第13話 悪夢、もしくは和風ホラー映画。
――あ、これ前に見た悪夢と同じジャンルだ。
場所は、どこだろうここ……どっかの倉庫かな。
何に使うのかわかんないけど、古新聞とか電気スタンドとかがある。
結構広いな……10畳以上はありそう。
なんか、古い本が本棚一杯に入ってるな……遠いし薄暗いからよく見えないけども。
それで……ボクの視点は、床の近く。
っていうかアレだね、これ縛られて転がされてるね、地面に。
ボクの体というか視点の持ち主……えらいこっちゃだよ。
「おいタケオ、やめようぜ……洒落にならんって」
「うるせえよ、嫌ならお前外に出てろよな……チクったら殺すぞ」
「コイツ、泣きもしねえのな」
んで、視界に写る人間が3人……全員男だ。
今タケオ?って言われたのが一番大きい。
高校生くらいで……うん、まあ、その、勉強とかできそうにないガタイがいい金髪の男。
それで、弱々しく彼を止めてたのがひょろっとした気の弱そうな男。
最後に、泣きもしない~って言ったのは帽子を被った中肉中背の男。
むううん……ボクの脳味噌くんさあ、もうちょっとわかりやすい悪夢見せてよ。
いきなり山場じゃん、これ。
もっとこう……登場人物紹介とかから始めてくれない?
ねえトモさん……トモさーん?
……へんじがない、ただのゆめのようだ。
ボクの体の人、前に神社にいたのと同一人物かなあ?
手の傷とかを確認したいところだけど、後ろ手に縛られてるんだよね。
……それで、こいつらは何をする気なんだろ。
タケオってのが特にわかりやすいな……むっちゃ、こう、いやらしい表情してる。
やめて!ボクはホラー映画もやだけどアダルティなのはもっと嫌なんだよ~!
しかも主観視点じゃん!そんな臨場感はノーセンキュー!!!
「リョウジ、お前んとこのオヤジも気に入らねえって言ってたんだろ!コイツのことさ」
ヒョロガリがリョウジね。
「だ、だからってこんなこと……やりすぎだって、相手は子供じゃないか」
あ、やっぱりこの体子供なんだね。
「でもさ、ここまで来たらヤるしかねえだろ。コイツが喋ったらどの道終わりだぞ」
帽子男はそう言って……後ろの棚に歩いていく。
そこをゴソゴソ探って、こっちに向き直った手には……ひぃ!金属バット!?
ちょ、いきなり殺意が高いんじゃないの!?
「しゃ、喋らないって!ちょっと脅かすだけだってそう言ったじゃん!?」
そうだリョウジ!もっと止めて!止めてあげて!
「タケオ、やっぱりやめようよ!だってこの子は〇〇〇様の――うぐっ!?」
「うるせえ!お前までそんな迷信信じてんのかよ!!」
あああっ!リョウジがぶん殴られた!?
あと、今の会話であからさまにノイズみたいなもんが走ったぞ!?
「め、迷信なもんか! だってカンバヤシの叔父さんも、それで死んだんだぞ!迷信で内臓がいきなり全部腐るのかよ!」
床にへたり込んだリョウジが叫んだ。
「ハヤドコロさんは脳が全部溶けてた! ヤガタケさんは生きてるけど、あの顔の入れ墨!どうやったらあんなもんが刻まれるんだよ!」
「――うるせえ、仮にそれが本当だったとしたら……なおさらやらねえと駄目だろうがよ!」
今度はタケオが後ろの棚に行って、細長い木箱を荒々しく掴んだ。
そして、それを力任せにこじ開けて――取り出したのは、白鞘の日本刀!
ちょっとォ!ホントにここって日本国なの!?
あまりにもカジュアルに銃刀法を無視しすぎでは!?
前に見た女の子もポン刀持ってたしさぁ!
「安心しろよ、本家の連中も腹の中じゃ俺と同じことを思ってるよ……やっちまえばさ、むしろ家格も上がるってもんだろうが!」
タケオは、仰々しく貼られているお札を引き剥がして……刀を抜いた。
ひぇ……錆び錆びじゃんその刃!そんなので斬られたら生きてても破傷風で死んじゃう!!
