第136話 雨宿り後、宿泊。
ざあざあ、と雨が降る。
木で作られた簡素だけど、頑丈な屋根に当たって音を立てている。
そんな雨音を聞きながら……目の間には、ぐつぐつと音を立てる寸胴鍋。
ボクらは、草原の真ん中にポツンとある休憩所?にいる。
誰が作ったのかは知らないけど、街道の途中にあって便利だね。
あのロドリンド商会のおばさんが教えてくれたように、夕方に到着したらザーッと雨が降って来た。
いやあ、あの走竜ちゃんには感謝しないとね……
「おやびん、まだ、まだぁ?」
「ワカンナイ……ロロン!」
目を輝かせ、小さい木皿を持ってスタンバイしているアカを制しつつロロンに聞く。
「もうちょいでやんす!まだ肉に火ば入ってねえのす!アカちゃん、お待ちなっせ!」
「みゅみゅみゅ……あいっ!」
ふふふ、我が子分は聞き分けが良くっていい子ですねえ。
「ロロンちゃんの煮込み料理は本当に美味しいねえ。お袋さん仕込みかい?」
「ばっさまでやんす!両親は傭兵暮らしで、年に2、3度顔を合わせるくらいでやんした!」
えええ……今明かされるロロンの複雑な家庭環境!?
「ああ、そう言えばそうか。アルマードの若者は大体傭兵だもんねえ」
……複雑でもないっぽいね?
アルマードさんは前からちょいちょい強者サイドだって聞いてるけど。
子育てとかしないんだ……?
「寂シクナカッタ?」
「じゃじゃじゃ……じっさまにばっさま、それに兄弟や親戚が多かったもんでやすから大家族で……そんなには。だども、ワダスは一番年下なもんで、妹か弟が欲しいと思ったことはありやんす」
ああ、前にそんなことを言ってたね。
「おやびん、かぞくってなあに?なあに?」
「オウ……」
フムン……深い質問ですねアカ。
これは『赤ちゃんはどこから来るの?』に並ぶ難題かもしれない。
……つまるところ、わからない!
どう言ったもんかなあ……?
「家族ってのはそうさね……同じ飯を食って同じように過ごす相手を言うのさ」
ボクがテンパり虫になったのを見抜いたのか、カマラさんが助け舟を出してくれた。
ほう、なるほど……いい言い方ですね!
『血縁関係の話をすると、自動的にむっくんが天涯孤独謎ワームになりますしね』
いつもなら謎虫と言うところを謎ワームとな……!
トモさんも侮れないねェ……!
『ソレは感心したのですか?何故か遠回しに馬鹿にされたような気がしますが』
滅相もナッシングですよ、ホントに!
「じゃあ、ロロンとアカ、かぞくぅ?」
「ソウダネ、家族ダネ」
そういうことにしておこう。
アカが大きくなれば自然とわかるだろうし!
「かぞく!ロロンもおやびんも、ピーちゃもおばーちゃも、かぞく!かぞくぅ!」
アカはボクの肩の上で嬉しそうにいつもの謎ダンスを披露したのだった。
「おやおや、アタシも仲間に入れてくれるのかい。ソイツは嬉しいねえ」
『素敵ね!素敵だわ!さっちゃんといた頃を思い出すわ!』
ピーちゃんも嬉しくなったのか、アカの周囲を旋回し始めた。
うーん、視界が賑やか。
「じゃじゃじゃ……」
ロロンも嬉しそうだね。
ニコニコしながら鍋を高速でかき混ぜてる……大丈夫?お野菜スムージーになんない?
『私は同じ釜の飯を食っていませんので家族ではなさそうですね……ズズ、ズズ』
トモさん何言ってるのさ!?
家族の最上級ですよあなたは!そんな、泣かないで!
ボクは家族だと思ってるから!!
『あらまあ、とっても嬉しい。ちなみにカップ焼きそばを啜っていただけですよ』
まぎらわしいんじゃよ!!
あー!僕も麺類食べたい!食べたーい!!
日本とか中国とかイタリアとかの転生者さん!もし過去にいたら麺料理を伝えていてください!
ボク一生懸命探すから!!草の根分けても探すから~!!
『――広義的に言えば、私は全ての虫の母。そして特例であなたも家族です、虫よ』
……あーりがとうママッ!とっても嬉しいなッ!!
・・☆・・
「ンマイ!ンマイ!!」
「おいし!おいし!!」
後半よくわからなかったけど、ともあれロロンの鍋料理は完成した。
「干したポモッドがいい味出してるじゃないか。これはアルマードの伝統かい?」
「んだなっす、オアシスでポモッドば育ててるんでやんす。ポモッドは水気も多くて砂漠では重宝されやんす、干せば長持ちもするし……アルマードの料理には必ず入るほどでやんす」
トマトスープごった煮って感じでとっても美味しいや!
でもさっき麺料理の話したから、ここにパスタをぶち込みたい……!!
