第142話 寒くなってきたけど、ある意味ポカポカ。
昔話が涙腺にダイレクトアタックし、スンスン泣いちゃったロロン。
そんな彼女をおんぶして歩き続け……カマラさんの言っていた、5合目の休憩所に着いた。
どんなもんかと思っていたけど、到着したそこには石で組まれたちょっとした小屋が……いくつもあった。
てっきり野ざらしで寝ることになると覚悟していたけど、これはよかった!
「む、ムーク様ぁ……おもさげさがんすぅ……」
あらら、ロロンが無茶苦茶気にしてる。
気にしなくていいのになあ、背中があったかくてむしろ楽だったよ。
ロロンって軽いしさ。
……と、口に出さないだけのデリカシーはボクにもあるのだ。
トモさんにも日々言われてるしね!
『10を教えて1を知るような有様ですけども』
ゴメンナサイ!色々察しが悪い虫で!
どうか見捨てないで!!
『あらまあ、どうしましょう?』
トモさんがちょっと意地悪!意地悪!!
「……ロロン、ボクハ親分デスヨ?親分ガ……カワイイカワイイ子分ヲ助ケルノハ当タリ前!」
「ふえっ」
「タダデサエロロンニハ、イツモイツモ助ケテモラッテルシネ……ソウ、コレハ親分ノ面目躍如ナンデスダヨ!」
「じゃ、じゃじゃじゃ……」
と、力説したらなんかロロンは納得してくれたようだ!
一切こっち見ないけども……なんでぇ?
ふふふ、しかしボクの説得スキルも捨てたもんじゃない……アカ、どしたん?
「む~」
「……ナァニ?」
「むむ~……!」
むっちゃ膨れてるやんか。
これはいったい……
『はぁああああああああああ~~~~~~~~~……これだから朴念虫は……アカちゃんは、自分も可愛いと言って欲しいのですよ』
クソデカ溜息からのアドバイスとっても助かる!!
「アカモカワイイカワイイカワイイ子分ダヨ!ホ~ラ、カワイイカワイイネェ~?」
アカの膨らんだほっぺたをつつきつつ、そっと両手で抱きしめて横回転!
「きゃーははは!あは!あははは~!!」
焼餅焼きのカワイイ子分は、あっという間に機嫌を直した。
フフフ……ちょろカワイイ!
「アンタら何やってんだい、掃除の手伝いしな」
「ハーイ!!」
ジト目のカマラさんに怒られた!
いかん!泊まる所の掃除!掃除!
・・☆・・
「ああ、このケマはいい味だねえ」
『美味しいわ!とっても美味しいわ!ロロンちゃんはお料理屋さんをやってもよさそうね!』
「じゃじゃじゃ……ワダスなんぞまだまだでやんす……」
ロロンは照れてるけど、本当に美味しいよこのケマ。
「ソレニシテモ、シッカリシタ建物デスネエ」
ふう、やっと一息ついた。
掃除と言っても土埃を外に出してテーブルを拭いただけだけどね~。
天井を見上げる。
魔石で稼働するランプに照らされる内壁は、隙間がないほどきっちりくみ上げられている。
小屋の広さも、ええと……20は言い過ぎだけど、優に10畳はある。
流石にベッドはないけれど、部屋の3分の1はちょっと高い床。
竈もテーブルもあるし、なにより煙突付きの暖炉まで!
なかなかのデラックスぶりだ。
「この山は何十年かに一度、とんでもない寒波が来るからね。その時はここまで雪に埋まっちまうから、それへの備えさ……ラガランが定期的に補修してるよ」
「ハエ~……ナルホド」
ここまで雪が……そりゃあ大変だ。
たしかにそうなったら凍死しちゃうね。
「明日以降に到着する場所にも同じような小屋があるよ。ソレのお陰で、この前の巡礼みたいな大勢の旅行者も大丈夫なのさ」
なんとも、凄いなあ。
この世界でこれだけの規模の休憩所を作るなんてねえ。
「ロロンちゃんが泣いちゃった昔話、あの時代に一気に作られたらしいんだよ。その頃からここは交通の要所だったからねえ」
「はわわわ……」
ああっ!ロロンが真っ赤に!!
