第8話 この先も栄えるだろうね……中華料理は!
「オ世話ニナリマシタ」
「お世話になりやんした!」
「だいぶ宿代まけてもらったけど、大丈夫なのかい?」
ボクとロロンが頭を下げると、女将さんが嬉しそうに笑った。
カマラさんは、ちょっとだけ心配そうにしている。
「いいのいいの気にしないで、旦那が滅茶苦茶世話になったからねえ!」
「おうよ、ピーちゃんのお陰で俺の腕もぐうんと上がったしな! これで美味い料理をバンバンこさえて、ぼろ儲けさァ!」
女将さんの横に立っている旦那さんが、カマキリアームで力こぶを作った。
うーん、清々しい。
早いもので、ラガランに到着してからもう1週間経過した。
そして今日、ボクらは出発する。
「さいなら、さいなら~!」
『おいしかったわ!とってもおいしかったわ!』
「こっちこそ、こんなにいいものもらっちゃってねえ……ありがとうよ」
アカとピーちゃんが協力して作った幸運のタリスマンを持ち、女将さんは嬉しそう。
カマラさんが基礎を整え、アカのお祈りとピーちゃんの羽がぶち込まれた逸品である。
すごくすごいご利益がありそう。
「また来いよな!きっとまた来いよな~!」
「気を付けて行くのよ~!!」
女将さんたちは、ボクらにずっと手を振ってくれた。
別れはちょっぴり寂しいけど……まあ、いつものことだ!
さあ行くぞ!次の街へ!!
……あっ!
ボク結局お二人のお名前聞いてない!タイミングがなくって!!
『旦那さんはヒョロック、女将さんはナココさんですよ』
――トモさんペディア助かるッ!!
今度来たらまた教えてっ!!
『他力本願虫……!』
・・☆・・
「アンタら、あの道場からどんだけ土産もらってんだい……こりゃ、しばらく菓子と茶には苦労しないね」
ラガランの門を出て、街道を歩き出し……半日後。
いつものように休憩所があったので、ちょっと遅めのお昼ご飯と洒落こんだ。
その時にお茶うけとして、道場でもらったお土産を出したんだけど……その量にカマラさんは呆れ顔だ。
「ロロンガ頑張ッタノデ」
「じゃじゃじゃ、ワダスはそんな……」
照れてるけど、ロロンは凄かった。
あれから毎日道場に顔を出して、お弟子さんたちと稽古ずっとしてたもんね。
お弟子さんたちもいい刺激になったみたいで、セジーロさんが喜んでいた。
……ボク?
ボクは対人戦やると相手が危ないとかで、見学虫。
セジーロさんがこっそり教えてくれたけど、ボクは『たぶん手加減が壊滅的にへたくそ』なんだって。
かなり格上相手とかなら大丈夫なんだけど、あそこのお弟子さんたちはまだ未熟だから稽古は勘弁して……ってさ、言われちゃった。
むむむ……まさか対人経験の少なさがここで響くとはねえ。
なので、開き直って置物虫と化していました。
お弟子さんたちと話するのも楽しかったしね。
ソジーロさんとも打ち解けることができたし、よかったと思う。
『みんな可愛くていい子だったわ!』
「おかし、いっぱい!やさし、やさし~!」
この2人はあっという間に人気者になってたもんね。
やっぱりあのお弟子さんたち、若いというか……日本だと中学生くらいなんじゃろね。
ミシコ?さんはロロンとリベンジマッチの約束してて、微笑ましかったなあ。
「落差がひどいけれど、今晩は野宿になるね。風邪ひくんじゃないよ」
「ハーイ」
ラガランから北に伸びる『首都街道』を行き、目指す先は【三叉の街ルアンキ】
ここの距離は、懐かしのガラッドからガラハリくらい遠い、らしい。
間に街や村はあるけど、距離は結構ある。
まあ、野宿にも慣れっこだし食料はあるし……なにより『首都街道』は首都までの道だけあってかなり整備されていて歩きやすい。
休憩所もいっぱいあるらしいしね。
「といってもさほどキツい道じゃないがね。ただ……風呂がねえ、ないのさ」
「じゃじゃじゃ……知った今となっては少しばかりキツいでやんす」
女性陣にとっては切実な問題だ。
ボクとしても、お風呂がないのはちょっと寂しい。
恋しくなったら川に飛び込もうかなあ。
『お風呂に入りたくなったら鍋にお湯を沸かせばいいわ!いいわ!』
「ピーちゃ、かしこい、かしこーい!」
それであったまれるのは君たちだけだし……絶対に言わないけどいい出汁がとれそうだよね。
『鶏がらスープは悪魔の飲み物……ズズズ』
飯テロ女神だ!飯テロ女神だ!!
