第140話 露天風呂!露天風呂ォ!!
「お、アンタ前にも……っていうか昨日も見たな?」
「アッハイ」
ああ、お湯が気持ちいい……
なんかこう、体の中からジワジワ温まるというかなんというか……
「よっぽどこの浴場が気に入ったんだな?毎日来るなんて相当だねえ、まあワシもなんだが、ガハハ!」
「エヘヘ……本当ニ気持チイイデスカラ、ココ」
ラガランの浴場。
今日も今日とてオフなので、昼間からお湯に浸かっている。
うーん、幸せ。
宿で貰った木札があればお安く入り放題なの、最高。
「お、良い趣味してんじゃねえか……ところで兄ちゃんは、ここからどこまで行くんだい?」
「ア、トルゴーンノ【ジェストマ】マデ」
さっきから話しかけてくるのは、この前にも会った羊のおじさん。
毛量が多いけど、湯に浸かっている今は大分しぼんでいる。
なんだかこの世界、毎日お風呂に入るのは相当の物好き扱いらしい。
みなさん週に1回とかそこら辺が普通らしいね。
逆に、頻繁に汚れたり血塗れになったりする冒険者や傭兵さんはよく入るみたいだけど。
あと工事関係者?とか、
「ジェストマ!これまた遠くまで行くんだなあ……ワシも若い頃行ったが、中々いい街だったよ。虫人が多いのは勿論なんだが、エルフも多くてなあ……あそこで一生分のエルフを見たぜ」
へえ、エルフ!
エルフさんって森の中にしかいないと思ってた。
『昔ながらのエルフ種や、王族はそうでしょうね。それ以外の一般エルフは結構外界で生活していますよ』
そうなんだ!
『元来エルフ種は好奇心が旺盛で研究者気質の者が多いのです。旅行気分で外の世界に出る方もいらっしゃるとか……ただ、その旅行のスパンが100~200年くらいですが』
長生きの種族ってすごいなあ。
『おひいさまだってそうだったでしょう?』
そういえばそうだったね……元気にしてるのかな、おひいさま。
また会えるように、おひいさまフィギュアに一層お祈りしないとね~!
最近はロロンから貰ったいい匂いの油で磨いてるから、なんか仏像みたいな凄みを帯びてきたんだけど。
「おうにいちゃん、それならここを離れる前に……いい場所を教えてやろう」
「イイ場所?」
おじいさん、なんかいやらしい顔をしてるけど……大人の遊園地かな?
申し訳ないけど目下性別不詳虫なので……そしてまだ乳児なので……
「露天風呂って、聞いたことあるかい?」
……なんぞ?
・・☆・・
「おっふろ!おふ~ろ~!」
いつでもどこでも元気なアカが、今日も元気に飛んでいる。
『ロテンブロ!さっちゃんとテレビで見たわ!楽しみね!』
ピーちゃんも元気だ。
アカと一緒にボクの周囲を旋回している。
「露天風呂だなんて、初めて見るでやんす!水が多い土地はえがんすな~!」
ロロンもワクワク顔だ。
そっか、砂漠には露天風呂とかないもんねえ。
現在、ボクたち一行はラガランからちょっと離れた山際にいる。
あの浴場で出会ったおじいさんに教えてもらったんだよね。
『ラガランから山に沿って歩くと南側に、温泉が湧いている場所がある』ってね。
あの浴場はそこの地下からお湯を引いているんだって!
いっぱい露天風呂がある区画らしいし、これはお風呂好き虫としては放っておけないね!
『字面から想定されるのは露天風呂に浮いて死んでいる虫ですね、ソレ』
やめておくんなまし!!
と、とにかく。
それなりに歩いてきたから、そろそろ目的地のはずなんだけども……ムムム。
「おやびん、もくもく、もくもく~!」
アカが兜に着地して指差す方向……おお、木々の上に白煙が見えーる!
目指す露天風呂はあそこかな?
「ヨーシ、ミンナ行コウ!」
このまま林を突っ切って行った方が早いよね~……ムムムー!
――左手パイル、2連発射ァ!
「ギャン!?」「ッギ!?」
今まさに、林からこんにちはした結晶狼くんが物言わぬ死体にクラスチェンジした。
『あら、いい集中力ですね。温泉を前に浮かれてるかと思っていましたが……トモさんポイント、付与しておきますね』
わーい!
フフフ、ボクも日々進化してるんですよトモさん……!
「じゃじゃじゃ!」
おお、ロロン。
キミも今回ばかりはボクをほめちぎってもいいのよ~?
「ムーク様ぁ!左腕が割れておりやんす!すぐに手当をば!」
なんじゃと!?
ああっ! 魔力込め過ぎて腕の装甲がバッキバキに!?
『締まりませんねえ……哀れなのでポイントの方は2割増しにしておきましょうか』
わ、わ~い……?