「うへ、なにそれ。フツミってそんなガラクタが家宝なの?」
「お前のとこだって似たようなもんだろうがよ、バットじゃなくて本物出せって、ヤスシ」
帽子男もといヤスシがバットを放り捨て、後ろ腰からやっぱり白鞘の……脇差を取り出した。
「へいへい……ま、刺しゃ死ぬだろ。ごめんね~、嫌だろうけど我慢してね~?」
ヤスシはニヤニヤしながら鞘を払って……やっぱり錆び錆びの刀身をむき出しにした。
……やっぱりこれってさ、ボクの前世じゃなくてホラー映画なのでは?
ボクの知ってる概念にも、こんなにサツバツとした感じはないんだけどもさ。
「リョウジはそこで見てろよな、見てるだけでいい……こうなったら共犯だよ」
ざり、と。
タケオが足を一歩、踏み出した。
――ちりん。
「……おい、今の」
「お、俺じゃないよ!」「俺でもない」
タケオが引きつった顔で足を止めて、2人を振り返る。
「てめえリョウジ、何が結界だよ……!」
「ちゃ、ちゃんと儀式手順に沿って陣を張ったよ! 爺様の古文書通りにさ!でも……!」
リョウジが、顔を青ざめて一歩下がる。
「でも、でも……〇〇〇様相手じゃ、やっぱり……!」
「ふざけんなよ!」
「げうっ!?」
あああっ!リョウジがタケオにまたぶん殴られた!?
でもこれはチャンスかも!そのまま仲間割れしてこの子を解放しておくれ~!!
「それじゃなにか!?この薄汚ねぇクソガキがよ、マジに○○〇様の加護もらってんのかよ!?」
タケオがこちらを、恨み100%って目で睨む。
「それこそ、まさかだ!こんな―――の!―――の出が!ウチらを差し置いて守られてるってのかよ! 認めねえぞ俺はよ!!」
「そうそう、そりゃあさすがに帳尻が合わんでしょ。いきなり出てきて―――でございまーす、なんてさ」
興奮しないで!あと台詞の途中にノイズ発生させるのやめてもらっていいですかね!?
「リョウジのアレが本当だったとしても、だ!ここじゃなんにもできねえよ!ここは、そう言う場所だもんなァ!」
「おい、声がでかいよ。〇〇〇様には聞こえなくてもさ、他の人間に見つかったらどうすんのさ……爺さん連中がうるせえよ?ヤる前に見つかったらさ」
ヤスシがそう言って、脇差を構えてこちらへ足を踏み出す。
「ほんと、ごめんね~? でもさあ、キミが悪いんだから……ここへ引き取られてさ、いい目見たっしょ? 今までカスみたいな人生だったっしょ? だからさあ……もう死んでもいいよね?」
ぜんっぜんよくないよ!
なんだこの倫理観ゼロの子供たちは!
誰かー!これが映画じゃないなら屈強な男の人来て~!!
こいつらの関節全部外しちゃって~!!
――ちりん。
「……っへ、音だけで気配もないじゃん。やっぱ〇〇〇様だからって自由自在ってわけにはいかねえか――タケオ、先にやっとくよ~。一回やってみたかったんだよね~、眼球抉るの」
ヤスシが一番ヤバいかもしんない!
だって今抉るって言った時にむっちゃ興奮した顔してたもん!もん!!
「ほーら、動くと痛いぞ~? まあ、動かなくても痛くするけどね~……」
ウッキウキのヤスシが、もう一歩踏み出そうとした時だ。
「――――」
ボクの宿っている?体ちゃん、もしくはくんが、何かを小さく呟いた。
それは、聞き覚えのない呪文のような一説だった。
「……は、あ?」
――さっきまで何もなかったのに。
ボクと男たちの間に、誰かが立っていた。
こちらからは、白くて綺麗な着物と……その裾から覗く、透き通るような足しか見えない。
「ま、な、まさ、まさか……ほん、ほんと、に!」
リョウジは瞬時に目を下に向け、同時に土下座の体勢に入った。
ボクの前の人を、これ以上見ないように。
「ひ、あ……」
タケオが履いていたカーゴパンツの股間部分が、ぼたぼたと濡れた。
なに?そんなに怖い顔してんのこの前の人って!?