チーズを削って入れても美味しいぞ、きっと!
「ネエネエロロン。【バイツ】ヲ練ッテ細長クシタ料理ッテアルノ?」
この世界にも麦に似た作物は勿論ある。
だってパンあったしね。
「あ~……細長い?」
「ウン、コウ……長イ草ミタイナ感ジノ」
なんとか身振り手振りで示す。
「ううむ……ワダスは知らねっす。こっちでは小さく丸めて煮込みに入れるくらいで……ほとんどがパンでやんす」
あ、ないんだ。
「ムークちゃんは妙なことを知ってるねえ。ラーガリや帝国じゃあ馴染みが薄いけど、トルゴーンには確か似たような料理があったはずさね」
お~!カマラさん物知り~!!
『ムークさん、ムークさん』
お、どしたのピーちゃん。
この感じは……トモさんがたまにやる内緒の念話っぽい?感じ?
他の人には聞こえてないね、今。
『あるわよ、トルゴーンに。ラーメン屋さんが!』
……なんやて!?
まさか……さっちゃんさんが!?
『そうよ!商売が軌道に乗って、お抱えの料理人さんに作ってもらったの!それが色々評判になって……その料理人さんが独立してお店を出したのよ!さっちゃんのお家が残ってるんですもの、きっとあのお店だって残っているわ!』
さっちゃんさん!!ありがとう!ありがとう!!
『それ本当!?』
『私がいた時はとっても人気のお店になって、お弟子さんが何人も別々のお店を建ててたのよ!きっとあるわ!』
さっちゃんさん……ボクが神様だったらラーメンの神として崇め奉っていたと思う!
『日本のさっちゃんのお家はチュウカリョーリ?屋さんだったのよ!それで知ってたのね、私もその頃からカンバンドリ?として人気だったんだから!』
さっちゃんさんのご実家は中華料理屋さんだったのか……
待てよ、それじゃあ……!
『まさか、餃子とかチャーハンとかも!?』
『あるわ!シューマイもあるわ!』
「ウヒョーッ!!……ア」
いかん、嬉しすぎて念話じゃなくて声出しちゃった……
みんなびっくりしてる……かくなる上は!
「オイシイネエ!ピーチャン!」
『美味しいわ!とっても美味しいわ!!』
空気を読んでくれたピーちゃんと、ハイタッチ!
この子は魔力で飛んでるからこんなこともできて便利!!
「なにしょれ!アカも!アカも~!」
謎のハイタッチに喜んだアカが参戦してきたので、なんとか誤魔化せたぞ~!
「――美味いのは結構だけどね。座って食いな」
「ハイ」「あい」「チュンチュク」
カマラさんに怒られちゃった……
「それにしても……ムークちゃんは何を食っても美味そうにしてるねえ。アンタ、ロロンちゃんに会うまで【帰らずの森】で一体何食ってたのさ」
何を食ってたって?
そりゃあ……
「生ノ草、木ノ皮、生ノ虫、生肉、毒走リ茸、生スライム、アト……」
「ああ、成程ねえ……辛いことを聞いたね。そりゃあ何食っても美味いねえ……毒走り茸を食う奴なんざ始めて見たよ、アタシは……よくもまああんなに不味いモンを……」
無茶苦茶同情されちゃった……
ボクも同じ立場なら同情するけどね……
「じゃじゃじゃ!?ど、毒走り茸ェ!?……お見それいたしやんした!!」
ロロン!そのお見それは全然!嬉しくないよう!!
「……ひょっとしてアカちゃんも食べたのかい?」
「こりこり、おいし!しゅき!」
「……そうかい」
アカの味覚は一体どうなってるんだろうか。
それはボクにとっても永遠の謎である。
・・☆・・
「おやびん、おやしゅみ」
「オヤスミ~」
アカが手を振ってテントに入っていった。
ボクは、毛布を体に巻き付けて地面にゴロン。
おー、すっかり暗くなったねえ。
「すまないねえ、ムークちゃん。本当にいいのかい?」
「イイデスイイデス、ボク、ドコデモ寝レルノデ」
今晩、ボクらはここに泊まる。
だってまだ雨降ってるしね。
ここの面積的な関係でカマラさんの持っている1人用のテントが張れないからね、仕方ないね。
ご老人を地面に寝かせるのはちょっとノーですよ。
ボク、風邪とか引かないしね~。
「星ガ見レナイノガチョット残念……フワァア」
いつでもどこでも寝つきのいいボクでーす……スヤリ。
『虫は眠っていても愛らしいですね、そう思いませんか女神トモ』
『え、ええはい。あの……メイヴェル様、ここへ来ても大丈夫なのですか……?』
『雑事はちょうどほっつき歩いていたムロシャフトに押し付けましたので、問題ありませんよ。ズズズ……このオソバという料理はとても美味ですね』
『地球の神々、いいもの食べてますね……ズズズズ……啜るのが少し難しいですが』