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第12話 吠えろ、ヴァーティガ。


「グ、ゥウッ!」


 右胸から右肩にかけて突き刺さった羽から、さらに右半身に熱を感じる。

まるで、マグマだ。


『解毒を優先!痛覚を遮断!むっくん、動いて!』


 はーい女神様!

じんわりと痛みがマヒし、すぐさま衝撃波を放って前に飛び出す。

ついでに、マントの首元に仕込んでおいた魔石をボリボリ!


 視線の先に見えるグリュプスは、満身創痍だ。

首からはビシャビシャ大量出血してるし、お腹や手にも深い傷がある。

ボクも似たようなもんだけどね!


「――キュオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 グリュプスの嘴が大きく開き、その奥に魔力が集中するのがわかる。

ここからじゃ、接近が間に合わない!

でも、最悪ボクの方に攻撃を誘発させれば――首を、動かしたァ!?

その先は……ロロンたちがいる、結界の方!

こ、こいつってば……性格が!悪い!!

アカのミサイルが着弾を続けてるけど、全く動く様子がない!


「ッチィイ!」


 衝撃波を放ち、麻痺してロクに動かない足を動かす!

――その射線に、割り込む!!


「ムーク様、逃げてェ!逃げてくなんせーッ!?」


 おっと、ロロン。

頼れる子分のキミのお願いは、基本的に全部聞いてあげたいけどね!

――それだけはキャンセルさ!

だってボクは――!


「――素敵デ、格好ヨクテ、頼レル親分、ナノデェ!!」


 ボクが射線に割り込んだ瞬間に、グリュプスがブレスを放つ!

たぶん、コイツの主成分?は魔力だ!

魔力なら――魔力で打ち消せる、ハズ!


「ンガ、グ!ングング……!!」


 マントに仕込んでいた魔石を口に放り込み、一気に噛み砕く!

震える左腕に力を込めて、大上段に構える!黒棍棒を――!


「――『我ガ剣ハ』」


 お腹の下あたりから生成された魔力が、渦を巻いて左腕に集まる!

さらにそこから……ヴァーティガへ!!


「――『牙ナキ』」


 休憩所が、蔓延した紫色の毒が、ヴァーティガの放つ蒼い光で照らされる。

こんな時だけど、とっても綺麗!


「――『モノノ、タメ』!!」


 そこまで唱えた所で、ブレスが――迫る!

ボクはそれに、真っ直ぐヴァーティガを振り下ろした。


 思った通り、魔力は反発しあっている。

蒼く染まったヴァーティガが、どう見ても実体がなさそうなブレスと激突。

接触面から紫電を放ち、拮抗している!


「グウウゥウウウウウッ!!」


 体が熱い。

急激な魔力消費で、頭がぼうっとしてきた。

でも、やめない!

しんどいし、吐きそうだし、それにちょっぴり怖いけど――ここから逃げる方が!もっと怖いんだ!!

できることをやらず、みんなを守らない方が!もっと!もっと怖いんだよ!!

グリュプスがなんぼのモンじゃい!


ボクは、ボクは――『おやびん』なんだからなァッ!!



 ――その瞬間、脳裏に幻影が走った。

いつか夢で見たような鎧を着た人が、この……ヴァーティガを振るっている幻影が。

とっても大きな、見たこともない魔物と戦っている幻影が!


 ……そう、か!そうか!

こうすれば、良いんだね!!



『魔力干渉、これは……黒棍棒から!?』


 トモさんの驚愕ボイスを聞きつつ、動く。


「グ、ウウ、ウウウウ……!!」


 ブレスと激突している黒棍棒の角度を、変える!

側面じゃなくって……先端を!真っ直ぐ!グリュプスに!!

あの黒鎧さんは、こうしてた!

真っ直ぐ!遠く離れた標的に――突きを入れるように!


「オオ、オ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 叫びながら、さらに流す、魔力を!


 蒼く輝く文字列と、幾何学文様。

その光が、先端に集結していく……さっき見た、通りに!


脳裏に浮かんだ、言葉を叫ぶ。


「『汝ガ怨敵ハ、眼前ニ在リ』!」


 きぃん、と響く金属音。

先端部分に集まった蒼い光が、一層輝きを増す。


「――『吠エヨ、ソノ名ノ如ク』!!」


 その瞬間に、蒼い光が……一筋の閃光となってヴァーティガから放出された。

ボクの保有魔力を根こそぎ消費したそれは、ブレスを円状に吹き飛ばし、霧散させた。

そして――


「――キョオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?!?!?」


 グリュプスの胸元に着弾。

すぐさま、そこから全身に蒼い紋様が刻まれていく。

そして、そして――爆発。


 ――少しの間があって、グリュプスの首が根元から吹き飛んだ。

ボクの方まで、美味しくなさそうな肉片が飛んできた。


『……アカ、この紫のモヤモヤなくなるまで、こっち来ちゃ、駄目……だよ~……』


 膝をつく。

あ、これもう駄目だ。

魔力がカラッカラ、体はグラッグラ。

魔石、食べ、な、きゃ……


「ムガノゴ!?」


 魔石が口に押し込められたねえ!?

