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第1話 変な夢からの~……中華料理!中華料理!!

『――我らが斃れれば、民が死ぬと思え』


 真っ赤だ。

真っ赤な平原を、見ている。


『――我らが臆せば、民が泣くと思え』


 見たことのない、強そうな魔物たち。

それが、累々と死体になって広がっている。


『――我らが退けば、民が絶望すると思え』


 赤い平原なんじゃない。

魔物の血で、真っ赤になった平原なんだ。


『――よいか、者ども』


 その魔物の死体に対し、黒い集団が立っている。

返り血に塗れても、その鎧の輝きだけは消えていなかった。


『――絶望は、諦観は、恐怖は、怨嗟は』


 その集団の最前列で、輝く大剣を空にかざす人がいる。

深紅のマントを翻し、背中に力をたぎらせて。


『――ここで、止める。我らの後ろには――決して、通すな!!』


 大剣が、ごうと振り下ろされる。

その切っ先の先には……魔物の死体を乗り越えてまだ向かってくる、魔物。

まるで、黒い津波だ。


『『『――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!』』』


 黒い騎士たちが、一斉に雄たけびを上げて天に槍を突き上げた。

咆哮が、空気をびりびりと震わせる。


『されば、ゆこうか! 愛する兵たちよ――吶喊ッ!!』


 先頭の号令に合わせ、騎士たちが一斉に突撃を開始した。

魔物の津波とは違って、まるで黒い……そう、黒い馬の群れみたいに。

鎧を鳴らし、雄々しい雄たけびを上げて。


『――民に!』


『――王に!!』


『――人界に!!!』


『――あまねく光あれ!!!!』



 まるで、まるで……綺麗な絵画みたいだ。



・・☆・・



「ど~ん! あははぁ、ど~ん!!」


「――マジェスティック!?!?」


 むわーっ!?

ちょっとした重さと、なんかお花みたいないい匂い!?

ボクの顔面に何が!?!?

真っ暗だよう!?


「おやびーん!おはよ、おっはよぉ!」


 ……あ、なんだアカのお腹かコレ。

まったくもう……朝っぱらから顔面ボディースラムとは、我が子分ながら侮れないねえ!


「ハイ、オハヨ。ボク以外ニハヤッチャ駄目ダカンネ~」


 お転婆な子分を両手でつかみ、コショコショコショ~!


「きゃーはははは!ううん、あはははぁ~!」


 はあ、素敵な目覚めだね。

トルゴーンに入ってから、2日目の朝だ。


 いやー、昨日の餃子は美味しかった……んだと、思う。

だって記憶のブレーカー落ちたし。

トモさんトモさん、ボク変な事してないよね?


『はい、餃子を貪って付け合わせの火酒を煽り……妖精たちと歌って踊ったくらいですね』


 ――むっさ変な事しとる!?

またか!また酔って歌って踊ったんかボクは!?


『まあ、他の宿泊客どころか通行人からも大人気でしたし……いいのでは? あ、おひねりはロロンさんがマントの内ポッケに保管してくれましたよ』


 被害が拡大しちょる!!

ロロン……いつもいつも苦労をかけるねえ……


「おなかすいた、すいたぁ!」


「ウン、空イタネエ……オット」


 ベッド2つが並んだ部屋に、ロロンもカマラさんもいない。

2人とも早起きだねえ…… 


「ピヨ……チュン……チキチキ……」


 そして、枕元には羽を全開にして眠りこけるピーちゃん。

この子、これだけ騒いでも起きないのってすごくない?

案外コレのせいで捕まってたんじゃないのかな。


「ピーちゃ!ごはん!ごはーん!」


『ショーロンポーが食べたいわ……食べたいわ……』


 昨日餃子を食べたからか、そんなことを言いながらピーちゃんが起きた。


「オハヨ」「おはよ、おはよぉ!」


『んみゅ~……最高の目覚めだわ!おはよう、おはようっ!!』


 チュチュン!と大きく鳴いて……ピーちゃんはボクの左肩に乗った。


「ンジャ、イコッカ」


「あい~!」


 続けて右肩に座ったアカが、元気に言う。

さーてさて、素敵な一日の始まりだ~!!


 ……そういえばなんか、変な夢を見た、ような~?


「おやびーん!ごはーん!」


 おおっと!それどころじゃなぁい~!!



・・☆・・



「オオオ……オオオオ……」


 朝食の食卓を見て、震えが止まらない!

今日のメニューは……なんと!!


『蒸しパンよ!蒸しパンだわ~!!』


 ピーちゃんが言うように、おっきな中華風?蒸しパン!

それにサラダと……ドロッとしたスープ!!

素晴らしい!素晴らしいじゃないか!!


「お代わりもあるからね、遠慮なくどうぞ! ムークさんたちは昨日とっても美味しそうに食べてくれたからねえ、ウチの旦那が気合入れちゃってさ!」


 ケマとは違うお茶を注いでくれながら、女将さんが笑って言った。

す、スイマセン……その記憶なくて。


 お茶をズズズ……ケマじゃないけど美味しい。

なんかこう……香ばしさが増した麦茶って感じ!!


