第154話 【第二部最終回】到着!トルゴーン!!
「やれやれ、やっと到着かい。おかしいねえ、いつもと日数はさほど変わらないんだけど……密度が、ねえ?」
「ボクガ悪イデス、全テ……」
目の前には、大きな大きな門がある。
何も通しませんぞ~!って主張でもしてるような、そんな大きな門だ。
「おばーちゃ!おやびん、わるくない!なーい!」
アカが頬を膨らませながら、空中で抗議している。
「はっはっは、冗談さね、冗談。怒っちゃいないよ、むしろ今となっちゃ楽しい思い出さ」
その頬をつつきつつ、カマラさんが笑っている。
『アルちゃんにも会えたし、棍棒さんのこともわかったし、それに龍さんにも会えたわ!とっても刺激的よ!』
ボクの肩にいるピーちゃんも、チュチュンと楽しそうに鳴く。
「んだなっす!下りでは事故も魔物も出なかったし……楽でやんした!ムーク様のおかげでやんす!」
ボクの横で、ぴょんぴょん飛び跳ねるロロン。
旅の安全と天候状況までボクのお陰にしないでよ……
「アリガト、ミンナダイスキ」
でも、近い所にいるからロロンの頭は撫でちゃろ。
「ふわわっ!?」
……じゃじゃじゃじゃないだと!?
ロロンも成長したね……
『亜空間女神キックの出番ですかね、これは……』
なんでさ!?
テオファールさ……テオファールと出会ってから、今日は2日後。
8合目を出発し、5合目でまた宿泊。
そして、雪山ゾーンから離れて歩き続けること、半日。
ボクらは、ついにトルゴーンの玄関口に立っている。
守門の街【ガドラシャ】にね!
門って名前が付いてるだけあって、ボクらが歩いていた登山道の出口を塞ぐようにでで-ん!って門がある。
他はどうか知らないけど、ラーガリの南端からだと絶対にあの門を通らないと入国できないっぽいね。
「よし、入っていいぞ……次!」
今までに見慣れた光景が見える。
衛兵さんが、人々の入場を管理している。
まだもうちょっと先だね。
ラーガリから山越えをしてきたのはボクらだけだけど、5合目辺りから人の数が増えたんだよね。
山菜でも取りに来てたんだろうか?それとも冒険者かな。
「おやびん、もんふたつ!ふたーつ!」
「ダネエ、ナンデダロネエ」
兜に抱き着いたアカが言うように、目指す門は2つある。
厳密に言えば、でーっかい門の一番下にもう一つ門があるんだ。
人々は、3メートルくらいのその門から中へ入ってる。
でっかい門の方は……10メートル以上あるね。
「有事の際は避難民を収容するために全部開門するって話だけどね、普段は下の門だけ開けるのさ」
「ハエ~、成程。有事カ~……」
絶対に遭遇したくないね、ボクは!
『いよいよトルゴーンね!戻って来たわ!戻って来たわ!』
ピーちゃんもテンションが高い。
何百年ぶりかで里帰りだもんねえ、懐かしいよねえ。
もうそろそろ門前なので、妖精2人にはお外に出ててもらう。
あっ、そうだトモさんトモさん、トルゴーンも妖精誘拐するタイプの宗教とかないよねえ?
『ありませんし、もしもそんな新興宗教ができていたらメイヴェル様に粉々にされるでしょうね……』
ヴェルママって妖精にも優しいんだ……むしんちゅだけが大事なんじゃないんだ……
『今更ですが、メイヴェル様は虫人の守護の他に弱者の救済もされておりますので』
取ってつけたような弱者救済!
『ですがあの方はかなり位階の高い神になりますので……その……邪なモノや事象に対する攻撃力が高すぎて……』
うん、知ってる。
だから、ゲニーチロさんの時も何もしなかったんだよね。
正確にはサジョンジのアレコレ。
『私には贅沢な悩みですが……ふふふ、零細なもので』
まあ、元気出してよトモさん!
ボクがさ、長生きしまくって……トモさんの評価バンバンあげちゃうから!
『まあ……キャンペーン中につき、トモさんポイントを5倍付与しますね。この、お上手虫!』
いまだに使い道のわかんないポイントだけど、嬉しいことは嬉しい!
「入っていいぞ、よし次!」
おっと、ボクらの順番が来ちゃった。
「ふむ……ラーガリからの山越えだな?」
ヒト用の門の両脇に立っている2人の衛兵さんは……長い槍を持っている。
そして……虫人だ!
越布以外は何も付けてないけど、立派な生体甲冑のおかげでHENTAIには見えないね!
ボクも外から見るとあんな感じなんだろうか。
「ああ、タリスマンの行商だよ。後ろの2人は護衛で……妖精は幸運のお供さ」
その衛兵さんたちは、アレだ!
コガネムシみたいな色の体をしてる!
顔は……うむむ、甲虫顔!としか言いようがない。
角がないけど、とっても強そう!
「妖精連れか……攫ったわけではなさそうだな、その懐きようを見ると」
「あいっ!」『そうよ!』
ボクの両肩で自己主張する妖精を見て、衛兵さんも納得したようだ。
「ならばいいが……それで、お前は何処の【族】だ?」
ゾク?あの、ボクそういう非合法暴走活動には参加してないんで……
『族、とは氏族のことです。つまり、『お前どこ中だよ~!?』に近いかと』
それも違うと思う……
「アノ、ボクソウイウノワカラナインデス。【帰ラズノ森】ニ捨テラレテマシタノデ」
微妙に真実とは違うけど、こう言うしかないもんね。
「なんと……それは、苦労したであろうな。ともあれ、トルゴーンは全ての虫人の故郷、慈悲の女神メイヴェル様のお膝元だ。健やかに過ごすといい……もし、職に困れば衛兵本部へ行け」
……コガネムシさん、むっさ優しい!
