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第144話 砦に到着……どころじゃない!?

「ありゃ、また入ってるのかい……アタシが言うことじゃないけど、本当に好きだねえ」


 衝立の向こうから、カマラさんの声がする。


「朝カラ温泉トカ最高ノ贅沢デスカラ」


「違いないねえ、それにタダだし」


 そうそう、それ最高。

無料露天風呂……最高!!


 ここに到着してから、翌日の朝。

ボクは朝ご飯を食べる前に朝温泉と洒落こんでいる。

目と鼻の先に温泉があるんだから、そりゃあ入るでしょ。

昨日確認したけど、ここにはかなり強力な魔物避けの結界が張ってあるみたいだし。


「朝飯を食ったらすぐに出るよ、この分なら昼までには頂上の砦に到着できそうだね……アンタらの足が丈夫で助かったよ」


「ヘヘヘ」


 カマラさんの足腰の方が丈夫だと思う。

身体強化魔法、ボクも使いたいなあ。


『使ってますが?』


 ……はい?


『むっくんはほぼ無意識に身体強化魔法を使っていますよ。飛んだり跳ねたりしている時などに』


 あ、そうなの?


『全身に魔力を纏わせて防御力を上げているでしょう?』


 ああ、そういえばそうか……なんか、納得。

じゃあじゃあ、ミーヤみたいに速く走ったりとかもできる?


『無意識でやっているので、意識的にすれば可能でしょうが……ぶっつけ本番で試すのだけはやめましょうね。最悪山から転がり落ちますよ』


 そうするう!


「おやびん!ずるい、ずる~い!」


「ボバーッ!?!?」


 アカが!多分アカが風呂に飛び込んできた!!

ごめんよ~!だって起きた時寝てたじゃん!寝てたじゃん!

起こすのも悪いなって!


『ずるいわ!ずるいわ!』


「ベボーッ!?」


 ピーちゃんまで!ピーちゃんまで!!

ごめんよ!ごめんよ~!!


「朝から賑やかだねえ……おや、ロロンちゃんも来たのかい。まったく、みいんな温泉好きでいい旅仲間だよ」


「じゃじゃじゃ……お邪魔しやんす、はわぁ……極楽ゥ……」


 向こうは静かでいいなあ!

こっちも賑やかでいいけどね~!!



・・☆・・



「ほこほこしゅる、しゅる!」


『自分がカイロになったみたい!あの温泉に溶け込んでた魔力のお陰かしらね~』


 ボクのマントの中がむっちゃあったかい。

若干吹雪いてるけど、そんなの全然関係ないや。

 

 ボク、アカ、そしてピーちゃん。

出発してから、3人とも体がずっとホコホコしてるんだよね。

カイロの魔法具は使ってるけど、とってもあったかいや。


「あすこの温泉の効能さね。ここでだけ使える魔法みたいなもんさ……あの湯を汲んで下界に降りて沸かしても同じ効果は得られない……不思議な湯だよ、本当に」


 へえ~、なるほど。

流石魔法……何でもありだ!

トモさんトモさん、なんでかわかる?


『私に現状把握できる情報ですと……わかりませんね。【ジェマ】でも調べているようですが』


 研究者さんが調べてもわかんないなら、ボクにわかるわけないか~。

不思議で便利なお湯ってことでいいや!


「ぬくいでやんす……はわぁ……」


 ロロンも顔の防寒具を外せて嬉しそうだ。

それだけでもいいこと、いいこと。


「おやびん、あったか、やさし、しゅき……ふみゅ……」


 あらら、アカが寝ちゃった。

落ちないようにしっかりポッケにINしておこう。


『私、この旅で温泉が大好きになっちゃったわ!いろんな所の温泉に入りたいわ!』


『あ、それいいね!素敵な目標ができたじゃん』


 この世界は、多分とっても広い。

ボクの長いか短いか不明な虫生じゃあ、その隅々までを見て歩くことは無理だろうけど……妖精のピーちゃんならきっとできるハズ。

異世界温泉探訪か……いいな!いいな!


