第143話 寒気到来ってやーつ? 違うか!
「おやびん、かおちめたい!ちめたい!」
「ネー、チメタイネエ」
辺りは一面の銀世界。
マントの首元から顔を出すアカのほっぺたが真っ赤だ。
『寒いわ!寒いわ!セキユストーブが懐かしいわ!でもムークさんも同じくらいあったかいわ!』
その反対側から首を出し、ピーちゃんがチュチュンと可愛らしく鳴いた。
朝ご飯を食べて火の始末をして、小屋を出てから……ちょっと上り始めると気温が下がり、あれよあれよという間に雪が増えてきた。
いきなり雪山にならないでよ……異世界、コワイ。
「ロロン、大丈夫?」
「もももふぁふぁ、ももも」
後ろを振り向くと、防寒具でモッコモコになったロロンが何か言ってる。
ううん、目は元気だから……たぶん大丈夫って言ったんだろうねえ。
「ロロンちゃんは砂漠の出だからねえ、向こうの夜も冷えるけどさすがに雪山には勝てないだろうからねえ」
ボクの横を歩くカマラさんは、いつもと変わらない軽装だ。
フードは下ろしてるけど。
タリスマンのお陰でコレで大丈夫なんだってさ、いいなあ。
「ロロンノ作ッテクレタ防寒具、ムッチャ暖カイヨ。アリガトネエ」
「もふぁふぁふぁ……ももも……」
あ、なんか照れてる気がする。
ボクの防寒着は、ロロンが猪の毛皮をチクチクして作ってくれた逸品です。
戦い方の都合上、手足は露出しております。
手足まで覆う形にしたらパイルの度にビリビリになっちゃうからねえ。
だから、マントの下にポンチョ的な感じで羽織って、後は短パンとシャツみたいなのを着てる。
思えば、転生してから初めて服っぽいものを着てるよね……なんか感動!
『全裸虫卒業ですね……感慨深いです』
ボクも!ボクも~!
あ、ちなみに手足は鎧みたいなもんなんで寒さはあんまり感じません。
よかった、凍傷にならずに済みそうだ。
「ムークちゃんの足、滑らなそうでいいねえ」
ちょっとだけパイルを展開してるから、なんか……カンダタ?みたいでいいよね。
『か~ん~じ~き~』
トモさんペディア助かるなあ。
「さ、明るいうちに8合目の休憩所まで行くよ。急ぎ過ぎず、バテないことを心がけて歩きな」
「あいっ!」「ピピヨピヨ」
「もももも」
「ハーイ」
さーて、頑張って歩くぞぉ。
・・☆・・
『正面!1体!』
了解ッ!モコモコ動く雪の塊に――パイル発射!!
「gggbbbbbaaaaaaaaaaaaaaa!?!?」
射出した棘が空気を切り裂き、雪の塊に着弾。
紫色の汁を噴出させ、雪から中身が出てくる。
「オウッ――」
びくびく痙攣する、むっさ肢の多い長い影!
ソイツに飛び掛かって――
「――リャアッ!!」
黒棍棒ッ!フルスイング!!
「ggggggggggggg!?!?!?」
謎加速をした黒棍棒が、長い影……ボクよりも大きなバカデカムカデにめり込んで、その装甲を砕いてめり込む。
棘で大穴が空いてたそいつは、黒棍棒の一撃でブチリともげた。
よし、これで……ムッチャ元気!キショい!!
「ヒギャア!?」
地面に落下してなお、ボクに飛び掛かろうと歯をカチカチしてたムカデ。
それに踵を叩き込んで、パイルオン!
棘が顔面を貫いて、やっとムカデは動きを止めた……ひいい、ビックリした。
地球のムカデも生命力すごかったらしいけど、異世界じゃ段違いだよ。
あ、トモさん他には?
『待ってください、今最後の1体が――』
「ふんもっふ~!!」
刃先を土の刃で延長させたロロンの槍が、地面から飛び出したムカデの頭をちょうど斬り落とした。
気の抜けるカワイイ掛け声だけど、雪の上でもいつも通りの技の冴えだ。
雪山ブーツを履いたロロンがぽふり、と着地。
ムカデは胴体からビシャビシャ体液を噴き出して、沈黙。
ふう……これで終わり、か。
イワモドキだっけ?こんなに雪が深くても出るんだねえ。
岩もクソもないや。
いきなり雪がモコモコー!って襲い掛かってきたから何事かと思ったよ。
ともあれ、これで襲って来たひいふう……6体は全部死んだね。
トモさんトモさん、どう見ても美味しくなさそうだけどアレ食べれる?
『体液に麻痺毒が含まれますね。食べても解毒の分で寿命はトントンです』
じゃあいらなーい!
「はいよ、ご苦労さん……綺麗に倒したねえ、イワモドキの牙は売れるから取っとくといいよ」
後方で待機していたカマラさんが合流してきた。
なんかのタリスマンの力なんだろうね、雪に溶け込んでるみたいで全然認識できなかったよ。
むしんちゅの黒子さんたちを思い出したねえ。
「おわた~!しゃむい!しゃむーい!」
雷撃魔法でムカデ2匹を黒焦げにしたアカが飛んできて、そのまま首元にスポンと入った。
ツメタイ!!
