第7話 人に紹介できないお知り合いが増えてゆく……!
「まぐまぐ、あぐあぐ……」
「オイシイ?」
「おいし、おいし!」
揚げパンを頬張っているアカが、こっちを見て満面の笑みを浮かべる。
あらら、口の周りが油まみれじゃんか。
まったくもう……拭いてあげよっと。
「キレイキレイ……」
「むいむいむい……えへぇ、おかえし、おやびんも、おかえし~!」
「ムイムイムイ……」
どうやらボクも油まみれだったみたい。
親分子分揃って油まみれとは……揚げパンおそるべし、だ!
セジーロさんの道場で、なんか岩をぶん殴っただけでむっちゃ強者認定されたボク。
その後はロロンの連続組手でお弟子さんが全員ノックアウト事件とかもあったけど……ともあれ、色々と、どっさり、お土産を貰って宿に帰りました。
風呂敷がパンパンじゃよ~!
いらないって言ったのに、『まあまあ』で押し通された!
ゲニーチロさんみたいに押しが強い方だった!!
ちなみに中身は色んなお菓子詰め合わせです。
仲間に妖精がいるって言ったら、持って帰ってあげて!だって。
悪いねえ……
あ、そうそう……ソジーロさんには平身低頭で謝られたよ。
『身の程を知らずに申し訳ありません!』ってさ。
全然そんなことないと思うんだけどね、通常の木刀使った稽古だと絶対ボクが負けたと思うし。
ボク、武術とかそこらへん全然知らんからな~……
首都でゲニーチロさんに会えたら、初心者向けの道場とか紹介してもらえないかしら?
ま、そんなこんなで宿に戻って……帰りが遅いのを心配して玄関でホバリングしていたアカに抱き着かれてちょっと怒られたりした。
まあ、当の本人はお土産の揚げパンで機嫌を直したけどさ、一瞬で。
「ロロン、疲レテナイ?」
ここは食堂だ。
隣に座ったロロンは、ちょっとだけ沈んだ顔をしている。
「も、もも、問題ねがんす……!」
問題山積みって顔なんですけども。
やっぱりお弟子さん全員組手が響いてるんじゃないかな?
どれ、熱でもあるんかしら……
「チメタイネエ」
「は、はわわ! わだ、ワダスは汗ばかいたので浴場に行ってきやんす~!!」
そう言うと、ロロンはダッシュで食堂から出て行った。
ああ、汗ね。
汗だくだったもんな、ロロン。
ボクは汗かかないから忘れてた。
『デリカシー皆無インセクト……クンクン嗅いだりしていませんよね?』
ボクにもそれくらいのデリカシーはあるよォ!
どんだけHENTAIなのさ!ボクは!!
……あ、トモさんお部屋直った?
『先程直りました。今回は虫人の神々が申し訳なさそうにやってくださいましたね……もう慣れましたが、修理の度にちょっとずつお部屋が豪華になっているのでプラマイゼロ、というやつでしょうか』
……それは、どうなんだろうか?
あとヴェルママは何したのさ……
『手続きしないといけない事案をぶん投げて逃走していたようですね。かの女神ほどになればその数は膨大ですから、その気持ちは少しわかりますが……さすがにちょっとファンキーすぎますね』
ちょっとで済むんだろうか、ちょっとで。
ま、下界の一般虫には関係ないけども……
「アカ、果実水モ飲ム?」
「のむ、のむー!」
「ハイハイ、ドウゾ~」
ふふふ、揚げパンと一緒に買っておいてよかったね。
このむっくん、食に関しては妥協せんのだ……のだぁ……!
『あら、おいしそうな匂い!ムークさんムークさん、私の分もあるかしら?』
『ああピーちゃん、もちろんある……入るの?それ?』
厨房の方から、真円に近い形になったピーちゃんがぴょんぴょん歩いてきた。
ああ、厨房内部で旦那さんが突っ伏して寝てる……ノンストップで料理してたのか……!
妖精じゃないので無理しないでくださいね……?
『だーいじょうぶ!むむむ……ちょいさ!!』
ウワーッ!?ピーちゃんが一瞬でノーマルインコ形態に!?
『魔力に変えて貯金したわ!』
『そ、そっか……はい、揚げパンと果実水ね』
『まーっ!おいしそう!!』
ピーちゃんはボクの肩に飛び乗って、嬉しそうにチュチュンと鳴いたのだった。
物理法則さんがギャン泣きして失踪しそう……
・・☆・・
「フワァ……ネム……」
アカたちとおやつを食べた後、ボクは1人で宿の中庭にあるベンチに座っている。
道場で運動したからか、ちょっとお眠虫。
アカはピーちゃんと上空へ飛んでいったし、ロロンはお風呂。
お部屋ではカマラさんが絶賛作業中だと思うし……スヤスヤしてると邪魔になっちゃうだろうなあ。
というわけで、青空の下で少し昼寝でもしようかねえ。
『お腹を冷やさないようにするのですよ、虫よ』
……ヴェルママ、ムロシャフト様にごめんなさいしないと駄目だよ?
