第9話 早朝の未確認墜落そらんちゅ!
「フワァ……ア?」
久々の野宿は腰にくるような気がしないでもない……オハヨウ諸君!
っと、起きてはみたけども。
「んみゅ……んみゅ……」
「チュン……ピピヨ……」
「んなぁ……んなぁ……」
どうやら早く起きすぎたらしくって、ボク以外のみんなはまだ夢の中。
お外も……ありゃ、ちょっと薄暗いや。
時間にして4時とかそこらへんかなあ?
『早起きは三文の得、ですね。ちなみに三文とは現在の貨幣価値に置き換えるとだいたい100円に届かないくらいです』
フムン、長い目で見ればお得……なのか?
なんか完全に目が冴えちゃったから眠るに眠れないや……
そうだ!
朝ご飯用の水でも汲んでこようかな。
たまにはロロンの手助けしないとねえ。
ええっと、確かこの休憩所からすぐそこに川があったから……そこへ行こう!
予備のバケツはバッグ内にしっかり入ってるしね!
待ってろロロン!おやびんの頼れるところを見せちゃうぞ~!
そうと決まれば皆を起こさないようにこっそりとテントを……出~る!
カマラさんも起こさないようにね!
・・☆・・
「チベタイ!」
早朝の冷たい川に足を突っ込む。
うひい、綺麗な川!冷たいけど!
でも凄い透明度だ……煮沸するけど、このままでも飲めそう。
ボクとアカ、それにピーちゃんは食中毒には無縁だしね。
はあ、それにしてもいい景色。
なんにも余計なモノはないねえ。
自然100%だし。
魔物の気配もないし、とっても穏やか!
『まあ、ここは大丈夫ですね』
ムムム、ここは?
『はい、お忘れですかむっくん。トルゴーンはミレドン山脈に囲まれた国、特にこの首都街道は外延部を通りますからね』
あ、そっか……
この世界の森って、基本的に伐採するとひどいことになるんよね?
『ちょっとした林や、森の外側を切り開くくらいなら大丈夫ですね。ですが一定以上の深さまで伐採や開拓を始めると……どーん!スタンピードです!』
トモさんのどーん!かわいいねぇ。
でも、この世界って大変だ。
前にダンジョンで魔物が無限湧きしないって聞いたけどさ。
この世界だと、深い森ってダンジョンみたいなもんじゃん。
くわばらくわばら。
『朝から女神を口説くとは、むっくんも進化しましたね……!』
口説いてないやい!
ぶるる……それにしても冷たいや。
季節は春らしいけども、とってもひゃっこい!
ロロンたちは水浴びにも一苦労だね……ドラム缶みたいなものがあったら、買ってバッグに入れとこうかなあ?
異世界五右衛門風呂も乙なモンだと思うよ。
まあいいや、バケツをざぶーん、水をゴバゴバー。
そしてボチューン!
……ボチューンって、なに?
えっなに今の音!?なんか上流から聞こえたけど!?
でっかいものが水に落ちたみたいな音が!
『む、魔力反応……魔物ですかね』
えらいこっちゃ!
距離はちょっと離れてるけど、ヤバいタイプの魔物なら叩いて成仏させんと!!
まったくもう、こんな朝っぱらから!
でも、パーティの安全のために親分はがんばりますぞ~!!
カムヒア!黒棍棒くん!!
『そういえば、真の名では呼びませんね』
だって不用意に呼んで魔力チューッ!!されたら嫌だもん!!
ともかく、むっくん・ジャーンプッ!!
たしかあっちの方角だったよね!イクゾーッ!!
空中で何回か衝撃波を放って移動すると、川上の状況が飛び込んできた。
そこには、でっかい鳥みたいなのが半分沈んでたんだ。
朝ご飯になるかなあって思って近付いたら……その鳥は血を流してた。
どうやら、怪我をして墜落してきたみたいだった。
そして、黒棍棒を構えて近付いたんだけど……その鳥は、鳥じゃなかった。
大きな翼の先っちょからは、手が生えてたんだ。
そのフォルムには覚えがあった……そう、空の人!
トルゴーンに入る前に知り合った、ジャンタナさんと同じような感じの!
慌てて黒棍棒を収納し、ざばざば近付いたところ……その人はうつ伏せになって川の中央に沈みかけてたんだ!
「ダ、ダダダ大丈夫デスカ!?」
慌ててその人の肩に手をかけて、水から引き剥がす。
ぐったりしてる……うわ!血!血だ!!
飛行服の腹部から、結構な量の出血!!
「あ……うぅ……」
その人は、口から苦悶の声を出した。
あ、くちばしがないってことは女の人か……うわ、本当に胸が大きい……ってそれどころじゃない!ボクの馬鹿!!
