第146話 頂上のあれこれ。
『じゃあね!夜ご飯の時に合流しましょうね!』
「ハイハイ、ユックリシテネ」
手を振るボクの前で、深々と頭を下げるアルレイノさん。
その後ろにはレファーノさんだ。
「色々とお世話になり、誠に……」
再度頭を下げようとするアルレイノさんを、手で制す。
「旧交ヲ温メルイイ機会ジャナイデスカ。ボクラハ何モシテマセンヨ、オ気ニナサラズ」
ボクはほんとに何もしてないからね!
ただ山に登っただけだもんね!
「いいから、いいからぁ~♪」
ボクの真似をしてか、アカが嬉しそうに手を振った。
どこに出しても恥ずかしくないその姿に、エルフさん2人は表情を柔らかくした。
ふふっふ~ん!ウチの子分はかわいいじゃろ!じゃろ!
・・☆・・
色々あった話し合い?説明会?の後。
ピーちゃんはとりあえず、アルレイノさんのお部屋でお話をすることになった。
今まで何百年も離れてたもんね……積もる話は、そりゃあもうチョモランマくらいあるでしょ。
それで、夕食で合流~……って話になったってわーけ。
うんうん、思う存分お話をすればいいよ、ホントに。
「……ッテ、ワケ」
ボクの方は、自分たちのお部屋に戻ってカマラさんとロロンに説明してた。
アカ?エルフさんたちに貰った山盛りお菓子を食べ過ぎて寝てます。
布団の盛り上がり方が妖精バディに釣り合ってないね!元気でよろしい!
「あれ、まあ……流石はエルフと妖精。長生きで羨ましいねえ」
「んだなっす。人生の感覚が長すぎるでやんす……」
2人は流石に驚いている。
……それな!
ボクなんか寿命……寿命いくつ?トモさん。
『最近は魔石をよく食べましたので……ええと、残り1年と8カ月ですね』
寿命2年もないんじゃよ!
何もしないとここの誰よりも早く死にますからね!
せめて2桁寿命になりたいものじゃな……いや、まずは5年突破かな……
「なるほどねえ、そいじゃアタシはミカーモ家の『守護神』と旅をしてたってわけかい……あの子ほどじゃないけど長生きはするもんだねェ」
「……ピーチャンガ、守護神?」
偉く格好いいあだ名じゃないの!
っていうか今の今まで考えてなかったけど、何故カマラさんにピーちゃんのお家のことを聞かなかったのか……
結構有名なお家みたいだし、今の反応でも絶対知ってたじゃん。
完全に失念しておった……このムーク、一生の不覚!
『一生の不覚が多そうな虫生になりそうですね』
やめて~!
「そうさね、初代当主『サチ・ミカーモ』と共にあった妖精……いくつか詩にもなってるはずさ。もっとも、あんなに可愛い小鳥だとは思わなかったけどねえ、ははは!」
カマラさんはクスクス笑っている。
「ムークちゃんたちもラグレスに行きゃあわかるよ、ふふ……ミカーモ孤児院に銅像があるんだけどさ……ははは! 『遠くで龍、近けりゃ蜥蜴』ってやつさね……ふふ!」
異世界ことわざいただきました!
……そう言うってことは、さては無茶苦茶厳つい姿で伝わってるんだな、ピーちゃん。
カマラさんが名前聞いた時も反応なかったし、恐らく名前も別になってるんだろうねえ。
「気になりやんす、教えてくなっせ~!」
ロロンがピョンピョンしていてとってもかわいい。
「ふふふ……見てのお楽しみ……と、言いたいところだけどね、言っても見ないと衝撃はわからんからね……不死鳥さ、不死鳥。ロロンちゃん3人分くらいの、厳つい不死鳥の銅像だよ」
無茶苦茶間違って伝わってる!?
アルレイノさんからクレームつかなかったの、ソレ!?
『ハッタリ重視ですかね。それとも、全く当時のことを知らない何代か後の当主が作ったか……』
あ、なるほど。
たしかにね、当時のことを知らない人が作ったのかもしんないね。
ピーちゃん、ホントに最近まで人と関わらなかったみたいだし。
「ほんと、アンタらと関わると退屈しないね……やっぱりムークちゃんは波乱の星の下に生まれたんだねえ……末は大英雄かねえ、アンタ。その性格じゃあ大悪党にはなれないだろうし……」
「ヤデス!絶対ヤデス!!ボクハ素敵ナオ家ヲ建テテ一日中寝タリ釣リシタリシテ過ゴスンデス!」
英雄なんてまっぴらごめんですよ!ですよう!
「隠居爺の夢じゃないか……欲がないねえ、アンタ」
カマラさんはそう言うけどさ、これも十分贅沢な夢なんじゃないの~!?
『たいく……いや、つまら……いや、ううん……面白くありませんね』
女神様が裏切りよった!
ボクの虫生を面白おかしくしないでくださいよ!
「やはりムーク様は、大英雄の器……!!」
ハイそこ!ロロン!
お目目をキラキラさせるんじゃないの!かわいいな!!