『仕事量が多すぎるのです。まったく、緊急性の高いものはしっかり処理しているので残りくらいは部下たちがやればよいのですよ……いかに神とは言え、少し疲れます』
あれ、そういえばムロシャフト様って虫人の神様じゃないのに部下なんですね。
『アレは呑気にほっつき歩いていたのでイラっとして仕事を押し付けました』
理不尽ママ!理不尽ママだ!!
『ほほほ!また可愛らしい名前を――むむ、ここも嗅ぎつけられましたか!さらばです虫よ!』
『メイヴェル様がいたぞおおおおおお!!』『追え!逃がすな!!』『ヴァシュヌヴァール様がそれはもうお怒りなんですが!いったい何をされたのです!?』
……フリーダムすぎるよう。
一般むしんちゅ信者の皆さんが見たらなんていうか……この街のシスターさんなんか泡吹いて気絶しそう……
本当に何したんですか、ヴェルママ……
……まあ、考えても仕方ないし寝よう、寝よう……
スヤァ……
『あーね、この周波数か』
……ぐうすかぴい。
『おーうおう、むっくん。バレバレの寝息ウケるんすけど』
……ど、どちら様、ですか。
『トモちんから話は聞いてるよん。あーしはムロシャフト!よろよろ~!!』
……うそでしょ。
あの、慈愛関係の女神様だって聞いてるんですけど……ま、まさかのギャル系女神様なの!?
どうなってんの!神様の世界は!!
『メイヴェル様がしょっちゅう逃げ込んでる転生者担当がいるって聞いてね~。この先まーた同じことあんだろから、あーしも登録しとこうと思ったってわーけ』
ボクの脳味噌を携帯番号みたいに登録しないでいただきたい!たい!!
『あっは、何この思念ウケる!かーいいじゃん、あんた』
……まるで気にした様子が見られない。
メンタル強すぎでしょ女神様って。
『おや、どうしましたかむっく……ムロシャフト様、ようこそ』
『おっすおっす!お邪魔してんよ~!』
まーた!まーたトモさんのお部屋に不法侵入しとるんですか!!
トモさんの存在しないハズの胃袋が穴あきチーズみたいになったらどうすんのさ!!
『(優しいのでポイントを付与しますが、お気になさらず。もう慣れました、死ぬわけではありませんしね)』
……トモさんが!強い!!
『此度は災難でしたね、ムロシャフト様』
『それな~!? いくら新人の時面倒見てもらったからってさ!さすがにあの鬼リピにはあーしもプンスカなワケよ~!?……なにこれ?』
『気苦労には甘いモノです。板チョコとココアをどうぞ』
『へえ~、これが地球のお菓子か~……んじゃま、いただきまー!』
トモさんのお部屋が神々のたまり場と化しつつある。
『うんっま!なにこれ!神界のもいーけど、こういう俗っぽいのもいーね!』
『喜んでいただけて幸いです』
……まあ、いいのかな?
ボクが気にしても仕方ないし……ムロシャフト様も気苦労が多そうだしね……
チョコでリフレッシュしてくれたらいいんじゃないのかな。
『おー!アンタ話わかんじゃん!さーすが、メイヴェル様をママ呼びするだけのことはあるね~!』
……よく考えたら不遜以外の何物でもないですね?ボク。
『いーのいーの!本人むっちゃ喜んでるから! あの人の部屋にむっくんの人形飾ってあるからね、この前見たし!』
ボクのおフィギュアだと!?
『ああ、私がお贈りしたものですね。一種の3Dプリンタフィギュアですよ、我ながらよくできました』
なんでそんなものを贈るんですか、トモさん。
『欲しいと仰いましたので』
……うん、そうだよね、そう……寝よう、寝てしまおう。
『時には諦めってのが肝心だかんね~』
『わかります』
なんか、仲良くなってない?
まあいいや……ぽやしみなしあ……スヤリ。
『あー、あーしもなんかわかるわ。メイヴェル様が気に入る理由』
『そうでしょう、むっくんは面白くてかわいらしいので』
『ノロけんじゃん……さっちゃんはいい子だったケドめっちゃ真面目だったかんねえ。ピーちゃんの補佐にも着きたかったけど、ルール上駄目なんよね~』
『おや、そうなのですか』
『上ってのは頭硬いかんね!そこだけはメイヴェル様を見習ってほしーし!』
『そうですね、そこだけは』
・・☆・・
「ムニャム……小籠包……棒棒鶏……回鍋肉……」
「ムーク様、ムーク様ぁ」
むにゃ……んお、もう夕方?
おお、目の前にロロンが。
「こげな場所で寝ては体を冷やしやんす。ささ、そろそろ夕餉でやんすよ~」
ええ、もうそんな時間か。
「デモオ菓子食ベタカラオ腹ハ……空イテルネエ」
我ながら燃費の悪い体ですこと!
「じゃじゃじゃ……んだば、行ぎやんしょ!」
「ハイハーイ!」
さーてさて、今日の夕飯はなんじゃろな~?