『ポーションです、むっくん』
バッグに手をイン!来たれ中級ポーション!!
――来たァ!!
『腹部の傷が最も大きいですね。そこにぶっかけなさい』
はい!
ポーションをザバーッ!!
……おお、いつ見ても凄い!
傷が塞がっていく……!
よし、次は……体を温めてあげないと!
川の中じゃ不味い!
「ドッコイ……ショット!」
川に空の人を浮かせ、膝と背中に手を回す。
よし行くぞ、ジャンプ!!
――からの、衝撃波!あんまり強くないのを!
この人に影響を与えない範囲で!カッ飛べボク!!
「ムーク様ァ!」
おお、ロロンが起きてる!
さっきのボチューン!で起きたのかな?
耳のいい子分がいてとっても嬉しいよ!
「ロローン!怪我人!怪我人!!」
上空で叫び――着地ィ!!
「なんだい朝っぱらから賑やか……そのまま持ってな!」
寝ぼけ眼でテントから顔を出したカマラさんが、一瞬で表情を変える。
そして、素早くテントから出てきながら……懐から布をバサッと出した!
「よし、ここに寝かせな!」
「ハイ!」
なんか、魔法陣とかが書いてある布だね……なんじゃろこれ。
まあいいか!安置!安置!!
「むにゃむ……どしたの、どしたのぉ?」
空の人を寝かせたあたりで、アカが目をこすりながら起きてきた!
やったね!丁度いい!
確かバッグに入ってたハズ……あったァ!木の棒!!
『アカ!この……木に魔法撃って!燃えるやつ!』
「うむにゅ……あーい……」
寝ぼけてるけどアカは魔法を使ってくれた!
アッヅ!?ボクの手も一緒に燃えたァ!?
おごごごご……で、でもコレで種火は出来た!
「じゃじゃじゃ!?」
「種火、種火!オ湯、オ湯!」
とにかく燃え盛る木の棒を、昨日使った焚火の残骸に置く。
そして集めておいた薪を組む!
もし消えちゃってもアカがいるから大丈夫!
「腹の傷にポーションを使ったかい!?」
「ハイ!血ガ凄クテ深ソウダッタノデ!!」
カマラさんは寝かせた空の人を隅々まで見渡している。
「よし……デカいのはここだけだ、だけどこの顔色……出血だけじゃないねえ」
「水汲ンデキマス!ロロンハ、カマラサント一緒ニコノ人ヲ!」
「合点でやんす!」
とにかく、何をするにもお湯が必要だ!
速攻汲みに行くぞ!さっきはこの人の墜落に気付いてキャンセルしたもんね!
「参ったね、毒だよコイツは」
「じゃじゃじゃ、何の毒でやんすか」
「むう……そこまではわからないねえ。だけど、この反応だと……」
水を汲んで戻ると、何やら物騒な話が始まってた。
空の人は、着ていた服を全部脱がされて毛布に包まれている。
ついでに体も拭いたんだね、早業だ。
「水汲ンデ来タヨ!」
「そごの鍋にお願いいたしやんす!」
「ハイッ!」
燃え始めた薪の上には、もう湯が沸かせるようにコンロが組まれていた。
手際がいいねえ!
そこにお水をザバーッ!!
「ムークちゃんが早く処置したのが幸いさね。血はそんなに出てないから、この分だと……」
カマラさんは何かを唱えながら、空の人の胸にタリスマンを置く。
それには透明な宝石が嵌まっていて……しばらくすると紫色に光った!
「劇毒まではいかないか、それなら手持ちのモンでもなんとか……」
それって毒の判定機なの?
いろんなタリスマンがあるねえ。
「ロロンちゃん、これと、これと、これを混ぜて湯に溶かしな!」
カマラさんが再び懐に手を入れて、小さくまとめられた乾いた薬草?みたいなものを取り出す。
それと、アレ!理科の授業とかで使うすり潰す器具……小さいすりこぎ?も!
「はい!」
「ムークちゃんは湯を見てな!沸騰したら教えるんだよ!」
「ハイッ!!」
すごいやカマラさん、テキパキしててお医者さんみたい!
「おやびん、だいじょぶ?あのひとだいじょぶ?」
完全に覚醒した様子のアカが、ボクの肩に着地。
心配そうにしているね……
「あ、う、うぅ……」
その時、毛布にくるまれた人が呻いた。
「無理に喋るんじゃないよ、もう大丈夫だからね、落ち着きな!」
「ち、が……」
カマラさんが優しく叱咤するけど、その人は苦しそうに首を振った。
「に……げ……!」
そう、絞り出した瞬間だった。
「――ケェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエン!!」
空の方から、何かの叫び声が聞こえてきたのは。