ヴェルママもむっちゃ慕われてる感じだ……いつもお話してるけど、普通はこういう認識なんだろうねえ。
「アリガトウゴザイマス……ア」
そうだ、これって身分証にならんかな~?
あれあれ、ゲニーチロさんに貰ったヤツ!
バッグごそごそ……あった!
「コレナンデスケド……」
六角形の、将棋の駒みたいなのを持ってかざす。
「ふむ、戦駒の割符か?これはまた古風なも……の……!?」
2人の衛兵さんが、動きを止めた。
「ざ、ザヨイ家の魔導紋……!?」
「おい、まさか報告にあった……!!」
1人の衛兵さんが、越布に吊り下がっていたメモ帳みたいなものを取り出す。
「お主の名は、ムークか!?」
「アッハイ、ソウデス」
えっ、なんでボクのこと知ってるの?
「【大角】閣下から話は聞いているぞ。これは……英雄殿に手間を取らせたな!」
えっ英雄ってなんですか!?
「応、すぐに入ってよし!この街に滞在するつもりなら【キヨーミ亭】がいい!」
えっえっ。
「大層気にされておいでだったからな……これから行く街でも、真っ先にそれを見せるといい。すぐに通されるであろう」
えっえっえっ。
「アノ……ボクハドンナ感ジデ伝ワッテマス……?」
ゲニーチロさん!何言ったのさ!!
「閣下の配下を、命懸けで助けた恩人だと仰っていた!【大角】閣下は我らトルゴーン救国の英雄……その閣下を助けたのならば!」
「応、そなたも英雄よ!ささ、入られい!何か困りごとがあればすぐに衛兵に知らせるのだぞ!」
えっえっえっ~!?
間違っちゃいないけどさ!間違っちゃいないけどさ~!?
・・☆・・
「あらあら、いらっしゃいまし。お兄さん随分といい男だね~」
ほぼフリーパスで門を通されたボクらは、とりあえず衛兵さんに紹介された【キヨーミ亭】へとやってきた。
そこの門前を掃き掃除していたのは……カマキリっぽい女の人!
イセコさんにちょっと似てるけど、同族の人なんかな?
「ヒト3人、妖精2人デス。泊マレマスカ」
「あれま!かわいらしいこと~!はぁい、どうぞどうぞ~!」
トルゴーンは土木建築に優れた国って聞いたけど、その通りにキッチリした宿屋だね~。
木が主体で、なんかちょっと日本建築っぽい感じ!
懐かしいなあ、畳とかあるのかなあ?
ここに来るまでも、きちっとした街並みだったもんね。
ラーガリが雑って意味じゃないけど、なんていうか……ちょっと病的なくらい規則正しい街並みだった!
そして、当たり前だけどむしんちゅさんが多い!
遂に来たって感じだよね~!
異国情緒あふれすぎ!見ているだけでとっても楽しいや!
「いい男だってさ、よかったねえムークちゃん」
「初メテ言ワレマシタヨ……」
強そう!とか厳つい!とかはよく言われたけどねえ。
「なんだい、ラーガリの女は見る目がないねえ。ツヤッツヤの肌に太い手足!長く太い角!どこに出しても恥ずかしくないいい男だよ、お客さんはね!」
あ、美醜の判断基準そこなんだ……ところ変わればって言うけど、ホントにそうなんだなあ。
「おやびん、かっこい!かっこい!」
「んだなっす!ムーク様は雄々しく……お、おおお男前でやんす!」
『日に当たるとポカポカして、とっても素敵よ!』
みんなめっちゃ褒めてくるやん……そしてピーちゃんの評価はどうなの?
それ、日当たりのいい木の枝とかへの評価じゃないの?
「麗しいパーティ愛だねえ……ささ、入るよ」
苦笑いするカマラさんに続いて、ボクらは宿へ入った。
「ギョ、ギョギョギョギョ……!!」
お部屋に荷物を下ろして休憩し、呼ばれた夕食。
ボクは、軽く……いや、かなり振動している。
「あれ、ムークさんどうしたのさ?ひょっとして見るのは初めてかい、【ギョーザ】は?」
宿の女将さんが心配そうに言ってくる……やっぱり!ボクの幻覚じゃないんだ!!
テーブルの上には……美味しそうに湯気を上げる、ギョーザの姿が!!
焼き餃子!焼き餃子くんじゃないか!?
『まーっ!懐かしいわ!懐かしいわっ!』
「おや、ピーちゃんはよく知ってるねえ……とっても美味いよ、なんたってウチの旦那は【ミライ飯店】で修業したんだからね!」
ほ、ほほほ本日の夕食……サラダ!スープ!パン!そして……そして山盛りの餃子ァア!!
「じゃじゃじゃ、いい匂いでやんす~!」
「懐かしいねえ、昔トルゴーンで食ったのと変わりがないよ」
なんとか正気を保ちつつ椅子に座り……いつもより気合を入れて両手をパァン!!
「イタダキ……マスッ!!」「いたらき、まーしゅ!」
アカと同時にそう言い……ボクは、フォークで餃子を突き刺して口に放り込んだ!!
――残念だけど、そこから記憶は飛んでいるだよねハハハ!!
でも、トルゴーン最高!って気持ちだけはよく覚えてるんだ!
ひゃっほ~う!やっとトルゴーンに到着したよ~!!
・・☆・・
というわけで、第二部はここで完結となります。
特に何が変わるわけでもない第三部【トルゴーン編】は、番外編を挟んですぐに始まります。
これからも、むっくんの冒険にお付き合い下さると幸いです。