第2話 ラーメン!餃子!
「ズズズ……」
レンゲですくったスープを一口飲む。
まず初めに塩を感じて、次にドーンと魚介の旨味!
後味に香辛料っぽい味を残しつつも、アッサリ爽やかな飲み口だ。
そして、いよいよ麺。
箸でたぐった麺を……すするぅ!!
「ゾゾゾゾゾ……」
麦だ!麦の芳醇な香り、そして強いコシ……噛んでも美味しいし、のど越しもとっても面白い!
中太縮れ麺にスープが絡んで……また違った風味を与えてくれる!!
「オイシイ!オイシイ!ンマーイ!!」
『ん~! おいしいわ、とってもおいしわ!!』
ボクに合わせて、ピーちゃんも歓声を上げた。
どうやら、中華料理店出身の彼女も太鼓判を押せる味らしい。
「つるる……おいし!これおいし!!」
フォークを使ってたどたどしく食べたアカも気に入ったみたい!
あら~かわいいねえ!1本ずつちゅるちゅるしててかわいいねえ!!
「アンタら器用だねえ……ピーちゃんはわかるけど、ムークちゃんはその【ハシ】まで使うしさ」
カマラさんとロロンも、フォークで食べてる。
スープパスタに見えてくるね、その食べ方だと。
「勉強シタノデ……ゾルゾルゾル」
まあ元々日本人ですし?
誰かに聞かれたらエルフに教えてもらったって言うことしよ!
ごめんなさいエルフさん!でも便利なのでごめんなさい!
ちなみにピーちゃんは直にズゾゾゾ啜ってます。
インコの概念こわれる。
今更だけど。
「ず、ずしゅる……むえっほ!?んっぐ!?」
あああ、ロロンがむせた。
慣れてないと難しいもんね、啜るの。
「どうだい、俺のラーメンは!」
『美味しいわ!とっても美味しいわ! ゴーサクちゃんの味とおんなじよ!おんなじ!!』
「そっ……そぉかあ! やった、やったぜ……俺の腕も捨てたもんじゃねえってこったァ!!」
カマキリの旦那さんが、大きくガッツポーズ!
あっ!ちょっと泣いてる!
涙腺をお持ちなのか!羨ましいことこの上ない!!
【キヨーミ亭】での夕食。
旦那さんが予告してくれた通り……メニューはラーメン定食!!
見た目は地球のものとほぼ変わりない塩ラーメンに、サラダと焼き餃子!!
トルゴーン最強!トルゴーン最強!! もう永住しようかな!!
『急にグルメ虫が始まったので私も釣られて塩ラーメンにしました。ズズズ』
だっておいしいもん!おいしいもん!
そりゃあ概念でしか知らない地球だけどさ……それでもラーメンはおいしいもん!
『店長さん!ショーユラーメンやミソラーメンは作れるの!?』
「ああ……修業はしたんだけどな、そいつらの材料はトルゴーンの南端じゃあ手に入りにくいんだ。首都まで行けば手に入るんだが……スマン」
なんだって!
他の味もあるとな!!
っていうか醤油と味噌あるんだ!この世界!!
やったぜ!ホームランだ!!
『かつてないほどむっくんのテンションが変なことに……』
ごめんなさーい!でも嬉しくておいしいので!!
『……ピーちゃん、ボクはさっちゃんさんがもっともっと大好きになったよ!』
『そうでしょう!さっちゃんは綺麗でかわいくて、とってもいい子だったんだからね!』
えへん!って感じで羽を広げるピーちゃん。
本当に感謝してるよ……まさか、異世界で中華料理が食べられるなんてさ!
「よかったねえ、アンタ」
「おう……これで自信がついたぜ、ようやく俺も一人前だなぁ!」
あ、旦那さんと女将さんが手に手を取ってキャッキャしてる!
いいねいいね、仲が良くていいね!!
『女神トモ、あのギョーザというものは……』
『あ、こちらです(むっくん、今回からメイヴェル様が『なんたる美味か!』した時に遮音シールドを張れるようになりましたのでご安心を)』
普通にくつろいでるね、ヴェルママ……そしてトモさんの有能さがとどまる所を知らない。
ヴェルママ、喜んでる時ってかわいくて好きなんだけど……急に来るとボクが昏倒する恐れがあるのでねえ。
『むぐ……まあ、かわいらしい虫だこと!ほほほ!』
ヴェルママはいつも楽しそうでいいなあ。
ボクも見習わないとねえ。
『( 程 々 に )』
ハイ。
「ムークさんよ、本当にありがとうな!」
おっとと、旦那さんが。
「イエイエイエ、ボクハ何モシテナイデスカラ」
確かにピーちゃんは助けたけどさ。
「これな、街々にある兄弟弟子の店のリストだ。この先も美味いモンが食いたきゃ行きな」
「オーッ!コレハアリガタイ!!」
なんて素敵なプレゼントだ!
これだけでお釣りが来ますよ!お釣りが!!
