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第135話 旅は楽しい、先は長ーい。

『――嗚呼、世界は美しい』


 風の音に混じって、誰かの声が聞こえた。


『我らの民もまた、美しい』


 がちゃり、と鎧の鳴る音も。

霞んでいた視界に……黒い、金属が見えた。


『数はどうだ』


 ぶわ、と視界が広がる。


『は、無数かと』


『ふむ』


 黒い、一団だ。

頭のてっぺんからつま先まで、鍛え上げられた美しい黒い鎧。

それを着込んだ人たちがいる。


『それでは……どこが最も、猛勢か』


 光を反射する鎧の中で、風になびくマントだけが赤い。

兜の意匠から、たぶんリーダーっぽい人の質問に……後ろに控えた1人が答える。


『……東からの敵、ことのほか猛勢』


『ふむ』


 リーダーっぽい人がなんて事のないように答えて、背負った何かを引き抜く。


『――では、そこへ突っ込もうか。愛しき兵どもよ』


 軽そうに天に掲げられたそれは、蒼く光り輝く大剣だった。


『『『御意』』』


 他の全員が声を合わせ、一斉に腰のロングソードを引き抜いた。

ゲニーチロさんの部下みたいに、一糸乱れぬって感じ。

格好いいなあ。


 ……で、この夢何?



・・☆・・



「もう行くのかよ、体は大丈夫か?」


「寝タラ治リマシタ」


「虫人ってはどいつもこいつも頑丈なんだなあ……」


 村の入口で、ローガンさんたちに見送られている。


 変な夢を見たのに、スッキリ目覚めたボク。

大変グロくなっていた両腕は、トモさんが夜の間にしっかり治してくださいました。

女神様々ってやーつですな~。


『えへん。崇め奉りなさい』


 へへ~!


「しかしよお、オーク肉あれだけでよかったんか?もう1週間くらい待ってくれたら干し肉にもできるんだが」


 ローガンさんはそう言うけど、今朝方貰った黒オーク肉はボクらには十分すぎる量だった。

しかも、解体作業にボク参加してないし……なんかロロンは看病の合間にむっさ働いてたらしいけども。

『ひ孫の嫁に!』『孫の嫁に!』って大人気だったし。

アルマードのお嫁さんは何処でも高評価だっていうけど、特にロロンはトップレベルなんですねえ。

滅茶苦茶真っ赤になって断ってくれてよかった……

彼女に抜けられたら、我がパーティは一気に貧弱食事になってしまう!

ボク、焼く煮るもしくは生で丸かじりしかできないしね!


「十分でやんす!お気遣いだけ、いただいておきやんす!」


「アレ以上貰っちまったら、肉屋の行商でもしないと捌けやしないよ」


 カマラさんも苦笑いだ。


「おにく、おにくいっぱい~!」


 アカはボクの肩から飛び立って、空中で喜びの謎ダンス。


『今から食べるのが楽しみだわ!楽しみだわっ!』


 ピーちゃんは兜の上でチュンチュン歌っている……そこ落ちない?


「おじーちゃ!おばーちゃ!ありあと、ありあと~!」


 アカのお礼に、おじいさんおばあさんは揃ってニコニコした。

かわいいからね、ウチの妖精は。


「いいのいいの、気を付けて行きなさいね。みんな仲良くねぇ」


 ネーラさんも嬉しそうだ。


「また、いつでも来なよ。なんなら永住してもいいぜ」


「もっとも、その頃にまだ生きてるかは限らんがな!ガハハ!」


 ラダンさん!メイダンさん!そういう突っ込みづらい笑い話はやめてくださいよ!!


「ジャア、失礼シマスネ~!」


 ボクたちは手を振って、濃い1日を過ごした村を後にした。

……本当に濃かった、濃かったよ……



・・☆・・



「ソウイエバ、オーク達ハモウ攻メテ来ナイノカナ?」


 村を出て、街道に沿って歩き出してしばし。

ふと気になった。

将軍の部下はボクが爆発四散させたけど、大本の将軍は残ってるじゃんね?


「そりゃあ攻めてくるだろうさ」


「大丈夫ナンデス!?」


 カマラさんの爆弾発言だ!


「だから衛兵が威力偵察してんのさ。昨日の救援と同時に首都に伝令も届いてるだろうから……そっちからも援軍が派遣されてくるだろうしね」


 あー、そういうこと。


「【戻らずの森】にオーク共を押し返すまで……まあ、何か月か浅い所で攻防が続くだろうねえ。森に深く入り過ぎるのは自殺行為だし、水際で食い止めるのはいつもの手さね」


「自殺行為?」


「ムークちゃんがいた【帰らずの森】もそうだけど、森ってのはなくそうと思ってもどうなるもんじゃないのさ。西方12国から残らず軍隊を派遣しても無理だね……だから、人の領域に来ると痛い目を見させて……追い返すのさ」


