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第152話 ああもう滅茶苦茶!ボクしーらないっ!!

「まあ、大きなお声。遮音の結界を張っていて正解でしたわ」


 素敵な温泉に、入っている。

何故か、ボクの方に、テオファールさんが入っている。


「アノ……ココ、便宜上男湯……」


「お気になさらず、ですわ」


「オ気ニスルンデスガ!?」


 何平然としてるの!この人!!

いくら濁ってるって言っても……なんで入ってくるのさ!?

あ、ひょっとしてこの人はオスっていうか男なんじゃ……!


「身を縮めるのは少し面倒ですが、温泉のためなら我慢もできますわね~……」


 女性!でした!!

あるもん!母性の塊!

自分でも娘って言ってたじゃんか!!

伸びをするのはやめてください!見えちゃったじゃないですか!!

はわわわ……すごくきれい……!


『意外と余裕がありますね。このスケベ虫!』


 無罪!無罪!!

それでもボクはやってない!!


「さて、ムークさんへの本当の用事をお話ししますわね。こうでもしないと二人きりになれませんし」


「……ソウ、ナノ?」


「ええ、あなたの『出自』に関するお話ですもの。他の方々がいらっしゃると、そういう込み入った話はできませんから」


 出自って、まさか……


『――ねえ、女神様?』


『……驚きましたね、直に話を届かせるとは……』


 え、この念話ってトモさん側にも飛んでるの!?

す、すご~!?


『長く生きておりますと、これくらいのことはできますわよ? ムークさんも念話の方が都合がよろしいでしょう? 外見はともかく、魂の状態は誤魔化せませんわ……『こちらへ来てから』まだ1年も経っていないこともお見通し、ですわ』


 ……龍さんって、すごいねえ。

たしかトモさんが前に龍ってのは半分くらい神様みたいなもんって言ってたけど……本当にそうだ。


『そうですか、私は女神トモと申します。テオファールさん、よろしくお願いしますね』


 トモさんの対応も凄い。

全然驚いてないじゃん。

さすが神様だね~……


『それで、此度は何の御用でしょうか?』


『話が早いですわね……ええ、単刀直入に言います。【月に吠えるもの】……いえ、【ヴァシュヌヴァール】様が今どうなっているか、それを知りたいのですわ』


 なんか強そうな名前!

トモさんに聞くってことは……神様なんかな?

それを聞くために、ボクに接触してきたんだね~?


『どう……とは?』


『いえ、少し前まではお声が聞こえていたのですが……ここ最近、全く神託がありませんので。どうしようかと思案していましたら、神気を纏わせた殿方がいらっしゃったので……渡りに船、と言うわけですわ』


 スケールが……スケールが違い過ぎる問題だ。

ボクみたいな一般貧弱インセクトには荷が重い……ので!

何の口も挟まず!モブに徹するのだ!!


『ふむ……そのままで少々お待ちを。少し、席を外します』


 ……ちょっと!保留みたいにしないでよ!?

しかも脳内に音楽まで流しちゃってさ?!

ボクの脳をコールセンターみたいにしないでくれます!?


『本当に話がお早い……柔軟な方ですのね? お名前を聞いたことはありませんが、話の分かる女神様で助かりましたわ?』


『……ええ!そりゃもう!トモさんは最高の女神様だからね!』


 そこだけは自信を持って言えるね!


『ふふ、麗しい信頼関係ですわね。それで、あの……先程からムークさんは何故背中を向けていらっしゃるの?』


『いや、向けるでしょそりゃあ。みだりに女性の裸を見るわけにはいかんでしょ』


 ボクは温泉の衝立しか見てないし、これからそれ以外を見る気もないよ!


『あら、まあ……減るものでもなし、構わないのではなくって? そもそもワタクシ、初めてお会いした時は全裸でしたのよ?』


『……それはそうだけど!龍形態と二本足形態だと違うでしょ、色々と……』


 これは理屈じゃないからねっ!


『気になさらないでもいいのに……仮にムークさんが劣情を催したとしても、小指一本で制圧できますし……』


『劣情を催すことはないし!小指一本でもボクがミンチ虫になる未来が見えるし!!』


 ちくしょう!この圧倒的強者めが!!


『ムークさんが父ほど強ければ、やぶさかでもありませんが……?』


『単独で深淵竜をキャン言わせる人と比べないでほしいなっ!?ボクはねえ!自慢じゃないけど水晶竜にも勝ったことないんだよ!?』


『あらまあ、本当に自慢ではありませんわね……ですが、生まれ落ちて1年未満でその魔力なら誇ってもいいと思いますわよ?』


 伊達に死にかけてないからねっ!


『……あ、そうだ。ついでに聞いておこ……あのさ、ローランさんってお父さんなの? 龍さんって一人で子供を作れるって聞いたんだけども』


 この状況に慣れつつあるボクが一番怖いけど、それでもこれは気になる。

昔話とちょっと違うよね?


『母と契ったわけではありませんが、ワタクシの父はあの方ですの。母の記憶が物語っておりますわ……母は、あの方を好いておりました』


『ほむり、なんでわかるの?』


『ワタクシ、卵の頃から記憶がありますもの』


 ……マジで?それはすごい。

人間なら胎児の時から記憶があるってことだもんね。


『じゃあ、ローランさんが深淵竜と戦ったのも覚えてるんだ?』


『それはもう……ワタクシはそこそこ長い時を生きてきましたが……ヒトの身で父ほど強いお方は見たことがありませんわ』


 だろうねえ……文句なしに人類最強クラスなんじゃないの?


