第150話 ついに出発……普通に行かせて!お願いだからァ!!
『じゃあまたね!アルちゃん!』
「うん、またねピーちゃん」
宿の前で、エルフさんたちに見送られている。
この前からの吹雪が落ち着いたので、ボクらは今日出発するんだ。
エルフさんたちも、今日ラーガリ側に下山するんだって。
『あっ、そうだったわ! アルちゃんと~、お友達さんたちに~……』
アルレイノさんの前でホバリングしているピーちゃんが、空中で……背中を毛繕い?してる。
器用だね……鳥さんがソレやったら墜落するよ?
『よいしょ、よいしょ……はいっ!ど~ぞ~!!』
そして、ピーちゃんは綺麗な羽をごっそり引き抜いた。
ウワーッ!? 大丈夫なんソレェ!?
「ぴ、ピーちゃん大丈夫なの!?」
『大丈夫大丈夫!魔力ですーぐに生えちゃうから! 幸運のお守りよ、きっとみんなを守ってくれるわ~!』
うわ、ホントだ。
抜けたところに一瞬で羽が生えた!?
「よ、よろしいのですかピーちゃん……妖精の羽なんて、こんなに貴重なものを……」
レファーノさんが細かく震えている……そんなに貴重なんだ。
妖精自体が貴重だからかな。
『いいのいいの! アルちゃんのお友達は、私のお友達だから! さっちゃんがいても、きっとそうするわ!』
「サチコ母さん……ううう……!」
『あらまーっ! 泣き虫な所はなんにも変わってないのねえ!うふふ、うふふ!』
また涙目になったアルレイノさんの周りを、ピーちゃんが笑いながら回っている。
微笑ましいねえ~。
「……それでは、皆さん。私どもはこれで失礼いたします」
レファーノさんが、深々とお辞儀。
「ハイ、道中オ気ヲ付ケテ。棍棒ノコト、色々アリガトウゴザイマス」
ジェストマで研究者さん探すっていう手間が省けたし、絶対にそれよりも精度の高い結果を教えてもらえたしね。
だってこの人たち、【ジェマ】の研究者グループ?なんだろうし、
「こちらとしても大助かりです……あの、国の友人にあなたのことをお伝えしても? おひいさまが消息を知りたがっているでしょうから。勿論、アカちゃんには何の被害も及びません、あれ程釘を刺されて動くようなことがあれば……教会は即刻滅び、いえ……わたくしどもが滅ぼします」
……顔が、マジだ!!
この人ってどういう感じのパイプ持ってるんだろう……?
トモさん、いいよね?
『はい、大丈夫でしょう。この方以外にも、私が使える『伝手』がありますし……』
……絶対ヴェルママとかそこら辺の関係でしょ。
怖いから聞かないけども。
「ハイ、大丈夫デス。ボクトシテモ、オヒイサマニハトテモオ世話ニナッタノデ……連絡手段ガナイノガ心苦シカッタデス」
エルフさん経由でも、無事を連絡できるならいいことだよねえ。
いくらおひいさまおフィギュアに祈っても、本人には伝わらないでしょうし。
「わかりました、必ずお伝えいたします……それでは、これにて」
エルフさんたちは、一斉に頭を下げて……綺麗に回れ右。
制服の上に羽織った揃いのマントを翻して、さっそうと歩き出した。
「さいなら、さいなら~!」『気を付けてね~!』
「お世話になりやんした~!」
「道中、気を付けなよ」
「ホントニ、色々アリガトウゴザイマース!!」
ボクらは、彼女たちが見えなくなるまで手を振って……こっちも反対側に歩き出した。
「ムークちゃんといると、本当に退屈しないねえ」
「タマタマデスヨ、タマタマ」
その理由は、ボクにもわかんない!
まあいいさ、いい人に出会えるんなら別にね!
お強い魔物とかは絶対に御免だけどね~!!
・・☆・・
「かおちめたい、ちめた~い!」
「もふぁふぁ、ももも」
アカはロロンの服に入って顔だけ出している。
門を出るなり、顔中に寒い風が吹きつけてくる。
吹雪はないとはいえ、山頂付近だから超寒いや……
温泉ホコホコパワーがないので、防寒具と魔法具だけが頼りです。
『ムークさんがあったいから助かったわ!助かったわ!』
ピーちゃんはボクのマントの中の……さらに防寒具の中、胸元でチュチュンと鳴いた。
今回は大分奥まで潜ったね……羽毛がこしょばい!
「頑張りな、登りと同じでトルゴーン側にも8合目の休憩所はあるからね。もちろん温泉もさ」
いいこと聞いた!いいこと聞いた!
これは下りにも気合が入りますなあ!
「……アンタ、急がなくてもいいよ。登山ってのは下りの方が事故が多いんだからね」
「ハイ……」
『わかりやすさはむしんちゅで一番ですかね、むっくんは』
そんなナンバーワンは嫌じゃよ~!
気を付けますってば!ピーちゃんもいるんだし!
「あった、青札だ。この方向にしばらく行けば8合目だよ」
「もふぁ!もももも!」
視線の先に、長いポール。
その先端には青い札が括りつけられている。
やったあ!下りも疲れるからね……今日はそこで宿泊なのかな?
温泉!温泉だ~!
装甲がふやけるくらい入っちゃろ!!