『やっぱり人と旅するのは素敵ね!どんどんやりたいことが増えていくもの!』


「そうさ、人生ってのはそれの連続さね。死ぬまでに、山ほどの楽しい思い出を抱えて行くのさ……それが、一番いい人生だろうよ」


 カマラさんいいこと言う~!

これが人生経験ってやーつか!


 ピーちゃんは全方位と個別念話を切り替えられるから、念話でみんなと話すこともできるんだよね。

アカはまだボクとしかできないけど、きっといつかは出来るようになるハズ!


「ワダスもやりたいこどは山積みでやんす!だども、ここにいるのは全部ムーク様のお陰でやんす!ムーク様のお陰で、見聞を広めるこどができやんした~!」


「急ニ褒メナイデヨ!嬉シスギテ爆発シタラドウスンノサ!」 


 ノーモーションでヨイショするのはやめろください!


「アンタら、本当にいい仲間だねえ……そのままずうっと仲良くしてな。金じゃあ買えないよ、そういうのはさ」


 カマラさんはそう言って、ちょっとだけ切なそうに笑うのだった。

……以前から思ってたけど、この人の過去には何があったんだろ。

時々、ふっと寂しそうな顔するんだよね……家族とか親戚とか、いないのかな?


『カマラさんもとってもいいお友達よ!とってもね!』


「ふふふ、アタシもこの歳になって妖精の友達ができるとは思わなかったよ。ありがとうねえ……おっと、赤い看板だ」


 ほんとだ、今までのポールよりも高いやつに赤い板が括りつけられてる。

なんじゃろこれ。


「頂上の砦が近いよ。今回はうまいこと魔物避けが作用したね……さあ、もう少しだよ。皆頑張んな」


「ハーイ!」


「温泉のお陰で楽な道行でやんした……だども、気は抜かねえのす~!」


『ムークさんのおかげであったかいわ!』


 よっしゃ!最後のひと頑張りじゃ~!

いっくぞ~!!



・・☆・・



「おお、ラーガリからの登山者か。職業は?」


 それからしばらく歩き続けると、視界に黒くて大きい影が見えた。

近付いていくと……それがとっても大きい城門だって気付いた。

左右を岩の塊に挟まれた城門だ。


「アタシは商人、連れは護衛の冒険者さ。トルゴーンまで知り合いに会いに行くんだよ」


 ラガランの兵隊さんとは違い、モコモコのコートを着込んで槍を持った兵士さん。

フードのせいでどんな獣人かわからないその人と、カマラさんが話している。


「商人?荷はなんだ?」


「これ、タリスマンさ。安くしとくよ、一つどうだい?」


 カマラさんが懐から一つ取り出した。


「ほお~……よさそうだ。だがここでの商売はやめてくれよ婆さん、中で商売するなら止めないし買いに行くがね」


 壮年?っぽい兵隊さんが苦笑いの雰囲気。


「それで連れは……虫人と、アルマードか。随分立派な武器だが、中で振り回すなよ」


「ハイ、ソレハモウ。アア、ソレト……」


 マントの首もとがモソモソ動いて……


「こにちわ!」「チュチュン!」


 妖精2人が顔を出した。


「なるほど妖精ね……妖精!? こ、こいつはたまげた……」


 あ、フードの奥の顔が見えた!

……ミニチュアじゃないシュナウザー?さんだ!

眉毛がモフモフだ~!


「妖精が懐いてるなら問題はないな……寒い所ですまんかったな、入ってくれ! 宿は何軒かあるが、どこもいい所だぞ!」


「あいよ、ありがとうね」


 妖精の信頼感ってすごいな……


『基本的に、妖精は邪な気配や人を察知すると言いますからね……むっくんはいい虫ですが顔がこわ……迫力があるので、アカちゃんたちを見れば安心するのでしょう』


 コワイって言った!

