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第147話 エルフの、研究者さんたち。

「あむむ、むいむいむい……」


「おいしい?」


「おいし、おいし!」


「まあ、可愛らしい……コレもどうぞ」


「まうまうまう……んぐんぐ」


 アカが、無数のエルフさんたちに無限給仕されている。

ハムスターの化身みたいになってるねえ……もはや見慣れた姿だ。


「あの、ムークさん。申し訳ありません……若い者たちが」


「イイエイイエ、オ気ニナサラズ。ムシロイッパイモラッチャッテ、コッチノ方ガ申シ訳ナイデス」


 レファーノさんは申し訳なさそうだけど、全然気にしてない。

だってあのエルフさんたちは、どっかの鎧エルフと違ってアカを拉致しないもの。


『おいしいわ!とってもおいしいわ!アルちゃん!これおいしいわよ!』


「ふふ、そうね、美味しいねえ……」


 向こうのテーブルでは、アルレイノさんがピーちゃんと一緒に夕食。

仲がいいねえ……何百年ぶりだってのに、すっかり家族みたい。


 ここは、【いただきの慈愛亭】の食堂。

20人くらいは入れそうなそこは、エルフさんたちの貸し切りらしい。

そこで、おいしいおいしい夕食を食べている。


 今日のメインはシチュー!

牛乳じゃないけど、何かのお乳っぽいものを使っていて……謎肉と野菜がゴロゴロ入っててとても美味しい!

トルゴーンが近いからか、それともエルフさんたちに合わせてか……パンは白くてふっくら柔らかい!黒くて固いパンも美味しいけど、こっちも美味しい!

手が止まらないね……!


「んめめなっす、んめめなっす~!」


「そんなに急ぐと喉につかえるよ」


 ロロンも嬉しそうで何より。

カマラさんも、ゆっくりだけど美味しそうに食べている。

 

 ピーちゃんと合流するために食堂に来て……エルフさんたちと一緒にご飯!

向こうは総勢10人の集団だ……みんな揃いの制服を着ているから、なんとも壮観ですねえ。


「おやびん、いっぱいもらった、もらったぁ!」


「ヨカッタネエ、優シイオ姉サンガイッパイダネエ」


 エルフさんたちのテーブルから、アカが手を振ってくる。

【ジェマ】の研究者さんたちは、みなさん額飾りを付けてるから……全員女性だ。


「まあ、お姉さんだなんて。何十年ぶりに言われたかしら」


「ムークさんと仲がいいのね、アカさんは」


「強い【パス】を感じるわ……強固な信頼関係がないと構築されないわね」


「深度が深いわね、恐らく名付けによる三界法儀式、それも原初の……」


 途中からなんかむっちゃ難しそうな話になっちょる……それでもアカへの給仕は止まらないの、凄いなあ。


「こうして見れば、あなた方にはとても強固で清浄な繋がりがあるのがわかるというのに……教会の者どもは何を見ていたのか……」


 レファーノさん、また申し訳なさそうにしてるねえ。

この人、エルフ本国に明るいみたいだけど……外の世界にいるだけあって話が分かるエルフさんだ。

素敵なメガネがよく似合ってるねえ。

たぶん、むっさ高級な魔法具なんだろうけど。


「マアマア、今ハ元気ニ生キテマスシ……ソノオ陰デ色ンナ人ニ出会エマシタシ」


 教会とやらにはわだかまりが無いわけじゃないけど、いいんだ!

前にも言ったけど、おひいさま陣営にとっても、とーってもよくしてもらったからね!

あの人たちがいなかったら、ボクはまだ謎芋虫かもしんないし。

でっかいでっかい……二足歩行の恩義があるんだ、ボクにはね!


「ああ……ムークさんが理知的であればあるほど、教会への悪感情が……」


「アアア、マアマア、ケマドウゾ、ドウゾ」


 この人、結構苦労人かもしんない……とりあえずケマを注いでおこう。


「ああ、申し訳ありません……そうですね、今後は絶対に手出しをされることはないでしょうし……」


 なんか、ラーヤがとんでもないことをしたみたいだしねえ。

死人とか出てないといいけども。


「んくんく……ぷはっ!」


 ……ボクの見間違えじゃなかったらなんだけど……レファーノさん、ケマにお酒ぶち込んで飲んでない?


