第10話 謎虫、(無理やり)空を飛ぶ。
「ケェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエンッ!!」
なんじゃこの声……トモさんっ!
『方角、東の上空!魔力反応、大!魔物です!!』
その声に顔を向けると――見えた!なんか大きな影!
真っ直ぐコッチヘ向かって来てる!
大きな翼が見える……竜か!
魔力充填!胸ハッチオープ――キャンセルゥ!!
あっぶな!こんな所で撃ったら後ろにボクが吹き飛んで大惨事になっちゃうじゃん!!
トモさん!アレってコロコロしていい対象!?
『対象補足……種別判定!大丈夫、アレは――グリュプス!むっくんにわかりやすく言うとグリフォンです!鷲の頭に獅子の胴体を持つ――肉食性の魔物ですよ!』
ああ、なんか聞いたことある!
「ロロン!ココヲ頼ムヨ!」
「合点!お気をつげで!!」
ロロンとカマラさんは、空の人の治療しないといけないもんね!
それならボクは――突撃虫になる!!
「ムークちゃん!たぶんありゃ【ベネノ・グリュプス】だ!毒ブレスを吐くし、足の爪にも毒があるよ!気を付けなァ!」
「ハイッ!!」
とてもおっかない!
『アカ!肩におーいでッ!!』『あいっ!!』
すっかり目覚めたアカが肩に飛び乗ってしがみつく!
よし、むっくん――ハイ・ジャーンプッ!!
どおん、と真上に飛び出す。
同時に補助翼展開ッ!
真下に衝撃波!衝撃波!衝撃波ッ!!
多段式ロケットみたいに、ぐんぐん上昇ッ!!
『アカ!ごめんけど念動力全開!ボクを浮かせ続けて!他の魔法は使わなくていいから!』
『あいっ!がんばゆ、がんばゆ~!!』
跳躍の頂点で、ボクの体重が軽くなる感覚!
よし、これで……いけるぞォ!!
後方に――衝撃波ァ!!
若干見えてきた黒い影に向け、一気に突撃!
ぐんぐん距離が近付き、その全貌が見えてきた!
「キョオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
ウワーッ!体が走竜ちゃんくらいある!でっかい!!
凶悪な鷲の顔をした、羽が毒々しい紫色のバケモン!
そいつは、嘴を大きく広げてこっちの方に――紫色の煙をズワーッ!って吐いてきた!
これが、毒ブレスか!
慌てず騒がず、衝撃波を横にッ!
斜めに高速移動して――明らかに体に悪そうなそれを躱す!
色がついててわかりやすい!
「ムン、ムン、ムンッ!!」
躱しながら、左腕に魔力を込める!
「ケエエエエエエエエエッ!!」
ボクに向けて口を振るグリュプス。
その首に――すれ違いながらの!三連パイル全弾発射ァ!!
撃った反動も使って、更に距離を取る!先手必勝じゃ!!
「ギャアアッ!?ッケ!?」
ボクの放った棘は、グリュプスの首を掠めて出血させた!
コイツ、動きが速い!?完全に直撃コースだったのにさ!
トモさん!棘修復よろよろ!
『アカ!苦しいだろうけどあの紫の煙が近くにある時は息しちゃ駄目だよ!』
『あいっ!』
グリュプスと完全にすれ違う――瞬間に!
速射衝撃波、五連!!
「ギャアッ!ガギャアッ!!」
思った通り、大したダメージにはなってないけど……!
ヤツはボクをしっかり認識して、こっちにを目で追っている!
よしよし、誘引完了!
『マントの首のとこ!魔石あるからキツくなったら食べるんだよ!』
『あいっ!』
よおおし!とにかく、治療してる場所から引き離す!
衝撃波、全力発射ァ!!
どおん、とボクの体が加速する。
ふふふ、旅の途中で散々墜落しつつ補助翼に慣れたんだ!
細かい機動はアカとピーちゃんにはとっても敵わないけどね、それでも直線なら――
『後方!魔力収束!』
おっとブレスか!
了解!補助翼の角度を弄って――急上昇!
ふわ!?
避けたけど今の何!?
なんか、毒々しい色の固形物に見えたんだけど!?
『なんでしょうか、恐らく口から吐いた石のように見えましたが……とにかく、毒性の何かでしょうね』
どっちにせよ当たると痛そう!
「おやびん!はね、はねーっ!とんでくゆ!」
そりゃ羽ばたいて飛んで来るでしょうよ?
……いくら何でもこの場面でアカがそんなこと言うか!?
――ぞくり、と寒気!
真上に衝撃波!
「ナンジャ、アレ!?」
頭上を、羽がザザザザーッ!って通り過ぎた!
『アカちゃんのミサイル、その羽版のようですね!当然ですがアレにも毒が含まれていますよ!』
オノレーッ!毒のフルコースか!!
むむむ……結構な距離は稼いだし、相手は完全にボクをロックオンしてる。
そろそろ、地上に降りるかな!