・・☆・・
「おやびん、みちきれぇ、きれー!」
「ソウダネエ、綺麗ダネエ」
肩に乗ったアカが言うように、ボクらが歩く『首都街道』はとっても綺麗。
さすがにアスファルトとは言えないけど、ならされて一定の広さがずっと続いている。
時々『次の休憩所まで○○デラシル』なんて看板もあるし、概念だけ知ってる高速道路みたい。
「アンタらが良く知ってる巫女の巡礼も、この道を通るしね。トルゴーンはこういう所に長けた国だからねえ」
あ、なるほどね。
土木建築技術、こういう所にもいかんなく発揮されてるなあ。
「今は大人しいけどね、アーゼリオンやオルクラディとの戦が多かった頃なんざ、【ロストラッド】や【グロスバルド帝国】まで派遣されて砦やなんかをいっぱいこさえたらしいよ」
そっか、築城とか陣地構築も戦争では重要だもんねえ。
「アーッ! クソ人間ノ国!!」
思わず口から出ちゃった!
「はっは、ムークちゃんは人間の国が大層嫌いだねえ」
ああ、いかんヘイトスピーチはアカの教育に悪い!
「概ねその考えに間違いはないよ、あそこはクソだまりの国々さね」
「んだなっす!人攫いの見下げ果てた国でやんす~!!」
ボクよりも攻撃力の高いヘイトが飛び出した!!
この世界でっていうか西の国で嫌われすぎでしょ、あの2国。
魔王さんの国よりも嫌われてるじゃん……
「アカもきらい、きらーい!」
ああああ、アカまで……
まあ、この子は攫われそうになったもんねえ。
『仲良くしたくない人がいっぱいいる国だって、先輩が言っていたわ! さっちゃんも嫌ってたわ!』
ピーちゃんまで!
そして記憶の中のさっちゃんさんまで!?
全方位に嫌われ過ぎじゃろ……あ、あれ?
そういえば……トモさんトモさん、今大丈夫。
『基本的にいつでも大丈夫な女神ですがなにか?』
ホットラインだ……
いや、今ふっと思ったんだけどさ。
人間さんサイドの神様って何考えてるの?
さすがにやりたい放題させ過ぎなんじゃない?バンバン戦争したりしてるしさ。
『さて、私にもわかりかねますね』
わかりかねるの!?
『【ロストラッド】とごく一部の人族付きを除き、あちらサイドの神々とは断絶していますので』
……今明かされる驚愕の!事実!!
えっえっ!?
神様どうしで喧嘩でもしてるの?!
『――私から開示できる情報はここまでですね、申し訳ありません』
何もわからないということがわかった!
……マージか、神様も大変だね。
あっ、それじゃあガラハリで会ったイルゼに付いてる神様とも断絶?
『いえ、転生者付きの神々はまた別のジャンルになります。あの時は隠蔽を第一に考えていましたが、その気になればコンタクトは取れましたよ』
色々ややこしいんだね……
『そうです、神は意外とややこしいのですよ。階位が上がればそのややこしさも加速度的に増えますので、メイヴェル様のように嫌になっちゃう方もそこそこいらっしゃいます』
地球のサラリーマンみたいだ、本当に。
『ぶっちゃけ私もそうなったら逃げることがあるかもしれませんね、ふふふ』
ふふふじゃないんですよ。
自由人が多いような気がすごいする、神様って……
『トモちーん、なんか美味しいモノある~?』
『なんですかムロシャフト様、こんなタイミングで来ても味噌ラーメンチャーハン定食くらいしかお出しできませんよ?』
『あんじゃん!超あんじゃーん!』
今まさに脳内に自由人がいるし!いるし!!
なんか……すっかり仲良くなってません?
前に恐れ多くて~……とか言ってませんでしたっけか。
『(慣れとは恐ろしいモノですね、むっくん)』
そ、そうですか……
そして、ヴェルママは結局捕まったんだろうか。
『あー駄目。今人魚の神様んとこまで逃げてるらしくって、激おこむしんちゅゴッデスが突撃してったよ~……ズルルル、うんっま!!』
『味噌コーンバターは悪魔を通り越して邪神ですよ、ズロロロ』
人魚の神様!
お隣のマデライン管轄の方々なのかな……
神様の世界ってどんな感じになってるんじゃろね、気になる虫。
『仕事エリアは地球とあんま変わりないんじゃない?知らんけどきっとそう……ズズズ』
『世界が変わっても、似通う部分はありますからね……ゾゾ、ゾゾゾ』
女神様たち、めっちゃラーメン啜るの上手よね。
ウチのロロンはまだ慣れてなくてエホエホしちゃうんだよ。
それでも啜るのをやめないのは凄いけどさ。
ベクトルのズレた努力家って感じ……!
「おやびん、アカ、ねみゅい」
おっと、どしたのアカ。
あら~……メトロノームの化身みたいになってるねえ!
気付くのが遅れてごめんねえ!!
「素敵ナ内ポッケニドウゾ」
「むいむいむい……」
眠い目をこすりながら、アカがポッケにIN。
『眠たい気がするわ~!』
何故かピーちゃんもIN。
まあいいけど。
よし……今晩の寝場所まで頑張って歩こう。
まあね!クソデカ森林に比べたら楽勝ですよ!楽勝!!