「じゃじゃじゃ、こげなパンは初めて見るのす! い~い匂いでやんす~♪」


「コイツは蒸して作るパンさ。トルゴーンじゃよく流行ってるよ」


 ロロンとカマラさんは先にテーブルについてた。

2人とも朝からしっかりしてるねえ!


 何はともあれ! いっただっきま~す!!

ウヒョーッ!!



「けぷ……すう……すう……」


「幸セ……」


『妖精じゃなかったらペリカンになってるところだったわ……』


 美味しい美味しい朝食の後、食堂で椅子に身を預けている。

ピーちゃんの感想がよくわからないけど……大満足だ!

ふわっふわでほのかに甘い蒸しパン!まさか異世界で食べられるなんてね!

概念でしか知らないけど、絶対に地球にも引けをとらないや!


 アカもピーちゃんも、そのぽんぽんしたお腹を見れば満足しているのがよくわかる。

ちなみにカマラさんはお部屋で作業、ロロンはお洗濯に行きました。

ロロン、妊婦さんみたいになってたのに大丈夫かな……でも動いたらすぐ消化するもんね、いつも。


「いい食いっぷりだったじゃねえか」


「オイシカッタデス、トテモ!」


 食堂の掃除を終えた……2メートル超のカマキリさんが寄ってきた。

頭にはハチマキ、そして腰布。

女将さんの旦那さんだ。

どうやらトルゴーンのむしんちゅさん、下半身は隠す人が多いらしい。

男女であまり差がなかった獣人さんとは違って、むしんちゅさんは男性の方が生体甲冑っぽい見た目が多いね。

女性の方は人間型の虫っていうより、虫っぽい人間……みたいなフォルムが多い。


 ……ボクもお股隠そうかな。

普段はマントで隠れてるけども。


「はっは、そりゃあ【ミライ飯店】で修業したからな! 味の方は保証済みだよ!」


 あ、なんか昨日も聞いた名前。


『ミライ飯店って、有名なお店なの?』


 テーブル上のぷっくりオブジェと化したピーちゃんが聞いた。


「外から来たヒトにゃあ馴染みがねえが、【ミライ飯店】といやあトルゴーンでも1、2を争う人気店だよ。今は5代目さんが切り盛りしてるが、初代の【ゴーサク】さんが独創的な料理を広めてな……」


『んまーっ!? ゴーサクちゃん!ゴーサクちゃんじゃないの!?』


 ピーちゃんが興奮して仰向けのまま空中に飛び上がった!

物理法則さんが泣いてるぞ!


「オ、オ知リ合イ?」


『前に言った、さっちゃんが雇った料理人さんよ! 私がいたころはミライって名前のお店じゃなかったからわからなかったわ!!』


 ほ、ほぇえ……

世間って、狭いねえ。


「オイ待ってくれ、今の話しぶりだとこの子、まさか……」


 旦那さんも口をキシキシさせて驚いている。


「ア、ピーチャンハ【ミカーモ家】初代サンノ縁者デスヨ」


 別に隠すようなことじゃないもんね。

ピーちゃんもよく言ってるし。


「たまげた!ちょっと待っててくれよ……!!」


 旦那さんは慌てて厨房に走り込んだ。

そして、バタバタ音が聞こえて……何か、額縁的なものを持って帰ってきた。

おー、なんじゃろアレ。


「コレを見てくれ!」


 旦那さんが掲げたそれには……ほお、【免許皆伝】と書いてある!

なになに……ああ、地球の飲食店に置いてある調理師さんの免許状というか、そんな感じだね。

へえ、そんなのまであるんだ……あれ?

最後の所にある、これを授与した人の名前……【ミライ・ゴーサク】の下。

印鑑的なモノが押してあるんだけど……その模様が小鳥だ!

いや、もっと正確に言えば……セキセイインコ!!

横を向いて、何故かレンゲを咥えたインコさん!!


『まーっ!ゴーサクちゃんのお家、まだこれを使ってくれてるのね……!恥ずかしいけど、嬉しいわ!!』


 この反応、ひょっとして。


「知ッテルノ?」


『ゴーサクちゃんが独立する時に、さっちゃんが贈ったものよ! とっても懐かしいわ!懐かしいわ!』


「たまげた……たまげたぜ、まさかミライ家初代ご意見番とお会いできるなんてな……!!」


 ピーちゃん結構な重職じゃんそれ!?


『ご意見番だなんて! ただよく味見を頼まれてただけよ! そう……ゴーサクちゃんのお店、とっても大きくなったのね!』


 ピーちゃんは感慨深げに、チュチュンと鳴いた。


「……よし!それなら夕食にはより一層腕を振るうぜ! 初代さんの味をご存じの妖精さんに、手は抜けねえやな!!」


『まーっ!嬉しいわ、嬉しいわ! じゃあギョーザとラーメン!ラーメンも欲しいわ!!』


「任しときなァ!!」


 おお、何にもしていないのに夕食が豪華になった!

やった!ラーメン!異世界ラーメンが食べられるぞ~!!


「ふみゅ、なに、なぁにい?」


 この騒ぎで起きたアカを、とりあえず撫でた。

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