちらを見る。
「エエマア、ハイ。ソチラガ嫌ジャナケレバデスガ」
だってまだ毒抜けてないんでしょ?
またグリュプスが出たら今度こそ死んじゃうよ。
まだ満足に飛べないみたいだしさ。
「ううむ、参ったナ」
腕組みをするアルデアさん。
えっと、どうしたんじゃろ。
何か予定でも……
「ムークは強く雄々しい戦士だとは思うし、恩もあるが……さすがに嫁になるのは早くないかナ?」
「ブバーッ!?」「じゃじゃじゃァ!?」
ボクと、何故かロロンが驚愕している!?
「世間では軽く思われがちではあるが、空の民の女は身持ちが固いのナ? さすがに会ったその日に褥を共にするというのはナ……せめて、うむ、1月は人となりを見定めねばナ」
おおおい!なんですかこの人!?
バレリアさんみたいにからかってるのかと思いきや、目がマジなんですが!?
そして意外と好印象なんですけどボク!?
「違ウ!違ウ違ウ!違イマスッテバ!! 怪我人ヲ放置シテ先ニ行ケナイッテコトナンデスヨ!結婚スル気ハナイデスッテバ!!」
「そうまで言い切られるといささかショックではあるナ?」
「なんだ、違うのネ。別にそのまま嫁にしてもいいのネ、この子は好みが五月蠅いから今まで母君が散々苦労してネ‥‥‥見合い相手を4人ほど殴り倒しているネ」
ちょっと!ちょっとちょっと!
リーバンさんまで何を言い出すんですか……4人ぶん殴ってるってなに!?
そらんちゅさんのお見合いってそんなに殺伐としてるの?!
「ふん、相手が悪いナ。脆弱、惰弱、色狂い……それに理不尽者だったナ。母者も何故あんな連中を紹介するのか……理解に苦しむナ」
アルデアさんが履き捨てる。
ひ、ひぇえ……人選が悪すぎでは?
「里にはお前を憎からず思っている者も多いのネ。よりどりみどりネ」
「女を乳の大きさでしか測れぬ男共に、晒す肌はないのナ」
「まいった……これは一生独り身ネ。ムークさん、いいから貰ってやってくれないネ?」
「ソンナ、犬ノ子ジャアルマイシ……」
そらんちゅのお里の若者たちがかわいそう……
謎虫のボクから見ても、アルデアさんって無茶苦茶美人だもん。
そりゃあ好かれるよね……
「ト、トニカク! アルデアサンハ体ガ治ルマデユックリシテクダサイ!……カマラサン、時間的余裕トカハ……」
「山さえ越えちまえば別に時間も気にならないねぇ。目的地には今年中に着けばいいくらいさね」
よかった、雇い主の許可が出たぞ!
意外と余裕のある行程だったんだねえ。
「ま、とにかくここにあと1日は泊まるよ。ベネノ・グリュプスの毒は体内の魔力操作を狂わしちまう……アタシらはともかく、常時空を飛んでる空の民には死活問題さね、墜落するかもしれないんだしね」
あ、それは大変だ。
飛べないのは辛いよね……危ないし。
「目的地……皆はどこまで行くのナ?」
「【ルアンキ】経由で【ジェストマ】までさ」
カマラさんが答えると、アルデアさんはポンと翼を打った。
「おお、それは都合がいいナ。私は【フルット】まで行くつもりなのナ……フムン、もしよければ同行させて欲しいのナ」
フルット?
あれ、なんか聞いたことがある気がする。
『ガラハリでクラッサさんに教えていただいたでしょう?ジェストマの北にある鉱山街ですよ』
あー!そうだったカモ!
そっかそっか、それなら丁度いいね。
「ソレナラ、シッカリ飛ベルヨウニナルマデ一緒ニ行キマショウヨ」
元気になったらビューン!って飛んでいけるだろうしね。
「いっしょ? いっしょぉ?」
「ンフフ……くすぐったいナ」
アカにスリスリされて、嬉しそうなアルデアさん。
「私は元々フラフラ旅をしていたのナ。一人旅も好きだけどたまには別種族と旅もいいものなのナ……急ぐわけでもないし、ムークについていくのナ」
あ、そうなんだ。
でもこの一行のリーダーはボクじゃないのよね。
「カマラサンガ依頼主ナノデ、ソレデヨケレバ……」
「アタシは構わないよ、ついでに護衛もしてくれりゃ万々歳さね」
依頼主からのOKも出た!
