表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

227/332

第6話 アレ?なんかボクやっちゃいまし――ゴメンナサイ!!

「――ならぬ、ソジーロ。お主にはまだ早い」


 セジーロさんの息子さんらしいクワガタさん……ソジーロさん。

何故かボクと試合したい!って言った彼に、セジーロさんは冷たく呟いた。


「……何故ですか、父上」


「控えよ、まだ早いと申したぞ。不心得者めが……お客人に不調法であるぞ!」


 ヒィ!そんな怒らなくても!?

あ、でも戦いたいとは全然思わないのでそっちの方向でOKです!!


『後ろ向き虫……対人戦の訓練になるのでは?』


 いや、そうなんだけどね?

そうなんだけど……この空気でやるやるーっ!って言えないでしょ。

道場主が絶対NG!って雰囲気出してるんだからさ。


「む、ムーク殿、あなたは――」


 ちょっと!ボクにダイレクトに来ないでくださいますかヒィイイッ!?

ソジーロさん!?首!首スレスレに刃物!刃物ありますよっ!?


「あ……う……」


「道場主を飛び越えて客人に意見するとは……お主も随分と偉くなったものよのう」


 刃物の出所は、勿論セジーロさんの左手首。

そこから生えた黒い刃が、ソジーロさんの首ギリギリに止まっている。

ぜんっぜん気配が読めなかった……!


「も、申し訳、ございませぬ……!」


 刃が収納され、ソジーロさんはへたり込んだ。

うん、気持ちはよくわかる。

むっちゃ怖かったもんね、今のセジーロさん。


「ムーク殿、愚息が失礼をいたしました……」


「アアイエ全然……全然……」


 ボクは何もしておりませんし。

そして息子さんむっちゃ落ち込んでますし。

気まずい……気まずい……


 っひ、気付いたらお庭のお弟子さんたちがボクをむっちゃ見てる!!

やめて!ボクは悪い虫じゃないし強くもないよっ!!


「ソジーロ、お主のことだ……口で言っても理解せぬであろうな。……仕方あるまい、ダンジュロはおるか!」


「はい先生、ここにおりますだ」


 セジーロさんがそう言うと、庭の隅から……むっちゃでっかいむしんちゅさんが出てきた!?

お、おおお……2メーターオーバーのダンゴムシ要素があるむしんちゅさんだ!たぶん!装甲板がすっごい!!

ボクの素敵な背中よりも硬そう!!


「すまんが倉庫から試し岩を持ってまいれ、等級は一番上で頼むぞ」


「へい」


 何かは知らないけど、そう言われた瞬間にお弟子さんたちがみんなザワワ!ってなった!

なんですか!今から何が始まるんですか~!?



・・☆・・



「エ、エエト……」


「申し訳ありませんな、ムーク殿。ささ、ご存分に」


 あれからしばらくして。

ジーロさんは、黒くて大きい岩の塊を背負ってノッシノッシ歩いてきた。

何ちゅう力持ちさんじゃ……!


 で、その岩の前にボクは立っている。

……どういうことォ!?


「それは試し岩と呼ばれるモノでしてな。まあ、頑丈な的でございますよ」


「ハ、ハア……」


 それはわかったけど、何故ボクはここに立たされているんですか!?

そしてお弟子さんたちはなんでボクをキラキラ見つめてるんですか!!

特に女性陣!!

そしてロロン!キミもお目目キラキラでかっわいいね!


「倅にああは言ったものの、目で見ねば納得せぬものもおりましょう……構うことはありません、それを存分に攻撃していただきたいのです」


 ……固そうだなあ、コレ。

まあでも、むしんちゅさんと模擬戦してボコボコに負けるよりはマシかなあ。


『後ろ向き虫……』


 ひぎい!ウチの女神様が冷たいよお!!


『さあ、その雄姿を見せるのです虫よ。できればムロシャフトに見つかるまでに見せてください』


 ママは何してるんですか……ムロシャフト様に何したんですか……


「デ、デハ……」


 とにかく、この岩をぶん殴らないとどうにもならないっぽいですなあ。

ううう、手首グギってならないように気を付けよう……


 ええと、黒棍棒くんでぶん殴るのはナシだよねえ。

じゃあ、こっちでやるかなあ。


「フゥウウ……!」


 魔力を循環、左腕に纏わせる!

これやんないと腕とか折れたら困るし!


「オウッ――」


 一歩踏み込み、体を振って!


「――リャアッ!!」


 左ストレートをぶち込むッ!

あっ!結構硬いけど思ってたほどじゃないッ!!

拳が岩にめり込み、ヒビが入った――ので!3連パイルオーンッ!!


 時間差なしで放った棘は、ヒビの入った岩に突き刺さって――ほぼ抵抗を見せずに、内部に侵入した!

ドリルくん!よくやったァ!!


 ドドドン、と音が響いて――その大岩が吹き飛ぶ。

そのまま地面と水平にカッ飛んだ大岩は、庭の大きな石に激突してあああああ!?庭石くんが粉々になったァ!?

ご、ごごご、ごめんなさい……!


「ス、スイマセン……!」


 ちょいとした小金はあるので弁償します!しますぅ!

……う?

あれ、なんすか弟子の皆さん、そんなにお目目をまん丸にして。

あの庭石そんなに高価だったんですか。


「ムーク殿、まだ下半分が残っておりまする。できれば先程とは違う方法でお試しを」


 ……いいのかなあ?

じゃ、じゃあ今度は右腕に魔力オン!


