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第137話 鳥の人もとい空の人!!


「おやびん、とり!おっきいとり~!」


「ホントダネエ、大キイネエ」


 雨宿りから2日後。

ボクらはすっかり晴れ渡った空の下で旅を続けている。

昨日は道がぬかるんでてちょっと大変だったけど、最終的に小川の横の野営地で体も洗うことができた。

ボクとアカ、それにピーちゃんはお風呂に入る必要はないけども……ロロンとカマラさんは違うからね。

しかも2人とも女性だし。

カマラさんなんか、『野外お風呂セット』的なモノまで持ってて凄かった。

さっそく大きな街に行ったら買おう、そうしよう。

お風呂に入らなくてもいいだけで、入りたくないってわけじゃないもんねボクも。


 ともあれ、朝ご飯をしっかり食べてから移動を開始。

街道に沿ってぽてぽて歩き続けて……もうすぐお昼って感じかな。

カマラさんの魔物避けのお陰か、ここ数日は本当に平和で素晴らしい。


「おっきいね、ロロン!」


「んだなっす~……じゃじゃじゃ?」


 アカを頭に乗せて空を見上げていたロロンが、変な声を出した。

なになに、なんかあったの?

ボクも見てみよ……うお眩し。


 う~ん……特にコレと言って変な所がない鳥が見える。

かなり高い所を飛んでるから、種類とかそういうのはわかんないけど……翼の大きい鳥さんだね。


『あらあら、高く飛ぶわね!私も負けてられないわ!』


 謎の対抗心を燃やしたピーちゃんが急上昇。

どこら辺でスイッチが入ったんだ……?


「なんだいみんなして空なんか見上げて……おやおや、なんとまあ」


 ボクらに続いて上を見上げたカマラさんが、驚いたような声を出した。


「珍シイ鳥デス?アレ」


「珍しいけど、アレは鳥じゃないよ」


 え、じゃあ何?

……まさかオオムシクイドリ!?

オノレ虫のカタキ!撃ち落として昼ご飯にしちゃるゥ!!


「やめな馬鹿たれ……アレはね、魔物でも鳥でもないよ」


 胸カバーをガシャン!したら怒られた……

そ、そうなん?

じゃあいったい……ムムム?


 なんかあの鳥……旋回しながら降りてきてない?

ピーちゃんらしき光の玉も一緒にいるね、なんだろ……お、おお?おおお?


「こったら南の地では珍しいのす~!」


「わはーい!!」


 感心したようなロロンの頭からアカが飛び立って、空へ。


 アレは……確かに鳥でも魔物でもない。

近付いてきてわかった。

ボクがでっかい鳥だと思っていたものは……ヒト?だ!

両腕の部分が翼みたいになってる、ヒト!!


 トモさんトモさん!あれも獣人さん!?


『広義的にはそうですが、この世界ではもっぱら亜人と呼ばれていますね。そしてこれは獣人と違ってとってもとっても失礼なカテゴライズなので、言わないようにしましょうね』


 トモさんの置き注意たすかる……じゃあ、なんて言えば怒られないの?


『私の情報によれば、彼らは自らを【空の民】と称しています』


 鳥人とかじゃないんだね~。


『あ、それは虫と虫人。それに獣人とコボルトを同一視するレベルの……』


 未来永劫言わない!言わない!!



・・☆・・



「いや、なんとも驚いたネ。まさか妖精に、それも2人も会うなんてネ」


 ふぁさ、と翼を鳴らしてその人は言った。


『空の人ね!ものすごーく久しぶりに見たわ!よろしくね、私はピーちゃん!』


「これはこれは……鳥の妖精様に名乗っていただけるとは、恐悦至極ネ」


 ごっついゴーグルを上にずらし、その人はくちばしをかちんと鳴らす。


「自分はジャンタナ。【蒼天の谷】のジャンタナですネ」


 見た目は……おっきい!

身長は2メートル半くらいありそう!

胴体にはもさもさの羽毛の他に、しっかり服を着ている。

さっき見たように大きな翼が肩からそのまま生えていて……腕と翼のハイブリッドって感じ。

なんていうのかな、人間でいったら腕の側面が羽になってる!

その腕も、人間のモノより長いけどね。

足は……途中までズボンで、膝あたりから下は素足。

足には立派な鉤爪がある……強そう。


「アカ!アカ!よろしく、よろしくう!」


「はい、よろしくネ。人型の妖精なんか生まれて初めて見るネ~」


 そして、アカが楽しそうにホバリングしている様子を微笑ましく見ているその顔は……鷹!って感じ!

でも、完全に鳥ってわけじゃなくて……人間っぽい要素もあるねえ。

お目目が格好いいなあ。


 全体的な印象としては……アレ!

昔のパイロットみたいな恰好をした鳥の人って感じ!

異世界だなあ……獣人とも虫人とも違う種族だね~!


「アノ、ムークデス。ウチノ子ガゴ迷惑カケマセンデシタカ?」


「ホホーウ、【貫く稲妻】とはいい名ネ。気にしないでいいネ、そろそろ休憩しようと思ってた所ネ」


 ……また偽名に変な由来が!!


『どうも、様々な所の古代言語に似た響きがあるようですね』


 偽名なのになあ~……


「あの、それでしたら一緒にどうでがんすか?ワダスたちもそろそろ昼餉にしようと思っていたのす……あ!【跳ね橋】のロロンと申しやんす!」


「そりゃあいいね。アタシも空の民と話すなんて久しぶりだし……よかったらどうだいあんちゃん。おっと、アタシはカマラだよ」


 そういえばそろそろそんな時間だった。

ボクも興味があるなあ~!