アカじゃないので空中じゃあ勝ち目がない!多分!
だけど、ここで駄目押ししとこう!
『アカ!ぐるんってするからね、しっかり掴まっといて!』
『アカ、あれしゅき!』
再度飛んできた羽を横スライドで躱し――魔力を、溜める!
もう一度背後に衝撃波を放って、その瞬間に補助翼を上昇方向へ!
「わはーっ!」
何度か試したけど、アカってこれ好きだよねえ!
ともかく――急上昇しながら、回転!
さかさまになった視界で足を振り、追いかけて来るグリュプスに向ける!
飛んでけ!足パイル!二連ッ!!
時間差をつけて発射された棘が、グリュプスに向かう。
その反動でさらにボクは回転!再度の衝撃波で急降下体勢!
トモさーんっ!当たってたら教えて!
『一射目、右の翼端を掠めて……二射目、左翼中央に着弾、貫通!』
「キュオオオオオオオオオッ!?!?」
よーっし命中!!
痛そうな声出してるねえ!
このまま地表まで逃げーる!!
『アカ!念動力はもういいよ!好きに攻撃してッ!!』
「あいっ!うにゅにゅにゅ――えぇーいっ!!」
肩がちょっとピリピリするってことは、雷撃魔法ね!
「ギャアッ!?ギョオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
『全体に被弾!ですがグリュプス種は高い魔法耐性を持っているので被害は軽微!より一層怒らせることには成功したようですが!』
ムムムー!ちくしょう!
魔法が駄目ならやっぱり肉弾戦しかないのか!!
「おやびん!またはね、くる!くる!」
了解ッ!横スライドッ!!過ぎていく羽の群れ!
どっちにせよ、ボクはずうっと飛んだままじゃいられないんだ!
やるしかない!地上でっ!!
川の浅い部分を、ガリガリしながら軟着陸!
『アカ、えん――』『えんご、えんご~!しゅる、しゅるぅ!』
……頼れる子分ですよ、本当に!
浅瀬から河原にダッシュして振り返ると――また羽だ!まーた羽だ!
「ンニャロッ!!」
速射衝撃波を喰らえーっ!!
連続して放った衝撃波は、羽を空中で迎撃!
「こっち、こっちぃ!!」
その隙に超低空を飛ぶアカから放たれたミサイルが、下からグリュプスのお腹に連続で突き刺さった!
「ケェエエエエエエエエエエエエエッ!!」
おお、怒ってる怒ってる!
アカの方に首を向けたから――この隙に、左腕へ魔力を溜める!
唸る魔力が装甲を震わせて……充填完了!
「あはは!あははーっ!!」
アカが爆笑しながらむっちゃランダムな機動で飛んでる……我が子分ながら、飛行の才能は足元にも及ばんよ……ボクは。
しかし、カワイイ子分が時間を稼いでくれているので――ボクも、頑張る!!
地面にパイルオン!
今度は地に足が付いてるからね!外さないぞ!!
「狙ッテ……狙ッテ……」
真っ直ぐ構えた左腕に、溜めた魔力を動かす!
まだ全然上手にできないけど……こう、肩から手先に向けて螺旋を描くように!
こうすると、なんか棘が真っ直ぐ飛ぶような気がするんだ!!
『アカ!上に引き付けて!!』
『あーいっ!!』
アカが超低空から一気に急上昇!
グリュプスのお尻に掠めるような感じで、上空へ!
「ケェエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」
激おこなグリュプスは、大きく体を回して――上昇の体勢に入った!
ここだ!羽ばたくために一瞬動きが――止まるッ!!
――左手パイル、三連射出ゥ!!
あああっ!腕の装甲が弾けちゃった!?
でも、飛び出した棘は――狙い通りに、グリュプスの左翼中央に全弾命中!
周辺の羽や肉をこそぎ取りながら、反対方向へ盛大に貫通した!
「――ギャアッ!?ア、アアアアアアアアアッ!!」
よし!バランスを崩した!
羽付きの魔物は、厳密に言えば羽ばたいて飛んでるわけじゃないけど――それでも、翼を破壊されると飛べなくなったり速度が落ちたりする!らしい!ロロンが言ってた!!
そして、グリュプスは空中で横倒しの体勢になって――落下してきた!
よーっしゃ!落ちる!
むっくんジャンプ!補助翼展開!衝撃波――全開ッ!!
さっき落ちた川に向かって、飛ぶ!!
「ギャガッ!?!?」
グリュプスが川面に落下し、盛大な水飛沫を上げた!
ここで――畳みかけるッ!!
両手で黒棍棒を握りしめ、魔力オン!そしてッ!!
「――ヴァーティガッ!!」
ぎゅぎゅん!っと魔力が吸われた!
やっぱり名前呼ぶとチューッとするじゃんか!!
「キュオッ――!!」
水面からグリュプスが顔を出し、ボクに向かって嘴を広げる。
「――ウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
その嘴から射出された毒々しい石もろとも、蒼く光る黒棍棒を叩き付けた。