第15話 そらんちゅ戦士団。
羽ばたきながら、そらんちゅさん達が飛んできた。
数は、全部で4人。
皆さん足で槍を掴んでいる。
なるほど、腕は飛行に使うから武装はああやるんだねえ……どう見ても、戦士職さんだ。
ジャンタナさんが着ていたような飛行服の上に、革鎧っぽいものを着込んでいる。
「トッテモツヨソウダネ~」
「むぅ、おやびん、さいきょ!」
あのねアカ、ボクは別に戦わないからね?
何故そんなに好戦的なんですか、キミは。
そんな会話をしていたら、向こうさんはボクに気付いたんだろう。
先頭の1人が軽く手を上げで、こちらへ全員で滑空してきた。
「まほー、うつ、うつ?」
「ヤメンシャイ」
この子は……敵意も感じないから大丈夫でしょ。
ボクらをどうこうするつもりなら、空中から即攻撃してくるだろうしね。
「ハイハイ、イイコイイコ」
何故かやる気満々のアカを撫でる。
「んへへぇ、えへぇ」
一瞬でとろけ顔になって、頬にスリスリしてきた。
はー、いつでもどこでもかわいい子!
と、そらんちゅさん達が揃って河原に着陸。
はへー、音がしないや……凄い!
「オハヨウゴザイマス!」「おはよ、ごじゃまう!」
こういうのは先手必勝だからね!まずは挨拶!
アイサツをおろそかにするとヤバいって、概念で知ってる!
『何に勝つ気ですか』
……なんだろうか。
着陸したそらんちゅさんは、こちらに真っ直ぐ歩いてくる。
あ、座ったままじゃ失礼だね。
「戦格好にて、失礼するネ。少し聞きたいことがあるネ」
先頭のそらんちゅさんが、目礼しつつ話しかけてきた。
みんな嘴があるってことは……男性だね。
そういえば語尾が独特だよね、そらんちゅさんたち。
「私は【螺旋大樹】のリーバンと言うネ。ちょっと人を探してるのネ」
「ムークデス、コノ子ハ、アカ」
むむ?螺旋大樹……あれ、それ最近聞いたぞ?
人探しって、まさか……
「アノ、ソレハ女性デ……アルデアッテ方デスカ?」
そう言うと、リーバンさんは目を見開いた。
「いや、彼女ではないネ。しかし、何故知ってるネ?」
え、そうなん?
お知り合いみたいだけど、探し人ではないのか~……
「エット、実ハ――」
とにかく、隠すような事でもないので昨日からのことを説明することにした。
・・☆・・
「ベネノ・グリュプスを……しかも、2匹! ムーク、貴方とても強い戦士ネ」
「タマタマデスヨ、タマタマ」
リーバンさんは話を聞き終わるなり、翼を打ち鳴らして驚いている。
しかし、後ろの3人は一言も喋らないね……ボクを見る視線に敵意は感じないけども、なんともい落ち着かないなあ。
「――空の民をこんなに見たのは久しぶりさね」
ボクが寝ていたテントから、カマラさんが出てきた。
手にお札と水差しを持ってるから……朝の診察かな?
カマラさんってなんでもできるねえ。
「ちょいと話が聞こえてたけど、あのお嬢ちゃんを探しに来たわけじゃないんだね?」
「ええ、でもアルデアにも聞きたいことがあるネ。怪我は酷いネ?」
リーバンさんは心配そうだ。
「峠は越えたよ。たまたま効きのいい薬草を持ってたのと……そこのムークちゃんがすぐにポーションで処置をしたおかげさね。あと1日2日で元通りになるだろうさ」
あの人、お腹に大怪我して毒ももらってたんよね……
この世界って危険がむっちゃ多いけども、治癒の手立てがいっぱいあるのはいいことだよね。
ポーションや回復魔法なんて、日本どころか地球にもなかったしさ。
「そうか……感謝するネ。あなた方の慈悲と、善行に心から」
リーバンさんをはじめ、皆さんは槍を置いて一斉に片膝をついて頭を下げ……翼を横に広げた。
これがそらんちゅ式のお礼の体勢なんだろうか。
なんかこう、真摯な気持ちが伝わってくる。
「――これは珍しいナ」
がさ、とテントの入口が開いた。
「【狩り司】殿が頭を下げるなんてナ」
あ!アルデアさん!
もう立てるようになったんだね……よかった!飛行服着てる!
ここでZENRAだったらどうしようかと思ったよ!
昨日干したのが乾いてたんだねえ!
「アルデア!傷の具合は……」
「すこぶる快調……と、言いたい所だけどナ。全身に鈍痛と痺れがあるナ……今日は飛べないナ」
喋らない他の人とも面識があるようで、リーバンさんの後ろで皆さん嬉しそうにしている。
「立って歩けるだけで大したもんだよ。この虫人はもっと大したもんだがね……ムークちゃん、寝て起きたらほぼ全快じゃないのさ」
「エヘヘ、丈夫ガ取柄デスノデ」
カマラさんは苦笑いだ。
まあね、ボクには寿命ブッパ回復があるのでね!