 ほほーう。

そういえば、前にトモさんが言ってたっけ。

森を切り開こうとしたらえげつないスタンピードが起こったって。


『あら、記憶力がいいですね……トモさんポイントを付与しましょうね』


 わーい。


「アレ、デモソレジャ……ラーガリダケガ大変デスネ?」


 だって森と隣接してるのはラーガリと……山脈があるけどトルゴーンだけじゃん。


「そのために、首都には各国から正規兵と傭兵が派遣されてるのさ。【ガリル】なんかは兵の他に武器や鎧なんかもね……ラーガリが滅べば、他国も無事じゃ済まないからね、そういう所は相互扶助の関係なのさ」


「アー、納得デス」


 西の国って本当にいい所だなあ。


「帝国も似たような感じでやんす。もっとも、西の【オルクラディ】への備えの方が重要でやんすが」


 (暫定)クソ人間の国!

そっかあ……南の国も大変そう。

砂漠におっかない魔物もいっぱいいるし。


「西の国々が領土拡大とか小競り合いとかをしてたのはもう何百年も前さね。今の形で落ち着いてるし……住み分けもできてるしね」


「んだなっす。魔物の脅威が大きい分、早ぐまとまったのす」


 ある意味だと魔物のお陰って所かな……


『おやびん、うしろ~!くるまくる~!くるま~!』


 おっと、上空でピーちゃんと遊びつつ偵察しているアカからの念話だ。


「後ロカラ車ガ来マスヨ」


「ロドリンド商会かねえ。もうちょい時期が遅くなると、乗り合いの竜車も増えて楽なんだけどね」


 乗り合い竜車!そういうのもあるのか!


「ナンデ時期ガ?」


「トルゴーンの夏は過ごしやすいからね。避暑も兼ねて出稼ぎや観光に行く人が増えるのさ」


 はえ~……成程!


「トルゴーンって国は土木が盛んだからね、あっちから各国への出稼ぎや派遣も多いよ。特にラーガリやルドマリンなんかは要塞や砦も多いし」


 あ、それもトモさんが言ってたな。

むしんちゅさんたちは土木建築が優れてるって!

いろんなお国があるなあ……全部回りたくなっちゃう!


『ちなみにむっくんの寿命はなんやかやで1年と少しに増えました』


 ……マデラインにも行ける気がしない!!

魔石をもぐもぐせんとな……ゲニーチロさんに貰った高級なのは封印してね。

もう一段階でも急速に進化したら、絶対に身体能力とかに振り回されると思うし!今まで以上に!!


「ア」


 そんなことを考えていると、車輪の回る音と動物の気配。

後ろを振り向いたら……おお、あの旗はロドリンド商会の竜車!

ドラウドさんを思い出すねえ。

元気にしてるかしら?


「おや、虫人にアルマードに獣人……なんとも、面白い組み合わせだね」


 ボクらに追いついた竜車には、中年くらい?のおばさんが乗っている。

ケモ度70%くらいの、犬っぽい人だ。


「景気はどうさね?」


「ぼちぼちって所かね。鎮魂祭も終わったしさ」


 あのお祭り、人むっちゃ多かったもんね……


「これからラガランでひと商売さ。乗っけてやりたいところだけど……あいにく荷物がね」


 見れば、幌の下にはギッチギチの荷物たち。

かなりいっぱい持っていくんだねえ……中身は何だろ。


「お構いなぐ!お心遣いに感謝いたしやんす!」


「こりゃまあ、ご丁寧に。こうしてすれ違ったのも何かの縁だから、いいことを教えたげようかね……ウチの子は鼻がいいんだけど、今日の夕方からは降ると思うよ。このまま歩けば屋根付きの休憩所があるから、今晩はそこに泊まりな」


 有益情報を教えてくれて、竜車は速度を上げる。

うちの子って走竜ちゃんか。

それはありがたい。


「手前ノ村デ黒オークガ出マシタ。オ気ヲ付ケテ」


「ありがとうねえ。だけど心配無用さ……この子もアタシも、それなりの修羅場は潜ってるからねえ…‥そいじゃ、そっちこそいい旅をね~」


「ギャギャギャ~」


 おばさんと走竜ちゃんが交互に言って……ボクらを追い越して行った。

うーん、昔のRPGなら馬車は必需品だったな。


「イツカハ馬車カ竜車ヲ持チタイモンダ」


「しっかり稼ぐことさね。走竜は生まれてすぐに躾けないと大変だからねえ……ま、子竜の相場は50万ガルからさ」


 お高い!?

い、意外とお高いんだな……


『雄の方なら値段はお安い傾向にありますが……車を曳かせるとなりますとね。牝は需要が大きいので、一言では買えませんよ……冒険者ならば依頼をしっかりこなして、評価を上げておくことです』


 むーん……地道に行くしかないねえ。


 まあ、道は長いけど時間はたっぷりあるんだ!

ぽちぼちまったり行きましょうね!

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