第11話 あーもうっ!ボクの虫生こんなんばっか!!
――めぎ、という感触。
滑空の勢いと、注ぎ込んだ魔力。
それら全てを一点に集中した黒棍棒のフルスイングは、グリュプスの嘴を破壊して――顔の骨をへし折った。
それでも衝撃は吸収できず、さらに顔から繋がる太い首の中からも、ぼぐん、という鈍い音がした。
「ヌンッ――」
空中で黒棍棒から手を離して――顔のすぐ下に!右フック!パイルオンッ!!
回れ!ボクの棘ーッ!!
首に突き刺さった棘は、すぐさま回転と赤熱化を始め――ボクに血と肉をぶちまけながら、首の半分以上を切断した!
どう!トモさん!これで大丈夫!?
『生命活動、停止を確認……やりますね、むっくん!』
今まで『やったか!?』で散々ひどい目に遭ったもんねえ!
これくらいのことは学習しますよ、えっへん!
『素晴らしい成長ですね、虫よ……私は誇らしいですよ、ふふふ……』
……無茶苦茶疲れてませんか、ヴェルママ?
なにかあったの?
『ちょっとお茶目に遠出をしたら部下総出で捕まって軟禁状態です、嗚呼、辛く苦しい……』
そういえばこの人、人魚の神様?の所まで逃げてたんだよね……仕事ぶん投げて。
『おらーっ!むっくんに神託飛ばしてる暇があったら陳情処理よろでーす、よろー!』
『おのれムロシャフト……この裏切者めが……!』
『どーの口がほざく!ホラ!ホラホラホラ!!』
『む、むむむむ……!』
あ、唐突に接続が切れた。
……まあ、かわいそうだとは思うけど自業自得だとも思うよ、ボク。
でもトモさん、お仕事終わってお部屋に来たら美味しいモノ出してあげてね、お願い。
『慈愛虫……!もう!その優しさにポイントを付与――ッキャンセル!』
なんでさ!?
「おやびん!おやびーん!!」
おっとアカ、お疲れ。
そんなに慌ててどうし――
「まだくる!くるぅ!」『新手が飛来!ロロンさんたちの方角です!!』
魔石ボリボリ!むっくん・ジャンプぅ!!
ええい!次から次へとこんちくしょーッ!!
・・☆・・
トモさんの誘導によって、すぐに休憩所上空に戻ることができた。
だけどそこは……体に悪そうな紫色の煙が充満してる!?
ど、どど毒ブレス!?
あああ、どうしよう!?
『安心なさい、カマラさんが結界を張っているようですよ、ホラ!』
あ!ホントだ!
中央に半透明の幕がチラッと見えた!
さすがのタリスマンだ!!
……でも、これ吐いたグリュプスどこ?
魔力全然感じないけど。
ここに到着するまではむっちゃ感じてたんだけどな。
「アカ?」
「いない、いなーい?どこ、どこぉ?」
『まずい事態ですよ、コレは……魔力遮断に長けているということは、先程の個体よりも――』
――ぞくっと、きた!
『ご、めん!アカ!』「ひゃわーっ!」
肩のアカを掴んで、前方に放り投げる。
ボクにできたのは、そこまでだった。
「ガ、アァ!?」
背中に、重圧。
いや、これは……体に!爪が!食いこんでる!
でっかくて、重い爪が!!
――あっという間に地面が急接近し、ボクは休憩所手前の地面に叩き付けられた。
「キュオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「ギ、グウ、アアッ!?!?」
背中の爪の先端が、装甲を突き破って体内に!
地面に押し付けられた分も加わってる!
が、な、あああっ!?
あっ、熱い!?
この感覚、まさか――!?
『いけない!爪の毒が体内に――解毒開始、します!』
やっぱり毒だ!ぐむうう……この爪の感じ、上にいる奴は明らかにさっきのよりも大きい!
大きくて、強い!!
激痛の中、なんとか魔力をかき集めて――肩甲骨に!
「ンニャロメーッ!!」
地面に押し付けられていても、肩甲骨はフリー!
そこから展開した隠形刃腕を、多分ここだろうなって部分に向けて――突き立てる!
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
よしどっかに当たった!このまま足を斬り落として――うあ、あ!?
なんで、何で空が見えて――空中に放り投げられてるッ!?
「ムーク様、ムーク様ァッ!!」
「駄目だ!煙が晴れるまで動くんじゃないよ! 残り香でも猛毒だ、動けなくなっちまうよ!」
あ、ロロンたちは元気か――よかったぁ。
「ッガ!?」
空中でタックルを受け、斜め下に吹き飛ばされる。
ああ、トモさんが言う通りにさっきのよりもでっかいや、コイツ!
