第151話 今回ばっかりはボクのせいじゃない!ボクのせい……でしたァ……
「ど、どどどど、どんぞ……!」
削岩機くらい震えるロロンが、湯気を上げる木皿を置いて……ボクの後ろへ避難!というかほぼ抱き着いた!あったかい!
「あら、本当に美味しそう……いただきますわ」
それを、綺麗な鱗に包まれた手が持ち上げ……これまた綺麗な所作で、中身をスプーンですくう。
そして、その人は上品に食べた。
「黒オーク……ううん、久しぶりに食べましたわ。美味しい……アルマードのお嬢さん、美味しいですわ」
ロロンは、その声にボクの後ろから出て、深々とお辞儀。
「んな、名乗りば遅れで……おもさげながんす! ワダスはロロン、【跳ね橋】のロロンと、も、申しやんす!」
おお、しっかりと名乗った!よく頑張ったねえ!
「んく……これはご丁寧に。【跳ね橋】……ああ、エラム砂漠の西端の方々ですわね? それでしたら……ええと、ゴロムルさんはお元気かしら?ほら、黒い背中をした方ですわ」
その声に、ロロンがビクン!と反応。
「じゃ、じゃじゃじゃ……それは6代前の族長でやんす。んざ、残念でやんすがもう……」
「あら……そうでしたの。ごめんあそばせ? そう……もう、そんなに前ですの……時の流れは早いですわね……豪快で、とてもお強い方でしたのに……」
「っそ、そう仰っていただけて……ゴロムル師もお喜びでがんしょう……!」
……エルフさんといい、妖精といい、龍さんといい。
長生きする種族はどうにも気が長いというか、時間の感覚がちょっとアレというか……
8合目の休憩所前で、突如として出現した白銀龍さん。
ボクらは、彼女に先導される形で休憩所にやって来た。
そこは、ラーガリ側のは8合目と同じような感じの場所だった。
中心に露天風呂があり、それを囲うように小屋が建っている。
そんな小屋のうち1つで……ボクらは、白銀龍さんと一緒に食事をすることになったのだ。
彼女は現在2メートルくらいに縮んでくれているので、問題なく小屋に入れた。
一体どんな原理なんじゃろ……
カマラさんは年長者だけあって、この状況を一番早く受け入れた。
今も、普通にスープを啜っている。
ロロンは……気絶から復帰して、もう一度気絶して……なんとか、普通?になった。
いや、立ち位置としては完全にボクに抱き着いてるけども。
背中がホコホコあったかいや……
ボクはといえば、あきらめの境地というやつだろうか?
もうどうやっても敵うはずがない相手なので、もうどうにでもなーれ!って感じ。
ふふん、おひいさまにラーヤに龍さん……強者にはもう慣れっこなのだよ、だよ!
『潔し虫……』
またへんな異名が付けられたけど、甘んじて受けよ……なんですか、カマラさん。
その、『アンタが何とかしな』って目は!?
あのですねえ!今回はこれボク関係ないんじゃありま……はい、お任せください。
カマラさんの目、こっわ……
「アノォ、白銀龍様……」
「様、は余計でしてよ。何かしら?」
様いらないんだ……じゃ、じゃあどうやって呼べば……うぐぐ、ままよ!
「ボクハ、ムークトイイマス……ソレデ、ボクラニ何ノゴ用事デアリマショウカ?」
「あら、お堅い態度ですこと。敬語など不要ですわ、ワタクシが声をかけたのですから」
……どうしよう。
カマラさん……は、目を逸らした。
ロロン……完全にボクのマントの中に入ってる!!
と、トモさん!トモさーん!!
『彼女は貴族というわけでもありませんし、望むままになさったらどうでしょうか。妖精相手と同じですよ……龍にとっては、ヒトも生まれたての妖精も、等しく弱者ですので。多少の失礼は許されるでしょう』
……うぐぐぐ、し、仕方があるまいて……!!
「……改メマシテ、ボクハムーク。ヨロシク、綺麗ナ龍サン!」
『き、綺麗まで付けるとは……流石のむっくんですね……脱帽です……!』
褒められた気がしないのはなぁぜ?
うわわ、ロロンのおててが背中に食い込んだ感触がする!
大丈夫!気にしないで!なんかやらかして処させれる場合は全力で君たちを逃がすので!
「アカは、アカ!よろしく、おねーちゃ!」
ボクの肩に乗ってるアカは、いつも通りに元気よく挨拶。
……アカからしたら、龍さんも綺麗なお姉さんだもんね。
『私はピーちゃんよ、よろしくね!』
ピーちゃんもいつも通りだ。
強い……妖精たちは強い!
「まあ、綺麗だなんて……ありがとう、ムークさん。それでは……」
口元をきれいに拭い、龍さんが背筋を伸ばす。
「……ワタクシはメシェールが一子にして、ローランの娘。名を『テオファール』と申します……よろしく、雄々しい虫人さま?」
龍さん……テオファールさんは、そう名乗った。
ローラン……昔話の通りだ!
じゃあ、ローランさんは龍と結婚?してたんだァ……種族を超えた愛ですなあ、愛。
……あれ、この龍さん本名名乗ってるよね!?
いいの、真の名前的なのをボクに言っちゃって!?
魔術的にヤバいんじゃ!?
『真名を知ったとて、支配できると思います?むっくんが、龍を?逆は楽勝でしょうが』
無理ですねえ!到底!絶対!無理ですねえ!!
「名乗りが遅れたね……アタシはカマラさ。ここ数日で色々驚いたけど……ほんと、このムークちゃんのお陰で退屈だけはしないねえ」
視線が痛い気がする!