「あ、そうだアンタ!あの人!あの人のこと教えてあげな!」
「どの人だよ」
「アンタのずうっと上の姉弟子さんだよ!ホラ、あのネクト族の!」
「ん……あーっ!そうか、そうか!」
どうしたんだろう、夫婦漫才かな?
ネクト族……初めて聞く名前だね?
そう思っていると、旦那さんがピーちゃんに寄ってきた。
「ピーちゃん!あんた、【ルフト】って名前に聞き覚えねえかい?」
『ルフト……?』
「初代ゴーサク先生の直弟子だよ!」
それ、めっちゃ昔の人なんじゃ……?
とっくにお亡くなりになってるんじゃないのかな?
『ルフト……あーっ! まさか、ルーちゃん!?』
ピーちゃんはチュンと鳴いて空中に飛び上がった。
『ねえねえ、その子って白い甲羅の……?』
甲羅?
「そうそう、そうだよ!」
『まーっ! ゴーサクちゃんにいつでもくっついてたあの子ね! 覚えてるわ! 覚えてるわっ!』
ほほう、お知り合い?かな。
でもやっぱり亡くなってるんじゃないのかな。
「【ルアンキ】って街で店やってるんだよ! 去年行った時は元気だったから、顔出したらきっと喜ぶぜ!」
『まーっ!!』
御存命でいらっしゃるゥ!?
『ズズズ……ネクト族はですね、むっくんにわかりやすく言えばカメです。カメに似た特徴を持った種族でとっても長生きさんなんですよ……ズズズ……』
まだラーメン食べてる……でも、トモさんペディアサンクス!
そっかあ、長生きなんだあ。
「ヨカッタネエ、ピーチャン」
「よかた!よかたね~!」
空中にいるピーちゃんを撫でる。
おお、なんかフワフワだ。
テンションでモフモフ感が増すのかな?
アカも、嬉しそうに周囲を旋回している。
『私、旅に出てよかったわ! とってもとっても嬉しいわ!!』
ピーちゃんは、目を潤ませながらチュンと鳴いたのだった。
・・☆・・
『チュムチュム……さっちゃん……うふふ……』
「すひゃあ……すひゃあ……」
よく寝てるなあ、2人とも。
ピーちゃんはさっちゃんさんの夢を見てるのかなあ?
幸せそうな顔してるねえ。
「ネクト族か……アタシも見るのは久しぶりさね」
その様子を微笑ましそうに見ながら、椅子に腰かけたカマラさんが笑う。
「ワダスは初めてでやんす! 背に甲のある者同士、気になりやんす~!」
ぽんぽこのお腹がちょっと苦しそうなロロンは、目が輝いている。
背中に甲羅がある種族が複数いるのがビックリですよ、ボクは。
夕食後、部屋に戻ってまったりしている。
アカとピーちゃんは早々に眠りにつき、ボクらはテーブルに集まって食後のお茶会だ。
やっぱりこの香ばし麦茶、とっても美味しいね……ボクはケマの方が好きだけど、好みの問題だし。
「長生キナンデスネエ、ネスト族サンッテ」
「さすがに何千年も生きるエルフに比べりゃ短いけどね。それでも千年生きるのもザラらしいよ」
むっちゃ長生き!
たしかに、亀は万年……?とか聞いたことがあるような気がする!
待てよ、じゃあツルは千年生きるのか……?
『一般的な空の民の寿命は獣人とそう変わりはありませんよ。【不死鳥】という種だけは別ですが』
そういえばこの世界ってフェニックスさんおるんじゃった。
『ああ、【不死鳥】という鳥の思考種と、【不死鳥】という空の民は別種ですので』
んんんややっこしい!!
やっぱりこの世界のジャンル分けってガッバガバじゃろ!!
もっと頑張って!学者さん!!
「……エルフサンッテソンナニ長生キナンデスカ」
おひいさまって結局おいくつくらいなんじゃろ?
千歳超えは確実なんだけども。
「ああ、エルフにもちょいと種類があってねえ。細かい差があるけど長生きには変わりがないねえ」
「種類?」
どんなのがおるんじゃろ?
「一般的なのはそのままエルフさ、そのエルフの中に【エルダー】って連中がいてね……その連中はそうだね……ムークちゃんにわかりやすく言えば、邪龍が大暴れしていた時代から生きてるのもいるって話さ。そこまで行ったらもう神様と変わりがないねえ、この前の白銀龍みたいなもんさね」
「ヒエーッ……」
スケールが大きすぎてもうお腹いっぱいですわ……
かたやぼくは精々二年未満の寿命……頑張って魔石モグモグしよっと。
「さて、そろそろ寝るかい……アカちゃんたちに釣られて食いすぎちまったよ」
「じゃじゃじゃ、あげな美味しいもんならば仕方ねえのす~……」
今日はお風呂ナシで寝て、明日入ろうそうしよう……この街にもあるって聞いたしね~!
じゃ、ボクも寝よう!
『お腹を出して寝てはなりませんよ、虫よ。おやすみなさい……バリバリ』
……ヴェルママもおやすみなさーい!
何食べてるんだろ……焼き餃子かな?