第153話 なんとかなった……?
『……ふぅ、間抜け面で惰眠を貪っていたので、しこたま神気をぶち込んで叩き起こしてきました』
ボクとテオファールさんがケマを楽しみ、トモさんがラーメンを啜っていたところ。
ボクの脳内に、何やら誇らしげなヴェルママが帰って来た。
なんか、むっちゃとんでもないこと言ってない?
『私が慈しむ虫の国に危機が迫っているというのにあの蜥蜴ときたら……神としての自覚が足りませんね!』
……大丈夫なのかな、龍の神様。
『大丈夫なの、テオファールさん』
『ワタクシも何と言ったものか……あ、あら?』
ばしゃしゃ、と慌てている。
『――我が不徳にて、手間を取らせた』
うひょ!?また増えた!念話が増えた!?
『ヴァシュヌヴァール様!』
あ、この人?がそうなんだ。
綺麗な女性っぽい声ってことは……この人も女神様なんかな?
『まったく、たかが数日の顕現で消耗するのではありません、蜥蜴は情けないですね』
『……メイヴェル、我が離宮をよくも半壊させてくれおったのう……! じゃが、此度は我が不徳……今回のみ、目を瞑ろうぞ……神気を分けてもろうたこともあるしのう……のう……!』
無茶苦茶根に持ってる雰囲気がするゥ!?
龍さんのお部屋というか宮殿ぶっ壊されてるじゃん!
ヴェルママすごすぎでしょ……
……トモさんトモさん、ところでお部屋は大丈夫?
『(ミッチミチです。メイヴェル様はともかく、ヴァシュヌヴァール様は龍形態のテオファールさんと同じくらいの大きさなので私の部屋はもう駄目かもしれません、ズゾゾ)』
……なんかちょっと余裕を感じるのは気のせいなんかね。
ラーメン啜ってるし……何味?
『(キュウシュー?のナガハマラーメン、です。この『カエダマ』というのを生み出した方は天才ですね……ゾゾゾ)』
替え玉までしてるじゃん!
やっぱり余裕あるじゃん!!
『……テオファール、すまぬな。そこの虫人にも迷惑をかけた……奏上に従い、すぐに手配をする』
『いえ、そのような……お気になさいませぬよう』
『ボクは何も迷惑しておりませんので!お気になさらず!!』
ひい!恐れ多い!
これ以上ボクの脳味噌経由で神様を増やさないでくださいッ!!
『しばし待て……後ほど神託を下そう。それでは、失礼をする』
……ホッ。
なんか重圧が一つ消えた。
『私も信徒に神託を下し、調査をするとしますか……む、女神トモ、それはなんですか』
『ナガハマラーメンです。こちらにメイヴェル様の分もありますので、どうぞ』
――いかん!この流れは!!
「テオファール!気ヲシッカリ持ッテ!!」
「はぁ?いきなりどうしました――」
『 な ん た る 美 味 か ! ! 』
ヒギューッ!?!?!?!?
覚悟してもキッツイ!?
「んなっ――!?」
あーっ!?
テオファールさーん!!
いかん、今の感じだと倒れたっぽい……!
しかし、振り向いたら見えちゃう!色々!
でも……今はそんな場合じゃない!
救急救命虫、振り向きます!!
「テオファール様、今の悲鳴はいかがしやん……し、た……」
あっ、半裸のロロンがいる。
温泉に入りに来たんだね……だね……
――はい終わった!ボクの親分としての立場が今終わったァ!!
・・☆・・
「あら、温泉には男女別で入るものなんですの? どうりでムークさんがずっと後ろを向いていたわけですわ」
「まあ、ねえ……龍様にはヒトの男なんてそこらの動物と変わらんからねえ……」
『私もよくムークさんとお風呂に入るわ!』
「アカも!アカも~!」
溺れかけたというか、ヴェルママシャウトにビックリしちゃったテオファールさんはロロンに無事救出された。
そして、彼女が空気を読んで『温泉の作法?知らなかったですわ~』って言ってくれたので……ボクのドスケベ虫認定は避けられた、と思う!
「ムークちゃんもいい思い出になったんじゃないのかい? 白銀龍と温泉に入るなんてさ」
こっちに!話題を!振らないでください!
「ナニモ、見テ、イマセン」
ボクは貝になりたい。
虫だけど、今だけは貝になりたいんだ……
「ワダスは自分が恥ずかしいのす、む、ムーク様をちくっとでも疑ってしまった自分が……!」
ボクよりも貝になりたそうなロロンが、部屋の片隅で丸まっている。
ビジュアルだけは巻貝に近いかもしれない。
あの……状況だけ見ればHENTAIだと思っても仕方ないからさ……元気出してよ……
そしてちょっとだけ見ちゃってごめんよ、ごめんよ……
『湯気とタオルで見えなかった!気にしないでよ!等と発言したら亜空間女神パンチをお見舞いするところでした……命拾いしましたね、むっくん』
知らぬ間に回避していた命の危機!!