アカ、来ちゃ駄目って言ったのに……


「むんむむむ!ももっも!むむー!!」


「アバババババ」


 顔を布とお札でグルグル巻きにしたロロンが、涙目でボクに抱き着いて……結界に引きずり込んだ。

た、頼れる……子分よ……

……きゅう。



・・☆・・



「ウニャム……ム?」


 ひどく疲れた気分で目を開ける。

むむむ……なんじゃ?

目の前に何か……お、なんだろ。

まだ目がはっきりしないな……


「――おや、起きたようだナ?」


 ……どちら様ですか?


「ドナタ……?」


「悲しいナ。あんなに情熱的に抱きしめてくれたのにナ」


 むううん、そんなことしましたっけ?

あ、目が慣れてきた……おやおや。


「アア、元気ニナッタンデスネ。ヨカッタ!」


 首元まですっぽり毛布にくるまった、空の人だ!

よかった、顔色もいい!元気になったんだ!


 ……なんでテントの中に2人で寝かされてるんだろ?


「右腕が捥げて、全身毒に塗れたキミに言われると妙な気持ちナ?」


 あっそうだった。

トモさん、ボクの右腕くんがないから生やし――あるやんけ!


『ロロンさんが拾ってくれたので接合しました。危機的な状況ではありませんが、まだ全身に毒が残っているので動かさないでくださいね。ボロっといきますよ』


 ひ、ひぇえ……あ。

そうだそうだ、グリュプスはどうなったんだろ?


『大金星ですね、むっくん。大きな魔石が2匹分も取れますよ』


 わーい、やった!


『ちなみに通常のグリュプスは美味しくいただけますが、あの種は全身毒の塊ですので無理です』


 ああん……なんてこったい。

ま、まあ魔石があるだけましか。

謎鶏肉が食べられると思ったのにな……いや待て、この場合は胴体的に獣肉になるんじゃろうか。


「ム、本調子ではないナ……アルマードさん、愛しの親分が起きたナ」


「ムーク様ァ!!」


 テントの入口が開いて、涙目のロロンが突入してきた!

ムワーッ!抱き着いてくるのはいいけど今全身が痛いの!痛いの!!


「おやびん!おやびーん!!」


 アカも来た!

そして兜にビターン!何も見えない!!


『起きたらムークさんが大変だったからビックリしたわ!したわ!』


 ……ひょっとしてずうっと寝てたの、ピーちゃん。

あんなにドカドカバキバキ音がしてたのに……すごいというかなんというか……


「おや、起きたかい」


 この声はカマラさん!


「とりあえず今日はそこから出るんじゃないよ。回復促進の結界陣を張ってるからね」


「アリガトウゴザイマス!」


 あれだけ大怪我したのにあんまりしんどくない理由はそれか~!


「おっと、名乗りが遅れたナ」


 空の人がこちらを見て笑う。

ふむん……こうして正面から見ると、目は鳥っぽいけど……嘴がないから顔面は人間に見え、なくもない、かな~?

銀色の髪の毛っていうか羽毛がモサモサしてるねえ、男性よりも面積は少ないけど、首元もモフモフだ。

あったかそう!


「【螺旋大樹】のアルデアだナ。危ない所をありがとうナ」


「イエイエ、ボクハムークデス、ヨロシク」


 空の人……アルデアさんは、目を細めて微笑んだ。


「【貫く稲妻】とは良い名だナ? 先程の雄姿の通りだナ」


 あ、前のそらんちゅことジャンタナさんと同じ聞き間違え方!

偽名なのにどんどん二つ名みたいなあだ名を!!


「まさかベネノ・グリュプスを正面から、しかも毒にまかれながら倒すとはナ。ムークは強い戦士なのだナ」


「違イマスヨ。頼レル仲間ノオ陰デス」


 いまだ兜張り付き状態のアカをナデナデ。

右腕はまだちょっと動かないや。


「んふぅ~、んふふ~」


 嬉しそうにしちゃってまあ、かわいい子分だねぇ。

は~……それにしても、今回も疲れたし酷い目に遭った。

ボクの運勢どうなってんのさ、もう……


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ムッくん…。 鳥肌がたちました! ヴァーティガ。とんでもないな! 牙なき者のために。吼えよヴァーティガ!
必殺技その1カッコいいな!
黒こん棒さんかっくぃい!
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