「ヌンッ――」


 大きく、踏み込みに合わせて右腕をアッパー気味に!下からすくい上げるッ!!


「――ダッシャア!!」


 めぎ、と右拳がめり込む。

よーし!パイル!オン!!


 突き出された素敵なチェーンソーが、回転を始める。

棘が赤熱化しながら岩を削って――綺麗に真っ二つに!!

よーしよし、調子いいぞ!


 ……ギャラリーの皆様が静かすぎる。

みんな真顔なの怖くない?

男性陣はよくわかんないけども。


 あ、ロロンは顔を真っ赤にして一人で拍手してくれました。

えへへ、嬉しい。


「ムーク殿、申し訳ござらんが普段お使いの得物でもう一度」


 へ?なんでボクが武器持ちだってわかったんかな?

……あ、そうか。

ラーガリからトルゴーンに来た冒険者が手ぶらなわけないもんね。


「ハイ、ヨッコイセ」


 腰に貼り付いているバッグに手を突っ込んで……カムヒア!黒棍棒くん!

ぞるっと引き出し、片手で握りしめる。


「っひ」「なんっ」「おわっ」


 なんかギャラリーが悲鳴上げてない?

まあ、見た目はゴツクて迫力あるもんねえ。


「――ヨイッショ!」


 最後に残った破片を、大きく振り上げた黒棍棒で地面にめり込むように殴る。

だってこうしないと破片が飛んで危ないし、また庭石くんが死んだらかわいそうだもんね!


 相手は慈悲なきどころか意思なきだけど、黒棍棒は期待した通りに働いた。

接触した岩を粉々にしながら、チョットだけ地面にめり込んだ。

あだだだ、振動が伝わって手が!手が痺れた!!


「……アノ、コレデイイデスカ?」


 皆さんがあまりに静かなので、ゆっくり振り向く。

縁側的な場所に座っていたセジーロさんが、大きく腕を動かして――拍手!

ロロンと2人だけしか拍手してくれないけど、ちょっと嬉しいねえ!


「――素晴らしい!これはよきものを見せていただいた!!」


『この虫は見る目がありますね、雄々しい雄たけびもまたよきものでしt――』


『や〜っぱ、ここにいやがりましたか――メイヴェル様ァ!!』


『ッチ、存外に頭が回る……! 私は用事ができたので失礼しますね、虫よ!』


『待てコラッ!逃げんなッ!逃げんなァ~!!陳情から逃げんなァアアアアア!!!!』


『ああああ、部屋が、部屋が~!』


 すいませんセジーロさん!

今ちょっと脳内が無茶苦茶になってるので素直に喜べませんっ!

トモさんの!トモさんのお部屋が~!!

なにこの物騒な破壊音は~!!



・・☆・・



「オオムシクイドリを3人で討伐されたんですか!?」


「アッハイ、ボクトロロント……モウ1人デ」


「あのあのっ!他!他には何の魔物と戦われたんですかっ!?」


「エエト……直近ダト黒オークノ群レトカ。アトリビングメイルトカ、エンシェント・コボルトトカ……」


「きゃーっ!凄い!凄いですねムーク様ッ!」


 なんじゃろこの状態。


 ボクはあの試し岩?っていうのをボコボコにした後……むしんちゅさんに囲まれて質問攻めにあっている。

あ、ちなみに男女両方ね、両方。

さっきまで値踏み的な視線だったけど、アレ以来むっちゃ好意的になったんだよ。

そんなにあの岩硬くなかったけどなあ?


『試し岩、読んで字のごとく武器の試し切りに使用される硬い岩石ですね。セジーロさんの言い方が正しければ、その中でも一番高い等級のものだったんでしょう……そんなものをボコボコにしたんですから、皆さんに力量を知らしめたのかと』


 えええ?

だって硬くなかったよ、えっと……コボルトの変異種のお腹よりちょっと柔らかいくらいだし。


『それは今のむっくんの感じ方です。あれから進化もしましたし、修羅場も潜りましたからね……そもそも、ここのお弟子さんたちくらいの力量からしたら最強認定もやむなしかと』


 あ~……そうなのかなあ?

でもでも、動きもしないし……なーんか納得いかないなあ。


『まあいいじゃないですか、好意を持たれて困ることもないでしょうし』


 それはそうなんだけどさあ……あ!そんなことよりトモさんのお部屋大丈夫?


『瀕死の重体ですね、ええ。メイヴェル様が壁を突き破って逃げ、その後をムロシャフト様が鎖鉄球をぶん回しながら追いかけて行ったので』


 絵面がカオスすぎるんじゃよ!!

じゃあ、さっき聞こえた声がムロシャフト様なんだ……なんかこう、イメージと違うな。

いや、そもそも慈愛の女神様が鉄球振り回すのってなんなのさ~!!



・・☆・・



「どうじゃソジーロ、お主が到底かなう相手ではなかろう。ムーク殿は冒険者ゆえ、手加減が不得手と見てああしたが……あれをその目で見てなお、挑む程馬鹿ではあるまい」


「申しありませぬ父上……!このソジーロ、粗忽者でありました……!!」


「ここが戦場であったら死んでおるぞ、猛省せよ」


「ははーっ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あ、後。 後ろ向き虫頂きましたぁ。 ありがとうございます!
ギャフン。 甘かった。見積もり甘かった。 衛兵やら他の方々が強すぎて、ムッくんの 戦闘力見誤ってましたぁー!すいませんでしたあー! デスヨネーDeathよね! エンシェントコボルト硬すぎ!? 大虫食い…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