ボク悪くない!ボク悪くないもん!!
それに、カマラさんの肝の据わりようもすっごいや!
ボクも心を落ち着けなければ……!
「んゆ?んへへぇ、なに?なぁにい?」
あ~……アカを撫でると心がどんどん落ち着いていく……あ、パンくず付いてる。
拭いてあげよ……キュッキュとな。
「むいむいむい……えへへぇ、ありあと~!おかえし、おかえし~!」
「ムガゴゴッゴ」
アカがちょっと開けたボクの口にパンをねじ込んできた!
ちょっと!今は大丈夫だから……あ、胡桃みたいなのが入ってて美味しい!
砦の街で買ったやつだね、コレは……癖になる!美味しい!
「ジャア、オカエシ」
ボクからもパンをどうぞ~!
「あむ、むいむい……おいし、おいし!」
ふふ、流石はアカだ……ボクの心はすっかり平穏を取り戻したよ!
やるじゃないか、子分よ!!
「とても仲がおよろしいですわね。ふふ、よきことですわ」
テオファールさんも笑ってくれたし、コレで正解か……ロロンは相変わらずマントの中にいるけども!もうそろそろ出てきてもいいんじゃ……あ!何かを察してもっと抱き着いてきた!?
ううん……落ち着くまでそこにいてもらおうか。
「アカハボクノ大事ナ家族ダカラネ……ソレデ、ボクラニ何カゴ用事?」
小さくなってまで(それでもボクよりも大きいけど)一緒に来るなんて……一体、本当に何の用事なんだろうか。
ボクに神様が付いてるってことはバレてるけど、ソレ関係なんかな。
弱ったね……ロロンやカマラさんには内緒なのに。
まあ、説明が難しいからなんだけどもね。
「ええ、ムークさんに用事がありまして」
……カマラさん、『やっぱり』って顔やめてくれませんか。
ええ、結局すべてボクが悪いです、はい。
「ボクニ……?」
「はい。あなたが持っているものを、ワタクシに見せていただきたいのです」
ボクの、持ち物。
ってことは……たぶん……いや、確実に……
「コレ、カナ?」
テーブルに載せて壊れるとアレなので、立てかける。
そう、やっぱり黒棍棒こと【ヴァーティガ】だろうね。
「あら、よくお分かりになりましたわね?」
「ボクノ持チ物デ、貴重ナノッテコレクライダシ……」
というか、ぶっちぎりの貴重品だと思うの。
「それでは……『触ってもよろしいかしら』?」
うお、魔力……!
「ド、ドウゾ」
この場でダメ―!とか言えるほどボクは命知らずではないのだ。
「ありがとうございます、それでは……」
テオファールさんが、その綺麗な手を伸ばす。
柄を握った瞬間に――ばじん!!と大きな音がして空中に電が散った!?
あっづ!?今ちょっと腕焦げた!?
「あらあら、元気がいいですわね」
だけど、テオファールさんは普通に黒棍棒を持ち上げた。
これ、許しててもかなり重くなるらしいのに……!
りゅ、龍って凄い!
「ふむ……『違い』ますわね。ありがとうございました」
しばし稲妻を放出させつつ、じいっと黒棍棒を見て……テオファールさんはそっと元の場所に戻した。
余波でボクの腕は焦げたのに、直撃してるご本人はケロッとしたものだ。
「アノ、モウイイノ?」
「ええ、はい。その棍棒さん……龍の骨で作ったものかと思っておりましたが、どうやら違うようですわ」
「エッ」
龍のご遺体疑惑を持たれてたのか……!
「ジャ、ジャア何ノ骨ナノ……?」
「さあ?ワタクシにもわかりかねますわ? ただ、『触るな!』と随分怒られましたわ」
黒棍棒くん、かなりの過激派じゃ……
一体キミはなんなのさ?
謎だけが深まったね……生物由来なのか、なんなのかすらわからない……
あの変な夢のこともあるし……
「……ネエ、チナミニ龍サンノ骨ガ材料ダッタラ……ドウシタノ?」
「別にどうにもしませんわ?ただちょっと興味があっただけですの」
じ、自由だ……
「ソ、ソウナノ……」
「あの……できればでいいのですが」
テオファールさんが姿勢を正す。
こ、今度はなんだ……?
「――大変おいしゅうございましたので、その……お代わりを、いただいてもよろしいかしら?」
ちょっと恥ずかしそう。
そりゃね、元は10メートルだからね……足りないよね。
「ただいま!お持ちいたしやんすゥ!!」
あ、やっとロロンがマントから出てきた。
なんか露出してる部分全部真っ赤だけど、大丈夫?
・・☆・・
「フヘェ……イイオ湯~……」
まあ、色々あったけど温泉はいつ入っても最高じゃね~……
ご飯も美味しかったし、最後の方にはロロンも打ち解けてたみたいだし……若干だけどね。
敬語だけは最後まで取れなかったけど、あれは彼女の性分だから仕方ないよね。
それと……テオファールさんは今晩ここに泊まるのかな?
まだ帰る様子はないけど……ま、いいか。
ここボクらが貸し切ってるわけじゃないしね~。
ともかく温泉、温泉だ。
最高~……ふやけるまで入っちゃろ!
「まあ、いいお湯ですこと」
「ダヨネエ、イイオ湯ダヨネ、ホント……」
龍さんもお墨付きってわけですか!
ふふ、やはり温泉はみんな好きなんだね!
温泉って素晴らし――今なんて???
「キャーッ!?龍サンノエッチ!?!?」