『それに、あのお方もワタクシのことを『娘』と呼んでくださいましたもの。初めてお会いして、すぐに亡くなってしまいましたが……』


 声色が優しい……思い出してるんだろうね、ローランさんのことを。


『へえ、そうなんだ……ボク、お父さんもお母さんも知らないから羨ましいね』


 概念だけは知ってるけども。


『――安心なさい、虫よ。私がこの世界での、あなたの母ですよ……存分に甘えなさい』


 うわーい!泣きそう!

ありがとうヴェルママ!!


『――ッ!? 今のは、神託ですわね? 先程のトモ様よりもかなり高位の神威を感じましたわ……どなたですの?』


 ばちゃ、と音。

ビックリしたみたい

エルフさんにも感じ取れたんだ、龍さんなら楽勝だろうね……


『ほう、虫ではないですが目敏い龍ですね……私はメイヴェル、あなたのことはよく知っておりますよ。たまに遭難する虫を助けていますし』


 そんなことしてるんですか、テオファールさん。


『メイヴェル様……虫人の女神様であらせられますね。お初にお目にかかりますわ』


『よろしく、龍の子……そこの虫は私の子も同然。小指で潰すなら私が受けて立ちます、龍よ』


 なんかとんでもないこと言い始めたんですけどこのママ。


『滅相もございません、ムークさんが不埒な行為に及ぶのならそうしますが。彼はとても良い虫人ですので』


『ほう……龍にしては物分かりがいいようですね。許して差し上げましょう』


 そしてよくわかんないうちに問題が解決しちゃった……ボクは何も言うまい。


『――遅くなりましたが、戻りまし……メイヴェル様!?』


『ああ、女神トモ。お邪魔していますよ』


 えっ今回は遠隔神託じゃないの!?

トモさん不在のお部屋に入ってきたの、この女神様!?

フリーダム過ぎるじゃろ……あるかどうか知らないけど、トモさんの胃が心配……


『(胃はありませんが、その優しさにポイント付与です)』


 わ、わーい……


『さて……テオファールさん。あなたがお聞きしたヴァシュヌヴァール様の行方ですが……』


『なんと、あの蜥蜴について探していたのですか』


 恐らく龍の神様を蜥蜴呼ばわりするママ、こわい。


『今現在、お休みになってらっしゃいます。それで神託が送れなかったのですね……配下の方々のお話では、そろそろお目覚めとのことですが……急ぎのご用事ですか?』


 神様も寝たりするんだ……トモさんは睡眠いらん!とか言ってたけど……


『あら、まあ……そうでしたの。ひょっとして先に顕現なさった時の……?』


『ええ、そのようです。下界への顕現は私どももかなり消耗しますからね』


 神様ってこっちにも来られるんだ。

立体映像とかじゃなくって?


『ええ、そうです虫よ。私としても母として姿を見せたいのですが……向こう10年ほどグッスリしてしまうので、それは中々難しいのです……悔しいことですが』


 ……ボクはこうやってお話しできる方が楽しいし、嬉しいな~?


『……ほほほ! なんといじらしい虫か。私は嬉しくて爆発しそうですよ』


 やめてあげて!そこトモさんのお部屋だからやめてあげてっ!


『そうですの、お休みに……ふむ、いかがいたしましょう』


 少し考え込むような雰囲気のテオファールさん。


『何か、かの神に指示を仰ぐことがおありですか?』


『いえ、少しトルゴーンの北で異変が起こりそうな気配を感じまして……指示を頂きたいと思っておりましたの。しかし、それでしたらワタクシが独自に動く必要が――』


『そこでお待ちなさい、龍よ。私が即刻叩き起こしてまいりますので!』


『ああっ!?メイヴェル様……駄目です、また扉を破壊されました……以前に新調していただいたのに、ご本人によって破壊されるとは……』


 向こうがえらいことになっちょる!?

そりゃ、ヴェルママはむしんちゅのゴッドだから気になるのはわかるけども……大丈夫なんかな。

っていうか、トルゴーンで!?

今から行く場所じゃん!?何故次から次へと面倒ごとが起こるんじゃ!


『ええと……も、申し訳ありませんわ……』


『よいのです、ああなったメイヴェル様は誰にも止められません……(私は諦めています)』


 トモさん……気苦労が耐えなさそう。

お大事に……お大事に……


『少しモニタリングをしてみましょうか……ああ、龍神様たちを片っ端から投げ飛ばしていらっしゃる……見るんじゃなかった……』


 とんでもないことになってる……なんでヴェルママはそんなに腕っぷしが強いんだよ……


『ど、どうしましょう……ワタクシ、とんでもないことを……』


 テオファールさんがむっさ挙動不審に!


『気にしないことにしようよ。ボクが言うことじゃないけど、気にしても何にもならないし、できないからねえ』


『達観しておいでですのね……?』


『もう諦めてる。ヴェルママはすごいから、色々とさ。そういう方なんだよ、うん、知らないけどきっとそう』


 ボクはテオファールさんみたいな凄い人じゃないけど、諦めはいいんだ。

あるがままに受け入れるしかできないことも!あるっ!!


 トモさんトモさん、と言うわけでラーメンでも啜って待っててよ。

ボクも……近くに置いてたバッグに手を突っ込んで、と。


『はい、テオファールさん。これ冷やしたケマ、温泉で飲むと格別なんだよ?』


 雪山だからボトルを雪にぶち込んでおけば、簡単にできるってわーけ。

後ろが見えないからアレだけど、たぶんこっちの方向だったはず……


『まあ、ありがとうございますわ……いただきます』


 カップもボトルも渡してあーげよ。

ボクがお酌できないしね~、この場合。


『むっくんが逞しく育って、私はとってもうれしいですよ……ゾゾゾゾ』


 本当にラーメン食べてる!?

いいな、いいな~!

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