「――待ちな!」
カマラさんが鋭く叫んで、杖をサッと構えた。
きゅ、急にどうし……ムムムッ!?
『ピーちゃん、ヤバくなったら逃げるんだよ!』『わ、わかったわ!なに、この気配――』
ピーちゃんにそう言いつつ、背中に回していた黒棍棒を引き抜く。
ボクの後ろで、ロロンも同じようにする気配がした。
……この先になんか、いる。
魔力とは違うけど、謎の重苦しい気配がある!
なんだろ、これ……今までに感じたどんな気配とも違う!
トモさん、これ何!?
『これは……この波形は、まさか。むっくん……あなたは本当に退屈しない虫ですね、ええ』
ちょっと!?その言い方ってまさか――
『――あら、ごめんあそばせ』
強く、綺麗な念話が響いた。
そして次の瞬間には……大きな影が、目の前に出現した。
さ、さっきまで……何もいなかったのに!?
「たまげた、ねえ……アンタら、間違っても手ェ出すんじゃないよ」
カマラさんが、ひどく真剣な顔で構えを解いた。
「もふぁ……もももっも」
ボクだって、こんな、明らかに……明らかに格上っぽい存在に何もできるわけないじゃん。
でも、不思議と敵意?は感じないんだ。
『賢明です。今のむっくんでは吐息だけで消滅しますよ』
ブレスですらない……
――そう、ボクらの前にいるのは……竜、いや龍だ。
10メートルくらいある、とっても大きくて……綺麗で、銀色で、キラキラしている……名は体を表すっていうのは、本当だね。
……どう見ても白銀龍さんです、本当にありがとうございました。
「きれー!きれえ!」
ギャワーッ!?!?
あ、あああああアカ!?
白銀龍さんの顔に!顔付近に飛んでいくのはやめ!やめなさい!!
「ももももも……」
『はわわわ』って言ってる!ロロンも!
『あら、かわいらしい妖精ですこと。生まれたてですのね、久しぶりに見ましたわよ?』
……当の本人?本龍?は気にした様子もなく、顔の周囲で飛び回るアカを楽しそうに見ている。
『当たり前でしょう、邪気のない妖精相手に怒る龍がいますか。特に彼女は、自らの縄張り内にヒトが街を作っていても気にしない方ですよ?』
そ、そういえばそうか……昔話でもそんな感じだったね……
「……頂の白銀龍様、私どもは旅の行商人とその護衛でございます。あなた様のご領地を通過すること、平にご容赦いただきたく存じます」
カマラさんは地面に膝をつき、深々とお礼の体勢。
い、いかんボクも!!
膝をズサー!両手をババン!
見よ!これが……インセクト・土下座!!
『つまるところただの土下座では……?』
そんなことなーい!見てこれ!
触角まで地面に突き刺してるんだから!人間には無理な体勢でしょ!?
あ、そうだ、隠形刃腕も出してペタ―!したほうがいいかな!?
『 絶 対 に や め な さ い 』
やめるゥ!!
『あらまあ!とっても綺麗な龍さんね~!』
ピーちゃん!?
ピーちゃんまで飛び出したよ!?
妖精がフリーダム過ぎるんじゃよ~!!
『ありがとう。貴方も、とてもお綺麗ですわよ』
『まーっ!嬉しいわ、嬉しいわ!!』
見れないけど……アカもピーちゃんもとってもフレンドリーに接されてるみたい……!
『ああ、こちらの都合で話しかけたのですから。平伏は必要ありませんわ……白狼のご婦人、アルマードのお嬢さん、そして……虫人のお兄さん』
『いえ――女神の、使徒さん』
……最後の念話は、ボクにしか聞こえてないみたい。
一瞬でバレたんですけど!トモさん!!
『ラーヤさんと同じく、薄い神気を悟られましたか。察知能力は同程度……いえ、こちらの方が上、ですか』
龍ってすごいや!それしか言えません!!
『さて……少々、お待ちあそばせ』
うお眩しっ!?
なに!?地面しか見えないけどなにが起こったの!?
「……ん、あ、ああ……ふう、喉を使うのも久しぶりでしてよ」
じゃり、と地面を踏みしめる音。
「――虫人さん、顔をお上げになって?」
い、いいんですかね……従いますけども!
おそるおそる顔を上げると……そこには!
――2メートルくらいに小さくなった、二本足で立つ龍さんがいた。
かといっても人間に化けた?わけじゃなくて……龍人?っていうのかな?
体に白色の布を巻き付けた、龍成分マシマシの『人型』龍さんがいた。
翼は背中から生えてるし、立派な尻尾もある。
体は綺麗な鱗に覆われていて……顔も龍さんだ!
めっちゃ、神々しい!
「ここはヒトにはお寒いでしょう。休憩所で少しお話ししましょうか……こちらですわ」
龍さんはそれだけ言って、アカとピーちゃんを伴って歩き出した。
「……肝が冷えたどころか、寿命が縮んだよ。ムークちゃん、アンタいい加減にしな」
「ボクノセイデスカ!?!?」
理不尽にこちらを睨むカマラさんに続き、ボクも歩き出し……ん?
ロロン!?ロロンが気絶してる!?
ボクのせいじゃないと思うけど、ごめんよ、ごめんよぉ~!?