地面に叩き付けられる前に、全身に魔力を循環!強化!!
「ガ、オオ、グウウウウウウウウウウウウウッ!!」
背中から地面に叩き付けられたボクは、周辺の木や石を砕きながら引き飛ばされる。
「このっ!このっ――えぇえーいッ!!」
空中のグリュプスに、アカの稲妻が何度も何度も直撃しているけど――羽の一つも焦げてない!
なんちゅう魔法防御力!
『アカ!魔法を小出しにしながら逃げ回るんだ!アカなら大丈夫!やれるよ!!』
「あいっ!おやびんの、かたき!かたきぃ!!」
どこで覚えたのさ、そんな物騒なワード!
「ケェエエエエエエエエエエエエエエエンッ!!」
グリュプスは、周辺を高速で飛び回るアカを鬱陶しそうに顔で追って――吠えると同時に、両翼から多数の羽を放つ。
「にゅにゅにゅ――いっけぇえ!!」
アカの全身に魔力が走り、一斉に放たれる思念ミサイル!
それは――アカに殺到する羽を残らず迎撃!
それどころか、突き抜けてグリュプス本体へ着弾!
ウチの子分凄すぎ!
「キュオッ!!キュオオオッ!!」
顔付近にミサイルをもらったグリュプスが嫌がり、顔をそむけた。
よし、今だァッ!!
「ヌゥウ――」
跳ね起きて、すかさずジャンプ!
補助翼展開ッ!からのっ!!
衝撃波!衝撃波!衝撃波ァッ!!
グリュプスがボクの接近に気付くけど、遅いッ!!
「――オウリャアッ!!」
多段式加速並びに――ドロップ式!むっくん・キィック!!
「ギャバッ!?!?」
横っ腹に食い込む両足!多分あばら的なモノが折れたぞ!
――そしてボクの両足もミシッてなった!脆弱レッグ!!
「ケェエエエエエエエッ!!」「ガアアッ!?」
噛まれたァ!?
うぐぐぐ……!右肩の鎧が粉々になって!しかも毒った!!
あっつ!右半身あっつぅ!?
「グヌヌ、グ、ガ、ガアアアアアアアアアアアアッ!!」
でもこれは好都合だ!
噛まれながら隠形刃腕を、展開!魔力全開!!
「ギィアッ!?!?」
超振動した刃が、ボクに噛みついたグリュプスの首に左右から突き刺さる!
かったい!コイツかったい!!
いつぞやの黒オークアーマーに比べたらマシだけどさ!!
「ケェアアアアアアアアアアアッ!!キュオッ!!キュオッ!!」
「ンギィイイイイイイイイイッ!?」
暴れ回るグリュプスが急降下して、川底に叩き付けられるボク!
なんでこんなに尖った硬い岩があるの!背中がザリッてなったじゃんか!!
くっそ、こう距離が近いと黒棍棒も振れない!
この状態なら電磁投射砲は撃てるかもだけど、方向がわからんから最悪ロロンたちを撃っちゃう!
「ゴボボボボ……!」
でも、この体勢でもボクには――素敵なチェーンソーが!あーる!!
「ゴババババ!!」
黒棍棒を左手に持ち替え、首元に右パンチ!刺されチェーンソーッ!!
「~~~~~~ッ!?!?!?」
チェーンソーが首に食い込んで、グリュプスが大暴れを始めた!
刺され!刺され!千切り取れーッ!!
視界は濁った水の色だったけど、チェーンソーが回る手応えからすぐに真っ赤な水になった!
もう離れないぞ!離れてたまるもんかーッ!!
「ブワッ!?」
空が見える!ってことは川から出たね!
でも、こうビュンビュン刻まれてたら満足に飛べまい!
このまま一気に首を――
――ぶちん、と嫌な感触。
「グアッ!?!?」
こ、この――右肩から食いちぎられた!?
毒で麻痺しててあんまり痛くないのが幸い――う、オォ!?
「ケェエエエエッ!!」
グリュプスが頭を振って、ボクは水切りよろしく水面をチュンチュン飛ばされた。
そして――休憩所に突っ込んだ。
「ムーク様ァ!そごから逃げやんせッ!!」
優しい誰かが作ってくれたベンチをなぎ倒して止まったボクの周囲に……毒煙!?
しまった、ここは――マズイ!?
「ング、ゴッハァ!?」
胸が焼けるように熱い!毒を吸い込んじゃった!
早く、ここから逃げないと――
『――むっくん、前ッ!』
トモさんの声に、黒棍棒で地面を突いて横へ転がる。
「ガ、アァ!?」
だけどちょっと遅く、ボクの千切れた肩のあたりに毒々しい色の羽が突き刺さった。