・・☆・・
「オオオ……!」
若干のトラブルはあったけど林を抜けた。
抜けたそこには……
「おふろ!おふろいっぱい、いっぱ~い!」
『豪快ね!豪快だわ!!』
林地帯が終わり、ゴツゴツしている地面が目立ち……その向こうには湯気を上げる、大小の露天風呂が乱立している区画があった!!
すっご~い!地球の温泉地みたいだ!
でも硫黄の臭いはしないね……地球の温泉とはまた違う成分なのかしら?
街のお風呂もおんなじ感じだったし。
「結構、利用者ガイルミタイ」
湯気を上げる露天風呂のいくつかに、簡単な木製の脱衣所的なモノが見える。
その他、なんというか衝立?みたいののも。
よかった、アレならロロンも問題なく入れるねえ。
『あら、ここは混浴とはなさらないんですか?』
なさりませんよ!
こんな明るいうちから……いや!暗くなってもノウゥ!!
まったくもう……何故トモさんはボクを山田さんルートに連行しようとするのか……
ボクは大勢の奥さんも国もいりませんよ……
まあいいや!
さて温泉、温泉じゃ~!
「コレハイイ……」「いいおゆ!おゆ~!」『あったまるわ!この世界で温泉に入れるなんて!』
ちょっと濁ってるけど、サラサラな感じのお湯だ。
街のお風呂よりいい気がする!
これがプロテクト効果ってやつかな~?
『プラシーボ効果……』
そうそれ!
「あっちいく~!」
ボクの前でお湯に浸かっていたアカが、飛び上がって衝立の向こうへ。
元気だね~。
「ロロン、いいおゆ?いいおゆ~?」
「はわぁ……天国でやんすゥ……」
向こうからロロンのとろけきった声が聞こえてくる。
『ピーちゃんはいいの?行かなくて』
そう念話で聞くと、翼を広げてクチバシ以外全部温泉に潜っているピーちゃんから返事。
『ムークさんが独りぼっちになっちゃうからこっちでいいわ!』
なんだこの優しいセキセイインコさん……
あと、それおぼれない?
小鳥の死体みたいになってるけど……妖精だからいいのか?
『まあそれもあるけど、日本のお話がしたいのよね!』
『あ、なるほど』
アカはともかく、ロロンがいたらできないしねえ。
『でもさ、前に言ったかもしんないけどボクって記憶ないんだよ。概念だけはわかるけども』
『いいのいいの!私がいた時とどう変わったか知りたいのよ! えっと、アレ!リニアモーターカーってもう走ってるの~?』
よく覚えてるね……この世界で大体何百年も生きてるのに。
『あー、実験はしてて、もう走れる……のかな?でも工事が長引いてるんだったかなあ?』
『あら素敵!本当にできたのね!他にはなにかこう、すごい発明とかあったのかしら?』
『むーん……色々あるよ。例えばテレビなんか凄いよ、薄くなって壁にかけられるし、大きいしさ』
『まー!あら、でもそれだとガチャガチャ?を回すの大変ねえ』
『あ、ソレなくなったの。リモコンっていうのでさ、結構離れててもチャンネル変えられるんだよ』
『まーっ!すごいわ!すごいわ!!』
これまでの会話から、ピーちゃんとさっちゃんさんは昭和の年代からこっちへ来たみたいだね。
東京タワーとか、万博の話とかしてたから……昭和40年代くらい、かな?
テレビに直接リモコン付いてたみたいだし。
……今更だけどボク結構概念知ってるなあ。
『たぶんだけど、ボクはピーちゃんよりも60年くらい先の未来から来たみたいだねえ』
『60年!私が普通のインコだったら、ムークさんとは向こうでも会えなかったわね!なんだかとっても不思議だわ、不思議!』
本当にねえ。
人生、何がどうなるかわかんないもんだ。
今は虫生だけども。
『さっちゃんと一緒に、よくテレビを見ていたの!特にさっちゃんはあのアニメ?っていうのが好きでね……〇〇〇さんってやつ!』
海産物の一家が出てくるやーつか!
『あーそれ今も放送してたよ、たぶん』
『今もォ!?すごいわ!すごいわ!!』
それはボクも凄いって思う。
『他には!?他にはないの~!?』
『むむーん、未来的なモノ……ああ、そうだ。新幹線ってあった?今もあるんだけどさ……東京から大阪までだいたい3時間ってとこ』
『まーっ!?凄いわ!凄いわ!』
『あとね、電話が手に持てるくらい小さくなって……しかもテレビも付いてる』
『まーっ!?』
そんな風に、ボクはピーちゃんと日本の話で盛り上がった。
……無言なので、ロロンがボクらがぶっ倒れてるんじゃないかって心配してアカを派遣してきたけどねえ。
念話は流暢に喋れるから楽だけど、こういう時には困る。
「ぬくぬく~、おやびん、ぬくぬく~」
「アカモネ、ヌクヌク」
湯上りにホコホコしたアカを肩に乗せながら、そんな風に思うのだった。