亜空間女神パンチってなに!?コワイよぉ!!
「ロロンちゃん、よーく考えてごらんよ……白銀龍の入ってる温泉に、スケベ心だけで突入できる奴はいないし……そんな奴は一瞬で消し炭さね」
その背中を、カマラさんがポンポンと叩いている。
うんまあ、そうだよね……
「そうですわ、ワタクシの方が後で無理に入ったんですのよ?ロロンさん、お気になさらずに……」
ああ、テオファールさんまでポンポンに加わってしまった。
「はうぅう~……おしょすいごと~……!!」
ううむ、この場合ボクにできることはないねえ、たぶん。
どうしよっか……あ、どしたのアカ。
そんなに膨れて。
「おやびん、さきおふろ、ずるい、ずるーい!」
だってアカ、晩御飯の後に寝てたじゃない?
さすがに起こして連れていくのはねえ……
「フフフ……アカ、ホレホレ」
膨らんだ頬をツンツン、ツンツン。
「ぽひゅぅ、あは、あはは~!」
一瞬で機嫌が直った……!
「ゴメンネ、デモ……温泉ニハネ……何回デモ、入ッテイインダヨ!」
「ほんと、ほんとぉ?」
「ホントホント……ジャアイコウカ!」
ぶっちゃけさっきまでは温泉どころじゃなかったしねえ!
脳内も騒がしかったしさ!!
『私の部屋は無茶苦茶ですが……まあ、後でヴァシュヌヴァール様の配下の方々が直してくださるというので、それまではカレーでも貪ってふて寝しますかね』
いいな!いいな~!
『私も行くわ、私も!』
「わはーい!」
アカの念動力に半分引きずられるように、ボクは二回目の温泉をキメに行くことにした。
『ムークさん、いえムーク。先程はありがとうございますわ。また後でお話ししましょうね』
念話ぁ!?
そしてなんで呼び捨てなん?
『あら、先に呼び捨てたのはアナタでしてよ? ふふ』
……そんなことしたっけな~?
・・☆・・
「すひゃあ、すひゃあ……」「ピヨ……ピヨヨ……」
枕元がサラウンドで寝息なう。
温泉で温まったアカと、今日は眠る気分のピーちゃん。
ボクもホコホコしている間に眠りたいな~……
暖炉の日が照らす室内は、すっかり夜中。
この小屋の中には、ボクと妖精2人しかいない。
なんかね、カマラさんはロロンと一緒に温泉に入って……別の小屋に行っちゃった。
『年頃の娘に教えておくことがある』なんて言ってたけど……なんじゃろね~?
まあいいや、寝よ寝よ。
明日からも雪山だし……あ、明日も温泉入ってから出発したいなあ。
道中もホコホコで、さぞ楽だろう――
『――こんばんわ、ムーク』
あれ、テオファールさんあの後帰ったんじゃないの?
でもどこに……ここにはいないね。
ひょっとして10センチくらいになってんのかな?
『こんばんわ、テオファールさん。どこにいるの?』
『さん、はいりませんわ。ワタクシは神殿にいましてよ』
え、マジで?そんなに遠い所にいるの?
軽く何キロも離れてるんんじゃ……
『そんなに遠くから念話って届くんだねえ』
『何を言っていますの、いつももっと遠い所の女神様とお話しているくせに』
あ、そういえばそっか。
つくづく龍さんってすごいなあ。
『それもそうだね……それで、何かご用事?』
『最後に少しバタバタしましたので、お話できなかったことがありまして』
バタバタというかバチャバチャというか……まあ、あったね。
『おいでですか、女神トモ』
『はい、ここに。ヴァシュヌヴァール様とはいかがですか?』
すっかりボクの脳味噌経由で会話が成立してる……
『先程神託を頂きましたわ。少しワタクシも動く必要がありそうですの』
あ、トルゴーンに異変の兆しが!とかいうやつだよね!?
『大丈夫なの、それって』
『できるだけ急ぐ必要がありますわね』
それって結構大変じゃないの!?
『ワタクシが動かねば、メイヴェル様が……焦って天変地異を起こす可能性がありますもので……』
『ああ……メイヴェル様は虫人がお好きですから……』
べ、別ベクトルの危機が持ち上がってるじゃんか~!!
『これからムークはトルゴーンに向かうのですわね? またお会いしたらお話ししましょうか』
『あ、うん。そっちも頑張ってね、テオファールさ……テオファール』
『ふふ、頑張りますわ』
あ、念話が切れた。
龍が出張るくらいの面倒ごとに、一般貧弱虫は及びじゃないからね~。
ボクは、ボクにできることをやろうっと。
『素晴らしい前向き思考ですね。コマし虫』
コマしてないでしょ!?
恐れ多すぎるんじゃよ~!?