『見間違えではありませんね。ケマを火酒で割って飲んでいます……エルフ種は毒物に対する耐性が高いのでいいですが、通常の人族なら急性アルコール中毒待ったなしの濃度ですよ』


 ヒェ……ドワーフさんが大酒飲みって話は良く聞いたけど、エルフさんもなんだ……


「教授さんだって?まあ、お近づきの印にこれをどうだい?【ガリル】は【ヴェルク酒房】の逸品さね」


「まあ!そんなに貴重なものを……!い、いただきますわっ!」


 おっと、一瞬で酒のみの空間が出来上がってしまった。

ボクが飲まされると記憶が飛んじゃうし歌って踊るから……ここはカマラさんにお任せしよっと。

ええと……ロロンは食事に夢中だし邪魔しちゃ悪いから……ご飯を持って、ピーちゃんとこに行こう。


「相席イイデスカ?」


「ああ、どうぞ。あなたのお話も聞きたいと思っておりましたので……」


『ムークさん、このシチューとってもおいしいわ!おいしいわ!』


 うん知ってる。

……ピーちゃん、キミ頭全部シチューに突っ込んでるけど呼吸とか大丈夫なん?

妖精だから関係ないのかな……?


「ピーちゃんから聞きました。旅だけではなく、ムークさんは命の恩人だって……!私もそれを聞いて、是非お礼をしたかったのです!」


 ガシィ!って手を掴まれた。

命の恩人……? ああ、初めて会った時のね?

でも、アレはボクがいなくても結局ラーヤが助けてたと思うんだけど……まあ、言うまい。


「もう、ピーちゃんったら……ほら、シチューまみれよ」


『大丈夫!体に付いた分も吸収するから!』


 そんなこと言ってても、アルレイノさんはピーちゃんをフキフキ。

どっちが年上かわからんね、これだと……


「旧交ハ、暖メラレマシタカ?」


「ええ、お陰様で……ピーちゃんが何も変わっていなくて、嬉しかったです」


『そりゃそうよ、私はずうっと私!可愛いインコのままだもの!』


 えへん!って感じで胸を張るけど……たぶんそういう意味じゃないと思うよ、ピーちゃん。

あ、そうだ……


「ネエ、ピーチャン。コレカラドウスルノ?旅ハ」


 ここで昔の知り合いに会ったんだし、離脱しちゃうのかな?

それともやっぱり首都まで行くのかな?


『あら、勿論ムークさん達と一緒に行くわ!さっちゃんのお家と孤児院を見に行くのよ!アルちゃんから、建物がしっかり残ってるって聞いて安心したわ!』


 あ、そうなの?


「私達はこれから、ラーガリ経由で【戻らずの森】の調査に向かいますので……ピーちゃんの固有魔力振動数は覚えましたし。いつでも合流できます」


 あんな恐ろしい(らしい)所に……この人たちも、さぞ凄い魔法使いなんだろうねえ。


 しかし固有なんちゃら、前に聞いたことがあるね。

それを知ってれば大体の位置とかわかるんかな?