・・☆・・
「じゃじゃじゃ、不思議でやんす!こんな景色ば、初めて見まっす~!」
「ダネエ、珍しいねえ」
ロロンと並んでベンチに座り、目の前の光景に見入っている。
凄いなあ……これ。
目の前には、結界によって隔離された街の外が見える。
こっちはホカホカ陽気なのに、街の外は猛吹雪だ。
この結界作った人、さぞかしすごい魔法使いだったんだろうねえ。
ボクとロロンは、夕飯まで暇だから街の散策に出たんだ。
アカは眠ってて起きなくて、カマラさんは作業があるからって見ててくれてる。
起きた時に拗ねなきゃいいけど。
まあそういうわけで、大きな道に沿って街を見物し……トルゴーン側の突き当たりで、景色を眺めつつ休憩なうです。
「オイシイネエ、コレ!」
「んだなっす!パリパリでたまらねえのす~!」
途中で買った揚げパンみたいなのが美味しい。
中の具は香辛料が効いた挽肉と細かく刻んだ野菜で、ちょっとピリ辛なのがまたいい。
この街の名物なんだって~……パリパリ、ごくん。
みんなにお土産として、帰りに買っていこうっと。
「ング……アレ、ナンカ見エルネ」
吹雪の切れ目に、なんか建造物が見えた。
この街からさらに上の方にあるね……なんだろ。
「『白銀龍の神殿』でやんすね。話には聞いでおりましたが……じゃじゃじゃ、立派なもんでやんす!」
ああ、カマラさんに聞いた昔話のアレね!
じゃあ、アレは龍さんのお墓なのか……デカくなぁい?
さすがにこの街より大きくはないけど、ちょっとした学校の体育館くらいあるよ?
よく作ったなあ……あんな高い所に。
ここが頂上じゃなかったんだね。
「見ニ行ケナイノカナ~?」
「うむむ、どうでやんしょ?」
観光目的の旅じゃないけど、あれくらい近くにあるんなら後学のためにも見ておきたい。
吹雪が収まったらダッシュで行ってみようかな?
「――ああ、そいつは無理だ」
急に声をかけられたので振り向くと……そこにいたのは兵隊さんだった。
この人……ああ!入場の時のシュナウザーおじさんだ!
今はフードがないから、もっさもさの眉毛が良く見える。
「ア、サッキハドウモ」
「楽しんでるようだな、兄さんたち……よっこいせ」
おじさんは、となりのベンチに腰かけて煙草に火を点けた。
そして煙を吐き出す。
今って休憩中なんだろか。
「ふぅ……あの神殿はな、誰も入れねえ。こっからじゃ近く見えるがな、多重遅延結界が展開してある……解呪せずに歩いてたら、100年経ってもたどり着けねえぞ? まあ、その手前には金剛結界陣があるから、その前に塵になっちまうけどなァ」
ガハハ、と笑うおじさん。
……むっちゃ警戒厳重じゃん。
不用意に観光しに行かなくてよかった……ボクの冒険がここで終わる所だったね……
「じゃじゃじゃ、それほどの結界陣とは……何か、どえらいお宝でもありやんすか?」
空き家じゃないんだ?
……神殿って空き家とは言わないかな?
「――ああ、ある。白銀龍の体がな」
……龍さんの、ご遺体?
「ああ、なるほど……それでしたら、頷けやんす」
ロロンは納得してるけど、どういうこと?
いや、そりゃあお墓なんだからバンバン入っちゃ駄目だとは思うけど……
『『龍』の遺体は隅から隅まで素材の宝庫です。鱗一枚でも屋敷が建つほどの価値なのですよ』
一瞬で理解できた!
でも、鱗高すぎ!?
ローランさんが持ってた剣って、確か鱗を鍛えた……ってのだよね。
それもむっちゃ高いんじゃん……
『それはそうですよ。歴史的な付加価値、芸術品としての価値、そしてなによりも武器としての価値が凄まじいのです』
ホエ~……
伝説の英雄さんが2人も使ってたんだもん、そりゃあ凄い武器だよね……
『わかりやすく言えば、龍種の鱗は『セヴァー』と同じような効果があるのです』
魔力を何倍にも増幅するって、あの!?
うわわ、それは凄い……
『『セヴァー』は誰にでも扱えますが、鱗はある程度の魔力がないと使用できないらしいですが……それでも、戦士なら誰もが持ちたいと考える逸品ですしね……そんなものを作れる素材が、今もあそこにはゴロゴロあるわけです』
納得ぅ……厳重にもなるわね、それは。
あ、そうだそうだ。
これ、ちょっと聞いておこう。
「アノ、昔話ニ出テクル龍サンノ子供ッテ……今デモ御存命デスカ?」
今でも飛んでるってしめくくりだったけど、ホントなのかな?
「ん?ああ、お姫さんのことか……いるよ。龍ってのは長生きだからなあ……だけど滅多にお目にかかれねえな、俺もこの仕事して30年になるが……はっきり見たのは2、3度ってとこかな」
「じゃじゃじゃ、ど、どんなお姿でやんしたか!?」
ロロンも食いついた。
英雄とかそこらへん好きだもんね、この子。
「俺はエルフじゃねえから前の龍は知らねえが……どえらい綺麗な龍だったよ、『お仕事ご苦労様』なんて言ってくれたな」
意外と気さくなドラゴンさんなんだ……
『まあ、龍からすればヒトは脆弱すぎますから。基本的に、かわいそうな小さき者扱いですね』
圧倒的な強者だからこその態度……!
『有史以来、龍に勝ったヒトなんてほとんどいませんからね。ローランさんも規格外側のヒトですよ、龍に挑んで生きてるんですから』
そういえばそうだった。
『昔話の通りなら、念話を使えるほどの歳経た深淵竜を1人で殺していますからね。むっくん流に言えば、バケモンです』
深淵竜ってたしか人間の軍隊3000人くらい殺してるんだよね……
『あ、それは比較的若い個体ですね』
怖すぎでしょ……改めてこの世界って、怖すぎでしょ……
「ところでアンタら、大分歳も種族も違うが夫婦かい?」
「じゃじゃじゃァ!?!?!」
ああっ!ロロンが削岩機くらい振動してる!?
トモさんと話してて聞き取れなかった、どうしたの~!?
『はあああああああぁああああああぁああああああああぁああああ~~~~~……』