旅の仲間、追加1名入りまーす!
・・☆・・
「では、デルフィネを見つけたら連絡よろしくネ。カマラさん、それに皆さん、色々ありがとうネ」
「気が向いたら連絡するナ。母者にあと30年くらいしたら帰るって伝えて欲しいのナ」
「3年にしとくネ」
休憩を終え、リーバンさんが出発するようだ。
『さよなら!さよなら!』「さいならぁ~!」
ピーちゃんとアカの声に目を細め、リーバンさんが頭を撫でている。
「フフフ、妖精2人に会えたんだから幸運ネ。きっとすぐに見つかるよ……それでは、さようならネ」
ふわさ、と羽ばたくと――リーバンさんは瞬く間に上昇。
あっという間に上空まで到達すると、また一度羽ばたき。
都合二回の羽ばたきだけで、もう見えないくらい小さくなっちゃった!
す、すご~!!
「口うるさい男だけど、飛ぶ技術だけは一級品ナ」
「綺麗な魔力発露でやんした!脱帽でがんす!」
ロロンは目をキラキラさせていてとってもかわいい。
たしかに、とても綺麗な魔力だった。
なんちゅう飛行を見せてくれたんや……アレに比べたらボクの衝撃波はカスや……!
『基本的に力技ですしね。例えるなら空の民はエンジン付きのグライダー、むっくんは物理法則無視のロケットです』
言い得て妙だね、フフフ……
「さ、怪我人は寝た寝た。空の民は地上人よりも魔力への依存度が高いんだからね、しっかり休みな」
「死んだ婆様を思い出すのナ」
「アンタみたいなでっかい孫はいないよ」
そんなことを言いながら、アルデアさんはテントに収納された。
言葉は元気そうだけど、まだちょっとフラフラしてるしね。
「チョット木ヲ切ッテキマスネ」
「あいよ、魔物が出たら逃げるんだよ……ピーちゃん、暇ならお目付け役しときな。アカちゃんはちょっと手伝っとくれ」
『わかったわ!』「あい~!」
うーん、カマラさんはテキパキ指示が出せて凄いなあ。
これが経験というやーつであるか。
「今晩は湿地蜥蜴のステーキにしやんす!腕を振るいやんすよ~」
おーっ!それおいしいやーつ!
アルデアさんに力を付けてもらわんといかんからねえ。
ボクもベンチ用と、これからのための薪集め頑張るぞ~!
『あ、このタイミングだといけんじゃん……バイパス、バイパスっと……これでいっか』
ちょっとした林まで移動していると、急にシャフさんの声が聞こえてきた。
なんですか。
『ここをこうして~……っと、あーあー!ピーちゃん!ピーちゃん聞こえる~?』
『まーっ!?誰!?誰かしら!?』
これはピーちゃんにも聞こえてるらしく、彼女は僕の肩から垂直に跳ねあがった。
物理法則さんもう号泣してると思う。
『あーしね、ムロシャフト! さっちゃんから聞いたことあるんじゃな~い?』
『ムロシャフト……あー!ひょっとして女神様!? さっちゃんに時々神託をくれてた女神様かしらっ!?』
『そそ!あん時は直にお話できなかったけどね! むっくん経由でいけるかなって思ったらドンピシャよ~!』
ボクの脳味噌が電波の中継局みたいな使われ方を!?
『むっくん……?』
『あっやべ真名言っちゃった……』
ちょっとォ!
ボクも重要性を忘れかけてたけどちょっとォ!
『ムークさん、むっくんってお名前なのね? まーっ!かわいいわ!かわいいわ!!』
『ふふん、そうでしょう。自信作の名付けですよ』
『まーっ!? 新しい女神様だわっ!?』
あーあートモさんまで出てきちゃった!
もう滅茶苦茶でござるよ~!!