……そういえば、ガラハリで見せてもらった地図でもミレドン山脈は険しい所だった。
その中で、ここらあたりだけが緩やかな書かれ方だったんだよねえ。
他にも登山道はいくつかあったけど、やっぱりここが一番楽みたいだし。
「おやびん、ここ、おふろない、ない?」
ケマをふうふうしつつ飲んでいたアカが聞いてきた。
流石にないと思う……この小屋に入る前に見てないし。
「ナイネエ、残念ダネエ」
「ざんねん、ざんねーん!」
アカもすっかりお風呂好きになったもんだ。
嫌いな人を探す方が難しいけども。
「アカちゃん、ここにはないけどね。これよりもっと上には温泉が湧いてるよ。ラガランで露天風呂に行ったろ?それと同じようなもんさね」
「おんせん!おんせん!わはーい!」
おお、よっぽど嬉しかったのかアカの謎ダンスが激しい。
そっかあ、温泉が湧いてるんだ。
麓もそうだし、ここって温泉スポットなんだね。
どういう仕組みになってるんだろう……魔力とかあるし、地球の常識は通用しない場所なんだなあ。
「さて……明日からは寒くなるからね、全員防寒具をしっかり着込むんだよ……ピーちゃんは大丈夫かい?」
『こうなれば大丈夫だし、ムークさんのマントに入ってるわ!とってもあったかいのよ!』
ピーちゃんは一瞬光玉状態になった。
ふむふむ、それならいつもはマントに入っててもらって……魔物が出たら安全な場所で光玉ピーちゃんになっててもらおうかな。
「そうかい、ソイツは安心だね。おっと……ここは夜近くになると冷え始めるから、今のうちに暖炉に火を入れた方がいいね」
今はまだ明るいというか、夕方前くらいだね。
そっか、ここでも夜は冷えるんだ。
「薪は用意したんだよね?」
「ハイ、ココニ」
バッグから細かく切った木を取り出す。
チェーンソーの試運転も兼ねて、旅をしながら結構切ってたんだよね。
バッグに放り込んでおくと時間経過で乾燥するし、いいことづくめ。
あと、コレで木を切るとアカが喜ぶしウィンウィンだ。
「へえ、用意がいいね。アタシも一応持っているけど……待ちな待ちな、出し過ぎだよ、あんた浴場の湯でも沸かす気かい」
「チョット切リスギマシタ……ヘヘヘ」
結構面白いんだよ、右手チェーンソーで木を切るのって。
最初は何回か倒れる木に巻き込まれてエライことになったけど、もう慣れた。
芋虫時代なら死んでたかもね……
「ムーク様は用意がいいのす!ホントに助かりやんす~!」
「……ロロンちゃん、いくら親分だからって甘やかすんじゃないよ。アタシにはわかる、ムークちゃんはたまに引き締めないとずうっと調子に乗る手合いだってね」
よくわかっていらっしゃる!!
カマラさんの察しはすごくいい!!
『カマラさんの気配りがいいのは同意ですが、むっくんに関してはそこら辺の子供でも容易に想像できます。わかりやすすぎるので、あなたは』
ギャフン。
と、とりあえず暖炉に火を入れましょうね~……
・・☆・・
「おやびん、あったか、あったか~」
「アッタカイネエ」
カマラさんが言ったように、日が落ちると途端に冷え込んできた。
思えばこんなに寒いのって、転生してから初かも。
今まであんまり寒いと思わなかったんだよね~、それどころじゃなくて。
あと、今って春先らしいし。
「ピーちゃ、ぬくぬく~……」
『アカちゃんも中々のものよ……』
アカは暖炉の近くで、暖かさを全身に感じながらピーちゃんに抱き着いている。
ピーちゃんの方もあったかそうだね……和む和む。
「明日からが本番さね。木も少なくなるし、雪もあるからね……勿論魔物も今までより出るよ」
「じゃじゃじゃ、餌ば少なそうでやんすが、それでも出るのす?」
たしかに、森林限界?とやらのあたりに潤沢に餌がいるとも思えない。
「普通の山じゃあそうだろうけどね。ここいらはちょっと特殊でね……お湯の川が流れてる所があるのさ。そこには人には食えないけど魚や動物がいてね……それ目当ての魔物が多いんだよ」
お湯の川!
流石は温泉が湧いてる山だ。
って、人には食べられない魚や動物……?
「人が入れないくらい高濃度の魔素が沁み込んだ川なのさ。そこに住んでる奴らも、食ったら腹の中から溶けるよ」
「ヒエッ……」
『生物濃縮、というやつですね。地球では自然毒や産業廃棄物で起こりますが……ここでは魔素を凝縮するようです』
……ちなみにボクだと?
『むっくん、アカちゃん、ピーちゃんは問題なく食べられるでしょう。あなた方は魔力をエネルギーに変換できますので』
ほほーう。
それなら魚の1匹でも齧っておこうかね……余裕があれば。
『やめておく方がいいでしょう、その魚は【チギリウオ】という肉食性の魔物です。体は殆どが骨のような物質でできていて、しかも攻撃性が極めて高いのです。まあ、どうしてもと言うのなら止めはしませんが』
やめておこう!なんか絶対おいしくないと思うから!!
『賢明虫ですね』
愚か虫にはなりたくないもんね……
「あれあれ、焦げちまうよアカちゃん。あら、2人とも寝ちまったのかい」
「んゆう……すひゃあ……」『私も今日はこれくらいで寝るわ……寝るわ……』
カマラさんが小さめの毛布でアカとピーちゃんを包む。
それを優しく抱えると、膝の上に置いた。
「あったかいねえ……妖精ってのはさ」
色々と底が知れないおばあさんだけど、こうして見ると優しくていい人だねえ。
何べんも言うけど、ボクの対人運は本当に恵まれてるなあ。
……一部の!クソ人間!以外!
そういえば【ロストラッド】に行っちゃったあの人、元気にしてるかなあ。
出会い方が最悪だったけど……普通にこのあたりで生まれてれば友達になれたかもしれないねえ。
なんとも、ままならないもんだね。
「ムーク様、どうかなされやんしたか?」
「ンニャ、ナンデモナイ。ロロント出会エテヨカッタナッテ思ッテタノ」
「じゃ、じゃじゃじゃ……!」
あらら、ロロンったら暖炉より顔が赤いや。
ふふ、カワイイ。
「お熱いことでいいねえ。この熱さで今晩はよく眠れそうだよ」
カマラさんは、アカたちを抱えたままヒヒヒと笑うのだった。