……あんちゃんってことは男の人なんだ、この人。

どこで判断するんかな~?


「お邪魔でないなら、ご一緒させてもらうネ。ラーガリのことも聞きたいしネ」


 ジャンタナさんはそう言って、目を細めてまたくちばしを鳴らした。



・・☆・・ 



「なるほどねえ、【風読み】かいアンタ。立派な仕事だねえ」


「まだ下っ端ですネ。だからここいらを任されているのネ」


 しばし後。

ロロンによってテキパキと用意された昼食を囲み、ジャンタナさんの話を聞いている。

ちなみにメニューはかったいパンと昨日多めに作った黒オークの煮込み。

一晩置くと味が沁みて美味しい……気がする!

だっていっつもおいしいし!!


 ……で、【風読み】ってなんじゃろか。


「【風読み】ってのはそのまま風を読む仕事さ。上空の風向きを調べて、この先の天気やなんかの情報を集めるのさ」


 ?顔だったボクに気付いたのか、カマラさんが補足してくれた。

ああ、つまりは気象予報士さんみたいなお仕事ってこと?


「アノ、下ッ端ダカラッテイウノハ……?」


 そう聞くと、ジャンタナさんはケマを飲んでから一言。


「西方12国の中で、ラーガリは一番風が穏やかで読みやすいのネ。だからそういうことネ」


 ほえ~……なるほど。


「ちなみに一番大変なのは【マデライン】の西方ネ。湖と海のお陰でかなり読みにくいのネ」


「海はねえ……そりゃあそうだろうね」


 色々あるんだなあ。


『ちなみにですが、【風読み】はかなり巨大な組織ですよ。本部は【ジェマ】にあり、西方12国の天気情報を集約しています』


 研究者さんの国!

そんなことまで研究してるのか……すごいや。

黒棍棒くんのこともわかりそうだけど、ボクの体質も速攻でバレそう。

行くのはちょっと怖いかな……


「コノ国ヲ、1人デ?」


「そんなまさかネ。仕事しすぎて死んじゃうネ、他にも何人もいるネ」


 くちばしをカツカツ打ち鳴らし、ジャンタナさんは愉快そうに笑っている。

まあ、そりゃあそうか。


「そうだ……これを」


 カマラさんがローブの中から何か……タリスマンを取り出した。


「寒さに強くなるタリスマンさね。アンタには余計かもしれないが……これでこの先の天気を教えて欲しいんだ」


「ホホーウ、これは……いいネ!どれだけ着込んでも寒いものは寒いのネ。自分はあまり寒いのが得意じゃないから、嬉しいネ!」


 ジャンタナさんはとっても嬉しそうに、早速それを懐にしまい込む。

寒がりさんなんだ……羽毛があるのに。


「これから山越えしてトルゴーン入りなんだよ、最近の山はどうだい?」


「フムムム……山の風は読みにくいからネ。でもこの時期なら例年は穏やかネ‥‥‥このまま真っ直ぐ行くネ?」


「んだなっす!」


 あ、ロロンがお代わりを注いでいる……よく気が付くなあ!


「それなら問題はないと思うネ。ただ、季節の変わり目だと山の上の方では氷嵐が発生するから……あまりラガランで長居をしちゃ駄目ネ」


 国境の街だね、了解。

あんまり滞在もしないでしょ、多分。


「この前、雨降ったネ?しばらくは晴れが続くから、その間にラガランまで行くといいネ」


 おお、この先の天気予報まで。

鳥の……空の人様様ですわ。


「ありがとうねえ。わざわざ悪いね、コレも持っていきな……上は冷えるだろうから」


 カマラさん、今度は小さなガラスボトルを取り出す。

なんだろアレ、ポーション?

飲むとあったかくなるポーションなんてあるんだ。


「少ないけど【ガリル】産の火酒さね」


「ありがたいネ!ちょうど切らしてたネ!」


 ジャンタナさん、むっちゃ喜んでるじゃん。

タリスマンよりも喜んでるじゃん。

っていうか、いいのかな?飲酒運転になるんじゃない?


『その法律、こっちにはまだありませんから』


 そっか~……ならいいのかな?



・・☆・・



「色々貰ったネ、ありがとうネ」


「イエイエ、コチラコソ」


 昼食を食べながら色々話した後。

ジャンタナさんは立ち上がって翼を広げ、ボクたちに頭を下げた。


『アナタの飛び方、とっても綺麗だわ!きっと立派なカゼヨミになれるわ!』


「さいなら、さいなら~!」


 ピーちゃんとアカが周囲を旋回している。

それを見て、ジャンタナさんはまたくちばしを打ち鳴らして笑った。


「ホッホッホ。妖精と一緒に飛んで、しかも褒めてもらったなんて初めてネ。部族のみんなに自慢するネ‥‥‥それじゃ、ご馳走様ネ」


 ジャンタナさんから薄く魔力が放たれて、体が浮かぶ。

おお、そうやって飛び上がるのか。


「お気を付けなっせ~!」


「それじゃあね、ありがとうよ」


 ボクらの見送りに翼を振ると、ジャンタナさんは羽ばたき一つであっという間に上昇。

ぐんぐん空に昇っていって……すぐに、豆粒ほどに小さくなった。


 さて、天気のお墨付きも貰ったし……また出発だ!

ありがとう!空の人!!

 

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