まあでも、親分なので我慢我慢……!
『おかえり!おかえり!お疲れ様!』
「たろいま~」
アカも全身に防寒具を着てるけど、寒いものは寒いらしい。
ピーちゃんに抱き着いてキャッキャしている。
ピーちゃんはボクのマントがえらく気に入ったのか、全然出てこない。
あの光玉モードなら寒さもへっちゃららしいけど、むっさ疲れるんだって。
「もんも、もももも」
防寒具の化身みたいになってるけど、テキパキとムカデの歯を捥いでいくロロン。
おっととと、ボクもやんなきゃ……ズボッとな!
でっか……ナイフくらいでっか……こんなのに噛まれたら痛いじゃ済まないよ。
「甲殻ハイインデスカ?」
殴った感じじゃ結構硬かったけども。
「死んでしばらくしたらグニャグニャになんのさ。一文にもなりゃしないよ、肉も毒があって食えないし……割りに合わない魔物さね」
ほんそれ。
なんてはた迷惑な魔物なのだ。
もうちょっと空気を読んで全身美味しい!とかに進化しておくれ。
『【ビショクドリ】という鳥型の魔物がいましたが、全身がおいしすぎたので案の定絶滅しました』
そりゃあ、そうなるか~……
「すひゃ……すひゃあ……」
『アカちゃんは良く眠るわ!きっとすぐに大きくなるわね!』
ムカデの解体を終え、ひたすら歩き続ける。
雪まみれで登山道なんかどこにあるかわかんないけど……大昔の人が鉄のポールみたいなものを等間隔で立ててくれてるので助かる。
これにそって歩けば、とりあえず滑落!とか墜落!は避けられる。
『早くトルゴーンに行きたいわ!寒い所は好きじゃないわ!』
『ボクもボクも。トルゴーンもそうだけどさ、あったかいお風呂に入って眠りたいよ』
風が強くなってきて、大声を出さないと意思疎通できないけど……ピーちゃんがいればこの通り。ボクにも念話スキル生えないかな。
『ねえねえピーちゃん、トルゴーンの首都に行って、家を見たらどうするの?』
『まだ考えてないわ!見てから決めるわ!』
ふむふむ。
『そういえばさ、妖精さんって家とかあるんかな?』
『おチビさんたちはその日の気分で決めてるわ!お家をもってる方もいらっしゃるけど……少数ね!』
その言い方……ラーヤ以外にもお偉いさんがいるんだねえ。
いつか会えたらいいな、その人たちにも。
『ムークさんみたいな虫の妖精さんは少ないけどいるわ!私も一回お会いしたけど、楽しい方だったわ!』
『いるんだ……虫のお偉いさま……』
そりゃ、セキセイインコの妖精がいるんだから虫の妖精もいるんだろうね。
その人にもいつか会えるかな~……
『――レオクルスですか、アレは良い虫ですよ。なんならこの場に引き立てて来ますが……』
結構です!結構です!!
じぶ、自分で頑張りますので!そのお気持ちだけ!
『欲のない虫ですね。そこも好感が持てますが……む、なんですムロシャフト?なに?会議?はぁあ~……大したことのない議題なら立案者を捻り潰しますからね……』
恐ろしいことを言いながら、ヴェルママの気配が消えた。
……なんか、一回もお喋りしたことないけど……ムロシャフト様って苦労人なんじゃないかな……
『私からはそれに関して一切の発言をしませんので』
もうそれ言ってるようなもんじゃん、トモさん……
『ムークさん、急に黙ってどうしたの?寒い?』
『……うん、寒い。早くお風呂に入りたいねえ』
心配そうに首もとをつついてきたピーちゃんにそう答え、カワイイ頭をそっと撫でた。
・・☆・・
「ナンジャコリャ!スゴイ!!」
若干のトラブル……トラブル?がありつつも、ボクたちは8合目の休憩所に到着した。
そこには……雪がない!岩肌がむき出し!
なんでかって言うと……
「ろてんぶろ!ろてんぶろ~!」
アカが盛大に謎ダンスをしているように、5合目にあったような石造りの小屋の近くに……湯気を上げる露天風呂の姿が!
っていうか、10軒くらいの小屋が温泉を囲うように建ててある!すごー!
地球のリゾート地みたいだ!
「コイツはついてるね。5合目と同じで滞在者はいないみたいだ……今晩は広い広い風呂を独り占めできるよ!」
「んだなっす~!」
カマラさんと、顔の防寒具をやっと外せたロロンのテンションが高い!
貸し切り露天風呂!貸し切り露天風呂だっ!!
『ハコネみたいね!行ったことないけど!』
ピーちゃんも兜の上で小躍りしている。
温泉大好きパーティだもんね、仕方ないねっ!
『勿論男女別ですね……残念ですか?』
ぜーんぜんっ!!