『自転車操業ですね、寿命が』
むううん……それでもコツコツ寿命貯金するしかないのだ。
「立ち話もなんだし、休憩所で話しなよ。アンタらはともかく、こっちのお嬢ちゃんは病み上がりどころかまだ本調子じゃないんだからさ」
「そうさせてもらうネ‥‥‥ここは私が残るネ。ティアットはラガランへ、アザハルとガーナクは北へ飛ぶネ」
「「「ハッ」」」
後ろの3人は短く答えると、ボクらにもう一度深く礼をしてから飛び立った。
『あら~!綺麗な羽ばたきね!お上手!お上手~……あらぁ?』
うん、途中まではとっても格好よかったんだけどね。
ボクの頭にとまったピーちゃんを確認して、皆さん目を丸くしてグラッグラになってた。
まあ仕方ないよね、急に出てきた妖精は珍しいし。
それでも墜落はしなかったのはすごいけどさ。
「……妖精を2人も連れた虫人なんて初めて見るネ」
『私も空の人をいっぱい見るのは久しぶりよ!よろしく!よろしく!私はピーちゃん!』
ピーちゃんは、リーバンさんの周囲をギュンギュン嬉しそうに旋回している。
回りすぎじゃない?バターになったらどうすんのさ?
・・☆・・
「私はデルフィネを探してるネ」
「ほう、あの出不精が里から出たとナ? これは珍しいナ」
椅子に座り、そらんちゅ2人は話し込んでいる。
ちなみに、グリュプスに吹っ飛ばされたボクがバッキバキにしたベンチのなれの果ては薪になりました。
直したいけど工具がないので、後で木を切って加工して板材にしとこ……
せめて材料くらいは置いておこう。
「ケマでやんす」
水浴びから帰ってきたロロンが、手際よくお茶を用意してる。
お菓子は道場で貰ったものが大量にあるので、それを流用した。
「すまないが私は何も知らないナ」
「そうか……しかし何故グリュプスに襲われたネ? アレは森の深くに生息しているハズネ‥‥‥アルデア、なんでそんなことになったネ?」
あ、そうなんだ。
なんか込み入った話らしいし、ボクは山へ芝刈りへ……もとい、林へ伐採へ行こうかね~。
「ムークちゃん、おとなしくしてな。アンタも一応病み上がりなんだからね」
「ハイ」
腰を浮かせようとした瞬間に釘を刺されただとう!?
カマラさんはエスパーかなにか!?
『わかりやすさは虫人でナンバーワンですから。厳密には虫人ではないむっくんですが』
……ままならぬ我がボディよ。
「ゆっくりすゆ!すゆ~!」
膝に座っていたアカがピョンピョン抗議してきた。
「ハイハイ、アーン」
バッグに入ってた謎ドライフルーツをアカにあーん。
そして、横で雛鳥みたいに口を開けているピーちゃんにもあーん。
「むぐむぐ、おいし!おいし!」
『くにっとしてて美味しいわ!美味しいわ!』
おいしいけど何の果物なんだろうね、これ。
お店で買ったものだから大丈夫だろうけども。
「はぁあ……」
給仕が終わって横に座ってるロロンが、何やら熱心に見つめている。
なんだろ……ああ、リーバンさんが持ってた槍ね。
「ドシタン?」
「【螺旋大樹】といえば投げ槍に秀でた戦士の話を聞いたこどがありやんす。なんとはあ、鍛えられた見事な槍でがんす~!」
ほほーう、そうなんか。
確かに綺麗なやりだねえ、柄もまるで金属みたいで……金属じゃない?アレ。
だって銀色でピカピカだもん。
重そうな槍だなあ。
よくあんなの足で持って飛べるもんだ。
「そちらの槍も中々のモノネ。特に今あなたが腰に刺している穂先……よければ後で見せて欲しいネ」
アルデアさんとの話の間に、リーバンさんがロロンに目を向けた。
この人は鷲そっくりな顔してるなあ、カッコいい!
「じゃじゃじゃ、いぐらでも!」
前にダンジョンで見つけたやつだ。
やっぱり貴重な品なのかしらね。
またダンジョン冒険したいなあ……うんち臭くない所を。
「では、もし何か気になる話を聞いたら連絡してほしいネ」
「む、わかったナ」
「それとは別に里帰りもするネ。母君が心配しているネ」
「嫌だナ。母者は隙あらば私に見合いさせようとするからナ」
どうやら話は一段落したみたいで、雑談みたいになってきている。
「それも母心ネ」
「大きなお世話だナ。私よりも姉者たちの世話を焼けと伝えておくのナ」
……世界が変わっても、こういう所は変わらないなあ。
と、ケマを啜りながら思うボクであった。




