第14話 そこそこ元気虫、早起きする。
「フニャム……ウ?」
なんか、とっても長丁場な夢だったなあ……今回はスプラッタはなくてよかったね!
それにしても変な夢だねえ……ボクの前世か、はたまたやっぱりホラー映画か。
ま、判断基準がないので無視します!だってボクはもう人間じゃなくてむしんちゅだから!
てなわけで目を覚ました。
おお、体のだるさが半分以下になっちょる!
トモさんトモさ~ん!いるいる~?
『あーしでいい?』
……あ、どうも。
この前ぶりです、ムロシャフト様。
ごきげんうるわしゅう……?
『かったい!かったいよ~? アンタさあ、メイヴェル様をママ呼びしといてなんであーしにはそんなかったいの!? サガるわ~!』
慈愛の女神様がお怒りだ。
『ってーかさ!そんなにかったいとあーしがメイヴェル様に怒られそうだからやめろし!『ほう、虫に敬語を使わせて調子に乗っていますねえ、生意気すぎるので仕事を押し付けます』とか言われんじゃん!ゼッタイ!!』
ちょっと物まねが上手い。
芸達者だ……!
『つーわけで、あーしにもイイ感じのあだ名つけろし。あ、それと敬語で喋ったら毎朝両足がビキーンってなる呪いかけるかんね』
理不尽な上に地味に強力な呪いを……!ボク嫌だよう、そんな毎朝!!
『おら、早くしろし』
圧が……圧が……!!
ぼ、ボクは悪くない!悪くないから……!
――なので、改めてよろしくです!しゃ、シャフさん!
『……ほーん、ほん、ほん……いいね!いいね!!』
いいんだ!?
『ムロさんとかだったら呪うとこだったわ、あーし』
命拾いしたァ!とっても命拾いしたァ!!
なんかね、女性の方にムロっていうのも違うと思ってね!!
『ふっふーん、こぉの、女神タラシ~? あ、トモちんはねえ、メイヴェル様が仕事のし過ぎで発狂しそうになったから出前行ってるんよ、出前』
……トモさんが中華料理屋みたいになっちょる。
『ちゅーわけで、急ぎ? あーしは留守番なんよ』
あ、大丈夫大丈夫。
全然急ぐ話題じゃないので。
『ういういー。ってか、むっくんボロッボロじゃん、ウケる。どしたん、28股くらいしたん?』
ボクはどこのドンファンなのよ。
違うよ、ちょっと魔物とポカポカしただけなのよ。
『ほーん、男の子~! んじゃ、モニタリングはしてるから頑張ってね~!』
ボクは目下性別不詳虫……まあ、いいか。
ええと……今は朝。
昨日寝て、変な夢見て起きて……横にはそらんちゅこと、アルデアさんがスヤスヤ寝てる。
羽毛のせいでちょっとわかりにくいけど、顔色はいいね。
毒もしっかり抜けたんだろうか。
そういえば回復を向上させる結界?とかを張ってくれてるんだよね。
「チュン………チキチキ……」
そして何故ピーちゃんはボクの枕で寝ているのか。
自由過ぎるな、このインコさんは。
アカは……いないね。
そしてボクは起きてもいいもんだろうかねえ。
まだ体治ってなかったらやだなあ。
特に右腕、ボローッ!ってなったら朝から大変ですよ。
指先もちゃあんと動くから大丈夫だろうけどさあ。
「ん、むぅ……」
お、アルデアさんが動いた。
寝返りを打っただけk――なんで毛布の下全裸なん!?!?
あーっ!そう言えば昨日服全部脱がしてた!!
いかん、このままではボクがいわれなきドスケベ認定を受けてしまう!ので!瞬時に反対側を向ーく!
そしてボクの偽名はムーク!なんちゃって!!
『余裕あんねー、このスケベ』
女神様は見ていた!!
『あ、気にしないで揉んどけ揉んどけ』
揉まないよ!?何言い出すんですかこの女神は!?
『なんだよ~、産めよ増やせよ地に満ちよ~』
慈愛の女神ってそっち方面も担当してるの……?
なんかこう、イメージと違うっていうか……
『あ~? アンタねえ、この世に無から発生する生命なんざほんのちょっとしかないっての! やることやんないと愛も平和も幸せも来ないんよ~?』
ほんのちょっとはあるということに驚愕する虫、むっくんです。
『ふう、戻りました……おやむっくん、おはようございます』
お帰りトモさん!ヴェルママ大丈夫!?
『死んだ目でカツドンを10杯平らげていらっしゃいました。此度はかの女神といえどもかなり辛い仕事のようですね』
『自業自得っちゅうの、それ』
仕事しながらカツ丼をモリモリ食べる女神様……駄目だ、想像すると脳がバグるや。
ねえねえトモさん、ボクもう起きて大丈夫?
『大丈夫ですよ。ただ本日だけ大きな魔力は極力使わないように……昨日の黒棍棒励起と必殺ビームで体内の魔力が乱れていますので』
あー、そういえば前もそうだったねえ、了解。
『んじゃ、トモちん帰って来たからあーし行くわ。今日は神託の日だかんね~』
え、その口調で神託すんの?