まあ、否定はしない!!


「何してんだい、とっとと入るよ」


 あああ!カマラさん!待って~!!



・・☆・・



「ウマウマ」


「んめめなっす!」


 うーん、この串焼き味が濃くて美味しい!

何のお肉かわかんないけど!


「あむあむ、おいし、おいし!」


『美味しいわ!とっても美味しいわ!』


 妖精にも大人気!


「よく食うねえ……若いってのはいいねえ」


 カマラさんは苦笑いしながらスープを啜っている。


「いやあ~!妖精に褒めてもらえたなんて、今度から看板に書かなくちゃなあ!ホレこれも食いな食いな!」


 ボクらのお昼ご飯である串焼きとスープを売っていた屋台の店長さんが、嬉しそうにガハハと笑っている。

モフモフの牛っぽい獣人さんだ。

ドラウドさんを思い出すねえ。


 この砦の街、入って驚いちゃった。

中は南国!とまではいかないけどとっても暖かいだもん。

具体的に言うと、麓のラガランよりもちょっと寒いかな~?くらい!

カマラさんが教えてくれたけど、そういう特殊な結界を張ってるんだって!

魔法ってすごいな~。


 ちなみに中は石造りのとっても頑丈そうな街でした!

クラッサさんがちょっとした街になってるって教えてくれてはいたけど、ちょっとした所じゃないよ!

まあ、さすがにガラハリよりはこじんまりしてるけどね~。

あそこと比べたら、どこの街も基本的に小規模ですよ。


「おじちゃ、ありあと、ありあと~!」


「いいんだよいいんだよ、腹いっぱい食いな!」


 ウチのアカはちゃんとお礼が言えてえらいね~。


 さーて、ボクももう1本食べ……あら?

通りの向こうから歩いてくるのって……エルフさんの一団だ!

みんな揃いの制服っぽいものを着てるなあ、なんだろ。


「おや、アレは【ジェマ】の研究者だねえ。相変わらず揃いの衣装だこと」


 へえ~、そんなに有名なんだ。

確かに、兵士とは違った雰囲気。


『あら、エルフさんね!いつ見ても美男美女!』


 ボクの肩で器用に串焼きを食べていたピーちゃんが、チュンと鳴いた。


 

 ――その瞬間、一団の中にいた1人がこっちをギュン!!って感じで見た。



 目が!目がコワイ!!

無茶苦茶見られてる!?


 そして、その人……額飾りをしてるからたぶん女性……は、周囲の仲間を押しのけるようにして前に出て、ダッシュで走って来た!?

わ、わわわ!?ま、まさか……いつぞやの白騎士みたいな妖精絶対守るマン!?

いやウーマン!?


『意外と余裕がありますね……さすがに他国の街中で魔法乱射はないでしょうが、用心を』


 は、はい!


『あら~?』


 不思議そうにしているピーちゃんの目前に、あっという間にそのエルフさんは来た。

相当急いでいたようで、肩でゼーハー息をしている……目がやっぱり怖い!!


「ア、アノ、コノ子ハ……」


 ボクが言葉をかけたその時だった。


「じゃじゃじゃ!?」


 ロロンもビックリするよね。

だってそのエルフさん、いきなり号泣したんだもん。

正確にはダバーッ!! って感じで涙だけ流してる!コレはコレでコワイ!コワイ!!


「っぴ」


 エルフさんは、震えまくった声でそう言った。

……ぴ?


「ピー、ちゃん……?」


 えっ!?この人なんでピーちゃんの名前を!?


『あら~……?あらあら~?……あらあら!アナタひょっとして……アルちゃん!?』


「っぴ、ピーちゃん!!ぴーちゃああああああああああああああああああああああああああっ!!」


 ウワーッ!?

もっと泣き出した!どうすんのこれ!!

後ろのエルフさんたちも半分パニックですわよ!?

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