『アルちゃんが孤児院に連絡してくれるから、見学もさせてくれるんですって!とってもうれしいわ!』


「一応、離れているとはいえ私は孤児院理事の一人ですし……問題ありません、ムークさんたちはそのまま旅を続けてください」


 トントン拍子に話が進んでいますなあ……そっか、孤児院最初期のメンバーだもんねこの人。

それくらいの発言力はあるのかな、長生きさんはいいねえ……


『これから、時間はいくらでもあるものね!』


「ええ、そうね」


 2人はお互いに嬉しそうだね……これが長命種の余裕というやーつであろうか。

でも、これからもピーちゃんとの旅が続きそうで嬉しいや。

きっとアカも喜ぶぞ。



・・☆・・



『あ!そういえば……』


 夕食が終わり、現在は食後のティータイム。

ロロンはお腹をポンポンにして離脱し、カマラさんも作業に戻った。

ボクはケマを楽しんでいる……アカはエルフさんたちに囲まれてぐっすりおねんねだ。

そんな時に、ピーちゃんが声を上げた。


『ムークさん、丁度いいから調べてもらったらどう?ホラ、棍棒さん!アルちゃんたちは研究者さんなんだもの!』


 ……あ、そうだ。

確かに……【ジェストマ】に行くよりもここの方が手っ取り早い。

なんたって研究者のエルフさんたちがいっぱいいるんだから。

【ジェストマ】は【ジェマ】との付き合いがあるんだっけ?

じゃあこの人たちが本家本元みたいなもんじゃない。


「棍棒さん、ですか?」


 ガバガバ火酒を飲んでいたのに、全然酔っていないレファーノさんが首を傾げる。

この人の肝臓どうなってんのさ……


「エエ、ピーチャント会ッタ洞窟デ見ツケタモノナンデスガ……」


 テーブルに載せるのは抵抗があるので、まずバッグから黒棍棒をにゅんっと出して……立てかける。

お、空気を読んでくれたのか今日は軽いですね黒棍棒くん、もしくはちゃん。 


「ドウモ、古代文字ガ刻ンデアルラシクッテ……鍛冶屋サンモオ手上ゲダッテ……ウワーッ!?」


 い、いる!みんないる!?

アルレイノさんとレファーノさんだけじゃない!?

さっきまでアカにお菓子あげてキャッキャしてたエルフさんたちもみんないる!?

皆さん、黒棍棒にかぶりついてガン見の体勢だ!?


「……ムークさん、棍棒をこの上に!」


 レファーノさんが折り畳みテーブルみたいなものを持ち出してる!?

えっ!?どっから出しました!?


 皆さんの視線が怖い過ぎるので、その……魔法陣みたいなのがむっちゃ書かれたテーブルに、黒棍棒を置く。

その瞬間、全員が取り囲んだ!

動きが素早い!さっきまでの和気あいあいアトモスフィアは何処に!?


「では……『我々全員が、触ってもよろしいでしょうか?』」


 む、なんか魔力が乗ってる……?


「ハ、ハイ、許可シマス」


 そう言うと、皆さんは一斉に黒棍棒に触り始めた。


 レファーノさんの眼鏡レンズが、青白く光ってる!?

なにあれ、分析器みたいなもの!?


「アルレイノとガラージュは材質を、ヤルシュノとラーファルガは古代文字を、ハリセイアは私を補佐して、ニルヴァニとフォロストルは……」


「「「はいっ!」」」


 レファーノさんがテキパキと指示を出し、エルフさんたちは黒棍棒の方々へ散っていく。

み、皆さん急にどしたのさ……!?


「けぷり、なに、なぁに?」


『みんな真剣ね!とっても!』


 起きたアカとピーちゃんはボクの肩でそれを眺めている……無茶苦茶ご飯食べたねアカ、右肩がいつもの3倍くらい重いんだけど!?


「こちらは、古代エラム王族言語ですか……ううん、この様式から察するに弐紀、いや参紀?」


「一般エラム語も混じっています。ですが左右のモノは……わかる?ヤルシュノ?」


「ええと……どこかしら、たしかマデラインのロロストル海底遺跡の碑文に似たような字体があったような……」


「アルレイノ、これクロハガネよね?」


「それだけじゃないわ、オルカの気配もする……なんて緻密な合金技術なの……」


「【嘆き】、いや違うわね、これは【悲痛】……で、【空より】の【夜明け】、【祓う】、【魔】……」


 なんということでしょう。

柔らかな雰囲気に包まれていた食堂は……真剣な面持ちで黒棍棒に群がる、研究所へと姿を変えました!

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嗚呼ああ!?マズイマズイ!?アババババ!? 魔素転換者ばれたら、ムッくんが分解される!? に、逃げてムッくん!!
エルフさんたち、そのむしんちゅね… 【魔素転換者】 なんですよぅ(ニチャァ)
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