「いひ、いぃいいい……!!」
ばたん、と尻もちをつくヤスシ。
その股間も同じように濡れている。
「とりでもなしに、よくさえずりおる……むしけらにもおとる、ぐぶつどもめが」
前の夢で聞いたように、鈴の鳴るような綺麗な声。
でも、あの時とは違って……凍り付くような冷たさだった。
「おうおう、こわかったの……よし、よーし」
かと思えば、ボクの方に振り向いたその人。
床に転がるボクをすっと抱き上げ、胸に押し付けるように抱きしめた。
ふわー、いいにおいがする!
なんだろこれ、お香かな?
「ふんべつもわきまえぬ、くそがきゆえ……すておいたが、わるかったか」
その人は、また冷たく言った。
「ふつみ、からばり」
こっちからじゃ何も見えないけど、2人がビクッ!ってなる気配がした。
タケオとヤスシの名字かな?
「――しかと、くぎはさしたはずじゃ。それでも、うぬらはこうした」
きぃん、と。
何かが部屋を通過した気配がした。
なんだろ、魔力……とも、少し違う気がする。
「しからば、もう、しらぬ」
首が、後ろへ向く気配。
「――うぬらのちちはは、あに、あね、いもうと、おとうと……そのけつみゃくを、はんぶん、いまこのときに……くびりころした、ぞ」
……はぇ?
えっ、なんか今、無茶苦茶なこと言わなかった!?
「は、へぇ……う、そ」
「と、うちゃ……?」
がらんがらん、と何かが床に落ちた。
多分、あの錆び錆びソードだね。
「うぬらは、ゆるさぬ。よって……なにも、せぬ。のこりしけつえんのてによって、おぞましきまつろをたどるがよい」
きゅ、と強く抱かれる。
あ、冷たくてとってもいい気持ち。
「ふふ、ういやつ、ういやつ……きょうはとまっていくかや?」
ふっと、消えた。
着物の人と、抱えられていた人が。
ボクの視点は、ちょっと上から見下ろすようなカメラアングルになった。
……やっぱり日本の話じゃないよね、これ。
瞬間移動できる人とかいなかったもん、知ってる概念に。
「うそだよ、うそだ、うそ、うそうそうそうそうそうそ……!!」
「とうちゃん……か、かあちゃん……」
タケオも、ヤスシも。
揃って頭を抱えて、何かを延々と呟いている。
リョウジは、部屋の隅で土下座をしたまま……ガクガク震えているばかりだった。
ばぁん!と扉が開いて外の光が入ってくる。
あ、ここ地下だったんだ。
どうりで窓がないと思った。
「……なんて、こと」
その戸口に立っていたのは――あーっ!殺す殺す言ってた黒髪の美人さんだ!
顔色が真っ青ですよ!?大丈夫!?
「タカマバラ! 貴方まで何を、こんな……嗚呼、こんな……!」
美人さんはリョウジに食ってかかるけど、リョウジは土下座のままだ。
小さく、何かを呟き続けている。
「……ざまみろ、ざまみろ、ざまみろ、ざまみろ……ざまみろ、ざまみろ、ざまみろ。ひ、ひひ、ひひひひ……!俺の言うことを信用しないからだ!いい気味だ!いい気味だァ!あはは!あはははははははははは!!」
小さな呟きは、やがて部屋全体を揺らすほどの大爆笑に変わった。
……こわ~……迫真の演技じゃん。
これが映画なら。
「……〇〇〇様、どうして……!」
黒髪さんは、血が出るほど唇を噛み締めていた。
あ、なんか視界がフェードアウトするゥ!?
ねえ!ねえねえボクの脳味噌さん!
せめて初めから通して見せてくれないかな~ッ!!