『愛しき仔よ、南南西に暗き兆しあり……ゆめゆめ、用心なさい。ってな感じでね! あーしも対外的には気を遣うかんね~?』
うわ、とっても荘厳で綺麗な声!
女神様って感じだ!!
……でも素はこっちなんだあ……
『バレなきゃいいっしょ、バレなきゃ。んじゃねむっくん、また来るかんね~』
あ、はーい!
バイバイ、シャフさん!
『んふ、ソレ結構気にいったわ、あーし』
……帰った、かな?
『この短時間でムロシャフト様と随分打ち解けたようで……これは亜空間女神エルボーが必要ですかね』
亜空間女神シリーズ多くない?
っていうか、打ち解けたんならいーじゃん!
・・☆・・
「イイ天気ダ」
トモさんに理不尽なことを言われてちょっとこの世の不条理について考えたけど、それはそれとしてテントから出る。
この感じだと早朝かな……?
「ムーク様!お体の具合ばいかがでやんすか!?」
おっと、朝も早いうちから……血塗れのロロン!?!?
キャーッ!猟奇事件!!
「ロロンコソ大丈夫ナン!?手当テスルカラコッチ来ンシャイ!」
「じゃじゃじゃ? ああ、これはグリュプスの解体でついた血でがんす、ご心配なさらんと」
ああ、ビックリした。
ボクのイマジナリー心臓に悪いね……
「元気ニナッタカラ手伝ウヨ?」
こんなに朝っぱらから……
「もう終わりやんした!ムーク様は大活躍なすったのす、今日はご休憩しなんせ」
もう終わってる……
あ、河原にグリュプスのなれの果てが散らばっている。
綺麗に仕分けされて……
「ベネノ・グリュプスは金になる部位が少ながんすが……これをば、どんぞ!」
ロロンは傍らの布袋をゴソゴソ探って……おお、でっかい魔石、それに2つも!
「コレ、売ッテモイインダヨ?」
「じゃじゃじゃ、何を仰るのす!これはムーク様が奮戦なすった証でやんす~!」
むっちゃ押し付けてくるじゃん、この子分。
むむむ……これは受け取るしかない流れですね?
『ロロンさんが一生懸命腑分けしたのですよ?有難くバリボリしなさい』
言い方よ、言い方。
「不要な部位は川から離れた場所に埋めねば、毒が流れやんす。それ以外は乾いてがら大風呂敷にお願いたしやんす」
「ウン、ワカッタ。デモ無理シナイデネ?」
むっちゃ働くもんなあ、ロロン。
「なんもなーんも! ワダス、こういう仕事ば大好きでがんす~!」
そう言いつつ、ロロンはタオルで顔を拭って……血塗れなのに初めて気付いたみたい。
「あ、わ、ワダス、今までこげな酷い顔で……?」
「ア、ウン」
わわ、顔が真っ赤になった!
「んみ、みみみみ……水浴びば!してきやんすゥ~!!」
そう言って、川下の方へダッシュで走り去っていくロロンであった。
むうん、女の子って難しいなあ。
『そうです、勉強しなさい。ムロシャフト様もその件についてはよく知っておいでなので、いつでも聞くのですよ』
……普段はアレだけど、よく考えたら慈愛の女神様が専属脳内家庭教師なのってすごくない???
やっぱり、ボクの対人関係はチート級に恵まれてるなあ。
対人関係!だけは!!
「おやびん、おやびーん!」
ロロンが去った反対方向から、アカがふよふよ飛んできた。
おや珍しい、ボクはてっきりカマラさんのテントで寝てるのかと思ってた。
「おみやげ、おみやげ~!」
ボクの肩に着陸したアカが、なんだろう……鈴なりになったサクランボと野イチゴのあいの子みたいな何かを見せてきた。
いっぱいあるね~……トモさんこれ食べても大丈夫なブツ?
『綺麗な川付近に自生する野生果物の一種ですね、大丈夫ですよ。妊娠している女性はあまり食べないほうがいいという言い伝えがありますが』
ならボクらは超大丈夫ね。
「見ツケタノ?スゴイネエ、エライネエ」
「んふふ~、みつけた、みつけたぁ」
アカの頭を撫でて……1粒もいで、ぱくり。
……んん!甘酸っぱくて美味しいねえ!
歯ごたえのあるサクランボって感じ!
「おいし!おいし!」
「オイシイネエ、アカノオカゲダネエ」
適当な岩に腰を下ろし、アカと一緒に果物を堪能する。
本当においしいや、これ。
後で暇になったら追加でもいでおこうかな。
ピーちゃんも喜ぶぞ、きっと。
「むぐむぐ、んく。おやびん、おそら、おそら~」
口いっぱいに果物を頬張っていたアカが、空を指差した。
「朝日ガ綺麗ダネエ……エ?」
太陽を背にして……影が!複数!!
いかんまたグリュプスか!?……じゃない、ね。
「ソランチュダ」
「そらんちゅ、そらんちゅ~!」
朝日を背にして、少し離れた場所からこちらへ飛んで来る人影。
それは、足で長い槍を掴んだ……空の人たちだった。
たぶん、敵意はない感じ……ないよね?